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『五更家の食卓』

五更家が母子家庭だと思い込んでいた時期の作品になります。
母猫視点のSSです。


一週間ぶりね。
こうして、自分の家の台所に立つのは。

「母さま、今日はどんなごはんにするんですか?」

珠希がうれしそうに足元にまとわり付いてくる。

久しぶりにご飯を作る。その時点で母親失格だというのに。
この子は私を母と呼び、懐いてくれる。

「今日はハンバーグにするわよ」
「はんばーぐ!?」

末っ子の珠希だけではない。
真ん中の日向も本当はまだまだ母親に甘えたい年頃だろうに。
忙しさにかまけて、相手にしてあげられていない。

そして―――

「手伝うわ」
「瑠璃……いいからたまには座っていなさい」
「母さんこそ、休みの時くらい休んだらどうかしら」

長女の瑠璃。
本当に、よくできた自慢の娘。
この子がいなければ、とてもじゃないけれど
あの人のいなくなったこの家で生活できはしないだろう。

「夕飯くらい作れるわ。代わりに日向と珠希をお願い」
「……分かったわ。珠希、向こうに行くわよ」
「はい!」

瑠璃は、容姿も性格も、私にとてもよく似ている。
私の若い頃の生き写しと言ってもいいだろう。



でも、いえ、だからこそ。
本当は家の事よりも、友達関係を大切にしてほしいのだけれど。

……ダメな母親ね。
私の学生時代と全く同じ、というわけではないのだろうけど。
あまり、人付き合いの上手い子ではない。
それを知りつつ、私は娘の生活を縛ってしまっている。


そんな想いがあったからかもしれない。
夕飯時に日向から聞いた言葉は、とても衝撃的で。
そしてとてもうれしいものだった。


◇ ◇ ◇


ひざの上には珠希が乗っている。

本当は、ご飯の時にはちゃんと座って―――
というのが、数年前までの我が家だったのだが。

今、私に珠希を叱ることなど出来ない。
珠希の寂しさ、という意味だけではなく。
私もまた、娘との触れ合いに飢えているからだろう。

いつものように食事が始まる。
日向はその時を待っていたように、
そわそわしながら切り出した。

「お母さん、今日さ今日さ……」
「どうしたの?」
「瑠璃姉がぁ……彼氏連れてきたんだよ!」
「――っひ、日向!」

……こ、この子が、彼氏?
日向を叱りつけている瑠璃を見つめる。

友達すらいるのかどうか、と思っていた子に
よもや彼氏ができていようとは……。
想像すらしていなかった出来事に、
私は口を開けたまま静止してしまった。

「ちゃ、ちゃんとご挨拶はしたの?」
「はい!おにいさまにごあいさつしました!」
「『お兄様』は気が早いと言っているでしょう」

瑠璃は顔を真っ赤にして俯いている。



「へぇ、いつ知り合ったの?」
「知り合ったのは、一年と少し前くらいよ……」
「それで、どんな人?」
「と、友達の兄さんで……すごく、優しい人」

ふふふ。
私は初めて見る娘の顔に思わず微笑んでしまう。

本当にその人の事、好きなのね。
騙されている、という事もなさそうだし。

「お店に出る日、減らした方がいいかしら?」
「い、いえ、それとこれとは話が別よ」
「そう。ふふっ、瑠璃もなかなか隅に置けないわねぇ」
「……か、からかわないで頂戴」
「あまり奥手になっちゃだめよ」

ふと横を見ると、日向がウズウズした目をして私を見つめている。
まだ何か他にあるの?

「それでねそれでね!襖開けたら瑠璃姉、彼氏と布団で寝てた」

ブーーーーーーっ!

私は思わず味噌汁を噴出してしまった。
はぁ、びっくりした……ふぅ。
奥手になっちゃだめ、だなんて余計なおせっかいだったわ。

「か、母さん、誤解、誤解よ!あ、あの、その……」
「悪いけど、布巾もってきて頂戴」
「あぁぁぁぁ……」

瑠璃が動揺して使い物にならなくなっている。
ふふ、何もこんなところまで私に似なくてもいいのに。

「日向、布巾もってきてくれる?」
「もう持ってきたよお母さん」

瑠璃が動けないと見るや否やさっと動く日向。
この子の性格は、あの人に似ているかもしれないわね。




「違うのよ、違うの母さん……」
「ふーん、何が違うのか言ってご覧なさい?」
「あの、う、腕枕をしてもらっただけで……」
「……腕枕だけ?キスとかはしなかったのかしら?」
「あ……」

ぷぷ。あー面白い。
昔、私をからかっていた親友も、こんな気持ちだったに違いない。

「で、でもそんな、破廉恥な行為はまだ……」
「『まだ』ってことは、これからするって事ね?」
「あ……」

完全に目は泳ぎ、耳まで真っ赤になっている。
ふふふ。嬉しくて、なんだか少し安心したわ。

女手一つで、娘3人を育てる。
頼れる人はいないし、生活費だってギリギリで余裕はない。

そんな中で、ちゃんと娘を育てられているのかずっと不安だった。
いえ、今だってそう。
この子達はとてもいい子達だけれど、それに甘えていてはいけないもの。

でも、やはり。
瑠璃にちゃんと友達がいて、彼氏までできて。
まー学生時代の恋人なんてね、
そのまま結ばれることは少ないのかもしれないけれど。

ちゃんと青春時代を過ごしている。
私はとても嬉しかった。

「瑠璃……」
「……な、何?」
「おめでとう」
「……あ、ありがとう」

瑠璃にそっと微笑みかけると、瑠璃も硬くしていた表情を崩す。

「……避妊はするのよ?」
「―――っな!?」

再び固まる瑠璃を、私は笑いながら見つめていた。


おわり

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