(07)218 『みかん』



次回予告
「あん時は若かったわ~」
愛が里沙と共に閉店後のリゾナントで昔話に花を咲かせている。

「なになに?なんの話?れいなもまぜて」
そこにれいながテーブル拭く手を止めて二人の間に首を突っ込んだ。
「リゾナンターの前身、『M。』が結成された時のお話」
里沙は楽しそうに答える。
「それ、れいな聞いたことないっちゃよ。
れいな達が入ったときはもうできとったもん」
れいなは唇をアヒル口にして聞かせろとねだった。

「あーしはね、4歳だったんよ」
愛の言葉にれいなは頭の中がちんぷんかんぷん。
「もう、愛ちゃんは黙って。私が教えるよ」

そう言って里沙はカフェモカを一口すすった。

次回かなしみ戦隊リゾナンターM 「みかん」
「愛ちゃん、あん時すんごいぼろぼろ泣いてたよね。人間ここまで泣けるんだって思った」
生きるために 泣いている 赤子のように
生まれたての 純粋な 気持ちで あれ





外の世界なんてくだらないと言われ続けてきた。
私たちは外では生きられないと。

私たちの能力は実験体にしかならなく、『研究所』というところにつかまり非常に辛い思いをしながら殺される、と学んできた。

だから、私たちは決して外に出てはならなかった。
ある特定の条件を満たさなければ。


私は7歳の時にここに来た。
それ以前の記憶はない。なくてもいいと思っている。
だって、ここにいればゴハンも食べられるしみんなもいる。
訓練はちょこっとだけ辛いけど、それ以外は楽しい事ばかりだから。
たぶんここにいるみんなが思っていることだろう。

もうここにきて7年になる。
それなりに能力もうまく扱えるようになった。
だから私は先生に言われて仕事をするようになった。



外に出る特定の条件、それは仕事を請け負うということだ。

今日は誘拐された女の子を助けに行く仕事だった。
彼女の名前は光井愛佳、私とよく似た名前の子。

「愛、この写真の子を助けにいくんだ。
この子は内気な子だけど、必ずなにか叫んでいるはず。
だからゆっくりでもいいから探すんだよ」
おっきい家に先生は私を連れてきて優しく言った。
まわりにはたくさんの大人がいる。
禿げたおっさんが「ゆっくりでは困るんだよ」とか
「猿ぐつわをかまされていたらわからないではないか」とか先生に文句を言っていた。
でも、先生は穏やかに「娘さんの部屋に案内してください」とだけ答えた。


私は先生の手に引かれて愛佳ちゃんっていう子の部屋の中へ入る。
部屋の中は気持ち悪いくらいなんの感情もなかった。
だから、私は先生に「きこえない」とだけ伝えた。

先生はそうかというと、禿げたおっさんに「娘さんがよく居た場所とかはありますか?」と聞いた。
おっさんは「部屋以外にどこがあるというんだ?」と怒った。

「愛佳お嬢様はよく台所に来ていました」
後ろで声がした。まるまると太ったおばさんがおっさんに言った。
「なに?なんでそんなところに愛佳をつれていくんだ!」
おっさんはおばさんに大声で怒鳴った。

「申し訳ありません。でもお嬢様は手巻き寿司が好きでよくご自身で巻かれていたのです」
おばさんは頭が足に付きそうな勢いで謝っていた。
「なぜそれをわしにいわん?」
おっさんはまだ怒鳴っている。
「だいどころ、いこう?」



私はおばさんのエプロンを掴んで言った。
おばさんはおっさんのことを見たがおっさんがなにも言わなかったので、
私の手を取って台所に連れて行ってくれた。
愛佳ちゃんの思いが心の中に流れ込んできた。
「愛、どうだ?」
私がしばらく目を閉じていると先生が話しかけてきた。
「ん~~~とね、おっきいおへや。つめたいおへや。ないてる。あいかちゃん、ないてる」
私は頭に浮かんだビジョンを教えた。
「それがどこだかわかるかい?」
「ひと、いっぱい。とらさんがいる」
「とらさん?いったいなんのことだ?」
おっさんは私に向かって怒鳴った。
おっさんは怒鳴るか文句を言う事しか出来ないようだ。

「とらさんはとらさんだよ。あっし、うまれもそだちも・・・」
「映画の寅さんかい?」
全部言う前に先生が聞いてきた。最近見た映画の人。
「そうだよ」
私は笑顔で返した。

