2ch黒猫スレまとめwiki

◆h5i0cgwQHI

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
『黒の結末』
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8巻後の話を妄想で書いてみました。
黒にゃんかわいいよ黒にゃん。
お読み苦しい部分もあるかもしれませんが、
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
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舞い落ちた千の葉も今はその姿を消し、
冷たく乾いた空気はやすやすと私の妖気の膜を破る。

転生前は堕天聖であったこの私も、今は仮初の人間の体。
冬―――この季節は、あまりこの体に適していないようだ。


あ、ちなみに、新しい学校では二学期も終わったので、現状を報告しておくわ。

みんなが心配したような、一人ぼっちの状態にはとりあえずなっていない。
瀬菜ほど仲良くはないものの、たまに話をするクラスメイトが2・3人はできた。

これについては瀬菜や桐乃の助言もだいぶ大きいのだけど、
私にしては、それなりにうまくやっているのではないかと思っている。


今は冬休みの最中。
毛糸のマフラーを編んでいるところよ。

―――べ、別に、あの人のために編んでいるわけではないわ。


と、上の妹が部屋に入ってきた。


「ルリ姉、それ高坂くんにあげるの?」
「ち、違うわ、今度のクリスマスパーティで―――」
「あぁ、プレゼント交換用の」
「そうよ」


念のため説明しておくと……

今度のクリスマスイブに、高坂家でクリスマス会をやることになったのよ。
コミュのメンバーと、ゲー研のメンバーの合同で―――結構な大所帯になるわ。

『ひなちゃんとたまちゃんも一緒にさぁ……うへへ』
という桐乃の提案で、妹達も参加することになって。

日向もすっかり桐乃に懐いているようだし、楽しみにしているようね。
私は少し不安なのだけど。


「でもさでもさァ、その色……高坂くんイメージしてるよね」
「―――っち、違うと言っているじゃない!」


はぁ。

こ、この際だから正直に白状してしまうと。

妹に指摘されたとおり、このマフラーは京介をイメージして
素材<マテリアル>の色<カラー>を選択<セレクト>しているわ。

あわよくば、プレゼント交換で京介の手に渡ってくれるといいのだけど。
そう願いながら、私は精一杯の魔力を込めて編んでいる。


「……ねぇ」
「何?」

私は編み続けながら答える。

「ルリ姉、なんで高坂くんと別れちゃったの?」
「……」

編み棒が止まる。
心の奥底に沈殿していた何かが、かき混ぜられて広がっていく。

「ま、いいけどさ。あんま無理すんなよルリ姉」
「……えぇ」


それ以上追求することなく、妹は引き下がった。
そして去り際に一言捨て台詞を吐いていった。


「高坂くん、フリフリの付いたマフラーは付けたがらないと思うよ」


よ、余計なお世話よ。



* * *



―――クリスマスイブの朝。

私は桐乃からの呼び出しで駅前にいた。
パーティは夕方からなので、それまで買い物に付き合って欲しいそうだ。


『あんたにこないだ買ってあげた服あるじゃん?アレ着てきなよ』
『なぜ?』
『せっかくのイブにゴスロリと二人で買い物なんてしたくないって言ってんの』


イラっとしたのでいっそ『聖天使・神猫』に転生した姿で行こうかとも思ったのだけど、
一応指示に従って、桐乃が選んだ服を着てきてあげたわ。

白と茶色を基調にした大人っぽい冬のコーディネートがうんぬん。
桐乃の言うことはやはりよく分からないけれど、自分でも悪くないと思う。
まぁ私の好みよりは少しシンプル過ぎる気がするのだけど。

……その。
パーティには京介もいるから、見せたい気持ちがなかったと言えば、嘘になるわ。


そんな風にほんの少し浮かれながら駅前で待っていると。
そこに現れたのは―――


「く、黒猫!?」
「京介!?」

な、なぜあなたがここにいるの!?
もしや運命<デスティニー>の歯車<ギア>がなにかの弾みで―――


ヴゥゥゥゥゥ…………


携帯のバイブレーション?
あら、メールが届いたようね。

私は携帯を開いた。
桐乃からのメールだ。


『今日はクリスマスイブだから特別。
一日、兄貴の恋人に戻っていいことにする。
まーあたしからのプレゼントだと思ってよ。
ひなちゃんとたまちゃんはちゃーんと
あたしが迎えにいっとくからフヒヒ』


