2ch黒猫スレまとめwiki

◆h5i0cgwQHI

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匿名ユーザー

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夏休みも残すところあと数日。
私は、二人の下僕<しもべ>と共に、秋葉原を散策していた。


本来であれば、私のような闇夜の住人には、この日差しは毒である。
しかし、薄い妖気の膜で全身を覆うことで、
日光から身を守っているため問題はない。


「ちょっ、あんた顔真っ赤だけど大丈夫?」
「平気よ、薄い妖気の―――」
「はいはい邪気眼乙。ねぇ沙織」


桐乃が沙織の方を向くと、沙織はすでに周囲を見渡し、
手ごろなカフェを見つけていたようだった。


「そうですな、少し休憩としましょうぞ」
「へ、平気だと言っているじゃない」
「いえいえ、拙者たちにもこの日差しは、ちとキツいのでござるよ」
「そ……それなら仕方ないわね」
「うむ、かたじけない」


私くらいの魔力を秘めていれば、どうということもない日差しでも、
軟弱な人間ともなれば、そうそう耐えられるものではない。


仕方なく、私は二人と共にカフェに向かったのだった。


◇◇◇


「つまり、黒猫氏は、京介氏に『瑠璃』と呼んでほしい、と」
「ち、違うわ。い、今挙げたのは例えばの話で……」


ま、まったく。
なぜ時折、沙織は日本語が通じなくなるのかしら。


今私たちは、近場のカフェで一休みしている。
今日の戦利品のお披露目も一通り終わったところで、
先輩―――桐乃の兄であり、私の恋人―――の話になったのであった。



「私はただ、恋人になっても、別に前と変わらないと言っただけで」


それに急に『瑠璃』だなんて呼ばれたら、恥ず―――
こ、困惑してしまうじゃない。


「普段の変態ぶりから考えると、すぐにでも襲ってくるかと思っていたのだけど」
「京介氏のヘタレっぷりは筋金入りですからなぁ」
「ったくあのバカ兄貴は……」



そう言いながら、少し嬉しそうにしている桐乃。
……はぁ、とんだブラコンね。



「そんなに焦るつもりもないから別にいいのだけど」
「でもさ、兄貴ともっと恋人っぽくなりたいんでしょ?」
「そ、それは……え、えぇ……まぁ、そうね」
「だったら沙織の言うように、呼び方変えるのはいい手だと思うよ?」


ずいぶんと簡単に言ってくれるわね。


……正直に言ってしまうと、私だって何度か変えようとしたわ。
でも、彼を名前で呼ぼうとする度に、私の頭は真っ白になってしまうの。


きっと、誰かがそうさせないように呪いをかけているのね。
ベルフェゴールかしら。


「ふむ、そのご様子だと、なかなか切り出しにくい話題のようですなぁ」
「そうね、少し躊躇してしまうわ」
「ヘタレカップル……」
「何か言ったかしら?ビッチ」


分かってはいるのだけれど、焦っても仕方ないというのも本当で。
今は、その……一緒に横にいるだけで、ドキドキしてしまうから。


それ以上のことが起こってしまったら、私の体は爆発してしまいそう。
だから、私からは踏み出せないでいるのだ。


「なるほど、ではこういうのはいかがでしょう?」


沙織は、何か思いついた顔で、人差し指をピンと立てて言った。


「創作物でアピールするというのは」
「……というと?」
「つまり、黒猫氏が京介氏にして欲しいことを、同人誌にするのです」
「は、恥ずかしいじゃないそんなの……」
「いえ、あくまでフィクションの話として、ですから」


なるほど。
直接は言いづらいことでも、フィクションであれば。
私にもできる、ギリギリのライン、といった感じね。


「やってみようかしら」
「あの鈍感兄貴が気付くかなぁ」
「まぁまぁ、なんでもやってみませんと」


その夜、私は精一杯の魔力を込めて、作品を書き上げた。



◇◇◇


夜魔の女王である私が、自分の根幹たる魔力<マナ>の一部を分け与えた下僕<スレイブ>。
古より存在する契約により、彼は王たる資格を得ることになるのだが
彼はいまだに自分に与えられた魔力の扱い方を理解していない。


