けっこんしました
-------------------------------------------------
『かぞく』
「ただいまー」
「おかえりなさい、あなた」
玄関で軽く抱擁する。
この黒髪のとても可愛い小柄な子が、その……俺の嫁だ。
新婚ホヤホヤなんだぜ。
因みに、もう娘がいたりする。
人生どうなるか分からないよな。
「つかれたでしょう?
ごはんにする? おふろにする? それともあた……」
「お、お風呂にしようかな! ほら、汗かいてるしサッパリしたいなー」
「そうですか……それじゃ、あたらしいえほんはあとでよみましょうね」
「え? ああ……絵本、絵本ね。寝る前に読もうかな」
ふぅ……焦ったぜ。
「ほら、おとうさんがかえってきましたよ?」
「……お帰りなさい、お父さん」
「ただいま、瑠璃。いい子にしてたか?」
「……ええ。私はいつもいい子よ。今日もお母さんのお手伝いをして、一緒にご飯を作っていたの」
「そいつは楽しみだな。じゃあ俺は風呂に入ってくるよ」
「あ、おとうさん。るりもいっしょにおねがいね」
「ええ!? 一緒にか?」
「わたしはごはんをつくっているのでおねがいしますね」
砂場の端に並んで座る俺達。
「俺達何やってんだろうな……」
「言わないで頂戴。それに……珠希があんなに楽しそうなのだから仕方ないでしょう」
鼻歌を歌いながらとんとんとん、じゅじゅーっと料理をしている珠希ちゃんを見ながら呟く。
まったくこいつはホント珠希ちゃんには弱いよな。
「いつもは私と一緒にお風呂に入るのだけれど、お父さんの帰りが早い時はお父さんと入るのよ。
だから珠希にとってはあれが自然な事なの」
「なるほどな。そういやままごとなんてガキの頃、無理やり桐乃に付き合わされたけど
こっ恥ずかしくって逃げ回っていたな」
「男の子ならそうでしょうね」
クスクスと笑う黒猫。
「女の子がおままごとをするのは、身近な大人の女性に将来の自分を重ねているから……なのかもしれないわね。
子供は大人に憧れ、大人は子供時代を懐かしむものだわ」
「父親の仕事ってのは、殆ど子供に見えない所でやってるからな。真似できないのも仕方ないか」
「子供の視点からでは想像しにくい、という事かしらね」
「ああ、そうかもな。うちの親父は警察官だろ?
だからガキの頃はドラマみたいにドンパチやってるものとばかり思ってたぜ」
「おままごとというよりは、警察ごっこになりそうね」
「そうそう、前の晩に見たドラマみたいにバキューン! バキューン! ってやってたな。
親父の手錠で遊んでた時はゲンコツ食らったよ。『これは玩具じゃない!』ってな。……最近身に沁みて理解したわ」
「……何があったのか興味があるのだけれど」
「すまん。忘れたいんだ……」
額に汗が滲む。
「まぁ話を戻すとだな。今珠希ちゃんがやってる事は、普段黒猫がやっている事なんじゃないかなと思うわけだ。
なんたって珠希ちゃんは姉さま大好き! って子だからな」
「それは……うちはお母さんが専業主婦ではなかったから、
私が家事をする事が多くて、妹達の面倒を見るのも私の役目だった……それだけよ」
「それこそ珠希ちゃんの視点からすれば、役目なんてどうでもいいわけなんだよ。
料理が上手で裁縫もできて優しい姉さまが身近にいたら、憧れるのは自然な事だろ?