妹達のことが少し心配になったわ。

……そ、それはいいのだけど。


ふと前を見ると、京介も驚いた顔でメールを読みながら、

「や、やられたっ」
「お前はみやびちゃんかよ……」

などとつぶやいていた。
言っていることがよく分からないわね。


私は京介に向かって話しかけた。
思えば、桐乃抜きで二人で会うのはとても久しぶりな気がする。


「ど、どうしようかしら……」
「えっと、そうだなぁ……」

お互いに動揺して、どうしていいのか分からなくなっている。

ただ、桐乃の最近の気持ちも、本当は少し分かっているのだ。
京介と私がお互いに好き合っていることが分かっていて、
何の罪悪感もなしに3人でいられる訳がない。

だから今日は、今日だけは、恋人に戻ってもいいよ、と。
今だってきっと、嫉妬で悶えているだろうに。

……ありがとう。


少し落ち着いてきた私は、京介に切り出そうとした。

「京介、あの、今日―――」
「待ってくれ!」

私の言葉を遮る京介。

「今度は、俺から言わせてくれないか」

京介は私を真っ直ぐ見つめると、大きく息を吐いた。
緊張しているのが伝わってくる。

「今日一日だけど……」

彼の肩が少し震えている。
私は両手をぎゅっと握り締め、彼の言葉を待った。


「俺と、付き合ってください」


こうして再び、私と京介は恋人になった。



* * *



「さてと、じゃあどうしようか」

朝の住宅街を、京介と二人で歩く。
あの夏の日々の胸の高鳴りが蘇る。

「何も考えていなかったわ……あなたは?」
「うーん、そうだなぁ……あ」

何か思いついたように、京介はつぶやく。

「クリスマスパーティのプレゼント、買う予定だったんだ」
「そう、じゃあデパートかどこかに行けばいいかしら」
「……そうだな」

そのままデパートの方面まで歩き進める。

しばらく、私たちは無言だった。
不機嫌だったのではない。
お互い照れくさくて何を話せばいいのかわからなかったのだ。

「受験はどう?」
「油断はできないが、まあ心配はないレベルかな」
「そう」

会話はすぐに途切れてしまう。
でもそれは、不快というよりむしろ心地よい沈黙だった。

「手、寒そうだな」
「冬はちょっと苦手よ」
「そうか」

思えば、私たちはいつもこうだった気がする。
桐乃といるときのように、罵りあいをするというわけでもなく。
沙織といるときのように、からかい半分に途切れない会話をするわけでもなく。

ぽつりぽつりと、思ったことを話しながら二人で歩く。
この距離がとてもくすぐったい、京介と私の二人だけの距離だった。

京介も、そう感じてくれていたのならうれしい。



デパートに着くと、私の目にあるものが飛び込んできた。

「しょ、食料品全品50%オフですって!?」

とんでもないセールもあったものよ。
全品半額ですって……

「くっ……この後パーティじゃなければ買い占めると言うのに……」
「くくく……」

振り返ると京介が笑っている。
し、失礼ね。
私は少し不機嫌そうな声を出して聞き返した。

「いったい何が可笑しいと言うの?」
「いや、さ。初めてのデートの時を思い出してたんだ」

初めてのデート……
忘れるはずもない、幾度も取り出しては眺め、大切にしまってある記憶<レコード>。

京介と別れた後の私を支えるもの。

「あの時はペンタブレットに、そんな反応をしてたっけな」
「あ、あら、そうだったかしら」
「あぁ。そうだ……今度こそ、何かプレゼントさせてくれないか」

私は心が飛び跳ねるのを感じた。
とても、とても嬉しい。
でも―――

「いいわ、また今度、何かの機会で」
「今度って……今日しか、ないんだぜ」

分かっているわ。
だからこそ、モノとして残るのは、辛いのよ。

「まぁ、いいけどさ」
「ふふふ、優しいのね」
「ったく、お前は前からそうだよな」


その後私たちは、しばらくいろんな売り場を転々とした。
衣料品売り場やおもちゃ売り場や、他にもずいぶん色々と見て回ったけれど。

「結局プレゼントは決まったの?」
「ん?あぁ、何にするかは決めたんだがな」
「どうしたの?買わないの?」
「いやほら、パーティのルールで『プレゼントは秘密』ってなってたろ?」
「そうだったわね」

