(12)637 『後方支援』

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東京―AM0;46   喫茶リゾナントからほど近いオフィス街。

高層ビルの連なりに深く刻み込まれた、迷路のような路地裏通り。
餌を求めて、這い出てきたノラ猫が一匹、不意に足を止め、首をもたげた。
しかし、はるか上方のただならぬ気配に驚いたらしく、素早く身をひるがえしねぐらに戻ってしまう。
ひしめく高層ビル群。その中でも、ひときわ高くそびえ立つビルの屋上から、尋常ならざるエネルギーが発露されていた。

地上200メートル。強風に煽られながらも円陣を作り、天を睨みつける七名の能力者たち。

田中、道重、亀井、久住、光井、ジュンジュン、リンリン。
この七名が作る円陣の中央から、高密度の意識エネルギーが夜空の暗雲を突き刺し、天に向かって放たれていた。

それぞれが意識エネルギーを放出し、田中がそれを増幅する。
増幅したエネルギーを久住という媒体を通して、
はるか異国の海域で新垣里沙を探すため、瞬間移動を繰り返す高橋愛のもとへと送り続ける。

瞬間移動とは、あらゆる能力の中でも最も、身体に負担を強いる能力である。
イメージの出来ない場所への、長距離に及ぶ瞬間移動は、自殺行為と言って過言ではない。
高橋は日本を出てから丸2日間、休む事無く瞬間移動を繰り返し、今は太平洋を越え、バミューダ海域をさまよっている。


今は、メンバー達が昼夜を徹し、途絶える事無く送り続ける意識エネルギーが、高橋愛の命綱となっているのである。

しかし、意識エネルギーを放出すると言う事は、自らの命を削る事と等しい。
“命がけ”はメンバーも高橋も一緒であった。
丸2日、飲まず食わずで転送し続けたメンバー達は、すでに限界を迎えていた。

最初に円陣から離脱したのは、亀井絵里だった。病に冒された心臓が悲鳴を上げていた。
鼻血が止まらず、血圧が急激に低下し昏倒した。
道重さゆみが、側に駆け寄って治癒を施そうとするが、ままならず、亀井に覆いかぶさるようにして動かなくなる。

それから直ぐ、光井が倒れ、リンリンがそれに続き、
リンリンを支えようとしたジュンジュン、田中れいなまでもが巻き込まれて膝を突いた。

これ以上続けるのは危険だと判断した久住が、一旦エネルギー転送を止めその場に座り込んだ。

強風、吹きすさぶ高層ビルの屋上。 七名はただ夜空を見上げ、物も言わずに倒れこんでいた。


暫しの沈黙の後、田中れいながポツリと言った。

「小春……今、愛ちゃんが居る場所を念写してくれんね?」

小春からの返答は無かったが、ビルをライトアップしていた照明が見えなくなり始めたので、
田中はもう、念写が始まっている事に気付く。

仰向けに倒れて、夜空を見上げていた田中の視界がジワジワと変化し、やがて闇夜の海へと映像を変える。

俯瞰から映し出されたその映像。月も無く、底なしの闇を広げる海。
島影など何処にも見えず、ただ果てしない水平線が続くばかり。
おそらく、その最中(さなか)に漂えば、方角など瞬時に見失うであろう。

俯瞰の画が、徐々に一つの対象に近づくと、漆黒の海に漂う人影を捉える。
蒼白の顔、濡れた髪、白い息を漏らした、高橋愛が荒波に揉まれていた。
常人なら、ものの数分で気が触れてしまいそうな夜の大海に浮かび、
次に飛べる(瞬間移動)その時まで、ひたすら漂い、力が戻るのを待つ。

久住によって夜空に念写されたその光景を、みんな黙って見ていた。


すると、仰向けに寝ていた田中れいなが、ごろりと身を返し、腹這いになった。
ゴソゴソとスカジャンの擦れる音を聞き、皆が田中の方を見る。

【これより先はこのBGMと共にお読み下さい】
音源リンク切れ『どうにかして土曜日(インストろメンタル)』



田中は拳をコンクリートに突きたて、わななく手で身体を支え立ち上がった。

「れいな!」
「田中さん!」
田中の身を案じた、道重と光井から声が上がった。

「あげん……あげん、なんも無か暗闇で、愛ちゃん寂しいちゃろね」
田中は震える足を自分で何度も叩き、気合を入れながら夜空を見上げる。

「れいな!これ以上は危険よ」道重が制する。

田中は、なけ無しの意識エネルギーを天に向かって放ち始める。
「れいなも、同じやった。暗いトンネルの底を這いつくばって生きよったんよ。」

「……………………」

「愛ちゃんは、出来そこないの不良のあたしに、光と居場所をくれた。」

田中は、天を睨みつけ叫ぶ。
「今度は、れいなが愛ちゃんの光になる。こんエネルギー、途切れさす訳にはいかないちゃ!不良娘の意地にかけても」

  ざわめくは、七つの心。

田中の声が、涙で詰まる。「…………見てみい。あげん弱りよう愛ちゃん……見たこと無かよ」


コンクリートの上でもがき、のたうつ音がする。

振り向けば、奮い立つ心に任せて、立ち上がる光井愛佳がいた。

「愛佳……」道重は込み上げる思いで呟いた。

「高橋さーん!聞こえますか?うちの力、届いてますか?」
力いっぱいに、叫ぶ光井。その叫びは、自分自身を奮い立たせるため。

「覚えてますかー?初めて駅で会った日のことを!
 うちはホームの端っこで自分の命を揺らしていた……
 そんなうちに、高橋さんは生きろって、明日を変えろって言うてくれはりましたよね!」

―――『!!!!』―――――光井の体が不意に弾けて、ビクンッとぶれた。
              瞬刻のひらめきを得て、目を閉じたまま微笑む。――未来視(ビジョン)が視えたのだ。

「この声が!この声が、もし聞こえてるなら……高橋さん、次に飛ぶ時は、今向いている方角とは逆に飛んで下さい!
 間もなく、夜が明けます。朝日の方角に飛んで下さい!新垣さんに出会えるはず!」



「視えたんだね!ミッツィー!」小春が喜んで立ち上がる。

「グゥオウォォォー!!」共鳴する魂がざわめき、一瞬の獣化を見せたジュンジュンが咆哮と共に立ち上がる。

「アイヤ――!!」リンリンも後に続き、道重もそれに続いた。

亀井がフラフラと立ち上がろうとしているのに、道重が気付いて声を上げる。「絵里!……」
が、亀井は黙って首を振り、血溜まりに足を取られながらも立ち上がった。

みんなの、心配そうに見つめる視線に気付いて、亀井が天を指差して言った。

「ダークネスのボケナス共!もうすぐ、勇気の塊みたいな人がそっちに行くからね!ガキさんに指一本、触れんじゃないよ!」

その言葉を受けてニカッと笑った田中が、大きく息を吸い、天を睨みつけると、亀井を真似て言った。

「よう聞きぃ!ダークネスのボンクラ共!今から、お前らの秘密基地ば、最強の能力者が乗り込むけん、覚悟決めて待っとき!」

「ワァ――――――――――ッ!!!」「アァ――――――――――――ッ!!!」

東京の夜空に、娘たちの咆哮が響き渡った。

この共鳴、鳴り止ます訳にはいかない。絶対に。