(05)908 『好きな先輩』



ぱっちりとした大きな黒い瞳、
高く、形の良い鼻、
すらりと伸びた脚・・・
ああ、なんて綺麗な人なんやと、うちは見とれる。

「ちょっと、話聞いてんのぉ愛佳!?」

 ・・・あかん、また怒られてもおた。


『好きな先輩』

「す、すんません。ちょっとぼーっとしてました」
「んもー、いっつもそうなんだから・・・
 あーあ、退屈だなー」

ここは、喫茶リゾナントの二階にあるリビングルーム。
うちは放課後、だいたいここに寄る。
まあ、誰もおらん家に帰ってもしゃあないし、
他に行くところもあれへん。
ここに来れば誰かはおるから、ゲームしたり、だべったりして過ごす。
今日はたまたま、久住さんと二人きりや。
忙しい久住さんはあんまりここには来られへん。
でもスケジュールの合間をぬってチョビチョビ来たはる。
今日は7時からテレビで生放送『きらりん☆スッペシャル~新曲パパンガパンケーキ大公開~』
やて。



「アケマシテオメデトゴザイマース!コハルサン、アイカサーン!!」
「ヨ、元気カコハルトアイカ」
「あ、ジュンジュンリンリーン!」

久住さんが抱きつかんばかりの勢いで駆け寄る。
いや、リンリンその挨拶はちゃうやろと、心の中でツッコミをいれつつ、
うちも立ち上がって冷蔵庫の麦茶を入れる。

「いやもうあっついなあ、はい、これ飲みよし」
「オオ、アイカ謝謝」
「ア、愛佳サン小春サン、私リンゴジュースモテキタンデ、ノデクダサーイ」
「リンリンいっつも謝謝!しっかしこれ美味しいなあ、どこで買おてんの?」
「小春も大好きー☆知りたい知りたーい!!」
「コレハ自家製デスヨー、銭家ノ秘伝デース!!」

へーやっぱ中国てすごいなあ、と思いつつうちはテレビのチャンネルを変えた。
あ、ヘクサゴンの再放送やっとる。
テレビの中では久住さんとセゾンヌちゃんが、お馬鹿対決をやっとった。
久住さんの顔が曇る。

「あー!こんなん観ないで!!もーすっごいヤラセなんだからあ」
「あ、はい・・・」
「そんでさ、コレ撮った日ね・・・」




こんな風に、久住さんはよううちらに業界裏話的なことをする。
他に先輩がおる時はあんま言いはらへんけど、
『ヒロト君とセイジ君はちょっとホモ気味』やとか
『小倉エリナちゃんがお笑い芸人と付き合ってる』とか、
色々おもろい話を聞かせてくれはる。

「ア?小春、ソレドユ意味カ?」
「えっとねー、そうだ愛佳、電子辞書持ってる?」
「あ、はい・・・どうぞ」

やっぱ久住さんは凄いなあと、うちは思う。
いつやって、久住さんは話題の中心や、周りに自然と人が集まる。
うちはそれをニヤニヤして聞いとうばっかやし、
ボーっとしてて受け答えすら出来ひん時もある・・・。
正直言語が通じんことで逆にコミュニケーションとれる
ジュンジュンリンリンが羨ましいなって思ったりもする。




「おっかしーな、"枕営業"が出てこない・・・」

 ・・・ま、まあとにかくオモロい人ゆうことで。
あれ、もう5時やん。

「あ、久住さん、遅れてまいますよ!」
「あれ、もうこんな時間!!」
「あたし一緒にいきますんで」

「シカッリ、稼イデコイヨー」
「イッテラッシャイマセ、ゴ主人サマー」

いや、リンリン、君変なバイトしとんちゃうやろな・・・。

とにかく、ちょびっとやけど
「スーパーアイドルきらりちゃん」の独占タイム。
あー、グラサンかけとってもやっぱ美人はちゃうなあ。
うちなんか鼻ペチャやし、目ぇ小っちゃいし。
ええなぁ、うちも、あんな風に・・・。



