2ch黒猫スレまとめwiki

◆h5i0cgwQHI

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匿名ユーザー

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『黒の結末 -桐乃SIDE-』

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40スレ目285『黒の結末』の桐乃視点verを書いてみました。
前日譚といったところでしょうか。
少しでも楽しんで頂ければ。
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「で、結局あの"キスした"ってのはなんだったわけ?」
『ふん、ただの呪いだと言っているでしょう』
「それがわけわかんないって言ってんの」
『いいじゃない。それに、キスと言っても頬に軽く触れた程度よ』
「でもさ……」

あたしは何度目になるか分からない質問を黒猫に投げた。
返事はいつもの通り。
結局“キス”の真相は教えてくれないんだよねぇ、コイツ。

『それより、クリスマスプレゼントは考えたの?』
「あぁ、うん、もう用意したよ。ふひひ」
『……エロゲーじゃないでしょうね』
「さすがにない」

その後、いつものようにくだらないことで罵りあって、電話を切った。

「はぁ……」

あたしはため息をついた。



机の上の小箱をひらいた。
この中には、あたしがもっているアクセサリーの中でも
特にお気に入りのものが入っている。

その中からあたしが取り出したのは―――ピアス。
去年のクリスマスイブに兄貴に買ってもらったものだ。


「あれからもうすぐ一年か……」


手のひらの上でピアスを転がしたり、つまんで眺めながら
あたしはぼやいた。

そして同時に、親友の顔を思い浮かべる。


「黒猫と兄貴……か」


あのバカ兄貴には、黒猫はもったいないくらいいい娘だ。
心の底からそう思う。

兄貴も黒猫のことが好きだし、黒猫も兄貴のことが好きで。
なのに……やっぱり。


―――兄貴に恋人ができるなんて、嫌だ。


こんなのワガママだってのは、分かってる。
自分のことじゃなければ、どんなブラコンだよって思う。

黒猫が兄貴を好きな気持ちも、本物だって分かってる。
応援してあげるのが友達だろうって思う。


『俺死ぬかもしれない』


兄貴がアメリカまで来て、あたしに言った言葉。

頭では、どんなシスコンだよって思ってたけどさ。
あの時の兄貴は、ちょっと格好良かった。

あたしも、もしかしたら少しブラコンなのかもしれない。


『お前に彼氏ができるまで、俺も彼女を作らない』


これも兄貴の言葉だ。
正直、すごくうれしかった。

黒猫より、地味子より、あたしを一番に見てくれてると思った。


「はぁ……」


なのになんでだろう。
今はこんなにため息が出る。


あたしは自分でも分からない胸のモヤモヤを抱えたまま、
ベッドに飛び込んだ。

―――黒猫は、なんで兄貴にキスなんてしたのかな。



* * *



「きりのちゃん?」

それは、いつもの丁字路を歩いている時だった。
ぼんやり考え事をしていると、うしろから声をかけられた。

振り返ると―――

「じ……ま、まな……みさん。こんにちは」

地味子に遭遇した。
チッ。

「うん、こんにちは」
「それじゃあ」
「ま、まって」

立ち去ろうとするあたしを、地味子は呼び止めた。
いったいなんだってのよ。

「きりのちゃんに話があるの……ちょっと時間、ある?」



* * *



地味子と二人で、近所の公園のベンチに座る。
子どもの頃は、兄貴や地味子とも、よくここで遊んだ。

この公園、こんなに狭かったっけ。
昔は、もっと広く見えてたけどさ。

そんなことを考えていると、地味子が話しかけてきた。


「この公園も、なんか狭くなっちゃったね」
「は?広さは変わらないと思いますけど」
「ふふふ、そうだねぇ」


あたしの言葉を柳のように受け流す地味子。
や、やりにくい……。

あたしはさっさとこの場を切り上げたくて、地味子に話しかけた。


「それで、話ってなんですか?」
「うん……」


地味子はまっすぐにあたしの方を見る。


「ねぇ、きりのちゃん……」
「……はい」
「いつまで、きょうちゃんを縛り付けておくつもりなの?」
「―――!?」


柔らかい口調で、穏やかな空気をかもし出しながら。
それでもハッキリと地味子は言った。


「今はいいかもしれないよ。お互いに恋人を作らないって言ってても」
「……」


なんであんたがそんなことまで知ってんのよ。
―――って、まぁ兄貴が相談でもしたんだろうな。


「でもね、いつかはきょうちゃんも、好きな人ができる。結婚もする」
「……そんなの言われなくても」


兄貴の好きな人なら……もういる。
それでも、兄貴に恋人が出来るのが嫌で嫌で仕方なくて―――


「黒猫さんは、どう思ってるのかな?」
「―――!!」
「きりのちゃんが我慢しないってことは、代わりに誰かが我慢してるんだよ?」
「そ、それは」
「黒猫さんはきりのちゃんの事が大好きだから、気を使ってるんだよ」