……それとも日向ちゃんを真似たほうがよかったか?」
「日向もあれで可愛い所はあるのよ? ただ……そうでない所も多いというだけで。
私をからかって愉しんでいたり……それが二人分になるのは想像したくないわね」
「そうだな。明るく元気で楽しいヤツなんだが二倍になると……ちっとばかり喧しいかもしれねえな」
校庭では日向ちゃんが頑張って練習している。
こんな話をされているとは夢にも思うまい。
「コンコン。ガラガラ」
珠希ちゃんが口でノックをして風呂場に入ってきた。
ざばーっと桶でかけ湯をしてから湯船に浸かる。芸が細かいな。
「お母さん。ご飯の支度は終わったの?」
「はい。だからおかあさんもおふろです」
「それじゃ、お母さんの頭を洗ってあげるわね」
俺の隣から立ち上がり、珠希ちゃんの傍にしゃがむ黒猫。
珠希ちゃんもしゃがんで待っている。
「ザバー。ゴシゴシゴシ。あわあわー……」
「あわあわー」
頭を洗っている……つもりの黒猫と、泡で遊んでいる珠希ちゃん。
どう見ても母娘の立場が逆だよなと思いつつ、微笑ましくそれを眺めている。
こうやって妹の世話を焼いている時の黒猫は穏やかで、とてもいい表情をするんだよ。
黒猫は女子力が低い。以前、日向ちゃんがそんな事を言っていた。
部屋着はボロジャージだし、若い女の子っぽさが感じられないのだとか。
でもよ。俺は思うんだ。主婦力はかなり高いんじゃねえかなってよ。
家事も育児もこんだけ実践経験豊富な女子高生ってそうはいないんじゃねえの?
経済観念もしっかりしてるし、家計を預けても何も心配ないだろう。
今すぐ嫁になっても問題ないな。やった事がないのって出産くらいじゃね?
……このままでは考えが危険な方向に向かってしまうので止めておこう。
今はおままごとに集中しなくちゃな、うん。
「お母さん、泡を流すわよ」
「はーい」
ギュっと目を瞑る珠希ちゃん。
ザバーっと黒猫がお湯をかけるフリをすると、プルルっと軽く頭を振る。
「へえー、偉いな珠希ちゃんは。シャンプーハットがなくても大丈夫なんだな」
「たまきはおとなだから、へいきなんですよ」
えっへん、と胸を張る珠希ちゃんがとても可愛らしくて、こんな娘なら100%親馬鹿になれると思った。
もしも娘の彼氏なんて紹介されたら、とりあえずぶん殴ってやろう。
だけど結婚式では号泣しながらおめでとうなんて言うんだろうな……
「お父さん、先にあがっているわよ」
「あ、ああ。俺もすぐいく」
妄想を中断して、立ち上がった二人の後を慌てて追った。
・
・
・
「「「いただきます」」」
手を合わせて食事が始まった。
「あー腹減った。今日のおかずは何かなー?」
「はんばーぐです。いっぱいつくったのでおかわりもありますよ」
見ると平たく潰して小判型になった泥団子が沢山あった。
頑張って作ったんだな。
「こいつは美味そうだな。どれどれ……」
ハンバーグに葉っぱが添えられている。うん、野菜も大切だよな。
木の枝を箸にして一口大の大きさにする。なんだこれ?
中に細い葉が入っている。芝生だろうか。
「母さん、この中に入ってるのは何だ?」
「ひじきです」
「ひじきか……ヘルシーだな」
「おいしくて、えいようもあるんですよ」
なるほど。栄養を考えてハンバーグに色々混ぜるのは母親の知恵だ。
よく見てるよな、ホント。
その珠希ちゃんはというと、何か不満があるのだろうか。むーっと口を尖らせている。
「お母さん、どうかしたのかしら?」
黒猫も気になったのだろう。声をかける。
「るり、ちがうでしょ」
「え?」
「るりは、おとうさんのひざのうえでしょ」
「な!」
顔を見合わせる俺と黒猫。
そ、それはまずいだろ? ほら、理性とか野性とか色々、ね?
迷っていると珠希ちゃんの顔が曇ってくる。
そういや遊びに行くたびに俺の膝に乗っていたし、きっと親父さんにも同じなんだろう。
珠希ちゃんからすれば安心できる場所なんだろうが、それを再現しろと?
「……し、仕方ないわね。私はいい子だからお母さんの言う事を聞かなければいけないわ。
それともお父さん。お母さんを膝に乗せるのはよくて、私はダメというのかしら?
その場合、あなたのロリコンが証明されたという事になるけど……いいのね?」
クスリと笑ってこっちを見る。黒猫のヤツ、ここで挑発するか!?