「寅さんはご存知ですよね?その人によく似た服装の人が犯人の一味みたいです」
先生はおっさんに言った。おっさんは先生には怒鳴らない。
おっさんは考え込んでいた。
「他になにが見える?」
「おっきくてかみのけがながいひとがいる。とらさんのとなりでわらってる」
私は見えるビジョンをありのまま話した。


「わかったぞ!!猿渡だ!!あいつら・・・」
おっさんが叫んだ。
「わかりました?」
先生は聞いた。
「この前の国会で猿渡の法案を俺が否決するようにみんなに呼びかけたんだ。
まさかバックに芝原さんがいるとは、、」
おっさんは先生に説明してる。
「背が高いのが猿渡さんですか?」
先生の問いにおっさんは首をぶんぶんと振る。
「困ったぞ。猿渡ぐらいならどうにかなる。
だが芝原さんがいるとなると・・。愛佳は諦めるしかないのか・・・」
おっさんは苦々しそうに言った。
私には意味が解らないから何も言わなかった。
先生に余計な事を言うなと前から言われてるし。


「その、芝原さんは生きてなければいけない人ですか?」
先生が静かに聞いた。
「な、なにを言ってるんだ?」
「芝原さんが病死するとよくないんですか?」
先生は今度はおっさんの前に顔を近づけて聞いた。
おっさんはしばらく黙っていたが、急に笑顔になり、
「病死するなら仕方ないな。まぁ、なんとかなるだろう」
そう言った。

「じゃあ、早速ですが猿渡さんにはどこに行けば会えますか?」
先生は微笑みながら聞いた。
「会館に行けばいるだろう。明日の九時にはいるんじゃないか」
おっさんは答えた。
先生はわかりましたと答えるとすばやく私の手を引き家を出た。



「愛、明日は里沙と一緒に行くんだ。いいね?」
先生はにこやかに言った。
私はうなずくことで返事を返した。



翌日、私は里沙ちゃんと共に白い建物の前に来ていた。
「愛ちゃんと一緒なんてひさしぶりだね」
里沙ちゃんは落ち着いてる。私よりも年下とは思えないくらいしっかりしている。
だから、怖い。
里沙ちゃんと一緒のときは、怖い。

「あの人に愛佳ちゃんの場所を聞いてきなさい。見えたらすぐに助けに行くんだよ。
里沙は昨日言ったとおりにしなさい」
先生はやさしい。でも里沙ちゃんには冷たい。
私は里沙ちゃんと手を繋いで猿渡に向かっていった。


「ねーおじちゃん」
私が問い掛ける。
『なんだガキがなにしてんだ?』
「どうした?迷子にでもなったのかい?」
猿渡は思ってることと言ってる事がちぐはぐな人間だった。
「あいかちゃんはどこ?」
猿渡は瞬時に愛佳ちゃんのところのビジョンを浮かべた。
台所で見えたビジョンよりも鮮明に。
「なんで、おま」
そこまで聞く前に私は里沙ちゃんを連れてジャンプした。
愛佳ちゃんの居場所まで。


そこには寅さんがいた。
あと、何人かの男の人。
愛佳ちゃんは座っていた。

「愛ちゃん、先に愛佳ちゃんを先生のところに連れてって。私もすぐに行くから」
里沙ちゃんが言う。寅さんたちは突然の事に戸惑っているみたいだった。
「わかった」
そういって私は先生のところにジャンプした。
「ありがとう。愛。じゃあ、先生は愛佳ちゃんを家に連れて行くから
里沙ちゃんを迎えにいってくれ」
私は愛佳ちゃんの手を離すとさっきの場所にジャンプした。

「愛ちゃん?どうして戻ってきたの?」
里沙ちゃんが驚いていた。
寅さんと男の人たちは胸をおさえながら倒れていた。
「せんせいにむかえにいってこいっていわれたから」
私が答えると里沙ちゃんは唇を噛んで下を向いた。
「ごめんね、愛ちゃん」
里沙ちゃんはそう言うと私の胸に手をかざした。
「わたしをころすの?」
「ううん、思い出してもらうの」
里沙ちゃんはにっこり笑うと目を瞑った。




とたんにいろんな映像が私の頭の中を駆け巡る。




村・迫害・研究・施設・虐待・おばあちゃん
たくさんの思いがあふれてくる。

『早くしろ!早く殺せ!』
先生が怒鳴っている。いつも優しい先生が・・・。
『能力者だけは殺すなよ。その子供だ』
先生が怖い顔をして私に向かってくる。
『やめて!!この子は普通の子です!』
おばあちゃんが私の前で両手を広げてかばっている。
先生はふんと鼻をならすとおばあちゃんを・・・殺した。

