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闇の世界の住人

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明けましておめでとうございます、黒にゃん!!

昨年は俺猫が予想以上の結末を見せてくれたり、新企画が立ち上がったり
いまだ描き下ろしグッズが出たりと、黒にゃんにも闇の眷属にも嬉しい一年でした。

今年もそんな黒にゃんに幸あれと願うために
新年にちなんだSS『年の初めの願い事』を投稿させて頂きました。

この話は俺猫世界線の黒にゃん高校1年のお正月を舞台としています。
俺猫本編後、それなりに原作9~12巻の展開を拾いつつ迎えたお正月、
と考えて頂ければと思います。

そして只今実施中の新企画『多数決ドラマ』も踏まえた内容になっています。
(というよりはそれを書きたかったのも理由の一つです)

それでは相変わらず拙いSSで恐縮ですが
この年の初めに少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

--------------------------------------------------

「ほらっ、時間もあんまないんだから、ちゃちゃっと神社に行くよっ!」

今日は新たな年も明けたばかりの1月1日。

新年も早々、私達『オタクっ娘あつまれー』の裏メンバーは
いつもの如く高坂家に集まったのだけど。

迎春の挨拶もあらばこそ、私達は今日の目的の一つでもある
初詣をするために、高坂家から数kmは離れた神社へと向かう事になった。

初詣の後にはそのまま秋葉にも繰り出す予定なので
私は愛用のショルダーバッグを肩から下げ、
言葉通りに先頭を急ぐ桐乃を早足で追いかけている。

……まったく、折角清廉な気持ちで新たな春を迎えたというのに。
最初からこんな調子では、今年も平穏とは無縁なひととせとなりそうね?

もっとも、そんな事は既に覚悟を決めている事でもあるけれど。

昨年は『運命の記述』に従ったとはいえ
以前の私からは想像すら出来なかった事を実行してきた。

その『運命の記述』にしても、未だその全容を明らかにしたわけではないわ。
望む『言霊』こそ引き出せたけれど、根本の要因は何も解決していないもの。

だから今年もまた、私は目標に向けて邁進しなければならない。
その為には、昨年以上に過酷で困難な道のりが待っている事でしょうけれど。

それでも私は、誰でもない自分自身に誓ったのだから。

それに、まあ。

相変わらず私達に向けて文句を喚き散らしながらも
ご自慢の茶髪を初日に煌めかて先頭を行く桐乃の姿を見て改めて思う。

あなた達と一緒にいる限り、穏やかな日常なんて望むべくもないものね?

思わず今年初めての溜息が零れそうにもなったけれど。
無理矢理に抑え付けた筈の口元が、今度は自然と緩んでしまうのは。

きっと新たな春を迎え、清冽な『氣』に満ちたこの年初めに。
『夜魔の女王』の私ですら、すっかりあてられてしまったせいかしら、ね?


「どうした、黒猫?珍しくニヤニヤして。
  正月から何か良いことでもあったのか?」

そんな感慨を抱いていた私に、無粋極まる声が掛けられた。

「……新年早々何を妄言を晒しているのかしらね、あなたは。
  そういうあなたこそ年の初めからそんな緩んだ顔で大丈夫なのかしら。
  お正月が終わったらすぐにセンター試験が待っているのでしょう?」

私の年初の決意とは裏腹に、なんとも呑気な顔で笑っている先輩。
それがやけに癇に障ってくれたのか、私は自分でも思いがけない位
棘を含めて言い返してしまっていた。

「おう、丁度あと2週間ってところだな。ま、自分で言うのもなんだが
  今更じたばたするほど慌てるような状況じゃねぇって。
  最後の全国模試だってA判定をとってるんだぜ」
「……そうだったわね。なにせクリスマスには、大切な妹さんと二人で
  心行くまで楽しんだ位だもの。さぞや余裕と自信がおありなのでしょう?」

でもそんな皮肉にも澄ました顔で先輩は応えてきた。
おかげで私も引けなくなってしまって、さらに辛辣に続けてしまう。

恋人ではなくなったとはいえ、今の私の立場で私自身がそれを口にしたのなら。
ただ先輩を困らせてしまうだけだと、解りきっているというのに。

思った通り先輩は、ばつの悪さを誤魔化す様に「まあな」とだけ短く応えた。
眉を力なく寄せ、苦笑いを浮かべて右手で頬をかきながら。

そんな先輩を見て、己の迂闊さと悔恨とで胸の奥がずきりと痛む。

それ自体は自分への罰と甘んじて受け止めるとしても。
あなたを無思慮に傷つけた償いは何れしなければならないでしょう。

だって本を正せば、単に私の焦燥と羨慕が原因なのだから。
理想を確と見据えてはいても、己の気持ちすら満足に制御できないなんて。

本当、人の心というのは度し難いものよね……

「でも、それも黒猫たちのおかげだぜ。一人暮らしの時も
  俺が勉強に集中できるように協力して面倒みてくれたんだしな。
  それに、その間に沙織の問題も桐乃と二人で片付けたんだろ?」

