「あなたはもっと我が儘で、欲張りで……、諦めの悪い女でしょう?
遠慮なんて――我慢なんていらないわ。
その先に私の望む未来はないのだから」
遠慮なんて――我慢なんていらないわ。
その先に私の望む未来はないのだから」
「私のことを友達と思ってくれるなら、いつもどおりの――本当のあなたを見せて頂戴」
「っ……」
桐乃は歯を噛み砕く勢いで軋ませた。
我慢してるだって?桐乃が?一体何を。
黒猫に別れの真意を問うためにやってきたはずなのに、やっと会えた黒猫は桐乃とわけのわからない問答をしている。
桐乃が、俺と黒猫が付き合っていく上でなにやら我慢しているという。
我慢してるだって?桐乃が?一体何を。
黒猫に別れの真意を問うためにやってきたはずなのに、やっと会えた黒猫は桐乃とわけのわからない問答をしている。
桐乃が、俺と黒猫が付き合っていく上でなにやら我慢しているという。
「言うよ、言えばいいんでしょ!」
それってつまり、つまり……
「あたしは、あんたの一番がいいの!誰かに取られちゃうってのがイヤなの!」
「っ!お前、それって……」
「っ!お前、それって……」
まさか、そんな、こいつが、桐乃が俺のことを……
「あたしはあんたの一番じゃなきゃイヤ!」
その我が儘な叫びは、黒猫に追い詰められてようやく口にした、俺の妹の本音だった。
俺があのとき叫んだものと同じ、剥き出しの感情だった。
桐乃はまっすぐに黒猫の目を見つめ、己の本音を全てぶちまけたのだ。
俺があのとき叫んだものと同じ、剥き出しの感情だった。
桐乃はまっすぐに黒猫の目を見つめ、己の本音を全てぶちまけたのだ。
あれ?
ちょっと待ってくれ。
それってつまり、
それってつまり、
「瑠璃の一番じゃなきゃイヤなの!」
響き渡る叫び。
その叫びが全てを消し去ったのか、立ち込めていた霧が嘘のように消えた。
太陽に照らされ、吹っ切れたように胸を張る我が妹。
その叫びが全てを消し去ったのか、立ち込めていた霧が嘘のように消えた。
太陽に照らされ、吹っ切れたように胸を張る我が妹。
「………へ?」
黒猫の唖然とした呟きが聞こえる。
えーっと状況をまとめてみよう。
えーっと状況をまとめてみよう。
『俺は妹に付き添ってもらって彼女を連れ戻しに来たら、
いつの間にか妹が彼女に告白していた』
いつの間にか妹が彼女に告白していた』
頭がどうにかなりそうだった。
「な、ななな、なにを馬鹿なことをっ!」
「馬鹿なことじゃない!」
「馬鹿なことじゃない!」
桐乃はもう俺のことなんて存在も忘れてしまったようだ。
両拳を握り締め、黒猫だけを見て――
両拳を握り締め、黒猫だけを見て――
「あの夜、あんたに相談されて、あんたがマジで兄貴のことが好きだって、『告白してもいい?』って聞いてきて、
ホントはイヤだったけど、でもあんたが一生懸命勇気振り絞って想いを伝えようとしてたの、邪魔なんてできなかった。」
ホントはイヤだったけど、でもあんたが一生懸命勇気振り絞って想いを伝えようとしてたの、邪魔なんてできなかった。」
桐乃の独白は続く。
「でも、やっぱりきつくて、あんたたちの仲応援したこと後悔しそうになった。
だから兄貴が振られたって聞いたときは正直ほっとしたの、これで元通りまた遊べるのかなって。
でも、あんたあんなに好きだって、何よりも好きなんだって言ってたのに納得できなくて、
しかもあたしの前からもいなくなるなんて、絶対許せないって。
絶対見つけ出してなんでこんなことしたのか聞き出してやるって思った。
それがあたしが今ここにいる理由。」
だから兄貴が振られたって聞いたときは正直ほっとしたの、これで元通りまた遊べるのかなって。
でも、あんたあんなに好きだって、何よりも好きなんだって言ってたのに納得できなくて、
しかもあたしの前からもいなくなるなんて、絶対許せないって。
絶対見つけ出してなんでこんなことしたのか聞き出してやるって思った。
それがあたしが今ここにいる理由。」
なんてやつだ。
前々から黒猫のことを好きすぎるやつだなとは思っていたが、まさかここまでとは。
つまりこいつは、自分の前からいなくなった黒猫を許せなくてここまできたということか。
前々から黒猫のことを好きすぎるやつだなとは思っていたが、まさかここまでとは。
つまりこいつは、自分の前からいなくなった黒猫を許せなくてここまできたということか。
って、おいおい。
「ちょっと待ってくれ!お前、俺がなんで振られたのか問い詰めようとしてくれてたんじゃないのかよ!」
すると俺の言葉に『あ、そういえばあんたいたんだっけ』といっためんどくさそうな顔を向ける桐乃。
「はぁ?あんたが振られた理由なんて明らかじゃん。あたしすぐ思いついたし。言っとくけど、瑠璃から全部聞いてんだからね。」
「な、なんだよ?」
「あんたが太ももやお尻ばっかりチラチラ見てたってこととか、ことあるごとに胸触ろうとしてきたってこととか。
つまり身体が目当てってことじゃん、マジ最低」
「ちげーよ!俺は本気だよ!俺は本気で黒猫が大好きだよ!
