節分の日、五更家にお呼ばれした京介と桐乃
京介 「……なぁ、黒猫。今日は節分、それで俺は豆撒きで鬼の役をやる……それは分かったんだが」
黒猫 「どうしたの、先輩。何か問題でも?」
京介 「……問題というか……何で俺、戦隊モノの悪の大幹部みたいなコスプレをさせられてるんでしょう?」
黒猫 「フフッ、折角“鬼”の役をやるんですもの、『それらしい』衣装を用意してみたのだけれど。良く似合っているわよ」
京介 「そ、そうか……コレが似合うと言われてもあまり嬉しくないが……」
黒猫 「さあ早く。向こうの部屋で妹たちが待っているわ」
京介 「……しゃーねえ……一度引き受けた手前、開き直ってやるしかないか……」
がらっ
京介 「鬼、参上!!」
桐乃 「ぶっ!? な、何よアンタ、その格好!?」
中猫 「うはっ、そう来たかぁ~。高坂くんってば、さっすがルリ姉が見込んだ男っ!」
下猫 「ほぇ~、おにぃちゃん、すごいです~!」
京介 「……冷静に突っ込まれると割と辛いんだが……とりあえず鬼だと思ってくれ。――さあ、豆撒き開始だぜ!」
桐乃 「何だか分かんないケド……とにかくアンタは鬼で、それを倒せばいいってコトね! よし、やるよ妹ちゃんっ!」
中猫 「おっけー! 手加減しないよ~? 鬼は~外っ!」
ぱらぱら
下猫 「はいー! おにわそと~!」
ぱらぱら
桐乃 「鬼は――死ねッ!!」
べしっ!
京介 「ッいってぇ~~!? ってかちょっと待て! 一人物騒な奴が混じってるぞ!?」
桐乃 「うっさい! 鬼が口答えすんなっ! 大人しくあたしたちにやられなさいッ!」
京介 「いや、炒り豆も全力で投げつけたらかなり痛いからね!?」
桐乃 「くらえ! このっ! しねっ!」
べしっ! べしっ!
京介 「って、痛い、痛いって! お、俺が悪かった! ちょ、落ち着けッ、お前目が本気だぞ──!?」
☆
京介 「……ぐ、ぐぅ……ま、まさか、豆で懲らしめられる鬼の気持ちが分かる日が来ようとは……」
桐乃 「はぁ、はぁ、――ふ、ふふん、どうやらこの勝負、アタシの勝ちみたいね!」
京介 「い、いや、豆撒きは勝負じゃねぇし……そもそもこんなハードな行事じゃないだろっ……」
がらっ
黒猫 「――あら、先輩。随分と手酷くやられたようね?」
京介 「く、黒猫、遅かったな……、全く、桐乃のせいで酷い目に――」
黒猫 「大丈夫よ。――あなたの尊い犠牲は、無駄にはしないわ」
京介 「…………はい?」
黒猫 「フッ、人間風情が……たかが尖兵を倒したくらいでいい気にならないことね。“鬼”など、我が配下の中では最下級……」
京介 「え、俺、そういう設定だったの!? ってか、それでこんな格好させたのかよ!」
黒猫 「どうやら、真の“悪魔”たる堕天聖……この私の出番のようね。我が眷属の魂の代償……その身で贖ってもらうわ」
京介 「いや、俺まだ生きてるからね!?」
桐乃 「はん、ラスボス登場ってワケ? 上等じゃん、あんた如きがこのあたしの攻撃に耐えられると思ってんの?」
黒猫 「……ククク……、――何の為に前座を用意したと思っているの……自分の手に持っている枡を良く見て御覧なさい」
桐乃 「えっ? ――ウソ、もう豆が無い!?」
京介 「尊い犠牲とか言って、最初から捨て駒にする気まんまんだったんじゃねえかっ!!」
黒猫 「さあ、刮目なさい、終焉の宴の始まりよ……この私の“魔弾《ガンド》”で、絶望の輪舞を踊るがいいわ……っ」
ぺしっ!
桐乃 「くッ……まだまだっ! この程度で勝ったと思うなっての!」
べしっ!
黒猫 「っつ!? ――クッ、卑怯な……落ちている豆を拾って投げるなんて……っ」
桐乃 「どの口が言うかっ! このっ、このッ!」
黒猫 「っく、こ、小癪な……っ。遊戯は此処までよ、我が散弾を喰らいなさいっ」
べしっ! ぺしっ! べしっ! ――――
☆
京介 「――さて、そこの二人はほっといて、みんなで恵方巻きでも食べるとするかぁ」
中猫 「高坂くん、いいの? なんか果てしなく不毛な戦いになってるけど」
京介 「いいっていいって。アレはあの二人の親愛表現みたいなもんさ。ナントカほど仲がいい、ってな」
下猫 「えへへ、ねぇさま、すごく楽しそうですっ」
-END-