自分も顔が真っ赤だってのにコイツは……
いや、まてよ? 自分の動揺を隠す為に挑発してるのだとしたら……よーし、乗ってやろうじゃないか。
「それもそうだな」
俺は箸を置いて両腕を広げた。
「さあ、瑠璃。おいで」
「ぐっ……本気なの? お父さん」
「ああ、今の俺は家族を大事にする優し~いお父さんだからな。
どうした? 瑠璃。お父さんとお母さんの言う事が聞けないのかな?」
もはや自分の恥ずかしさは棚上げしまくり、お互い相手に恥ずかしい思いをさせる事に夢中になっていた。
鼻血噴いてブッ倒れそうなんだけどな。
「……お、憶えてなさい」
黒猫は俺の前まで来て背を向けて座った。
うわ! 軽っ! 柔らかっ! なんだこれ!
珠希ちゃんの時とは明らかに違う弾力と温もり。そして確かな手応え(足応え?)
座る時に一瞬ふわりと広がった髪の香りが鼻孔を擽る。
思わず抱き締めたくなる衝動を必死に押さえて言った。
「瑠璃は甘えん坊さんだなあ」
「……ええ、そうね。私は甘えん坊なの。だってお父さんが大好きなんですもの」
黒猫は、ぽすっと俺に背中を預けて甘えた声で言った。
ぐはっ! カウンター来た! てかこれってカップルの座り方だよね?
いつKOされてもおかしくない攻撃に朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止め、頭を撫でる。
「瑠璃は可愛いなあ」
「……ふふふ」
「ふふふ……」
「「ふふふふふ……」」
すでにおままごとだという事を忘れて張り合う俺達に、
「えへへ、みんななかよしですー」
珠希ちゃんだけが満足気に笑っていた。
「あんたら、何やってんの?」
練習が終わったらしい桐乃達がやってきた。
黒猫は最初の自分の席に戻っている。テレポートでも使えんの?
「珠希ちゃんと遊んでただけだ。まぁ細かい事は気にするな」
というか気にしないで下さい。お願いシマス。
俺は必死に話題を逸らすのだった。
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『かぞく』
「ただいまー」
「おかえりなさい、あなた」
玄関で軽く抱擁する。
この黒髪のとても可愛い小柄な子が、その……俺の嫁だ。
新婚ホヤホヤなんだぜ。
因みに、もう娘がいたりする。
人生どうなるか分からないよな。
「つかれたでしょう?
ごはんにする? おふろにする? それともあた……」
「お、お風呂にしようかな! ほら、汗かいてるしサッパリしたいなー」
「そうですか……それじゃ、あたらしいえほんはあとでよみましょうね」
「え? ああ……絵本、絵本ね。寝る前に読もうかな」
ふぅ……焦ったぜ。
「ほら、おとうさんがかえってきましたよ?」
「……お帰りなさい、お父さん」
「ただいま、瑠璃。いい子にしてたか?」
「……ええ。私はいつもいい子よ。今日もお母さんのお手伝いをして、一緒にご飯を作っていたの」
「そいつは楽しみだな。じゃあ俺は風呂に入ってくるよ」
「あ、おとうさん。るりもいっしょにおねがいね」
「ええ!? 一緒にか?」
「わたしはごはんをつくっているのでおねがいしますね」
砂場の端に並んで座る俺達。
「俺達何やってんだろうな……」
「言わないで頂戴。それに……珠希があんなに楽しそうなのだから仕方ないでしょう」
鼻歌を歌いながらとんとんとん、じゅじゅーっと料理をしている珠希ちゃんを見ながら呟く。
まったくこいつはホント珠希ちゃんには弱いよな。
「いつもは私と一緒にお風呂に入るのだけれど、お父さんの帰りが早い時はお父さんと入るのよ。
だから珠希にとってはあれが自然な事なの」
「なるほどな。そういやままごとなんてガキの頃、無理やり桐乃に付き合わされたけど
こっ恥ずかしくって逃げ回っていたな」
「男の子ならそうでしょうね」
クスクスと笑う黒猫。
「女の子がおままごとをするのは、身近な大人の女性に将来の自分を重ねているから……なのかもしれないわね。
子供は大人に憧れ、大人は子供時代を懐かしむものだわ」
「父親の仕事ってのは、殆ど子供に見えない所でやってるからな。真似できないのも仕方ないか」
「子供の視点からでは想像しにくい、という事かしらね」
「ああ、そうかもな。うちの親父は警察官だろ?