ただ、そりゃ俺だって健全な男だし、頭ではわかっててもな、そういうことだって仕方ないだろ。
俺自身はあくまでプラトニックに、だな」
「な、なんだよ?」
「あんたが太ももやお尻ばっかりチラチラ見てたってこととか、ことあるごとに胸触ろうとしてきたってこととか。
つまり身体が目当てってことじゃん、マジ最低」
「ちげーよ!俺は本気だよ!俺は本気で黒猫が大好きだよ!
ただ、そりゃ俺だって健全な男だし、頭ではわかっててもな、そういうことだって仕方ないだろ。
俺自身はあくまでプラトニックに、だな」
言い訳じゃないよ。黒猫だって許してくれてたし。
痛いところをつかれた俺をさらに桐乃はたたみかける。
痛いところをつかれた俺をさらに桐乃はたたみかける。
「へー、プラトニックねぇ。この前夜中にわざわざ家抜け出して遠くのコンビニにまで買い物行ってたけど何買ってきたの?
言ってみなよ、ねぇ」
「ぎゃーーーー!!!な、なんで知ってるんだ!」
言ってみなよ、ねぇ」
「ぎゃーーーー!!!な、なんで知ってるんだ!」
絶対気づかれないように電気もつけずに、コッソリと家を出たのになんでバレてんの?
女ってのは皆エスパーなのか?
女ってのは皆エスパーなのか?
「あああれはだな、決してやましいものではなく受験勉強してたら小腹がすいて…。
違う、黒猫そんな目で見ないでくれ」
違う、黒猫そんな目で見ないでくれ」
そんなこと言われてもだな。
期待しちゃうだろ、万が一ってこともあるだろ、そういうことあったら何も用意してなかったらそれはそれで駄目だろ。
期待しちゃうだろ、万が一ってこともあるだろ、そういうことあったら何も用意してなかったらそれはそれで駄目だろ。
「あーキモ。これじゃあ愛想尽かされるのも当然よね。」
そして桐乃は黒猫に向かい直し、高らかに宣言した。
「ねえ瑠璃、こんなやつよりあたしと付き合ってよ」
「え?え?」
「え?え?」
いまだ狐につままれたような黒猫。
突然のことで頭がついていっていないんだな、俺もだよ。
突然のことで頭がついていっていないんだな、俺もだよ。
「……あたしのこと、嫌い?」
「べ、別に嫌いってわけじゃ……」
「べ、別に嫌いってわけじゃ……」
女ってズルイ。あんな悲しそうな顔で言われたら誰だって否定できるわけねえじゃん。
桐乃はすぐに満面の笑みを浮かべた。
桐乃はすぐに満面の笑みを浮かべた。
「じゃあいいよね、あたしたち、一番の親友だからオッケーね」
「し……親友……、でも、あなたは女で……」
「し……親友……、でも、あなたは女で……」
そうだそうだ、言ってやれ黒猫!
「その……気持ちは嬉しいけど、私も女で……女同士だし……」
「いいじゃんそんな些細なこと。あたし、あんたのこと大好きだし、絶対泣かせたりしないし、
これからもずっと一緒に幸せになりたいって思ってるから。」
「桐乃……」
「いいじゃんそんな些細なこと。あたし、あんたのこと大好きだし、絶対泣かせたりしないし、
これからもずっと一緒に幸せになりたいって思ってるから。」
「桐乃……」
なんという男らしさ。
黒猫は頬を真っ赤に染めて、瞳をキラキラと輝かせている。
デレデレだ。もう誰がどう見てもデレデレだ。
エロゲーならこの後キスしてエロシーンが流れた後エンディングが流れるのが確定だな。
ってちょっと待て!