でも、私の煩悶とは裏腹に、先輩はすぐに笑顔に戻っていて。
あまつさえ私に感謝の言葉さえ向けてくれていた。

「……何もあなたに礼を言われる事ではないわ。私達は私達のしたいように
  しただけだし、皆あなたのお節介のお返しをしたかったのでしょうしね。
  それであなたの受験勉強が捗ったと言うなら、それもあなた自身の応報よ」

自分の気持ちを押し隠し、今迄と同じ調子で私は応えた。
あなたのそんな心遣いを無駄にしないようにね。

「それに沙織の事は、それこそあなたからの感謝など不要よ。
  沙織の為に私と桐乃が尽力するのは必然と言うものでしょう?」
「ああ、確かにそりゃそうなんだが。
  でも、友達の一人として俺からもお礼くらいは言わせてくれよ」

ずっと先頭の桐乃に引っ張られて、早足で歩いていた私達だったけれど。

先輩は桐乃と楽しそうに話している沙織の方に一旦顔を向けてから、
私へ身体ごと向き直って、深々と頭を下げていた。

「俺の大切な友達の悩みを解決してくれてありがとうな、黒猫。
  それと、おまえたちに任せっぱなしになっちまってすまん」

……まったくどこまでお人よしなのよ、あなたは。
全てをあなた自身が背負い込む必要なんてないと言うのに。
むしろその責任感は、己の身を滅ぼす災厄にすらなりうるわ。

でも、だからこそ。

「……まあ、それであなたの気が済むと言うなら甘んじて受けましょう。
  けれど、あなたがそれに感謝したいというのなら、
  あなたがこれから為さねばならない事は解りきっているわよね?」
「おう、勿論だ。絶対に第一志望に合格して見せるぜ!」

あなたにしては珍しく、自分の事なのに自信満々に言い切ったわね。
話を聞いている限り、半分は自信があるのも本当なのでしょうけれど。

もう半分はきっと機嫌を損ねている私を安心させるため……かしら?

まったく、人の心配だけはいつだって全力以上でするのだから。

「ふっ、ならばあなたのその意気込みを評して
  面白いものを見せてあげましょう」

私は歩きながらハンドバッグからタブレットを取り出して
先輩にその画面が見えるように差し出した。画面をタップして
ロックを解除すると、予め用意していた画像がすぐに浮かび上がってくる。

「お、これが例の中学生絵師さんに黒猫を描いて貰った絵ってやつか」
「ええ、私の闇の高貴さと妖艶さとが、良く現れているでしょう?」

昨年の年の瀬に、私と桐乃、あやせの3人は、桐乃の知人だという
『エロマンガ先生』と自らを呼称する「和泉紗霧」の元を訪れたのだけど。

その際、現役イラストレーターとして活動中だという紗霧から
私達3人をモデルにしてイラストを描いてみたいと懇願されたのよ。

実際に読モをしている桐乃やあやせはともかく私までも、というのが
正直意外過ぎる申し出ではあったわ。私が言うのもなんだけどね。

一体どこで調べたのか、紗霧は私の『闇の眷属』としての宿命も把握していて
『是非とも『夜魔の女王』の御姿をこの手で描き上げたい』とまで請われては。
『高貴なる者の義務』として協力するのも吝かではなかったわ。

私としてもまがりなりにもプロ作家のモデルになる、なんて
生まれて初めての体験だったので、なかなか有意義な時間でもあったわ。
まあ、色々と小一時間ほど問い詰めたい所もあったけれど……

それに、最後に描き加えられた先輩の姿が私の心を捉えた事もある。
それが例え『『女王』が優雅に坐する椅子に先輩がなっていた』としてもね。

クククッ、この貴き『夜魔の女王』には、その身に相応しく
従順にして明晰な下僕が必要だと良くわかっているじゃない。
さすがは『淫靡なる絵画を教導せしもの』という所かしら?
その慧眼に免じて、私への数々の無礼は不問に付しましょう。

