(03)833 『白いTOKYO:夢から醒めて』

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4月某日 都内某所 PM21:00

バイトを終え、帰宅の途につく女子高生
闇の中から現れた漆黒のドレスを纏った女性
すれ違おうとする二人

「ねぇねぇ?固めてもいい?」
女が甘えたような声で言う
「えっ、何ですか?」
訝しげに女子高生が尋ねる
「固めてもい~い?」
もっと甘えた声が女が言う
「な、何を固めるんですか?」

「お前をだよ、お嬢ちゃん」



4月某日 某スタジオ

『女子高生 路上で凍死』

「ねぇねぇ、小春ちゃんこのニュースどう思う?」
メーク室に置いてあるTVから聞こえてきた報道
このヘアメークさんはよく喋る人だ
黙って仕事に集中すればいいのに
「どうって、薄着で道路で寝てたんじゃないの?」
めんどくさいからテキトーに答えた
大体、小春には関係ないことだもん
「いや、それがね、被害者の人・・・立ったまま氷漬けだったらしいよ」
「へぇ~、そうなんだぁ~」
「へぇ~って小春ちゃん・・・この事件普通じゃないよね。ほら、もう4月だしさ」
「別に普通だよ」
そう、別に普通のことだよ。世の中には人の心を読んだり、念動力を使ったり、予知能力を使う人だって居るんだから。
何が起こっても不思議じゃないんだよ。って言ってもこの人にはわかんないよね。
「はははは、やっぱり小春ちゃんは大物だなぁ」
それはちがうだろ、おいおい
「久住さん、本番で~す!」
「はぁ~い!」
はいはい、元気よく営業スマイルっと、あ~ぁ、今日の撮影長いんだよね~
ブーン、ブーン
ん?メール着信?タイミング悪いなぁ・・・愛佳か、じゃあ後でいいよね
それじゃ、お仕事がんばっていきまっしょい!っと



<本文>
最近ウチな、よく雪の夢を見るんよ。なんでやろうなぁ、もう春なのに
街中が真っ白な雪景色で、凍えそうに寒いんや
その夢にはな、必ず女の人が出てくるんや
凍えそうに寒いのに背中が出てる黒いウェディングドレス?着ててな
「ア~ッハッハッハッハッ!」ってバカ笑いしてるんや
なんや、よく意味のわからん夢やけど、こういうのもリーダーに報告するべきなんかなぁ?
どう思う?、小春ちゃん



4月某日 都内某病院

あ~ぁ、さゆみも帰っちゃったし退屈だなぁ
なんか最近微妙に寒いんだよね・・・心臓キリキリしちゃうよ
退屈だから中庭の桜でも見ようかな・・・って雪!?

もう4月だよ!4月!

でも桜と雪のコラボはある意味・・・ア~ト!
みんなにメールしよっと



4月某日 都内某駅

ちょっとちょっとぉ、何で雪とか降ってるわけ?しかも電車止まってるし
ん、えりからメールだ・・・雪、ってそんなの知ってるてば!
もう、しょうがないなぁ・・・リゾナントまで歩くか


リゾナントに向かうため、さゆみが踵を返すと、そこには漆黒のドレスを着た女が立っていた
(何コイツ・・・道端でこんな格好してバカじゃないの?そこそこ可愛いけど)
口には出さないが、さゆみは軽蔑の目で女を一瞥した

「固めてもい~い?」
甘えた声で女が言う
「へ?何ですか?」
(何こいつ、意味わかんない)
「ねぇねぇ、固めてもい~い?」
もっと甘えた声で女が言う
(可哀想に・・・やっぱり頭が・・・)
さすがにさゆみは女を哀れに思った。さゆみの力でも精神の疾患までは癒せない。
担当外だ。
「あの、そんな格好で寒くないんですか?早くお家に帰ったほうがいいですよ」
女の「固めてもいい?」という謎の問いを無視し、さゆみは憐れみの目で女に語りかける
まさかこれが魔界への入り口とは知らずに・・・