彼の名は京介。私が、生涯一度のみ使うことを許された契約を結んだ男。
ある日、彼は私にこう話しかけた。


「女王。貴方のことを、『瑠璃』とお呼びすることは可能でしょうか」
「ふむ」


女王である私は知っている。
下僕たる人間達は、真名よりむしろ人間としての仮の名前を使うときにこそ
特別な魔力を発する場合がある。


彼の提案の以前より、私もその方法を考慮していたのだ。


彼がより強い魔力を発するための方法として。
そして、私と彼の間に結ばれた契約をより強固にする方法として。


「許そう。私の事はこれから『瑠璃』と呼びなさい」
「ありがたき幸せにございます、瑠璃様」


そう言うと、彼は私の足元の跪き、手の甲に契約の口付けを交わした。
これは、そう、永遠の契約。


その瞬間、今までは微弱に感じる程度だった彼の魔力は増幅し、私の体を包み込んだ。
そう、これが、契約時に私が欲していたもの。


彼の抑え切れない魔力が私の中に注ぎ込まれる。
契約更新完了。
私たちはより強固な契約により結ばれたのだった。


◇◇◇


「どうかしら?」
「うーん……」


どうって言われてもなぁ。


俺は今、数日前に恋人になったばかりの、女の子の家にいる。
『今日は親がいないのだけれど……うちに来ない?』
なんて言われたときには、こう、色気ある展開を期待していたんだが。


彼女の部屋に入り、ドキドキしながら座っていると、突然作品を渡され
今はその作品の感想を求められている。


ってか感想以前にさ。


「なんで名前が俺達なんだ?」
「やっぱり……」


黒猫は少し諦めたような表情になって、俺の隣に座った。
あれ?
俺、なんか答え間違ったかな?


「いや、面白かったと思うぞ」
「……」
「えぇっと、もっと過激な方が読者は喜ぶんじゃ」
「もういいわ」


あっれー?
喋るほど墓穴を掘っていく気がする。


……ダメだ。全然わからん。


「ちょ、ちょっとトイレ借りてもいいか?」
「えぇ、部屋を出て左の突き当たりよ」


ふぅ。
こういうときこそ、持つべきものは妹だ。


トイレに着くと、俺は携帯を取り出した。
妹の名前を選び、発信ボタンを押す。


『何、どーしたの?』
「ちょっと相談したいことがあるんだが」
『は?なんであたしがあんたの相談なんて聞かなきゃいけないわけ?』


それが毎度俺に人生相談してくる妹の言い草かよ!
とは口が裂けても言えず。


「そこを何とか。頼れるのお前ぐらいしかいないんだよ」
『チッ。仕方ないなぁ。早くしなよ』
「えっとな」


俺は事の顛末を桐乃に説明した。


『はぁ……バカ兄貴』
「俺がバカなのはこの際いいんだけど、やっぱ俺なんかマズったかな?」
『うん。もう死んだらいいよ』


やっぱなんかマズかったんだな……
罵詈雑言はともかく、それが分かっただけでも妹に感謝しよう。


「でさ、どうしたらいいと思う?」
『うーん……あのさ、黒いのがすごいシャイだってのは分かってるよね?』
「あぁ、そりゃな」
『だからさ、普段は兄貴に言いたくても言えないことがあるんじゃない』
「そ……そうかもしれんな。確かに」
『で、分かった?』
「……何が?」
『……』


電話越しに、妹の盛大なため息が聞こえる。
分っかんねー。
何がなんだかサパーリ分かんねーぜ。


「すまん、俺がバカなのは分かったから、もう少し分かりやすくだな」
『もう……あのね、黒いのがあんたに見せた作品には』
「あの作品には?」
『黒いのがあんたにして欲しいことが書いてあるんじゃないの?』
「……そ、そういうこと……か」
『はぁ。じゃ、忙しいから切るよ』


そうか。
……ははは、そういうことか、もう分かったぜ!



