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堕天聖の回想録:25スレ目587(短編)

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匿名ユーザー

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奏でよう、奏でよう。幻灯機の回る音を友として、静かに序曲を奏でよう。


長い、長い旅路を終えて、私はほうと息を吐く。
旅路といっても、行いしは私にして私に在らざる使い魔の如き、詞。
けれどそれは確かに私の分け身であり、故にその疲労は私に還元する。

いずれの世界であろうと人間どもは無粋なモノしか創らない――、と、
そう思っていたのだが、なかなかどうして、これは便利だ。
認識を革めねばなるまい。

掌の内に収まる小さな絡繰は、この世界で電話と呼ばれるモノ。
詩も、詞も、音も。
風の精霊(シルフ)が担いしあらゆる存在であるかぎり、旅立たせられぬこと能わない。

顔を見て詞を伝えぬなど不興の極みであるのは確かだ。
だが、この場に在りながら意思を届けられる事は
偉大なる霊媒術師(エディソン)でさえ夢見た秘蹟なのだし。
……何より。
いざ対面したのなら決して、決してカタチに出来ない想いもあるのだから。

座ったまま、ぐらりと肢体を傾ける。
ひんやりとした壁の冷たさが快く、心地良い。

情けない。
随分と緊張していたようだ。

弛緩する体はしかし、雲霞に煙る先を見据えれば石の硬さを取り戻す。
まるでゴーゴンの咒に縛られたかのよう。

本当に果たすべき試練は、次の日の出を迎えてからこそだというのに。

重い体に引き摺られるように、瞼が自然と落ちていく。
このまままどろみの如き倦怠に浸っていれば、刻が止まってくれるだろうか。
世界を限りなく不幸ではない現在(イマ)のままで留めてくれるだろうか。
そうであればいいと願う矮小な自分が、確かに心央に、深奥に巣食う。


顔を見て詞を伝えぬなど不興の極みであるのは確かだ。
だが、この場に在りながら意思を届けられる事は
偉大なる霊媒術師(エディソン)でさえ夢見た秘蹟なのだし。
……何より。
いざ対面したのなら決して、決してカタチに出来ない想いもあるのだから。

座ったまま、ぐらりと肢体を傾ける。
ひんやりとした壁の冷たさが快く、心地良い。

情けない。
随分と緊張していたようだ。

弛緩する体はしかし、雲霞に煙る先を見据えれば石の硬さを取り戻す。
まるでゴーゴンの咒に縛られたかのよう。

本当に果たすべき試練は、次の日の出を迎えてからこそだというのに。

重い体に引き摺られるように、瞼が自然と落ちていく。
このまままどろみの如き倦怠に浸っていれば、刻が止まってくれるだろうか。
世界を限りなく不幸ではない現在(イマ)のままで留めてくれるだろうか。
そうであればいいと願う矮小な自分が、確かに心央に、深奥に巣食う。

巨神。熾天使。そして、もう一人。
閉じしソウルラインの円環(ウロボロス)で、十分ではないか。
多くを望めば惨めな結末にしかならないと――、思い知ったはずではないか。
取るに足りない人間如き、この私が執着する価値などないではないか。
小人はそう囁き続けるのだ。いつも、いつも。

……全く。
この様では――、届かせたい手が、届かない。

ねぇ、私。
あの高慢で不満気で、それでいて楽しそうなあの笑顔を思い浮かべて御覧なさい。
……敵前逃亡など、あらゆる意味であの女に顔を向けられないでしょう?

黒き獣たる私は声を大にして叫び、吼え、讃えよう。
見果てぬ希望(ユメ)に、“十分”など有り得ない、と。
“惨めな結末”なんて、立ち上がり続ければ過程にしかならないのだ、と。
ヒトが与えてくれるのは“価値”ではなく“想い”なのだ、と。

思い出そう。
私がここに至るまでの、その軌跡を。
いつか記した追憶の、その先を。

想いは糧となって、私に力を与えてくれるだろう。
奇跡を叶える絶大なる魔力なんかじゃない。
ほんのささやかな、ひとつの言葉を口にするためだけの力を。


これは、私の回想録。その断片。
組み上げてもところどころ欠けたままの、歪な物見の塔(エッシャー・マジック)。

……私と彼女と彼との日々は、これだけでは到底語りきれないのだから。


◇ ◇ ◇


“彼”とはあの邂逅の時、そして夏の祭典(サンクス・ギビング)などで確かに接点はあった。
特に夏の祭典(サンクス・ギビング)――催事の際は、あの女の呪言から
身を賭して防護結界を張って貰った、等の恩義を受け取ってはいた。

けれど、やはり始まりを語るとするならば、それはあの時以外は有り得ないだろう。
……今私の掌にある、携帯電話という名の機械(オート・マトン)。
ソレを媒体として広がった、忌々しくも無視できないひとつの騒動のこと。

今にして思えば、ではあるけれど。
その兆しであるかの如きあの鑑賞の宴での決闘もまた、
“彼”の慈悲、その恩恵に与っていたのだ。
会話を繋ぐための世辞とは分かっていても、褒詞などとはかけ離れた私の創造の儀が認められたようで、
照れ臭かったのを覚えている。
加えて、彼がいなければ、あの場には正視に耐えないコキュートスが顕現していたころだろう。
私とあの少女の縁(えにし)は今でこそ誰憚ることなく強固に練り固められたものとなったものの――、
その域に至るまでには、“彼”と沙織の尽力があってこそのものだ。
面と向かって口にはしないけれど、あの二人にはどれだけの感謝をしてもし足りない。

そう言えば、印象深い問いかけがあの時投げかけられたはずだ。
……「あんた、こういうのが好みなの? 趣味悪っ」、そんな感じで。
どんな答えを返したかはよく覚えていないけれど、きっと当時の私はどうしようもなく捻くれていた。
1年であっても、人は変わる。
苦笑いが“今”浮かんでいる事を自覚する。
今のような感情こそ持っていなかったけれども、男性として“彼”を見たのはそれがきっかけだったかもしれない。
砂浜に埋もれた貝殻ように小さくて、けれど、見つけてしまえば気にせずにはいられない程度の。
然して、確かに私を動かした何かとして。

けれどまあ、それは本当に“彼”の方を目で追った程度のものだった。
本当に深く思いだすべき過去は、ほんの少しばかり先――。


(続く)

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