「そんなコミュニケーションイラネって言ってんだよ!道重さゆみ!」
先ほどの笑顔と甘えた声とは一変し、怒りの形相、下品な口調で女は声を荒げる
「へっ!?何でさゆみの名前知ってるの!?貴方は・・・まさか!」
黒衣の女の周囲がキラキラと輝き始める
「この雪は貴方の仕業なの!?」
「そうかい、アタシの情報は愛ちゃんから聞いてないんだ。相変わらずダメダメだねぇ」
女の周囲の輝きはやがて収束し始め、つららのような無数の氷の矢を形成する
「固めるだけにしとこうかと思ったけどさ、アンタなんかムカつくから苦しんで死んでもらうね」
(ヤバい・・・こいつヤバいよ・・・)
携帯を取り出し、メンバーに連絡を取ろうとするさゆみ
しかし・・・

「凍ってる!?」
いつの間にか携帯は氷漬けで、ボタンすら押せない
「アーッハッハッハッハッ、まぁ連絡取れてもこの雪で誰も来れないんだけどね。あ、愛ちゃんは来れるか」
踵を返して逃げようとするさゆみ
すぐさま、女がさゆみに向かって指をかざす
「うぐぅっ!!!」
氷の矢の一本が飛び、背後からさゆみの太ももを貫く
もんどりうって雪の積もった道路に倒れるさゆみ
雪を真っ赤に染める鮮血

「アーッハッハッハッ!命中~!」
高笑いする黒衣の女
必死に刺さった氷の矢を抜こうとするさゆみ
「痛っ!!!」
しかし氷の矢を握った手にも火傷のような痛みが走る
手を見ると掌の皮膚が凍りつき剥がれている
「ああぁ・・・」
「癒しの力・・・だっけ?でも刺さったまんまじゃ直んないよねぇ。まして凍ってたらさ」
矢の刺さった周囲の皮膚も凍り始めている。
「まぁすぐには固めないからさ、じわじわと苦しみながら逝ってね」
女がウィンクすると更に氷の矢がさゆみに襲い掛かる
「あぐうぅっ!!!」
さゆみの右腕、左腕、貫かれていないほうの左足を次々と貫く氷の矢
「あぁぁ・・・うぅぅ・・・」
痛みに苦悶し、涙を流すさゆみ
しかしその涙すら凍りつきそうな冷気が近付いてくる

「あららら、なんか標本みたいだよね、これ。無様だなぁ」
氷の矢に両腕両足を貫かれ、地面に磔になったさゆみの顔を女のヒールが踏みつける
「ねぇねぇ?痛い?痛いよねぇ?ん?ん?」
なんとか、『癒しの力』を発動させてダメージを軽減しようとするさゆみだったが、やはり凍り付いた傷口には大した効果を見せない
更に、寒さと失血のせいか何だか意識が遠くなってきた。
「なんか全然抵抗しないしあんまり面白くないなぁ。所詮は非戦闘員か。もう固めちゃおっか!」
女の手からこれまで以上の冷気が噴出し、さゆみに襲い掛かる
(えり・・・ゴメンね・・・ケーキ屋さん、無理だわ)
さゆみの意識は、真っ黒な深遠の中に堕ちていった

ビキビキビキッ
「えっ!?何?」
冷気を当て、さゆみの身体を完全に凍りつかせようとする黒衣の女が異変に気付いたのは
それから十数秒後のことだった
パキーン、パキーン!
さゆみの手足を貫いていた氷の矢に亀裂が入り、次々と砕けていく
加えて、黒衣の女の周囲で『待機』していた氷の矢も次々に砕け散る
「何!?何だ!!!」

「足、どけてくれます?」
足元を見ると道重さゆみが目を覚ましている
「お前・・・」
「って言ってもどけてくれませんよね。じゃあこうします」
さゆみの目が金色に輝く
「・・・ぎゃあああああああ!!!」
黒衣の女の絶叫が雪景色の中、響いた
「足が・・・アタシの足がぁあああああああ!!!」
一瞬にして黒衣の女の足は崩壊し、青い血が噴出す
倒れこんでのたうつ黒衣の女の周囲の雪が青く染まっていく