だからガキの頃はドラマみたいにドンパチやってるものとばかり思ってたぜ」
「おままごとというよりは、警察ごっこになりそうね」
「そうそう、前の晩に見たドラマみたいにバキューン! バキューン! ってやってたな。
親父の手錠で遊んでた時はゲンコツ食らったよ。『これは玩具じゃない!』ってな。……最近身に沁みて理解したわ」
「……何があったのか興味があるのだけれど」
「すまん。忘れたいんだ……」
額に汗が滲む。
「まぁ話を戻すとだな。今珠希ちゃんがやってる事は、普段黒猫がやっている事なんじゃないかなと思うわけだ。
なんたって珠希ちゃんは姉さま大好き! って子だからな」
「それは……うちはお母さんが専業主婦ではなかったから、
私が家事をする事が多くて、妹達の面倒を見るのも私の役目だった……それだけよ」
「それこそ珠希ちゃんの視点からすれば、役目なんてどうでもいいわけなんだよ。
料理が上手で裁縫もできて優しい姉さまが身近にいたら、憧れるのは自然な事だろ?
……それとも日向ちゃんを真似たほうがよかったか?」
「日向もあれで可愛い所はあるのよ? ただ……そうでない所も多いというだけで。
私をからかって愉しんでいたり……それが二人分になるのは想像したくないわね」
「そうだな。明るく元気で楽しいヤツなんだが二倍になると……ちっとばかり喧しいかもしれねえな」
校庭では日向ちゃんが頑張って練習している。
こんな話をされているとは夢にも思うまい。
「コンコン。ガラガラ」
珠希ちゃんが口でノックをして風呂場に入ってきた。
ざばーっと桶でかけ湯をしてから湯船に浸かる。芸が細かいな。
「お母さん。ご飯の支度は終わったの?」
「はい。だからおかあさんもおふろです」
「それじゃ、お母さんの頭を洗ってあげるわね」
俺の隣から立ち上がり、珠希ちゃんの傍にしゃがむ黒猫。
珠希ちゃんもしゃがんで待っている。
「ザバー。ゴシゴシゴシ。あわあわー……」
「あわあわー」
頭を洗っている……つもりの黒猫と、泡で遊んでいる珠希ちゃん。
どう見ても母娘の立場が逆だよなと思いつつ、微笑ましくそれを眺めている。
こうやって妹の世話を焼いている時の黒猫は穏やかで、とてもいい表情をするんだよ。
黒猫は女子力が低い。以前、日向ちゃんがそんな事を言っていた。
部屋着はボロジャージだし、若い女の子っぽさが感じられないのだとか。
でもよ。俺は思うんだ。主婦力はかなり高いんじゃねえかなってよ。
家事も育児もこんだけ実践経験豊富な女子高生ってそうはいないんじゃねえの?
経済観念もしっかりしてるし、家計を預けても何も心配ないだろう。
今すぐ嫁になっても問題ないな。やった事がないのって出産くらいじゃね?
……このままでは考えが危険な方向に向かってしまうので止めておこう。
今はおままごとに集中しなくちゃな、うん。
「お母さん、泡を流すわよ」
「はーい」
ギュっと目を瞑る珠希ちゃん。
ザバーっと黒猫がお湯をかけるフリをすると、プルルっと軽く頭を振る。
「へえー、偉いな珠希ちゃんは。シャンプーハットがなくても大丈夫なんだな」
「たまきはおとなだから、へいきなんですよ」
えっへん、と胸を張る珠希ちゃんがとても可愛らしくて、こんな娘なら100%親馬鹿になれると思った。
もしも娘の彼氏なんて紹介されたら、とりあえずぶん殴ってやろう。
だけど結婚式では号泣しながらおめでとうなんて言うんだろうな……
「お父さん、先にあがっているわよ」
「あ、ああ。俺もすぐいく」
妄想を中断して、立ち上がった二人の後を慌てて追った。
・
・
・
「「「いただきます」」」
手を合わせて食事が始まった。
「あー腹減った。今日のおかずは何かなー?」
「はんばーぐです。いっぱいつくったのでおかわりもありますよ」
見ると平たく潰して小判型になった泥団子が沢山あった。
頑張って作ったんだな。
「こいつは美味そうだな。どれどれ……」
ハンバーグに葉っぱが添えられている。うん、野菜も大切だよな。
木の枝を箸にして一口大の大きさにする。なんだこれ?
