(06)258 『メメントモリは姉との約束』

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&br() (お姉ちゃん、さゆみに何か出来ることはないのかなぁ?) (もっと強くなりたいの) (皆を守りたいの) (ダークネスに打ち勝てるチカラが欲しい・・・) (さゆみ、貴女はまだ出来るはずよ) (だって貴女達はリゾナンターなのだから) (その想いの分だけ、能力は伸びるわ) (欲しなさい、自分の為に) (欲しなさい、仲間の為に) (私はいつだってさゆみの味方だから)     *    *    * 新しい戦闘服が完成する前に、どうしてもやっておきたいことがあった。 これは誰にも・・・そう、絵里にも内緒で。 隠し事なんて二人の間ではナシにしようね、なんて言ってたのに、破ってしまうことになる。 心の中でゴメンネ、と言いつつ、でもこれは譲れない。 アイデアを思いついて、お姉ちゃんと相談して。 自分の身体で少しだけ試したので きっと・・・大丈夫だと思うのだけれど。 「リンリーン、ちょっと見学していい?」 「道重サン!どうぞー」 喫茶リゾナントの2F。 「魅惑の水さんルーム」と愛が命名した休憩室はいつもと勝手が違っていた。 ずらりと並んだトルソーに、仮縫いの生地がしつけ糸で大体の完成形を模されている。 全部で9体のそれは同じように見えても実は少しずつ違うデザイン、かつ違う素材が使われており、 さぞかし大変な作業だっただろう。 パターンを起こし型紙を作り、裁断、縫製と作業工程は想像しただけでも気が遠くなりそうな量だ。 この器用な後輩に少しばかり畏敬の念が生まれる。 「凄いね、もう裁断も終わっちゃったんだ」 「バッチリです!後は裏地と本体を合わせてガーっと縫えばオシマイでーす」 鼻歌などを歌いながら作業するリンリンの邪魔にならないように、 少し離れた場所からどんどん出来上がっていく制服を眺める。 彼女の手元は次の動作があらかじめプログラミングでもされているかの如く高速で動き、 ただの布切れは立体的な衣類へと変わっていく。 「へー、器用なんだねぇ」 「ソウデスカ?女なら裁縫の一つや二つ、出来るように。刃千吏の教育方針デース」 みっちり教え込まれるのはパンダの尊さと戦闘能力だけではない・・・らしい。 会話がいったん途切れると、カタカタ、とリズムよくただミシンの音だけが響く室内。 何となくこのままお喋りを続けるのは憚られるような気がした。 改めて、制服を眺める。 闇に紛れるよう、一切の光を通さないかのような漆黒の布で作られたそれ。 三着だけ白いブラウスのトルソーは集団の中でぱっと目を引く。 何故かなんて何となく予想は付くけれど。 囮になるからだろう。この着用主が。 限りなく、危険に晒される可能性を含まされたそのデザイン。 このデザイン主の覚悟を垣間見た気がした。 額にぎゅっと皺が寄る。 だからこそ、私が今日、ここにいるのだ。 いつかのために、今できる小細工を。 未来における最悪な展開を、少しでも回避するための小細工を。 「ねぇ、どれがさゆみの分なの?」 リンリンに、どれが自分のかを尋ねる。 これですよー、と示された黒づくめのそれを横にどけて。 今日、用事があるのは自分の以外、8着分。 ごそごそと上着の前身ごろをめくり、裏地と表地の間にある物を貼り付ける。 どうやらリンリンは手を止めそんな私をじーっと見ていたようで、 当然の疑問をぶつけられた。 「何デスカ?これ」 「んー・・・内緒・・・にしたいけど、リンリンだけに教えるね」 「オゥ、これまた極秘任務ですネ~」 これまた?どういう事だろう。 内心、少しひっかかっていたが、きっと聞いても教えてくれないだろう。 これは皆に内緒にしといてね。 そう前置きして、さらに続ける。 「さゆみの治癒って今まで、基本的に傍に居ないと使えなかったの。 でも、遠隔治癒・・・そうだなぁ、離れた場所から傷を治すことができるようになって。 それでね、癒しの能力の更に上を目指したの」 リンリンにも理解できるよう、簡単な言葉を選んで説明していく。 「これ、皆の服にね。ここに、ちょっとおまじないをしておこうかなーと」 物質に治癒の力を込められないかというのは以前から漠然と想像していた。 近くに自分が居られない時、手遅れになる前に・・・ 体外に流れ出てしまった血液は戻せないからこそ、なおさら。 1分でも1秒でも早く、癒してあげたいと、そう切望していた。 毎夜「お姉ちゃん」と話をするうち、その想いは高まっていく。 (欲しなさい、仲間の為に) (仲間・・・私の・・・大切な人たち・・・) (そうよ、この先2度と出会えないかもしれない、心から信じあえる仲間よ) 必要なのは発動させる媒介。それから、覚悟。心構え。 お姉ちゃんが言うには、こういうのは愛用しているモノや、慣れ親しんでいるモノを使うのがセオリーだろうと。 なおかつこの小細工は薄っぺらく、存在を悟られないようにしなければならない。 そして目に付いたのが日々、子供じゃないんだからとからかわれながも収集に励んでいたシールだった。 綺麗な模様が印刷されたお気に入りを使うのは何となくもったいなかったので 真白い、何も書かれていない無地の不織布製シールと油性マジックを用意。 自分の名前と、守りたい相手の名前。 都合8枚用意し、念を込めながら筆を滑らせていく。 インクの乾きを確かめるためにその字を指でなぞると、ポワッとその文字がピンクに発光し、 また何事もなかったかのように元の色に戻る。 (うわぁー・・・かなり・・・吸い取られたかも・・・) 急激な脱力感が襲うが、確かに光り輝いた文字は確認できた。 これは、言うなれば私の分身。 身に着けておけば常に一番近くで、メンバーを守る。 私にしか出来ない守り方。 私達を繋ぐ『共鳴』をキーワードとし、 もしも激しい裂傷に見舞われた場合、裏地に隠したシールに封じた治癒の力を解き放つ。 ただし、一人一回限り。 可能ならこれ1枚で何度だって使えるようにしたかったけど。 何せ8人分だ。容量が足りない。 私の治癒の力の源の・・・そうだなぁ、例えるなら泉のような物があって。 そこからコップに汲み置いた水がこのシール。 本当に必要な時、この水が傷を癒してくれるはず。 自動発動型の治癒装置。 メンバーに秘密なのは、 れいなとか愛ちゃんに教えて、多少怪我してもイイなんて風に解釈をされては困るから。 ストッパーがあるって知ってたら無茶な戦い方をしそうだし。 そういう為にこれを用意したんじゃないから。 あくまで、非常事態に備えて。 つまり。 「さゆみは離れていてもリンリンを守りたいって、そういう事だよ」 ・・・うわ、恥ずいー! 顔、真っ赤なんだろうなぁ。 慣れない台詞は言うものじゃないな。言うんじゃなかったかな? そういえば、愛ちゃんは真顔でこういう恥ずかしい台詞を口にする。 リーダーって大変なんだ。 「道重サン・・・リンリン、凄ク嬉シイ、です」 にっこりと笑んでくれるリンリン。 伝わったかな?伝わったよね? 中国を離れ、ジュンジュンを追って右も左も解らないままリゾナンターに飛び込んだリンリン。 彼女にとって少しでも頼れる存在になりたい。 祖国のご両親が心配しないように。 私達が仲間だと、生涯を共に生き、手を取り歩いていくのだと、そう伝えたい。 「リンリンは、さゆみが絶対に、守るからね」 「はいっ!」 この笑顔を奪う存在は、敵だ。 この居場所を侵す存在は、何としてでも撃退しなければならない。 まだ見ぬ明日の物語は、この手で切り開いてみせる。     *    *    * そして数日後、衣裳のお披露目が行われた。 メンバーはそちらに意識が集中して思い思いの感想を言い合っている。 だけどその輪に入らず、全員の様子を見ている私。 愛ちゃんは何故かビックリしたような表情。  ・・・まさか気づいてないよね? リンリンが何か言いたげにこちらを見ているのに気がついた。 人差し指を一本、口唇に当て、シーッのポーズをしておいた。 こくりと頷いてくれる。 (さゆみは・・・もう誰も失うわけにはいかないの) 絵里が守れるならば・・・なんて最初のサイショはそう、それだけだったけど。 れいなと出会い、大切だと認識し、彼女を守りたくなり、 彼女が信頼を置く愛ちゃんもまた守りたくなり、 ガキさん、小春、愛佳、ジュンジュン、リンリン。 順位など付けられない位、大事な人は増えた。 もう誰が欠けてもいけない。 全員、守りたいなんて贅沢な願いだと解っている。 だけど、これが本心。自分の心に嘘なんてつけない。 見ててね、お姉ちゃん。 さゆみは強くなるよ。 泣き虫だったさゆみはお姉ちゃんに頼ってばっかりだったよね。 でも、みんなはさゆみが守りたいの。 お姉ちゃんの手を借りないで、自分自身で。 だから、ココで見守っててね。 胸に手を当てて、ココロの中で、宣言。 とくん。 それでいいのよ、と。 私の宣言に応えるように、右手が震えた気がした。 ---- ---- ----

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