沙織の提案で、プレゼントの内容は秘密にするようにと言われたのだ。

「じゃあ、私は"知識の眠る場所"にでも行っているわ」
「おう、分かった、じゃあ後でな」


私は京介と離れ、一人で本屋に向かった。

ふと見ると、雷撃文庫の新刊に気になるタイトルがある。

「『僕の妹がこんなに可愛いわけがない』……結局可愛いんでしょ?」

パラパラと立ち読みをする。
タイトルにちょっと引きそうだったけれど、思いの外面白いじゃない。

メインヒロインにはイラッと来たけれど、
個人的には途中で登場するゴスロリ女に妙な親近感を覚えたわ。


そんなことを考えながら本屋で時間を潰していると、
ほどなくして京介がやってきた。

「おう、待たせたな」
「それほど待ってはいないわ」

じゃあ行くか、と京介は歩き出す。

「少し遅いけれど、お昼ご飯食べていなかったわね」
「そういえばそうだったな……気付いたらハラペコだ」

夏は毎日私がお弁当を作ってきていたけれど、
今日はさすがに作ってきてはいない。

私たちは結局近くのファミレスに行くことにした。



席に座り、オーダーをすると、京介はぼやいた。

「お前ってやっぱけっこー健康志向だよな」
「そうかしら?」
「あぁ、食の好みは桐乃と似てるんじゃないか?」

そうやってすぐに妹を話題に出すけれど、
自分でそれがどれだけ重度のシスコンなのか分かっているのかしらね。

「ふふふ……」
「どうした?」
「なんでもないわ」

そのシスコンを好きになってしまった私も私だけれど。


食事を済ませ外に出ると、冷たい空気に少し体が震えた。

「大丈夫か?」
「えぇ」

私が手のひらに、はぁっと息を吹きかけていると、
突然京介が切り出した。

「手、繋がないか?」
「な、ななな何を言って」

い、いきなり何を言うのよ。

私は恥ずかしくて両手を後ろに隠してしまった。
これは恥ずかしすぎるわ。

「いや、だめなら、いいんだが」
「ち、違うのよ」

そうじゃなくて、繋ぎたくないわけじゃなくてむしろ―――

「くくくっ」
「な、何笑ってるのよ」
「なんでもねーよ」

そんな見透かしたように笑わないで頂戴。

きっと今彼が思い出していることと、私が思い出していることは同じだろう。


「今度は、大丈夫よ……たぶん」

そういうと、私は彼に手を差し出した。
というか突き出した形になってしまった。

肩から先がプルプル震えているのは自覚しているけれど―――
ど、どうしようもないじゃない。


その後、ビクビクして変な声を上げながら私たちは手を繋いだ。
今度は、鼻血は出なかった。

京介の手は、とても暖かかった。



午後は京介の提案で、大きなクリスマスツリーを見にやってきた。

周りにいるのはカップルだらけだ。
……自分たちもそのうちの一組なのだけど。

「てかさ、今日の服、すごく可愛いな」
「き、桐乃に選んでもらったの」
「あいつさすがだな……よく似合ってるよ」

さらっと恥ずかしいことを言うのはやめて頂戴。
あと、いちいちシスコンね。
そういえば……

「京介も今日はちょっとお洒落なんじゃない?」
「あぁ、この服桐乃に選んでもらったんだ」
「そう……かっこいいわ」

そう言うと、京介も顔を赤くしている。
ふふふ、私を恥ずかしくさせた罰よ。


少し日が落ちてきて、ツリーのイルミネーションが綺麗に映えている。
周りのカップルは、携帯のカメラでツーショット写真を撮っている人が多い。


「すみませーん」

そのうちの一組が京介に話しかけてきた。

「はい、なんですか?」
「あの、写真とっていただけますか?」
「あ、いいですよ」

カップルは京介に携帯を渡すと、ツリーの前で寄り添う。
とても幸せそうな二人だ。

私たちも周りから見たら、あんな風に見えるのだろうか。


「ありがとうございました。よかったら撮りましょうか?」
「え?」
「遠慮なさらず……」

差し出されたカップルの男の手の上に、京介が携帯を置く。
えっ?