「あっれえー光井じゃーん」

うっわ、嫌な時に、嫌な人に会おてもた。
目の前におるんはうちの同級生の奥村陽さんと、その取り巻きたち4人。
派手なかんじで、ギャル系で・・・まあ、簡単に言うたらイジメッ子。

「あ、あはは、こんにちわあ・・・」

「『こんにちわあ』だってぇ、発音へーんw」
「笑い方陰気臭いよねー、マジ寺の娘って感じー」
「檀家ww」

ホンマ、好き放題言いよんなあ。
うちも何か言いたいけど・・・。

「ご、ごめんやけど、そこ、通して。急ぐから・・・」

これが精一杯。
早よせんと、久住さんが遅れてまう・・・。

「あぁ?調子こいてんじゃねぇぞ、グロブス」
「マジキモイ顔しやがって・・・呪いの日本人形みてぇ」
「プッそれ言えてるwwww」
「てめえなんか、さっさと実家の墓はいっちまえ!このバケモン!!」

うちは目を見開いて必死に涙を堪えた。
何か言わなあかん・・・
そう思うんやけど、喉の奥になんか詰まっとおみたいで何も言えん。
ああ、うちこれやからあかんねん、アホやし、度胸ないし・・・。



「ちょっと・・・」

ああ、久住さん、すんません。
うちがこんなんやから、もう遅刻してまう。

「そういう言い方って、ないんじゃないかな?」

え!?久住さん!!

「たしかに、この子はトロいし、ぼーっとしてる。
 でもさ、しゃべり方はしょうがないし、死ねなんて簡単に言うもんじゃない・・・」

普段からは想像もつかへん、落ち着いた話し方、低い声。
そっと、久住さんはサングラスを外した。
大きな目で、前の5人をじっと見ている。
強い視線に射抜かれて、奥村さんたちは動けんようになっとる。

「さ っ さ と そ こ 退 け よ、メ ス 豚 ど も!!」

久住さんが、恫喝する。
さっきまで夕焼けやった空が、一気に曇りだす。
風が、グォォォォと吹き荒ぶ。
カラスや野良猫達が集まり、ギャアギャアと奇声を放つ。
終いにはコンクリートにまで、ミシリミシリとひびが入りだした。



ひいっ、な、何だよコレ・・・!」
「こ、怖ええ、怖ええよお!!」

怯えるがええ、恐れるがええ。
この人が笑えば、地球が笑う、
この人が怒れば、地球が怒る。
そういう人なんやで、この人は。

ああ、それにしても、ホンマ綺麗な人や。
笑っとう時の久住さんは菩薩さまみたいやけど、
今は、まるで明王さまのように、猛々しく、神々しい・・・。

「あ、久住さん!走りましょ!!」
「やだー☆遅刻しちゃーう。
 じゃあみんな、今日のきらりん☆スッペシャルぜーったい観てね!!」

へたりこんどる奥村さんたちを尻目にうちらは走り出す。
完璧なきらりん☆スマイルの久住さん。

「これであいつら、一ヶ月は廃人☆カナ?」

 ・・・あいかわらずえげつない。



結局、なんとか雲井さんとの待ち合わせ場所にたどり着いた。
で、リムジンの窓から、久住さんはこう言うた。

「これからは、あたしのこと小春ってよんでよ。
 あんたそんなだから舐められんの!
 それとさ、耳貸して・・・」

耳打ちされた内容は、思いもよらぬ事やった。
うちはついふきだしてまう

「プッなーんですか!?それー!!」
「笑わないでよ、結構マジなんだから・・・じゃね!!」

大きなリムジンが、見えなくなるまで手を振って、
うちは軽く敬礼した。

「頑張ります、先輩!!」


川=´┴`) <ちなみに、小春さんがうちに言うた内容は
      「どうしたら、オッパイそんなに大きくなんの?」やった。グフッ☆


リ;`ゥ´リノシ<あー言っちゃダメー!!

                       完




















最終更新:2012年11月24日 08:39