トイレを出て、黒猫の部屋に戻る。



「黒猫!」
「な、何よ」


持つべきものは出来た妹だな。
確かに俺は馬鹿だった。鈍感だった。
でも、もう分かったぜ。


シャイな黒猫が秘めていた願い。
“永遠の契約”だろ?


「黒猫、結婚しよう!」
「死ねばいいわ」


あ、あれー?
間違えたかなぁ……


「いったい妹に何を吹き込まれたの?」
「な、なんで桐乃と電話してたのを?」
「やっぱり電話してたのね」


あぁ、なんかどんどん深みにハマってる気がする。
と、とにかく黒猫の願いを調べないと。


俺は再び黒猫の作品を手に取った。
再び目を通すと、ある一行で目が止まった。


『彼の抑え切れない魔力が私の中に注ぎ込まれる。』


そうか、そうだったのか。
俺も夜は、黒猫の事を想い悶々としていたわけだが。
黒猫もそうだったんだな。


「服を脱げ黒猫!」
「……呪うわよ」


……お、おかしいなぁ。
これで間違いないと思ったんだけど。


思えばキスだってまだしていないんだから、
えっちは早すぎるかぁ……ん?キス?


「先輩。全然分かっていないようだけれど」
「ん?ああ……」
「別に私の願いを当てる必要はないのよ」


そういうと、俺の手から作品を取り上げた。
あぁ、唯一のヒントが遠ざかっていく。


「その、あのね、私たちは恋人になったでしょう?」
「そ、そうだな」
「でもね、今のままでは、恋人っぽくないと言うか」
「それは確かに」


俺も感じていたことだった。
もっとこう、ラブラブってのを想像していたんだがな。
実際は、今まで二人でいたときとあまり変わらない。


心地よくはあるし、めちゃめちゃドキドキはするけど。
名前で呼ぼうとかもしたけど、テンパリすぎて無理だったわけで。
チキンハート京介さんと呼んでくれて構わない。


「だからね、先輩に、その―――」
「恋人っぽいことをしようか、黒猫」
「っ!?」


ここから先を、黒猫に言わせるのはさすがに彼氏としてダメすぎるだろう。
俺は黒猫をそっと抱き寄せると、耳元で囁いた。


「目を閉じろ」
「えっ」
「いいから」


黒猫は少し驚いた様子だったが、大人しく目を閉じた。
黒猫の願い―――当たりかハズれかは分からないけど。


俺は俺のしたいことをする。
本当は今までも、ただそれでよかったのかもしれない。



俺は黒猫の唇に、自分の唇を重ねた。


「んっ……」


黒猫は、くっと体を硬くした。



ドクン ドクン


自分の心臓が大きく脈打っているのが聞こえる。


どれくらい時間がたっただろう。
現実的に考えれば、ほんの数秒だったに違いない。


でも俺は時間の感覚を失ってしまっていた。
一瞬の出来事だったような、それでいてものすごく長かったような。
ふわっとした感覚の中、静かに唇を離した。



「っはぁ……」



ずっと息を止めていた黒猫が、息を吐き出した。
顔を赤くして、潤んだ瞳で俺を見つめている。


か、かわいい。



「好きだ……る、瑠璃」



はっと目を見開いて、俺を見る。
すごく恥ずかしかったが―――やはり、名前で呼んで良かった。
彼女のこんな顔が見れたのだから。


「お前、ほ、ホントかわいいな……」


「な、何を言っているの」



恋人になるって、こういうことなのかもしれないな。
自分がしたいことを、素直にさらけ出して。
それは、いつも受け入れてもらえるワケではないのだろうけど。


瑠璃は、俺の左の袖をキュッとつかんだ。
そして恥ずかしそうにこういった。



「もう一回、キスをして。き、京介」



俺はかわいい恋人の頬に手を当てると、再び顔を近づけた。



 -おわり-

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