「じゃ、じゃあお願いします。黒猫―――」
「ふぇっ!?」

へ、変な声を出してしまったじゃない。
というかこの流れってもしかして―――

「ほら、こっち来いよ」
「え、えぇ」

私は体をガチガチにしながら京介のもとに進む。
気付いたら、右手と右足が同時に出ている。
恥ずかしい。


「はい、もっと寄ってくださーい」


京介が私の肩に手を置いた。
ビクッと体が反応し、硬くなってしまう。

「彼女さん、笑ってください」

無理よ。

「とりますよー、ハーイ」


……し、死ぬほど恥ずかしかった。


京介に携帯を返しながら、カップルの男が聞いてくる。

「いつから付き合ってるんですか?」
「えっと、今日からで」
「なるほど」

納得したようにカップルは笑う。

「初々しくていいですね。とてもお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
「では、私たちはこれで」

カップルは楽しそうに立ち去る。
その背中を見つめ、あんな風になりたいと、思った。

私はこの願いを、永遠に持ち続けることになるのだろう。



* * *



そろそろ帰らなければならない時間になっていた。
名残惜しいけれど、桐乃からプレゼントされた時間はここまでだ。

夏であればもう少し日が高かった時間だけれど、
やはりこの季節は暗くなるのが早い。

薄暗い道を、二人で歩く。
通いなれた高坂家までの道。
少しずつ、夢から現実に戻る帰り道。


いつもと同じように、ポツリポツリと話しながら歩く。


家の近くのいつもの丁字路で、私たちは自然に立ち止まった。

これ以上先に進んだら、もうこの夢の時間には帰れない。
京介もそう感じているのだということが、手に取るように分かる。


「あのさ、瑠璃」
「……えっ?」

今、何て……


「瑠璃」


初めて、名前で呼んでくれた。
私の頭の中は、霧<ミスト>の呪文がかかったようにぼやける。


「俺は、最低の男だ」
「そうね」
「否定してくれないの!?」

彼をからかうのはとても楽しくて切ない。
こんな気持ちになる人と出会ったのは生まれて初めてで、
そしてきっとこんな人とはもう出会えないのだろう。

「もうすぐ終わっちまうのに……ひどい話なんだが」
「……」
「好きだ」
「!!」

彼は、私を抱きしめた。

「好きだ。離したくない。本当に大好きなんだ」
「そう……」

彼の気持ちは痛いほど伝わってきた。
彼は本気で私を好きでいてくれている。

……それでも。

「でも―――」
「言わないで」

言われてしまったら、私は耐えられない。

「京介、焦らないで」
「瑠璃……」
「大丈夫、永遠にあなたが好きと言ったはずよ」

私は彼の肩に頭を乗せ、彼に抱きついた。

「いつか、遠い未来。私たち3人の未来が見えたときに―――」
「あぁ」
「その時にはきっと、今日のデートの続きをしましょう」


私たちは、どちらからともなく体を離した。
そして、そのまま家までの道を歩き出した。



* * *



「それではみなさま、パーティをはじめましょうぞ」

沙織が音頭を取りみんながグラスを手にする。
今部屋にいるのは、沙織、桐乃、私、京介のコミュメンバーと、
部長、真壁先輩、瀬菜、御鏡さんのゲー研メンバー、それに
日向と珠希を加えた10人だ。