……そうだ。
ずっと考えていたことだった。

あたしは親友の優しさに甘えて、自分のワガママを言っているだけなんじゃないか。
大好きな兄貴も、大切な友達も、あたしのワガママに付き合って我慢してるんじゃないか。

あたしのモヤモヤは、その辺りから来ていたのかもしれない。


「ねぇ、きりのちゃん」
「……」


地味子は改めてあたしの目を覗き込んだ。
その黒い目の中に、あたしの動揺を写そうとしているように。


「あのね、兄妹は結婚できないんだよ」
「―――っそ、そんなの」

―――分かってる。
あれ?
なんだろう、前にもこんな会話をしたような記憶がある。


「はっきり言うね、きりのちゃん」
「……」
「もう、きょうちゃんから離れた方がいいと思う」
「……」
「きょうちゃんも、その方が幸せになれるんじゃないのかな」


地味子の言うことは、間違っていない。
何も間違っていない。


「じゃあ、私は帰るね。きょうちゃんのために、ちゃんと考えてあげて」


地味子はベンチから立ち上がると、いつもと変わらない様子で去っていった。
公園に取り残されたあたしは、ぼんやりと昔の事を思い出していた。



* * *



『あたし、将来お兄ちゃんのお嫁さんになるの!』
『……ねぇ、きりのちゃん』
『なーに、まなちゃん?』
『あのね、きょうだいは、けっこんできないんだよ?』
『え、うそだよ……』
『ほんとだよ、きりのちゃん』
『……え……うぅ』
『それに、きりのちゃんはそうやって、すぐ泣きそうになるけど』
『……うぅぅ……くすん』
『きょうちゃん、泣き虫は嫌いだと思うよ』
『……そ、そんな……ことっ……なぃもん……ぐすんっ』
『きりのちゃん、走るのすごく遅いよね』
『……ぅん……』
『一緒に遊んでても、きょうちゃん楽しくないんじゃないかな?』
『……うぅぅぅぅぅ』
『ほら、そうやって泣いてると、きょうちゃんに嫌われるよ?』
『……っん……っうぅ』


『どうしたきりの?また泣いてるのか?』
『な、泣いてないもん!』
『ど……どうしたんだよ。ほら、バカにしないから言ってみろって』
『知らない!お兄ちゃんには言わない!』
『……そ、そうかよ……』


『あら桐乃、凄いわね!こんなに走るの早くなって』
『えへへ』
『ねぇ京介、桐乃が運動会で一番になったのよ』
『けっ』


いつからという線引きはできない。
気が付いたら、あたしは兄貴と疎遠になっていた。
人生相談をしたあの日までは、ずっと。


あれから、いろいろなことがあって。
何度も助けてもらって。
アメリカまで連れ戻しに来て。
俺はシスコンだ、なんて言われて。
そのうち、兄貴もあたしに相談してくれるようになって。


でも、兄貴に恋人ができたら。
きっとまた、兄貴と疎遠になってしまう気がする。

あたしは怖い。
ワガママでも、なんでも。

あたしは怖いんだ。

だけど、まなちゃんの言うように、
そろそろブラコンを卒業しなきゃいけないのかもしれない。

あたしは親友の顔を思い浮かべながらそう思った。



* * *



「ねぇ、あんた」
『何よ。いつになく落ち込んでいるじゃない』


その夜、あたしは黒猫に電話をかけた。


「うちのバカ兄貴さ、あんたにあげることにした」
『……何を言っているの?』


あたしなりに、いろいろ考えた結果だ。

だってどう考えても、あたしは妹だし。
兄貴に好きな人がいるのに、それを止めるなんておかしい。


「ほら、喜びなさいよ」
『……』
「ど、どうしたのよ」
『はぁ……あなたね。まぁあなたの考えは大体想像付くけれど』

な、なんだってのよ。

『まさかとは思うけど、自分のせいで私たちが付き合えないとでも思っているの?』
「……だって。実際そうじゃない」
『まったく……あのね、一つ言っておくけれど……』
「な……なによ」
『私は京介の事が好き。でも同じくらい、桐乃、あなたのことが好きよ』
「……百合?」
『地獄に落ちなさい』

今、ちょっと身の危険を感じた。

『あなたが泣いている横で、幸せになんてなりたくないと言っているの』
「でもさ……」
『だいたい、あなたが無理にブラコンをやめようと思っても、そう簡単に呪いは解けないわ』
「だって……」
『大丈夫。焦ってはいないわ。私が京介と結ばれるのは、別に来世でもいいもの』
「じゃあ……」

じゃあなんで、あんたはそんな辛そうな声出してんのよ。

『あなたは無理にブラコンを卒業しなくてもいいの』
「うん……」
『あなたはあなたのままでいなさい』

地味子とは正反対の言葉を吐き、黒猫は電話を切った。
あたしはいったい、どうしたらいいのだろう。



* * *



それは、フェイトさんとアニメ化の打ち合わせをした帰りだった。

「じゃ、またね桐乃ちゃん。京介くんと黒猫ちゃんにもよろしく」
「はい……って、そういえば」
「?」
「フェイトさんって、兄貴や黒猫と知り合いなんですね」
「あら、聞いてなかったの?」