中に細い葉が入っている。芝生だろうか。
「母さん、この中に入ってるのは何だ?」
「ひじきです」
「ひじきか……ヘルシーだな」
「おいしくて、えいようもあるんですよ」
なるほど。栄養を考えてハンバーグに色々混ぜるのは母親の知恵だ。
よく見てるよな、ホント。
その珠希ちゃんはというと、何か不満があるのだろうか。むーっと口を尖らせている。
「お母さん、どうかしたのかしら?」
黒猫も気になったのだろう。声をかける。
「るり、ちがうでしょ」
「え?」
「るりは、おとうさんのひざのうえでしょ」
「な!」
顔を見合わせる俺と黒猫。
そ、それはまずいだろ? ほら、理性とか野性とか色々、ね?
迷っていると珠希ちゃんの顔が曇ってくる。
そういや遊びに行くたびに俺の膝に乗っていたし、きっと親父さんにも同じなんだろう。
珠希ちゃんからすれば安心できる場所なんだろうが、それを再現しろと?
「……し、仕方ないわね。私はいい子だからお母さんの言う事を聞かなければいけないわ。
それともお父さん。お母さんを膝に乗せるのはよくて、私はダメというのかしら?
その場合、あなたのロリコンが証明されたという事になるけど……いいのね?」
クスリと笑ってこっちを見る。黒猫のヤツ、ここで挑発するか!?
自分も顔が真っ赤だってのにコイツは……
いや、まてよ? 自分の動揺を隠す為に挑発してるのだとしたら……よーし、乗ってやろうじゃないか。
「それもそうだな」
俺は箸を置いて両腕を広げた。
「さあ、瑠璃。おいで」
「ぐっ……本気なの? お父さん」
「ああ、今の俺は家族を大事にする優し~いお父さんだからな。
どうした? 瑠璃。お父さんとお母さんの言う事が聞けないのかな?」
もはや自分の恥ずかしさは棚上げしまくり、お互い相手に恥ずかしい思いをさせる事に夢中になっていた。
鼻血噴いてブッ倒れそうなんだけどな。
「……お、憶えてなさい」
黒猫は俺の前まで来て背を向けて座った。
うわ! 軽っ! 柔らかっ! なんだこれ!
珠希ちゃんの時とは明らかに違う弾力と温もり。そして確かな手応え(足応え?)
座る時に一瞬ふわりと広がった髪の香りが鼻孔を擽る。
思わず抱き締めたくなる衝動を必死に押さえて言った。
「瑠璃は甘えん坊さんだなあ」
「……ええ、そうね。私は甘えん坊なの。だってお父さんが大好きなんですもの」
黒猫は、ぽすっと俺に背中を預けて甘えた声で言った。
ぐはっ! カウンター来た! てかこれってカップルの座り方だよね?
いつKOされてもおかしくない攻撃に朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止め、頭を撫でる。
「瑠璃は可愛いなあ」
「……ふふふ」
「ふふふ……」
「「ふふふふふ……」」
すでにおままごとだという事を忘れて張り合う俺達に、
「えへへ、みんななかよしですー」
珠希ちゃんだけが満足気に笑っていた。
「あんたら、何やってんの?」
練習が終わったらしい桐乃達がやってきた。
黒猫は最初の自分の席に戻っている。テレポートでも使えんの?
「珠希ちゃんと遊んでただけだ。まぁ細かい事は気にするな」
というか気にしないで下さい。お願いシマス。
俺は必死に話題を逸らすのだった。