一応部長はお酒を飲める年みたいだけれど、飲む気はないらしい。

ふふ、こんな賑やかなクリスマスは初めてかもしれないわ。
それだけで、期待は高まる。

私の一人ぼっちの人生は、気付けばとっくの昔に終わっていた。
沙織には、何度感謝してもしきれないわね。


「こうして会えたのも何かの縁。仲良くやろうではありませんか!では、乾杯!」

乾杯!!とみんなでグラスを合わせ、パーティは始まった。

ガヤガヤと一気に騒がしくなるリビング。
ふと見ると早速、沙織と部長のオタク談義が始まっている。

「部長殿はガンプラに興味はおありですかな?」
「んー最近は手を出してないが、一時期すごくハマってだなぁ―――」

なんだか沙織と部長、すごく馬が合うみたいね。
始まって早々、既に数年来の親友のようになっているわ……


一方、桐乃と日向はなにやら内緒話をしている様子。
気になるわね。

「あなたたち、何の話をしているの?」
「あぁルリ姉、あのそっちの人たちの話なんだけど」

日向の指差す方向にいるのは、
何やら楽しそうに盛り上がっている真壁と瀬菜がいる。

「あたしたちがキリ姉と一緒にここ来る途中でね……ひゃぁぁ~ん」

会話になってないわ。

「ふふーん、ひなちゃん、証拠の写メ見せた方が早いよ」

そういうと桐乃は携帯を取り出し、私の前に突き出した。

「こ……これは……」

私が目にしたのは、手を繋いで歩いている二人組。
どうみてもカップルなのだが、その二人が

「瀬菜と……真壁先輩!?」

い、いつの間にあの子たち出来ていたの!?
そういえば、なんだか座っている体の距離もずいぶん近いわ。

日向と珠希がテクテクと二人に駆け寄る。

「真壁くんに質問ー!」
「しつもーん!」
「なんだい日向ちゃん、珠希ちゃん?」

なんだかとても嫌な予感がするわね。

「真壁くんは瀬菜ちゃんと、いつから付き合ってるんですかー!?」

ブーーーーーーーーっ

周りのメンバーが凍りつく。

「お、お前ら付き合ってたのか。なんか近いと思ったら……」
とは部長の言葉。

「瀬菜ちゃんの彼氏ってお兄さんじゃなかったんですか?」
御鏡さん……あなたのエロゲ脳はなんとかならないの?


さて、そんなこんなでパーティも盛り上げって来たところで、

「それでは本日のメインイベント・プレゼント交換に移りたいと思います!」

沙織が立ち上がり、宣言をした。

「皆様より預かったプレゼントは全て同じ箱に入れてありますので」

私たちは外見の同じ箱を適当に取ると、輪になって座った。

「それでは、音楽に合わせて時計回りに渡していってくだされ!
 ミュージックスタートっ!!!」


♪燃え上がーれー 燃え上がーれー 燃え上がーれー ガン○ムー♪


き、曲に対して今更つっこむのはやめにするわ。
それよりも……

外見では分からないけれど、どれかの箱に私のマフラーが入っている。
果たしてそれが、京介のもとに行くかしら。

可能性としては、10分の1ってところかしら。
私の魔力を持ってしても、100%は難しいわね。


「ストップ!みなさま行き渡りましたかな?」

京介の手元には箱が一つ。
その中に私のものがあるかどうかは―――
私の千里眼を持ってしても、分からないわね。


「では、順番に開けていきましょうぞ」

始めに箱を開けたのは沙織だった。
沙織は箱を開けるないなや部屋を出て行き……

帰ってきたのは、沙織とよく似た体格のシャア少佐。
(頭部のみ)

「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを……」
「おお、俺んだそれ」

部長のプレゼントはなんとも沙織にぴったりのものだったわ。
それにしてもこの沙織、ノリノリである。

順番にプレゼントの箱が開けられていく。
部長が手にしたのは沙織のガンプラ。
御鏡さんの箱には、日向の用意した可愛らしいレターセットが。

ついに、京介の番になった。
私のマフラーは出てくるかしら。

箱を開けた京介の反応は……

「キーホルダー?」
「あぁそれ、僕のです」

と真壁先輩。
私はがっくりと力が抜ける。

「キーホルダー型のゲームですよ、テトリスとかできる」
「あぁ、昔持ってたな俺も」
「はい、で、それを自分で作ってみました」
「これお前の自作なの!?」
「はい、けっこう自信作です」

そして次に、真壁先輩が箱を開けたとき、『それ』が出てきた。

「マフラー……?」

真壁先輩は瀬菜の方をちら見しているが、それは明らかに……

「ルリ姉のやつだー!」
「ほう黒猫氏はやっぱり器用ですなぁ」
「五更さん、今度私にも作ってくださいよ」

みんなから褒められるのは悪い気はしないけれど―――
できれば、京介に受け取ってほしかったわね。

そして、箱は開き続ける。
瀬菜の箱からは御鏡さんお手製のアクセサリーが。
(真壁先輩がすごい顔をしていたわ)
珠希の箱からは、桐乃の用意したメルルフィギュア-サンタバージョンが。
(珠希は大喜びしていたわ)

