(05)165 『HAND MADE CITY』



雲ひとつない真っ青な空の下、リゾナンター達は座りこんでいた。
おそらく正午を少し過ぎたころなのだろう。
しかし、辺りに時計は無い。いや、それどころか彼女達のほかに、街には人っ子一人いなかった。
街、いや、そこは廃墟だ。ビルは崩れ落ち、木々は枯れ果て、東京は見る影も無く変貌していた。

「ぜーんぶ、終わったね…」
「そうね、もう、みんな消えちゃった…」

絵里とさゆみがふっと溜息のように呟く。



「HAND MADE CITY」




ダークネスの本格的な東京征服計画がスタートしたのは、ほんの数ヶ月前だった。
サイキックパワーによる昼夜を問わない攻撃、
そして感応術により精神を犯された人々による犯罪が横行し、街は無法地帯となった。
リゾナンター達は己の生命を賭けて戦った。
毎日の地獄のような戦闘、殺人マシーンのように、ひたすらにダークネスと殺し合う日々…。
彼女達はいつからか人間の心を失っていった。
憎しみが憎しみを呼び、戦いは戦いを呼ぶ…。

そしてダークネスは滅び、争いは終わった。
この街の命と引き換えに。


サイキックウォーズにより東京は壊滅した。


政治がどうとか、国がどうなったとか、そんな事はリゾナンター達にはわからない。
ただもう、この街には誰もいない。喫茶リゾナントももうない。
それだけは確かだった。
ネジの切れた人形のように彼女たちはぼんやりと座り込んでいた。



「うわああああ!!!」

愛が突然、慟哭した。

「なんでやあ!なんでっなんでぇっ…こんなっことに…!!」

もう枯れたはずの涙が、後から後から流れ出た。

「あーしがっもっと…あんどぎぃっ…もっとっ冷静やったらっ…!」


「愛ちゃん…」

れいなが声をかける。

「みんな、がんばったと」

今にも泣き出しそうな笑顔で、震える声で言葉を紡ぐ。

「がんばった結果やけん、仕方なか。こうなる運命やったんよ、うちらも、この街も」

東京を滅ぼしたのがダークネスの力なのか、暴走したリゾナントパワーのせいなのかは、
もう誰にも分からなかったし、そんな事を詮索しても、もうどうしようもなかった。
そんな事は、愛にも分かっている。

「やけどっ…せやけどっ…」



それでも死児の年を数えるように繰り返す。
あの時、こうしていれば。いや、こうしていれば…と。




「でも、ほんまに」

気の抜けたように愛佳が続ける。

「これで、よかったんかもしれませんね…」

うつろな目で、小春も呟く。

「これで、かなしみは無くなったんだ、誰ももう辛い目には遇わなくていいんだ…」

生き地獄―それ程までに、この半年間の戦いは凄惨を極めた。
現に小春は右腕を失い、里沙は行方不明となっている。
後は、このメンバーで恩寵のような眠りを―死を待つばかりなのだろう。






「イヤ」

その時、沈黙を守っていたジュンジュンが立ち上がった。

―ねえ…

「カナシミ、オワテナイ」

―ねえ…ねえ…

「ミンナ、キコエナイカ?」

―だれか…

「ミミ、スマセロ」



―だれか…ねえ…ねえ…だれか…

うっすらと聞こえる助けを呼ぶ声。
儚い、しかし強い意志を孕んだ生命の叫び。

―助けて!誰か!―


愛が、立ち上がった。

「行こう!」

「…ハイ!」
リンリンが微笑む。
「マタ、ハジメカラ、デス!」



「リゾナンター起立!」

愛の号令で、皆が立ち上がる。

「私達は、全てを失った! 
だからこそ、再び取り戻さねばならない!
一日じゃ無理でも、いつか…」

一呼吸置いて愛が叫ぶ。

「手作りの街を!」

「応!!」

7人の声が重なる。
そして、8人が走り出す。
(まっとって、ガキさん、うちらがきっと見つけるから!)


                                      完




















最終更新:2012年11月24日 07:55