『スキンの使い方』
黒いのがとんでもないことを聞いてきたのは、ある春の日のことだった。
『スキンの使い方を教えて頂戴』
「は?」
『スキンの使い方を教えて頂戴』
「そっくりそのまま2回言わなくても聞こえてるっての!」
「は?」
『スキンの使い方を教えて頂戴』
「そっくりそのまま2回言わなくても聞こえてるっての!」
ス、スキンってあれでしょ?
恋人同士がエ……エッチするときに使う、コ、コココ……
恋人同士がエ……エッチするときに使う、コ、コココ……
「コココ……」
『にわとり?』
「そ、そうじゃなくて! てかなんであたしに聞くのよ」
『いえね、この前使ってみようかと思ったのだけど……よく分からなくて』
「そ、そんなの知らないっての!」
『にわとり?』
「そ、そうじゃなくて! てかなんであたしに聞くのよ」
『いえね、この前使ってみようかと思ったのだけど……よく分からなくて』
「そ、そんなの知らないっての!」
あ、あたしがそんなの知るわけないじゃない!
てか、あんたと兄貴ってもうそんなとこまで進んでたんだ……
この前やっと名前で呼べるようになったばっかだってのに。
まぁ、恋人同士なんだからいいけどさ。
てか、あんたと兄貴ってもうそんなとこまで進んでたんだ……
この前やっと名前で呼べるようになったばっかだってのに。
まぁ、恋人同士なんだからいいけどさ。
『そう。じゃあ沙織に聞いてみるわ』
「沙織だって知らないと思うよ」
『? そうかしら?』
「……たぶん」
『まぁいいわ。それじゃあ、また週末に』
「うん」
「沙織だって知らないと思うよ」
『? そうかしら?』
「……たぶん」
『まぁいいわ。それじゃあ、また週末に』
「うん」
電話を切ると、ぼんやりあいつの事を考えた。
あたしの兄貴がこの家からいなくなったのは、3月半ばも過ぎたところだった。
……あれからもう1ヶ月くらいになるかな。
……あれからもう1ヶ月くらいになるかな。
さ、寂しいとかは全然ないけどさ。
あいつもちょくちょく帰ってくるし?
あたしも週末になれば、黒いの連れて遊びに行ってあげてるし。
……ほら、あいつシスコンだから、仕方ないじゃん?
あいつもちょくちょく帰ってくるし?
あたしも週末になれば、黒いの連れて遊びに行ってあげてるし。
……ほら、あいつシスコンだから、仕方ないじゃん?
あたしは携帯から兄貴の電話番号を探し出し、発信ボタンを押す。
実際、気軽に行ける距離だからさ。
寂しくて仕方ないってほどじゃないし。
まぁただちょっと、変わったことと言えば――
寂しくて仕方ないってほどじゃないし。
まぁただちょっと、変わったことと言えば――
『おう桐乃、高校はどうだ?』
「ん?別にフツーだよ。 今日は新しい友達とカラオケ行ってきた」
『そうか……ま、俺が世話を焼く必要はない、か』
「シスコン」
『ほっとけ』
「ん?別にフツーだよ。 今日は新しい友達とカラオケ行ってきた」
『そうか……ま、俺が世話を焼く必要はない、か』
「シスコン」
『ほっとけ』
――変わったことと言えば、あいつと電話で話すようになったこと。
今まではほら、直接顔を見て話してたし。
前はそれが普通だったんだけどさ。
前はそれが普通だったんだけどさ。
兄貴が一人暮らしを始めた今では、あの頃がちょっと懐かしかったりする。
「あのさぁ、“ズコー”ってどーゆー意味?」
『ん? なんだそれ?』
「いやね、カラオケであたしが歌いだすとさぁ……」
『……あぁ』
「みんな口々に言うんだよね。 “ズコー”って」
『……似たようなことを瑠……黒猫も言ってたな』
「愛情表現の一種?」
『まぁそんなとこだろ』
『ん? なんだそれ?』
「いやね、カラオケであたしが歌いだすとさぁ……」
『……あぁ』
「みんな口々に言うんだよね。 “ズコー”って」
『……似たようなことを瑠……黒猫も言ってたな』
「愛情表現の一種?」
『まぁそんなとこだろ』
こんなの、今までだったら電話するまでもないことだったのに。
ま、こーゆー話もしとかないと、あいつ寂しがっちゃうしね。
あたしって、健気な妹!
ま、こーゆー話もしとかないと、あいつ寂しがっちゃうしね。
あたしって、健気な妹!
「そーそー、あんた黒いののこと、やっと名前で呼ぶようになったんだって?」
『……な、なな』
「あいつ相当喜んでたよ? てか、復縁した時呼んでなかったっけ?」
『あ……あれはその、特別な日というかなんというか』
「はぁ……ヘタレ」
『うるせぇ!』
『……な、なな』
「あいつ相当喜んでたよ? てか、復縁した時呼んでなかったっけ?」
『あ……あれはその、特別な日というかなんというか』
「はぁ……ヘタレ」
『うるせぇ!』
そういえば、さっきの黒いのとの電話。
よくよく考えると、ありえなくない!?
よくよく考えると、ありえなくない!?