私の番になった。
箱を開けるとそこには……

「絵?」
「はい~、メルルです」

答えたのは珠希である。

「ふふふ、上手になったわね」
「頑張って描きました、姉さま」

ふふふ。
実は、京介のプレゼントが欲しかったのだけど。

「ありがとう、珠希」

妹の一生懸命描いた絵をもらうのも、悪くないかもしれないわね。

私の横の日向が箱を開ける

「本?」
「あ、それ私のです!」

瀬菜が答える。
瀬菜の……本ですって!?

全員に緊張が走る。

「どんな本なの!?瀬菜ちゃん」

無邪気に質問する日向。

「えっとー、真×ルシの―――」

「あなた私の妹になんてものを!!!」

私は急いで日向からBL本を取り上げる。
ホント油断も隙もあったもんじゃないわ。

「えールリ姉それあたしの」
「絶対だめよ、魂が腐るわ!!!」
「五更さんいいじゃないですかー、うへへ」
「絶 対 に だ め よ !」

なんてこと……脳が腐りすぎて正常な判断力も失っているというの!?
見かねた真壁先輩が日向に語りかける。

「しかたない、日向ちゃん、僕のと交換しましょう」

こうして、真壁先輩は瀬菜のBL本を。
日向は私のマフラーを手にすることになった。
やれやれね。

そして最後に、桐乃が箱を開ける。

「これ……」
「俺のだ」
「趣味悪」
「悪かったな」

出てきたのは暖かそうな白い手袋だった。
京介のプレゼントである。

結局私は京介にマフラーを渡せないまま、
京介のプレゼントも得られないままでパーティは終わった。

それはまぁ、残念だったけれど。
でもこんなに賑やかなクリスマスは、本当に初めてだった。

本当に楽しかったわ。



* * *



パーティの片付けも大体終わり、
部長や沙織、瀬菜、真壁先輩は帰っていった。

「また来年もやろうな!」
「よいお年をでござる」

人数が減ると、少し寂しくなるものね。
ちなみに私は――

「あんたとひなちゃんとたまちゃんは泊まりね!」

と桐乃が言い放ったため、今日は帰らないことになったわ。

まぁ完全に寝入ってしまった珠希を連れてかえるのも大変だし、
お言葉に甘えようかしら。


そんなこんなで、バタバタ片付けていたのも落ち着いた頃。
突然、御鏡さんが私に話しかけてきた。

「ちょっと大事な話があるので、来て頂けますか?」

と外を指さされる。

「え、えぇ……」

大事な話って何かしら?
まさか桐乃の事が好きになったとか、そういう話?

私は御鏡さんと一緒に庭に出た。


冬の屋外はやっぱり寒くて、長くいると凍え死んでしまいそうね。

「五更さん、あなたは―――」

冷たい風が頬を刺す。

「京介くんの他に、彼氏を作る気はありますか?」

御鏡さんの言葉が一瞬で飲み込めず、一度頭の中で繰り返す。
繰り返しても、最初に考えた意味以外には捕らえられなかった。

「ないわ」

即答した。
でもどういう意味だろう。

「ふふ、そうですか」

私は混乱していた。
彼の意図が分からなかったからだ。

「どういうことですか?」
「桐乃さんに頼まれたんです」

桐乃に?何を?
ま、まさか、私と御鏡さんをくっつけようと?

