(24)216 名無し募集中。。。 (草原の少女)

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蒼白い月が照らす草原。
少女が一人立ちつくしている。
肌寒くなった夜風を受けても、少女は身じろぎ一つしない。
夜目にも吐く息は白く、生あるものの動きも見えなくなった原野。
抜けるような寒さ。身につけた服からも感じる。

「琳よ」
「お父様」
「一体どうしたのだ、こんなところで。 どうしたお前泣いているのか」
「今日、私は町でよちよき歩きの子供を連れた母親を見かけました。
 その母親が誰かと話している間に、子供はふらふらとその場を離れようとして。
危ないと思った私は駆け寄って子供の手を取ろうとしたのです。 そうしたら…」
「…そうしたら何としたのだ」
「火孩子と呼ばれました。
何をする火孩子、お前は生まれた時に己の母親を焼き殺しただけでは飽き足りずに、他人の子まで灰燼と化す気かと」
「…」


嗚咽を堪えながら少女は言葉を紡いだ。
「私のせいで、私が生まれてきたせいでお母様は亡くなったのですか。
もしや私が、私自身がこの忌まわしい力で、お母様のことを…」

父は黙って娘を抱き寄せた。
娘は父の手が自分の体に触れたとき、脅えたように身を震わせその手を拒もうとしたが、
父はそれを許さず優しいが強い力で抱き寄せて語りかける。

「私は偽りの言葉でこの場を取り繕うべきなのかもしれない。 いくら聡明だといってもまだ十才のお前には
辛い出来事だったろう。
今暫くの間は偽りの繭の中でお前を守るべきなのかもしれない。だがそれはしない。
お前は強い子だ。だから本当のことを言おう、琳。
お前の母がお前を産んだ時に亡くなったことは事実だ。 だがそれはお前が言われたような経緯で、
亡くなったのでは決してないぞ。」

父親の優しい腕の中で泣く事を止めた銭琳は、その円らな瞳で父親の口元を見つめていた。
見つめることで真実を逃すまいとでもするように。


「お前の母親は元々身体の強い人ではなかった。お前を腹の中に宿している時も、医師からは警告されていた。
お腹の中の子供を産むと、自分の命と引き換えに成りかねないと。 だが…」
「…だがお母様は私を生むことを選ばれた。自分の命と引き換えに」
「いや、お前の母親は選ばなかった。
自分の命と生まれてくる新しい生命の重さを秤にかけるようなことはしなかった。
お前をこの世に迎え入れることしか考えになかった。」
「そ、そんなこと」
「いいかい、琳。
人は生まれて、生きて、そして死ぬ。
そうやって人生は完結する。
それこそがこの世の理だ。
死は忌むべき事象ではない。
恐れるべきは己が生きた証しをこの世に残すことなく死んでしまうこと。
お前の母親は精一杯生きた。 その証しがお前だ」
「私にそれほどの価値があるのでしょうか。
町の人から化け物を見るような目で見られたこんな私に」

父は子供を抱きしめていた手を緩めると、こう言った。

「この草原をお前の目で見回してご覧。
昼は色んな生き物が活動して、生きることの喜びを謳歌していたというのに、
月明かりだけが頼りの今となってはその殆どが息を潜めているだろう」


「生き物は、夜になると闇の負を吸い込む。
そしてそれを浄化して吐き出して生を繋ぐ。 朝が来るまで。
浄化しきれないものは澱となって体の中に残る。
澱が体の中を満たした時、その生命は終わる。
だからこの世に生きとし生きているものは、生きているというだけで“労”を担っている。
“苦”を背負ってしまうんだ。
勿論闇の吐息を吸い込むことが“労”の全てというわけではない。
生き物は、殊に人という生き物はたくさんの荷物を担っている。
時には背負わなくてもいいものまで背負ってしまう。
だから人は、悲しくなったり、苦しくなったり、疲れたりすると泣きたくなる。
他人を妬んでしまう。他人を恨んでしまう。他人を傷つけてしまう。
心無い言葉を他人に投げかけてしまう。
そしてひどい時にはそのことで自らを憎んで、自らの命を粗末にする。」

父の大きな手が、娘の小さな手を包みこむ。
荒れていて骨ばっていて、でもとても暖かい手。

「それは辛いことだろう。
だが生きている限りは逃れられない業だ。
だがそのことは、こうも言えると思う。
どんなに役に立ってないように見える者でも、日々の営みの中で誰かの役に立っていることがあると。
何もしていないようでいて、実は誰かにとってかけがえのない支えになっているのじゃないか」

娘の心に父の言葉が染み入ってくる。

「琳よ。 お前は闇を照らす炎とおなり。 寒さに心を震わせる人たちを暖める熾火となれ。
信ずるものの為に命を賭けろ。 守るべきものの為に己が生命の篝火を焼き尽くせ」

静かに頷く娘、銭琳。
十五夜の月が二人の父娘を照らしている。


丸まり始めた月を見ながら、リンリンはあの日のことを思い出していた。
己に託された母と父の思い。
今は祖国を離れ、志を共にする仲間と在る自分。
もうすぐ自分の誕生日がやってくる。
その為かこのところ仲間がどこかよそよそしい。
そしてさり気ない様子で今欲しいものは無いか、3月11日前後の予定を聞いてくる。
気付かぬ振りをして応えるのにも疲れてきたが、それもあと数日の我慢だ。

私が欲しいものはみんなの笑顔。

今年の3月11日は、あの日あの草原を照らしたのと殆ど同じ、真ん丸い月が闇を照らす筈だ。
あるいは雲が空を覆うかもしれないが、心を曇らせることは誰にも出来ない。
素晴らしき仲間と共に歩み続ける限り。

皆へのお礼の言葉はやっぱり、あれですね





これからもヨロシクイ~ン!!




















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