『どうして・・・?』
『お前が悪魔の子だからだよ』
先生はそういうと私の頭に手をかざした。




白い部屋・機械の音・大人の声・先生の声・お金

『また捕まえてきたのか?』
『今度はすごいぞ。レベル4だ。いや、訓練次第では6、7にもなるかもしれないぞ』
先生は興奮している。
『で、今度はどれくらいにする?』
『思考レベルは4歳半で充分だ。あさ美は失敗したよ。麻琴と同じ16歳でいいと思ったんだがな』
『全ての思考能力が落ちるわけではないからな。はじめからあの子は研究者向きだったんだろ』
『でも、これでまた稼げるよ』
『少しは俺への報酬もあげてくれよな』

話し声しか聞こえない。体が動かない。

なにか腕に刺さった。注射?なにも聞こえなくなる。





化け物・ばけもの・バケモノ
悪魔・あくま・アクマ

頭がぐらぐらする。気持ち悪い。
胸が苦しい。


「愛ちゃん!!」
声が聞こえた。あーしを呼ぶ声。
「里沙ちゃん・・?」
目を開けたはずなのに前が見えない。
涙が落ちた。泣いてる?あーし、泣いてる?
「負けちゃダメ!事実だよ。現実だよ。愛ちゃんはもう14歳なんだよ!きちんと考えられるんだよ!」
里沙ちゃんはあーしの肩をゆさぶる。




「里沙ちゃん、痛いがし」
私が言うと里沙ちゃんは手を離した。
「愛ちゃん?愛ちゃんだよね?よかった。変だけどちゃんと喋ってるー」
里沙ちゃんはオーバーリアクションで笑った。
「変やけどってあーしはちゃんと標準語喋っとるよ」
やっと涙が落ち着いて里沙ちゃんがちゃんと見れるようになった。
里沙ちゃんは胸に手をおいてぜーぜーと呼吸している。
笑いすぎなのかなんなのか涙までにじませて。

「で、これなんなん?」
あーしは里沙ちゃんに聞いた。
「これがうちらの本来の仕事だよ。施設に依頼された暗殺を請け負い億単位の報酬をもらってる。
愛ちゃんが行くのは数千万単位の人を殺さない仕事。
だけど、アイツにこっちに行けって言われたってことは愛ちゃんも人を殺さなきゃいけなくなる」
里沙ちゃんはたんたんと答えた。まだ12歳やのになんて難しい言葉を知っとるんや。


「もう、私限界だよ。施設を出たい。だから愛ちゃんの本来の記憶を取り戻した。
お願い。手伝って?」
里沙ちゃんは真剣だ。
「でも、外でうちらは生きてけんよ。またみんなからいじめられるんよ?」
あーしには外の世界が想像つかんかった。
村ではおばあちゃんが一生懸命かばってくれたから、生活自体に困難はなかった。
少なくともゴハンは食べれた。
でも、今一人で外に出たって食べられるかどうか・・。

「大丈夫。安倍さんとか吉澤さんとかみんな助けてくれるって」
里沙ちゃんはあーしの考えてる事がわかったみたいで優しく告げた。
「ちょっと待って。安倍さんも吉澤さんも人を・・」
あーしの問いかけに里沙ちゃんは無言でうなずいた。
仕方ない、そうわかっていても殺人は・・・。
里沙ちゃんの気持ちが痛いぐらいあーしの中に流れ込んでくる。

「出て、どうするん?」
あーしは決意した。
幸せになるかどうかなんて分からない。
でも、みんなといれば多少お腹すいたって我慢できる。
だから、ここから逃げよう。
みんな一緒に。





次回予告
施設を出ようと決意したM。の面々。
だが、施設にいたがる人間もいた。
仲間と戦わなければ外には出られない。

飯田、安倍、矢口、保田、後藤、石川、吉澤、辻、加護、
そして里沙は懸命に戦っていた。
そんな中あさ美、麻琴を人質に取られてしまった。
愛の助けが必要だ。
けれど、愛は戦えない。共に訓練した仲間を倒せない。
恩師と慕った人物を殺せない。

早くしなければ逆にこちらが倒されてしまう。
少女たちは少しばかり幼すぎた。

次回かなしみ戦隊リゾナンターM 「あたしがあたしでいられる場所」
「あーしがいる場所はみんながいる場所。
あーしが幸せでいられる場所はみんながいる場所や。
先生、もうあーしらは先生の言いなりにはならん。
あーしらはあーしらしく生きるんや!!」





















最終更新:2012年11月24日 10:47