―――少しだけそう考えてから、私は即座に否定した。

いえ、違う。
それは絶対に違うわ。

桐乃は、私がどれほど京介のことを好きか知っているもの。
そんなことをするような人ではない。

「何を頼まれたの?」
「ふふ、まぁすぐに分かりますよ」


バンッ


玄関のドアが勢いよく開いた。

「御鏡、てめぇ」

そこにいたのは、怒りに身を震わせている京介だった。

「俺 の 瑠 璃 に 手 ぇ だ す ん じ ゃ ね ぇ よ !」

勢いよく御鏡さんに掴みかかった京介は、
左手で御鏡さんの胸倉を掴み、右手の拳を固めて震わせている。

「京介君、何を勝手なことを言ってるんですか?」
「勝手なことってなんだよ!?」
「僕は知っています」
「何をだ」

躊躇する京介に、御鏡さんは言葉を畳み掛ける。

「あなた、桐乃さんと瑠璃さん、どちらが大事なんです?」
「そ、それは―――」
「あなたは数ヶ月前、桐乃さんを選んだじゃないですか」
「!!!」

その言葉に、京介は御鏡さんを掴んでいた手を離した。
しかし、右手の拳は握られ、震えたままだ。

「というわけで、瑠璃さんは僕がもらっていきますが、いいですね?」
「ダ メ だ !」
「じゃ、桐乃さんは大事じゃないってことでいいですか?」
「ど、どっちも大事に決まってんだろ!」


