――そこは瓦礫の足場とすべてを飲み込み吸い込んでしまいそうな虚無の空間。
 それを見て、ユヅキ達は一瞬息を飲む。
「………………自衛隊が言ってたのは、こういう事かよ………………」
 呟くアカツキの表情も晴れない。
 曰く、立ちすくんで先に行けない。
 曰く、危険だから気をつけろ。
 そう聞かされ、4Fから11Fへ下るには外から移動するしかないと言われていたのだが……まさか、浮遊する瓦礫の足場を飛び越えていく事になろうとは思っていなかった。
 その頼りない足場をじっと眺めていたユヅキは、唐突にぱんっと自分の頬を叩いて気合を入れた。
「よっし、気合入れ終了! さあ、行くわよっ!!」
 そう言って先陣を切ろうとするユヅキの肩をアカツキは掴んだ。
「――待った。俺が先に行く。んで行けそうだったら来てくれ」
 とんっと都庁内の方へユヅキを押して、アカツキは軽い口調で告げる。
 ――本当はアカツキも恐怖を感じているのだが、それを臆面にも出さない。
 そんなアカツキの態度にユヅキの恐怖も少しだけ和らいだ――その時。
「あ、あの……その、アカツキさんは最後でお願いしたいんですけど……」
 キリハが俯いた状態で申し訳なさそうに遮った。
「ああ? そりゃなんでだよ」
 俺って信用ねーのか? と続けるアカツキに対して、キリハは首を左右にぶんぶん振る。
「じゃあ、なんでだよ?」
 そう問いかけられたキリハは、俯いたまま顔を真っ赤にしてスカートの裾を両手で握って一言。
「だ……だって、あたし達、スカート……です」
「………………あ」
 それを聞いたユヅキもはっとしたような顔をする。
「へ? それに何のかんけ……ぐはっ!?」
 それがどうしたといった感じのデリカシーのないアカツキの台詞は、相変わらずユヅキの一撃で止められる。
「――予定変更! 私が最初で次がキリハ、最後にアカツキ! 行くわよ!!」
 順番をさっさと決めて瓦礫に飛び移っていくユヅキとキリハに、アカツキは理不尽な暴力はいかんぞー! と怒鳴ったが相手にされなかったのは言うまでもない。
最終更新:2012年05月29日 23:03