「 れーなと手をつないでさ 」
「 さゆの癒しの力をさ 」
「 絵里が起こす、風に乗っけることができたらさ――― 」
『 ―――世界の人たちに、幸せ届けることってできないかなぁ 』
あの日の君を思い出すと、繋いだ手の温かさも一緒に感じるようで。
同期だからこその絆がある中、想う気持ちを一番に伝えてくれた。
それが嬉しくて。
何がなんでも仲間だけは、守ろうと誓った。
**
ある日の午後、もうすでに夕暮れの時間。
道重さゆみと田中れいなはカウンターでぼーっとしていた。
「さゆぅ…なんか暇やね~」
「れいなぁ…そうだね~」
いつもは仲間がたくさんいてうるさい店内も、今はさゆみとれいなの二人だけだった。
彼女たちのため息がやけに響き、いろいろとやらなければいけない事も今は少しだけ億劫で。
「何もやる気でん」
「ねー…あ、空が真っ赤だよー」
「うぉーほんとやー」
さゆみにそう言われて窓の方へ振り向いたれいなは、空の赤さに驚く。
見慣れているはずの夕暮れも、今日ばかりは店内に二人っきりで静かなせいか、やけに物悲しくさせる。
そして、夕暮れを見ると毎回思い出す人が一人…
「絵里は今何やってるとかいな」
「今頃寝てるんじゃないかな?」
今では三ケ月に一回と減った診療。
それでも亀井絵里は通院しなければならなくて、その度に入院させられる。
そして、その日が今日である。
「やっぱり寝てるとかいな」
「うん、絶対そうだよ」
絵里が通院時に一回お見舞いをしたことがさゆみとれいなはあった。
二人して一緒にお見舞いをしようと決め、わざわざ絵里の好きな梅干しも買っていった。
しかし、絵里が入院している部屋に行くと、彼女はすやすやと寝ていたのである。
時間は夕暮れ時、ちょうど今の時間帯であった気がした。
だから、夕暮れと言えば絵里なのである。
「すやすやと眠ってるんやろうねー」
「そうだねー」
「夢の中で楽しくしてるんやろうねー」
「そうだねー」
窓の外に広がる夕空を見ながら、さゆみとれいなは暇を持て余すように少しだけ喋った。
「三人で丘に行った帰り、覚えてる?」
いきなり聞いてきたのはさゆみだった。
「なん、いきなり?」
「今ふと思い出したんだけど」
「覚えとるよ、絵里が幸せ届けたいって言ったやつやろ?」
「うん」
「あの時も、帰り道は夕暮れやったね」
丘の上で幸せを届けたいと想った日。
帰る頃にはすでに夕方で、三人並んで歩いて帰ったのを覚えている。
店に着いた時には夜になりそうで、少し心配をかけてしまったことも覚えている。
けれど、それ以上に。
帰り道、隣を歩いていた絵里の横顔が赤く映えて綺麗だと思ったことを、今でもよく覚えている。
「絵里ってさ」
「ん?」
「いつもはあんなだけど、たまに心に響くこと言うよね」
「…そうやね」
「なんか、絵里って意外と考えてるんだよなーって思ってさ」
「うん」
「夕暮れ見たら、絵里のこと考えちゃったよ」
さゆみもれいなと同じことを考えていたのかと、れいなは共鳴したように感じた。
**
今でも思い出す、あの時の絵里の横顔。
その時に繋いでいた手の温もり。
一人じゃない、仲間がいるから。
絵里が寝ている間、さゆみとれいなは共鳴する。
けれど寝ている絵里でさえも、共鳴してくれているように感じた。
最終更新:2012年11月25日 20:54