ん?何をだろう。

「そう、じゃあ……私が言ってもいいのかしら」

そう言って少し考えているフェイトさん。
あたしは何の話か全く分からず、ただフェイトさんを見つめていた。

「それじゃあ、このあとちょっと時間を頂けるかしら」


そうして、あたしは真実を知った。



* * *



「ねぇ兄貴……」
「ん、なんだ?」


あたしはリビングでくつろぎながら、
兄貴の背中に話しかけた。


「今日、フェイトさんに会ってきたんだけど」


兄貴がピクッと反応する。
てかやっぱ、あたしには隠し続けるつもりだったんだ。
この反応を見ると。

……結局あたしは、何も知らないことにした。
だって今さら、どんな顔したらいいのか分からないし。


「フェイトさん曰く、株には必勝法があるらしいよ」
「真に受けるなよ」


それにフェイトさんは、
『桐乃ちゃんに知られないことで守っているプライドもあるんじゃない?』
と言っていた。

あたしには意味が分からなかったけど……
なんとなく、やっぱり知らないことにしようと思ったんだ。


兄貴はあたしの知らないところで、あたしのために奮闘してくれていた。
思えば、いつだってそうだった。
あたしがアメリカでダメになりそうだったときも、
短いメール一通で飛んで駆けつけてきてくれたんだ。

アメリカで、兄貴の顔を見た瞬間の想いが、今も胸で燻り続けている。


そして。

―――黒猫。


兄貴と同じように、黒猫もまたあたしのために戦ってくれていた。
そんなこと、一言も言ってなかったのに。

あいつはあたしの書いた小説をすごくけなしてたし、
小説が発売されたときだって、憎まれ口を叩いていた。

それが裏では、あたしの小説を取り戻すために、頑張ってくれてたんだ。


あたしは心の中で、黒猫に感謝した。

そして―――

『私が京介と結ばれるのは、別に来世でもいいもの』

あいつの言葉を思い出して、胸が締め付けられるのを感じた。



* * *



「明日、買い物付き合ってよ」
「あぁ、俺もプレゼント買いに行くつもりだったから、いいぜ」

クリスマスパーティの前日、あたしは兄貴に切り出した。
あたしなりの考えがあってのことだ。

あたしはやっぱり兄貴に恋人ができるのは嫌だ。
すごく嫌だ。

でも、明日はクリスマスイブだ。

盗作騒動の真実を知ったから、というわけではないけどさ、
兄貴と黒猫には一日だけ、恋人になれる日をプレゼントしようと思ったんだ。


でも一日だけとは言っても―――
キスとかしちゃうのかなぁ。
それはちょっと嫌だ。


あ、そういえば……
例の件、こいつにはまだ聞いてなかったっけ。


「あんた、黒猫とキスしたの?」
「ブーーーーっ」

盛大に噴出すバカ兄貴。

「ゴホッゴホッ、な、何言ってんだお前」
「だってほら、夏コミの打ち上げの前にさ」
「あ、あぁ、あれか……」


京介は頭を掻きながら言った。

「あれは、黒猫の呪いだ」
「は?あんたまで邪気眼発症したの?」
「違うって」

あいつも言ってたけど、何なのよ"呪い"って。

「えっとさ、お前、アメリカからメールくれたろ?」
「ん?あぁ、あのメールね」
「それで、どうしようか迷ってた俺の背中を、黒猫が押してくれたんだよ」


え?
今なんて言った?


「俺の背中を思いっきり押して、頬にキスをしてアメリカに送り出してくれたんだ」


ちょっと待ってよ……


「『あなたが途中でヘタレたら死ぬ呪い』とか言ってな」


あたしは頭の中が真っ白になった。


『私は京介の事が好き。でも同じくらい、桐乃、あなたのことが好きよ』
『あなたが泣いている横で、幸せになんてなりたくないと言っているの』
『私が京介と結ばれるのは、別に来世でもいいもの』
『あなたは無理にブラコンを卒業しなくてもいいの』
『あなたはあなたのままでいなさい』


親友の言葉を、もう一度思い出す。

いつだってそうだったんだ。
兄貴と同じように、あいつは、あたしのために―――


いつかの地味子の言葉を思い出した。

『きりのちゃんが我慢しないってことは、代わりに誰かが我慢してるんだよ?』

我慢なんてもんじゃない。
あいつ、あたしのために全力尽くしちゃってくれてんじゃん。



あたしの心は決まった。



もういいかげん認めるけど、あたしは重度のブラコンだ。

今でも兄貴に恋人ができるのが嫌で嫌で仕方ない。
それを卒業することも、今のところできそうにない。

そして、黒猫はあたしの親友だ。
兄貴と同じくらい、あたしは黒猫のことが大好きだ。
あいつだったら、兄貴と恋人になってもいいかなって。
そう、自然と思える。


そしてあたしは確信した。
兄貴と黒猫が恋人になっても、もう昔のように冷め切った関係には絶対にならない。
いや、あたしがさせない。


あたしは静かな決意とともに兄貴に告げた。

「あんた、こないだあたしが買ってあげた服、着てきなさいよね」



―――そして、クリスマスイブが訪れた。



(40スレ285『黒の結末』につづく)

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