「……でさぁ」
『ん?』
「あんたなんなの?」
『な、なんで突然キレてんだよ……』
「チッ……」
『……なんだよ。ほら、言ってみろ』
『ん?』
「あんたなんなの?」
『な、なんで突然キレてんだよ……』
「チッ……」
『……なんだよ。ほら、言ってみろ』
今まで黒いのには散々助けてもらったしね。
仕方ない、今回はあたしが助けてやろうかな。
仕方ない、今回はあたしが助けてやろうかな。
「さっきね、黒いのに聞かれたの」
『……何を?』
「コ、コココ……」
『にわとり?』
「違う! ……コ、コンドームの使い方!!!」
『ブーーーーーーーーーー!!!』
『……何を?』
「コ、コココ……」
『にわとり?』
「違う! ……コ、コンドームの使い方!!!」
『ブーーーーーーーーーー!!!』
電話越しで、盛大に噴出す兄貴。
マジきもい。
マジきもい。
「てか、そんなん男が調べるもんでしょ!?
なんで彼女に調べさせてんの?マジありえないから!!!」
『ちょ、ちょっと待て、何のことだよ』
「しらばっくれんな!
使おうとしたけどよく分からなかったって黒いのが――」
『そうか……あいつ……』
なんで彼女に調べさせてんの?マジありえないから!!!」
『ちょ、ちょっと待て、何のことだよ』
「しらばっくれんな!
使おうとしたけどよく分からなかったって黒いのが――」
『そうか……あいつ……』
……な、何この反応。
「なに納得してんのよ」
『……いや、な。ありがとな桐乃』
「?」
『俺は、あいつの照れ隠しに気付いてやれなかったみたいだ……』
「は?」
『俺はまた、お前に助けられちまったみたいだ』
「ワケわかんないんだけど」
『まぁいいから。とにかくありがとう、桐乃』
「ど、どういたしまして、兄貴」
『……いや、な。ありがとな桐乃』
「?」
『俺は、あいつの照れ隠しに気付いてやれなかったみたいだ……』
「は?」
『俺はまた、お前に助けられちまったみたいだ』
「ワケわかんないんだけど」
『まぁいいから。とにかくありがとう、桐乃』
「ど、どういたしまして、兄貴」
よくわかんないけど、まーいっか。
◇ ◇ ◇
後日。
あたしは沙織と黒いのと一緒に、アキバのカフェにいた。
あたしは沙織と黒いのと一緒に、アキバのカフェにいた。
「沙織、この前はありがとう……スキンの件」
「いえいえ黒猫氏、あれくらい何でもないでござるよ」
「いえいえ黒猫氏、あれくらい何でもないでござるよ」
はぁ?ってか……
「さ、沙織! あ、あんた使ったことあんの?」
「どうしました? きりりん氏」
「だから……スキン! 使ったことあるのかって……」
「えぇ、ガンダム仕様にカスタマイズしておりますが……」
「あ……」
「どうしました? きりりん氏」
「だから……スキン! 使ったことあるのかって……」
「えぇ、ガンダム仕様にカスタマイズしておりますが……」
「あ……」
……スキンって。そ、そっち?
あ、あたしは何かとんでもない勘違いを……
あ、あたしは何かとんでもない勘違いを……
「マスケラのスキンを入手したのだけど、使い方が分からなくてね。
あなたに聞いても分からないというから、沙織に聞いたのよ」
「そ、そっか。あは、あははは……」
あなたに聞いても分からないというから、沙織に聞いたのよ」
「そ、そっか。あは、あははは……」
だめだ。これは恥ずかしすぎる……今すぐ布団にもぐりこんでジタバタしたい!!!
「そういえば黒猫氏、京介氏とは何か進展はございましたかな?」
「……」
「……」
黒いのが、頬を赤らめて俯いている。
ま、まさか……
ま、まさか……
「先日……半ば強引に初めてを奪われたわ」
「!?」
「んなっ!?」
「!?」
「んなっ!?」
沙織も口をあんぐり開けて固まっている。
てかこの前やっと普通に名前で呼べるようになっただけだってのに……
急展開すぎんじゃないの!?
てかこれってやっぱり――
てかこの前やっと普通に名前で呼べるようになっただけだってのに……
急展開すぎんじゃないの!?
てかこれってやっぱり――
「わ、私は『まだダメ』って言ったのだけど。
『お前の気持ちは分かったから』って取り合ってくれなくて――」
『お前の気持ちは分かったから』って取り合ってくれなくて――」
うぁぁぁぁ……完全にあたしのせいじゃんコレ。
「ごめん……」
「なんであなたが謝るの?」
「いやえっと……
ほ、ほら、あたしの兄貴があんたにヒドいことしたわけだし……」
「……ま、まぁ、ね。 でも、大丈夫よ。
そんなに言うほど……わ、悪くはなかったわ」
「なんであなたが謝るの?」
「いやえっと……
ほ、ほら、あたしの兄貴があんたにヒドいことしたわけだし……」
「……ま、まぁ、ね。 でも、大丈夫よ。
そんなに言うほど……わ、悪くはなかったわ」
ぐはぁっ!!!
モジモジする黒いのと、真っ赤になった沙織と、身悶えるあたし。
この時のあたしの勘違いは、後日ものすごく恥ずかしい形でみんなに発表されるわけだけど。
それはまた別の機会があったら、あんたたちにも話してあげる。
それはまた別の機会があったら、あんたたちにも話してあげる。
「あなたが私のことを“姉さん”と呼ぶ日も近いかもしれないわね……」
おわり