それに、まあ……こうだからこそ。

先輩と二人だけの構図のイラスト、なんて代物を
今の私でも安心して受け入れられる、という事でもあるわ。

まさか紗霧がそこまで私達の関係を解った上で描いていた、
とはさすがに思えないけれどもね。

まあ、でもこの場で先輩に見せるには丁度いい塩梅よね。
私の失言からの気疎い流れも、これで先輩を揶揄えば終わりに出来る筈。

まずは椅子になっている自分に声高で文句を言ってから。
自分でも恥かしい位だけど、私の淫靡で婉前なる
艶やかな水着姿を見て、さぞや赤面するに違いないもの。
ふっ、『此方の世界』の『仮初の身』と言えど、我ながら罪な存在ね。

私は先輩の反応を逐一頭の中で思い浮かべながら
嬉々としてその時を待ち受けていたのだけれども。

「へぇ、黒猫の胸はそのままの大きさなんだな」
「ふっ、そうよ。私の下僕として相応しい姿で……
  って、な、何ですって!?」

い、い、今、なんて言ったのよ、この厭らしい雄は!?

「いや、桐乃の分はあやせのと一緒に見せて貰ってたんだが
  二人とも胸がやけに強調されて描かれていたじゃんか。
  まあペンネームがペンネームなんだし、そういう作風の
  絵描きさんだって思ってたんだが、そういう訳でもないんだって」
「って、あなた!?何処を見ながら言っているのよ!!
   わ、私は強調されるような胸でなくて悪かったわね……」

何時もの『黒の戦装束』を纏った私の胸元と、タブレットに映した
私のイラストとを交互に見比べながら、先輩は感慨深そうに頷いていた。

何かこう、色々と屈辱的な思いが込み上げて来るわね……

『みんなの気持ちは確かに受け取った!
  黒猫ちゃんの胸はささやかなままでいいです、ってな!』

なんてあの時、紗霧は言っていたけれど。
鯔のつまり、桐乃やあやせと違って私には似合わないという事でしょう?

それを先輩にまで改めて指摘されるだなんて。
この『仮初の身』がこれ程まで呪わしいと思った事はないわ。

憤る心を視線に籠めた私の『邪眼』を感じとったのか
先輩は慌てて両手を振りながら弁解を始めた。

「ま、まあ、落ち着けって。確かにそういうのもイラスト
  ならではの表現で、魅惑的だってのもわからんじゃないが。
  それでも黒猫は、こんな風にいつも通りが一番だと思うぜ?」
「ふん、見え透いた言い訳なんて止めて頂戴。
  それに、よもや、とも思っていたけれど……まさかあなた、
  妹好きが高じてロリやペド趣味が目覚めたのではないでしょうね?」
「ちげーよっ!お前、そもそも自分でそれを言うのかよ!?
  ……いや、まあ、ともかくその辺はおいといて、だ」

先輩は一旦私から目線を逸らせながら、強引に話題を変えてきた。

私の胸に関して『ともかくおいといて』なんて無造作に
片付けられるのも、それはそれで心外ではあるのだけど。

でも先輩はすぐに私に視線を戻して。
真っ直ぐに私を見詰めてから続けた。

「ほら、この黒猫、すげー楽しそうにしてるじゃんか。
  それだけでもなんかこう描き手の想いが伝わってくるっつーか、
  こっちまで嬉しくなってくるくらいだぜ。ま、俺の扱いはアレだけどな」
「そう……ね。確かに描いている間中、本人は如何にも楽しそうだったわ」
「だよな。それに、黒猫だってそうだったんじゃないか?
  だって、こんなに良い笑顔に描いてもらってるんだから」

そう言うあなたもやけに嬉しそうなのは何故なのかしらね?

「……確かに詰まらなくはなかったわね。
  桐乃やあやせが読モをしている気持ちが少しだけ判った気もするわ。
  それに自分ではない人の想い描く世界を垣間見るというのも、
  創造者として新たな刺激を得られる得がたい機会でもあるし」
「なるほど、クリエイター同士のシンパシーの相乗効果、ってのもあるんかね。
  まあ、俺なんかがその辺を評価するのはおこがましいんだろうけどさ」

先輩の悪癖でもある、卑屈さが見え隠れする物言いではあったけれど。
でも先輩の表情はずっと変わらずに優しい笑顔を浮かべ続けていたわ。

「いいえ、前にもあなたに言ったと思うけれど。
  表現の仕方、などというものに絶対の正解などありはしないわ。
  逆を言えば、それは個々の受け止め方や評価にしても同じ事よ。
  だからあなたがそう感じたのなら、それを大切にしなさいな」