私が御鏡さんの意図を図りかねているところで―――


「 バ カ 兄 貴 、 ふ ざ け ん な ! 」


玄関から、私の親友の、大きな声が聞こえてきた。
京介が振り返ると、桐乃は京介の目の前までやってきた。

「あんたあたしの親友をなんだと思ってんの?」

桐乃は強い眼差しで京介をにらみつけた。

「好かれてるとか思って、キープしてるだけじゃないの?地味子みたいにさ」
「は!?んなわけねーだろーが!!」

京介は力強く否定するが、桐乃はひるまない。

「あたしの方を大事にしておきながら、あたしの親友も誰にも譲らない?」
「そ、そーだよ!」
「それがキープって言ってんのよ!!」

桐乃の言葉に京介は返す言葉を失っていく。

「前にあたしは言ったよね。あんたに恋人が出来るのは嫌って」
「あぁ」

首を縦に振る。
おそらく京介は、桐乃の意図はまだ分かっていないのだろう。

でも私にはこの時点で、桐乃の考えが、想いが理解できてしまった。

「それで、私の気持ちを知りながら、恋人は作れないって言ったよね」
「あぁ、言ったな」
「じゃあ今度は逆に聞くよ」

桐乃は大きく息を吸う。
私は桐乃が次に言うであろうセリフが、手に取るように分かった。

「瑠璃を誰かに取られても、私を選んでくれるの?」
「それは……」

京介は答えに詰まっている。

「あたしを選べば瑠璃は他の人のものになる。それでもいいの?」
「ダメだ、絶対ダメだ」
「あっそ。じゃあ……あんたはどうするの?」
「俺は―――」

長い沈黙が訪れた。
よく見ると、桐乃の両足が震えているのが分かる。


京介はちらっと私の方を見た。
そして、桐乃に向かってこう言った。


「俺は、瑠璃と恋人になる」


私は……まるで別の世界の出来事のように、
ただ唖然とそれを見つめていた。

京介が私に向き直る。

「瑠璃、俺と……」

私の意識は、その時半分飛びかけていたのだと思う。

「俺と、付き合ってください」

その言葉を聴いた瞬間、私の意識は途切れた。



* * *



「ん……?」
「あ、あんた大丈夫?」

目覚めた私の前には、心配そうな顔をした桐乃がいた。

「あの、あんたちゃんと記憶ある?」
「えぇ、あるわ、でも」

まだ少しボーっとする頭を叩きながら、
私は気になっていることを桐乃に聞いた。

「あなた、お兄さんに恋人ができるのは嫌だったんじゃないの?」
「ん?嫌だよ」
「だったら―――」
「でもね」

桐乃は続ける。

「あんただったら、いいかなって思えたんだ」
「…え?」
「あたしは兄貴の事が好きで、同じくらいあんたの事が好きなの」

……ち、ちょっと今身の危険を感じたわ。

「どっちもあたしの大事な人で、笑ってて欲しい」
「そう……」
「あとね」

桐乃は照れくさそうに笑いながら言った。

「あんたらがどっちもあたしの事大切にしてくれてるって、分かったから」

そんな風に言われると、照れるじゃない。
顔が赤くなったのに気付かれないように、枕に顔を埋めた。

「ぷっ」

何笑っているの、呪い殺すわよ。

「あ、そーそー、これあんたのと交換してよ」

そういうと、桐乃はプレゼント交換の箱を手渡してきた。

「これ……」
「あたしこんな趣味悪い手袋より、たまちゃんの絵の方がいい」
「あなた……」

あなた私をエロゲのように攻略する気じゃないでしょうね。
ちょっと泣きそうよ。

「日向ちゃんも、あんたのマフラーよりゲームやりたいってさ」

私は、とても幸せだ。
私のそばには、こんなにも優しい『妹』がいる。

恥ずかしいのだけど、私は素直に感謝を口にすることにした。


「ありがとう、桐乃」

「どういたしまして、お姉ちゃん」


今、なぜ京介があんなにシスコンなのか分かった気がするわ。
不覚にも私はこう思ってしまった。

私の妹がこんなに可愛いわけがない、って。



* * *



思い返せば、あれから10年の月日が流れていた。
今日は、私の大切な『親友』であり『妹』の結婚式。

もちろんあれから、すべてがすんなり行ったわけではない。
なんども失敗し、馬鹿をやり、でもその度絆を深めながら今日に至った。


私は3才になる娘の咲乃(さきの)を抱っこしながら
桐乃が着替えをしている部屋に入っていく。

余談になるが、私は絶対に「鎖鬼乃(さきの)」の方がカッコいいと思う。
京介の全力の反発のせいで無難な名前になってしまったのだが。


部屋に入った私の耳に、
大学生の日向と高校生の珠希のいつもの口論が聞こえてくる。

「キリ姉ちょーかわゆす~」
「日向姉さま、何なのその品の欠片もないビッチな口調は」
「は?あんたのめんどくさい喋り方の方が鼻に付くんですけど」
「やれやれね……やはり前世の記憶の薄い貴方には理解できないのかしら」
「はいはい邪気眼乙」

……まったく、誰に似たのかしら。


「少しは静かにしなさい」
「あ、ルリ姉おつ」
「瑠璃姉さま、いらしたんですね」

ふと桐乃の方を見ると、何やら携帯をいじっている。

「どうしたの桐乃、メール?」
「ん?ちょっとねー」


ウエディングドレスを着た桐乃はとても美しい。
まるでおとぎ話に出てくるお姫様のようだ。

私の腕の中の咲乃も、桐乃を見て

「きーちゃんかわいいねー」

と、最大限の語彙を使って褒め称えていた。

咲乃の言葉を聴いた桐乃の反応はまさに予想通りで、
「さきちゅわぁ~ん」と気持ち悪い奇声を上げている。


ふと、桐乃がテーブルの上に置いた携帯の画面が見えた。
あらこれって……

「ツイッター……?」
「あ、ば、バカ見ないでよ」

懐かしいわね。
あの頃、私たちは本当の姉妹のように、
罵りあったり慰めあったりしながら会話をしていた。

あの頃の桐乃に一言つぶやくとしたら、そうね。
『あの頃、あなたが本当の妹になったようで、楽しかったわ。
 友達でいてくれて、ありがとう。』
こんなところかしら。

あとで、久しぶりに覗いてみるのもいいかもしれない。
アカウント、まだ残っているかしら。


「こちらに、高坂瑠璃さんはいらっしゃいますか?」
「は、はい」

結婚式場の係員の人だ。
なにやら伝言があるらしい。
私は桐乃に聞こえない位置まで移動した。

「槇嶋さんから伝言なのですが」
「はい」
「『友人スピーチの衣装あわせをしたいので、あとで裏に来てくれ』と」

あぁ、そうだったわ。
久しぶりに「ござる」でスピーチするって言ってたものね。
私も当時のゴスロリを引っ張り出して持ってきたの。

ふふふ……
当時を思い出しながら、昨日はひと晩ジタバタしたわ。
完っ全に黒歴史ね。

「それからもう一つ」
「?」
「『京介さんにタオルを持っていってあげてくれ』……と」
「あぁ……そうなるような気はしていたけれど」

きっと今頃、目から鼻から大洪水なのだろう。
ハンカチが既に使い物にならなくなっている様が容易に想像できる。

私は情けないシスコン夫の現在の惨状を想像しながら、
ゆっくり幸せを噛み締めた。

そして―――


『ありがとう、桐乃』


10年前の桐乃に、改めて、心の中でそうつぶやいた。

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