黒猫は頬を真っ赤に染めて、瞳をキラキラと輝かせている。
デレデレだ。もう誰がどう見てもデレデレだ。
エロゲーならこの後キスしてエロシーンが流れた後エンディングが流れるのが確定だな。
ってちょっと待て!
「おい黒猫!なあ、お前俺に言ってくれたよな、ずっとずっと永遠に好きだって。
あれは嘘だったのか?もう俺のことは嫌いになったのか?」
「え?嘘じゃ、ない。嫌いになんてなってない……」
あれは嘘だったのか?もう俺のことは嫌いになったのか?」
「え?嘘じゃ、ない。嫌いになんてなってない……」
がんばれ俺、ここでやれなきゃ、お前は一生彼女を妹に寝取られた負け犬決定だぞ!
自分に言い聞かせ、まくしたてる。
自分に言い聞かせ、まくしたてる。
「すまん!俺が悪かった!
ほんのちょっとだけ、エロいことも期待しててすいませんでした!
でもお前のことが好きなんだ!お前がいなくなって超後悔した!
俺は確かにいい彼氏じゃなかったかもしれないけど、俺と別れるなんてやめてくれ!
俺はお前がどこに行こうと、地球の反対側だろうと、違う世界に行こうとも絶対離さないぞ!」
「京介……」
ほんのちょっとだけ、エロいことも期待しててすいませんでした!
でもお前のことが好きなんだ!お前がいなくなって超後悔した!
俺は確かにいい彼氏じゃなかったかもしれないけど、俺と別れるなんてやめてくれ!
俺はお前がどこに行こうと、地球の反対側だろうと、違う世界に行こうとも絶対離さないぞ!」
「京介……」
フ、今度は俺の眼差しに黒猫のハートは打ち抜かれてるぜ。
しかし桐乃も口を挟んでくる。
くそ、負けるもんか!
しかし桐乃も口を挟んでくる。
くそ、負けるもんか!
「なあ黒猫」「ねえ瑠璃」
「「どっちと付き合うんだよ!(のよ!)」」
「「どっちと付き合うんだよ!(のよ!)」」
見事にハモった。
幾ばくかの静寂の後、
「ク、ククク、あっはははははははは!!!」
うおっ!黒猫が腹抱えて笑うとこなんてはじめて見たぞ。
今のやり取り、そんなにおかしかったか?
ひとしきり笑い、目じりの涙を拭いながら黒猫はゆっくり語りかけてきた。
今のやり取り、そんなにおかしかったか?
ひとしきり笑い、目じりの涙を拭いながら黒猫はゆっくり語りかけてきた。
「はぁはぁ、ねえ、桐乃、教えて頂戴。
あなたって私が京介と付き合うってことになって、兄を私に取られるとは思わなかったの?
京介が言っていたみたいに、あなたも兄に恋人が出来るなんて我慢できない、なんて思わなかったの?」
「そりゃあたしだってさ、ぜんぜん知らない女と兄貴が付き合うってのならイヤだよ。でも兄貴はさ」
あなたって私が京介と付き合うってことになって、兄を私に取られるとは思わなかったの?
京介が言っていたみたいに、あなたも兄に恋人が出来るなんて我慢できない、なんて思わなかったの?」
「そりゃあたしだってさ、ぜんぜん知らない女と兄貴が付き合うってのならイヤだよ。でも兄貴はさ」
チラッとこちらを見て笑いながら続ける桐乃。
「兄貴は、例え彼女ができたとしてもあたしのことをほったらかしにしたりしないんだってわかったからさ。
世界で2人しかいない兄妹なんだから、そのことは絶対変わらないんだって、すんなり納得できちゃった」
世界で2人しかいない兄妹なんだから、そのことは絶対変わらないんだって、すんなり納得できちゃった」
「じゃあ京介、あなたは、こんな桐乃をどう思う?