だからそれに応える私もなんだか暖かい気持ちに満たされてきて。

「……おう、そうだよな。サンキュー、黒猫。
  いいもの見せてもらったのもあわせて、な」

はにかみながら私に向けられた感謝の言葉に
今度こそ心からの笑顔で応える事ができたわ。

新年を迎えて初めて。あなたに漸く見せられた素直な気持ちで、ね。



    *    *    *



目的の神社に着いた私達は、手水舎で手や口を清めてから早速本殿に向かった。

県内でも有数の参拝者数を誇るというこの神社は
私達と同じ様な初詣の人達で本殿前は溢れていたわね。

なんとかその中に分け入って、私達はお賽銭を投げ入れた。
そして順番に鈴を鳴らしていって、作法通りに拝と拍手を行う。

それから今年一年の願いを籠めて、祈りを奉げるわけだけれども。

私が真に願っているのは、勿論『理想の世界』への到達と決まっている。
けれどそれは今年一年でやり遂げられる様なものではないもの。

それに願い事は具体的かつ簡潔に纏めねばならないとも聞いているわ。
確かに曖昧だったり複雑過ぎる内容では、運命を引き寄せる際には
焦点がぶれて力が薄まってしまうのも道理でしょうし。

だから私は今この年に、最も願うべき事を祈る事にしていた。
それが積み重なった先に、私の目的もあるのだしね。

先ずはこの日の本の八百万の神々を称える祝詞を心の中で唱え
続けて願いを奏上するための段取りを心の中で謳い上げていく。
それからいよいよ本来の願い事を祈るわけだけれども。

如何に内容を纏めたとはいえ、そのまま祈っては唯の一言だもの。
私は予め考え、用意してきた有らん限りの美辞麗句を持って願いを言祝いだ。
勿論その間も、ずっと真摯に祈りを捧げながらね。

ふっ、これなら未来が如何な世界線に繋がろうとも願いは叶えられる筈。

もっとも、そうしてすっかり願い事に集中する余りに。
桐乃に肩を叩かれて始めて、私一人だけが何時までも
祈り続けていたのだと気付かされてしまったのだけど。

まったくこの『夜魔の女王』たる私が、あろう事か
神仏への祈りで不覚を取るだなんて、余りにも無様なものね。
おかげで桐乃や沙織に散々に揶揄われてしまったじゃない。

そもそも、こんな神気に満ちた場所は『闇の眷属』には分が悪いのよ。
やはり『聖天使』に『反転』してから来るべきだったかしらね?
でも、日の本の神仏と天使とではそれも相性が悪いでしょうし。

それにまあ。
私の望みを祈願するのならば私本来の姿でなければね。
自分の偽らざる本心と向き合い、それを心から願う場なのだから。


拝礼も終わり、本来ならばこの後も絵馬を奉納したり
おみくじを引いたりして、初詣ならではの行事を楽しむのだけど。

この後、秋葉の初売りイベントを回る予定の私達は
お参りを済ませてからすぐに千葉駅に向かう事になった。

もっとも、秋葉に行くのは私と桐乃、沙織の3人だけなのだけどね。
先輩も最初は一緒に行くつもりだったようだけど、桐乃に手厳しく
止められていたから。

『あんた、センターまでもう2週間しかないってホンとにわかってるワケ?
  マヌケ面晒して外をほっつき歩いている暇があるんなら
  大人しく家で納得いくまで勉強してなさいってーの!』

なんて桐乃にぴしゃりと言われて、さすがに秋葉行くのは断念したみたい。
まあ、千葉駅までは見送ると、先輩も一緒について来てはいるけれどね。

まったく、年を越してもお兄さんに素直になれない妹ね、あなたは。
クリスマスでは兄妹水入らずで互いの気持ちを確かめたのではなかったのかしら?

そもそもこの初詣だって、あなたのお兄さんの合格祈願の為なのでしょう?
わざわざ家から離れた神社にしたのだって、ここが千葉では有名な
学業成就のご利益があるからでしょうし。

それにこのまま先輩を家に帰そうとしているのだって
今更になって勉強時間の確保、なんて理由ではなくて。
この時期に外で病気を貰わない様に、なるべく家にいて欲しい、
なんて事まで殊勝にも心配していると、私は睨んでいるわ。

その為に、秋葉の初売りなんて別の理由を作ってまで
私達を急かしていたのでしょうしね。

まったく、その本心を正直に先輩に伝えれば
シスコンのお兄さんは喜んで応じてくれるでしょうに。

いえ、先輩が文句を言いながらも応じている事自体、
先輩だってその思い遣りにも気付いている、ってことかしら?

