――――とぅるるるる、とぅるるるる――――
クラスメイトとの談話中、私はついと箸を置いた。
一言断ってから、携帯電話を顔の横にやり、
一言断ってから、携帯電話を顔の横にやり、
「はい、もしもし……」
『おう、黒猫か?』
「せ、先輩っ?」
『おう、黒猫か?』
「せ、先輩っ?」
少し驚いた声を上げた途端、クラス中から一斉に好奇の目を向けられる。
凄まじいプレッシャーね――私のように精神が強靭な者でなければ、きっと中座してしまうだろう。
私もピクピク動いてしまう頬を引き締めてから、それでも強気に語を継いだ。
凄まじいプレッシャーね――私のように精神が強靭な者でなければ、きっと中座してしまうだろう。
私もピクピク動いてしまう頬を引き締めてから、それでも強気に語を継いだ。
「……昼休みにいきなり電話してくるなんて、一体どうしたの?」
『ああ、悪い。忙しかったか?』
「別に、そういうわけじゃないけど……」
『ああ、悪い。忙しかったか?』
「別に、そういうわけじゃないけど……」
ぐるりと視線を走らせる。
近くの席に座っているクラスの女子たちは、いかにも「私はお弁当をやっつけるのに集中していいます」といったフリをしながら、チラチラとこちらの様子を窺っていた。
赤城さんのお節介で、数名の人間とは言葉を交わすようになったし、一緒に昼食をとる日も増えた。
とはいえ、自分から話しかけるのにはまだ慣れていないので、会話の輪に入れない時は誰かが話しかけてくれるのをじりじりと待つしかなくて、今もちょうど手持無沙汰になっていたところなのだ。
近くの席に座っているクラスの女子たちは、いかにも「私はお弁当をやっつけるのに集中していいます」といったフリをしながら、チラチラとこちらの様子を窺っていた。
赤城さんのお節介で、数名の人間とは言葉を交わすようになったし、一緒に昼食をとる日も増えた。
とはいえ、自分から話しかけるのにはまだ慣れていないので、会話の輪に入れない時は誰かが話しかけてくれるのをじりじりと待つしかなくて、今もちょうど手持無沙汰になっていたところなのだ。
「用件があるなら、手短に頼むわ」
『あー……すまん、用件は別にないんだ』
「あら、まさか『声が聞きたくなったから』とでも言うの?」
『な、なんで分かったんだ?』
「……あなた、よくそんな恥ずかしいことが言えるわね」
『あー……すまん、用件は別にないんだ』
「あら、まさか『声が聞きたくなったから』とでも言うの?」
『な、なんで分かったんだ?』
「……あなた、よくそんな恥ずかしいことが言えるわね」
正直に言えば、私だって先輩の声が聞きたくなる時はあるけれど。
実際に、電話をかけるなんて――やっぱり普通は出来ないし、出来たとしてもしないわよ。
……そう考えると、面白いモノを見るかようなクラスメイトの視線がますます強く感じられてくる。
なんだか急に気恥ずかしくなった私は、このパフォーマンスを終わらせるべく突き放すような声を出した。
実際に、電話をかけるなんて――やっぱり普通は出来ないし、出来たとしてもしないわよ。
……そう考えると、面白いモノを見るかようなクラスメイトの視線がますます強く感じられてくる。
なんだか急に気恥ずかしくなった私は、このパフォーマンスを終わらせるべく突き放すような声を出した。
「……それならもう満足かしら? 切るわよ」
『はは、いきなり電話かけて悪かったな。そんじゃ――愛してるよ黒猫』
「いっ、いきなり何をっ」
『はは、いきなり電話かけて悪かったな。そんじゃ――愛してるよ黒猫』
「いっ、いきなり何をっ」
もし実際に、面と向かってそんなことを言われたら。
きっと私は慌てふためいて、わけが分からなくなって、俯いてしまって……。
いつものように先輩のいいようにされてしまっていたのだろう。しまっていたのだろう、というか、毎回そうなってしまっている。
……だからかしらね。いつも胸の奥に閉じ込めている言葉を、今日こそ口に出してみようと思ったのは。
きっと私は慌てふためいて、わけが分からなくなって、俯いてしまって……。
いつものように先輩のいいようにされてしまっていたのだろう。しまっていたのだろう、というか、毎回そうなってしまっている。
……だからかしらね。いつも胸の奥に閉じ込めている言葉を、今日こそ口に出してみようと思ったのは。
「……莫迦。私も、愛してるわよ」
そば耳を立てていたクラスメイト達が『おおっ』と声を上げるのを尻目に、堂々と携帯電話を仕舞う私。
悠然と箸を取り直して昼餉を再開したが、胸にはぐらぐらと沸き立つ昂揚感があった。
――き、決まった。
っふ、ふふふ……これで一矢報いてやったわ。
悠然と箸を取り直して昼餉を再開したが、胸にはぐらぐらと沸き立つ昂揚感があった。
――き、決まった。
っふ、ふふふ……これで一矢報いてやったわ。
「あ、あのー……五更さん……」
心臓の高鳴り必死に押さえつけていると、先程からずっとお手洗いに行っていた赤城さんの声が、私の背中にかけられた。
……まったく、どうせなら赤城さんにも聞かせてあげたかったわ――なんて願望は億尾にも出さず、私は努めて平静に振り返る。
すると私の席のすぐ後ろの扉には、ようやく教室に戻ってきた赤城さんと――
……まったく、どうせなら赤城さんにも聞かせてあげたかったわ――なんて願望は億尾にも出さず、私は努めて平静に振り返る。
すると私の席のすぐ後ろの扉には、ようやく教室に戻ってきた赤城さんと――
ホンモノの先輩が立っていた。
「………………よお、黒猫」
一瞬、理解が追い付かずに硬直してしまう身体。
「……せ、んぱい?」
え?
なぜ……?
どうして……!?
なぜ……?
どうして……!?
――きっと完全に動揺しきっていた私は、まるで浮気がバレた女みたいな顔をしていたのでしょうね。
先輩も先輩で、困惑したような、怪訝そうな……とにかく名状し難い表情を浮かべていて――
先輩も先輩で、困惑したような、怪訝そうな……とにかく名状し難い表情を浮かべていて――
「なあ、おまえさ―――いったい、誰と話してたんだよ」
でも、声には明らかに憤慨が込められていた。
「せ、せんぱ………あ……これはっ」
ああ――
私の十六年の人生において、かつてこれほど死にたい気持ちで一杯になったことはあっただろうか。
私の十六年の人生において、かつてこれほど死にたい気持ちで一杯になったことはあっただろうか。
でも、わざわざ教室まで来るなんて。
もしかしてホントに私の声が聞きたかったのかしら。
まったく、それなら昼休みが始まったらすぐ来てくれるか――もっと早くに電話を掛けてくれればよかったのに!
……現実逃避するなって?
五月蠅いわね、黙ってなさい。ちゃんとすぐに弁解したわよ……。
五月蠅いわね、黙ってなさい。ちゃんとすぐに弁解したわよ……。
「――――ち、違うのよ……」
そう言って……全部白状するしかないじゃない…………。
完(黒猫の高校生活的な意味で)