貴方の大切な妹は、彼氏より彼女を作りたいみたいだけど」
貴方の大切な妹は、彼氏より彼女を作りたいみたいだけど」
その問いには苦笑するしかない。
「俺は確かに彼氏なんて作らないでくれっていったけどさ。
こいつが本当に好きなやつがいて、相手もこいつのことを本当に大切に思ってくれるなら、
そのときは俺が諦めるしかないさ。男だろうと、女だろうとな。
まあこいつは前からお前のこと本当に大好きだったし、お前もこいつのこと大好きだったろ?
こうなってしまうのも、仕方ないのかもしれないな」
こいつが本当に好きなやつがいて、相手もこいつのことを本当に大切に思ってくれるなら、
そのときは俺が諦めるしかないさ。男だろうと、女だろうとな。
まあこいつは前からお前のこと本当に大好きだったし、お前もこいつのこと大好きだったろ?
こうなってしまうのも、仕方ないのかもしれないな」
黒猫はそのまま顔をうつむける。
「そう……。ククク……そういうことね。……まさか事態がこんなに進んでいたとは、
我が予言書の終末の、さらにその先にあっさりと進もうとするなんて、
……本当に……本当に業の深い兄妹ね」
我が予言書の終末の、さらにその先にあっさりと進もうとするなんて、
……本当に……本当に業の深い兄妹ね」
そう言って顔を持ち上げた黒猫は、今までに見たどんな笑顔より綺麗だった。
俺には、次に黒猫が言う言葉がはっきりとわかっていた。
桐乃も同じだろう。
なんせ俺たちは、兄妹だからな。
俺には、次に黒猫が言う言葉がはっきりとわかっていた。
桐乃も同じだろう。
なんせ俺たちは、兄妹だからな。
「いいわ、これからも、3人で仲良く付き合っていきましょう。」
桐乃に負けじと黒猫に抱きつくのに必死で、その後のことはよく覚えてねえよ。
――――その後
「「松戸!?」」
なんと、黒猫は父親の仕事の都合で引っ越すものの、実は松戸に引っ越すだけだという。
ここには家族旅行で来ているだけなんだとさ。
確かに転校するから俺にとっては寂しくはなるが、すぐ近くなので遊べないわけでは全然ない。
結局黒猫がなんで別れようっていったのかも、今日だって何が言いたかったのかもよくわからなかったが、
でもそんなこと、もうきっと関係ないんだろう。
俺は俺がやりたいことをやる、ただそれだけだ。
ここには家族旅行で来ているだけなんだとさ。
確かに転校するから俺にとっては寂しくはなるが、すぐ近くなので遊べないわけでは全然ない。
結局黒猫がなんで別れようっていったのかも、今日だって何が言いたかったのかもよくわからなかったが、
でもそんなこと、もうきっと関係ないんだろう。
俺は俺がやりたいことをやる、ただそれだけだ。
「なーんだ、あんたを我が家で養っていくために仕事増やさなきゃって思ってたんだけどなぁ」
いったいなんなんだよ今日のこの妹様の男らしさは。
これじゃあなんか俺甲斐性ないみたいじゃん。
これじゃあなんか俺甲斐性ないみたいじゃん。
「フフ、落ち着いたらまた招待するわ」
「うんうん、楽しみにしてる。
ところでさ、別に他意はないんだけど、ずっと外にいたから汗かいちゃった。
瑠璃はこの近くに泊まってるの?温泉入ろうよ、温泉!」
「うんうん、楽しみにしてる。
ところでさ、別に他意はないんだけど、ずっと外にいたから汗かいちゃった。
瑠璃はこの近くに泊まってるの?温泉入ろうよ、温泉!」
黒猫の手を引っ張り歩き出す桐乃と一瞬目が合う。
にやりと笑いやがった。
くそ、こいつの好きにさせるか!
にやりと笑いやがった。
くそ、こいつの好きにさせるか!
「おい、待てよ瑠璃!」
「あ……、今……、名前……」
「あ……、今……、名前……」
俺の呼びかけに驚いた顔で振り返る黒猫、いや瑠璃。
あれ?今俺すんなり名前で呼べたぞ。
今まで恥ずかしくてどうしても呼べなかったのに。
よーし、この勢いでいくぜ。
あれ?今俺すんなり名前で呼べたぞ。
今まで恥ずかしくてどうしても呼べなかったのに。
よーし、この勢いでいくぜ。
「貸しきり露天風呂なら3人で入れるぞ!そこでパンフレットもあったし」
「死ね!変態!」「地獄に堕ちなさい」
「死ね!変態!」「地獄に堕ちなさい」
二人に殴られた。
End