「よいしょ、と・・・あいたたた。まだちょっと痛みますねぇ」
さゆみがゆっくりと起き上がる
「お前・・・お前ぇえええええええ!!!」
再び黒衣の女が氷の矢を形成する
一斉にさゆみに襲い掛かる十数本の矢
しかし、矢はさゆみに到達する直前でやはり全て砕け散っていく
「なんだ、なんだこの力は・・・ただのヒーラーのはず・・・」
激しく動揺し、身体を引き摺り後ずさる黒衣の女
「さて、さゆみをいじめてくれたお礼をたっぷりさせてもらいましょうか」
「なっ・・・お前一体・・・」
「あ、ご挨拶が遅れました。私、さゆみの姉のさえみです」

再び『さえみ』の目が光る

「ひっ、ひぎゃあああああっ!!!」
今度は、黒衣の女の右腕が崩壊していく
「次は左足です」
ゆっくりと黒衣の女に近づく『さえみ』
「ヒッ、ヒイイッ!来るなぁ!」
左腕に氷の剣を形成し、振り回す黒衣の女
「あら、左腕が先ですか?」
先端から砕け散っていく氷の剣、そして黒衣の女の左腕も崩壊していく
「ひっ、ひやぁあああああ」
「しかし寒いですねぇ、いい加減この雪止めて頂けませんか?」
崩壊していく女の左足
「嫌、死にたくない・・・嫌ぁあああああああああ!!!」
「人は皆、いつかは死ぬものです。そしてまた生まれる。破壊と創造は常に表裏の関係なのです」
「嫌ぁああああああああ!!!助けてぇええええええ!!!」
永遠の命を得る為にダークネスに仕えた氷の魔女。その魔女が最も恐怖するのが『死』なのだ。

「それに貴方、少しうるさいです」
『さえみ』が黒衣の女に止めを刺す為、力を発動させる
しかし、そこには女の姿はなく、女が寝ていた場所の雪が崩壊し道路が露になる
「邪魔者・・・ですか。まぁいいでしょう」
遠くのほうに全身レザーの服を着た女が黒衣の女を抱えて高速で走り去るのが見える
「さて、少し疲れました。眠るとしますか」

「お姉ちゃ~ん!」
「どうしたの?さゆみ?」
「みんながさゆみのこといじめるの」
「よし、そんな悪い人達はお姉ちゃんがやっつけてあげる!」

幼い頃の記憶・・・お姉ちゃん・・・そうか、さゆみ、お姉ちゃんが・・・

「さゆ!さゆが目を覚ましたよ!」
意識が戻ると、さゆみは病院のベッドに居た。
病室には絵里たちリゾナンダーのメンバーが全員集っている

「みんな・・・さゆみ、一体・・・」
「メール入れてもずっと返事が無いから心配して・・・みんなで探したんだよ!」
さゆみに抱き付いてわあっと泣く絵里

そうか、氷の魔女に襲われて・・・それで・・・

「何があったと?さゆ?」
「覚えてない・・・」
「えっ!?」
「ダークネスに襲われて殺されそうになったんだけど・・・その後・・・」

「やはりダークネス!」
「でもあっし達がさゆを見つけたときにはダークネスなんて居なかったがし」
「お姉ちゃんが助けてくれたのかな・・・」
「えっ!?道重さんお姉ちゃん居たんだ?」
「ううん・・・居ないよ」
「はぁ?」
「多分さゆみはまだショックで混乱してるんやよ。ゆっくりと休むといいがし」

そう、お姉ちゃんなんか居ない。『お姉ちゃん』は幼い頃、孤独だったさゆみが
孤独を埋める為に創り出した想像の『お姉ちゃん』なのだ。
学校から家に帰っては一人、想像の『お姉ちゃん』と会話するのがさゆみの日課だった
絵里と出会ってからお姉ちゃんのことはすっかり忘れていたのだが・・・
やっぱり・・・

「お姉ちゃん・・・ありがとう・・・」

すっかり雪も止み、晴れた空を見上げながらみんなに聞こえないような小さい声でさゆみは呟いた。