ふふっ、まったくあなた達はいつだってそうよね。

どんなに表面上は反目しあって見せてはいても、
いつでもお互いの事を一番大事に考えているのだから。

「大体、受験生がほいほい遊び歩いてるのがそもそも間違ってるってーの!
  いくら模試でA判定を取っても、結果が出せなきゃ意味ないんだかんね!?」
「あー、もうそれはわかったっての!お優しい妹様の言う通り、
  今日は家でみっちり勉強するっつってんだからもう良いだろう!?」

神社を後にしてからも、相変わらず先頭でぐんぐん進んでいく桐乃と。
ぴたりと寄り添って、口喧嘩としか思えないやり取りを続ける先輩。

そんなあなた達を見る度に、心の底から暖かい気持ちに満たされるけれど。
それと同時にほんの少しだけ、寂しい気持ちにもなってしまう。

……いえ、何を弱気になっているのよ、私は。

先輩は私に約束してくれたわ。『待っていてくれ』と。

だから私もその時に誓ったのよ。
たとえそれが来世になったとしても必ず待つと。

桐乃が私達を心から祝福してくれるその時を。
私達の愛する全ての人と共に幸せに暮らせる日まで、ね。


「で、黒猫は結局何を願ったんだ?随分熱心に祈ってたようだけど」

もうすぐ千葉駅が見えるという所で、先輩が再び声をかけてきた。

気がつけば何時の間にか桐乃の横には、代わって沙織が立っている。
私の視線に気がついたのか、沙織はちょっとだけ此方を振り返ると
にっこりと微笑んでいた。

本当、新しい年を迎えてもお節介な友達ね、あなたも。

「ふっ、元来、願い事は軽々しく人に打ち明けるようなものではないわ。
  八百万の神に奏上したならば、後は己の内に秘めて達成の為に勤しむものよ」

そもそもあなた自身にそれを言うのは、恥かしすぎるじゃない。

「そ、そうか。まあそういうとこは確かに黒猫らしいけどな。
  でも、さ」

先輩はそこで言葉を切ると、私の正面に回って真っ直ぐに私の目を見据えた。

「おまえが願いを叶えるのに、誰かの助けが必要になったら絶対に教えてくれよ。
  神様だけじゃなくて、俺だっておまえの力になりたいって思ってる。
  だって、俺はおまえの……友達、なんだから、さ」

先輩は言葉こそ途中で詰まらせはしていたけれど。

最後まで私から目を逸らせることなくそう言ってくれた。

「……そう。でも、今のあなたは自分の心配を第一にしなさいな。
  そうでなければ、今日この日とて無駄になってしまうでしょう?」

でも私は眼を閉じて。顔を伏せながらそれに応えた。
胸の奥から湧きあがる気持ちを懸命に抑え付けながら。

だってそうしなければ。
次々と身体の内から湧き上ってくる想いが
私の目や口から一気に溢れ出してしまいそうだったから。

「そう、だよな。行きにもおまえに言われた通りだ」
「ええ、そうよ。あなたはもっと自分の事も考えるべきだわ。
  それがあなたを……その、大切に想う人、達の為にもなるのよ。
  精々それを肝に銘じてこれからあなたに立ち塞がる『天命』にも抗う事ね」

私はそこまでを辛うじて声に出して振り絞ると、
今度は満身の力を足に籠めて、先輩の前に歩み出た。

自分の今の顔を、決して先輩から見えないように。

「お、おい?黒猫?」

そんな私を呼びながら、慌てて追いかけてくる先輩。

けれどそれに応えるわけにはいかないもの。
私はさらに歩く速度を速めて、前を行く桐乃や沙織も追い抜いた。

「ちょっ!?あんた黒いのになにしたってのよ!!」

もはや駆け足になっていた私が自分の横を通り過ぎ、慌てて私を
追いかける先輩の様子を見て、桐乃がすぐさま先輩を問い質していた。

「い、いや、俺はなんにも、してない……よな?」

しどろもどろになりながらも先輩は応る。

莫迦ね、それでは何かしたと言ってるようなものじゃない。
相変わらず自分の事にも乙女心の機微にも疎いのだから。

今年は私達の願い通りに晴れて大学生になるのでしょうから
少しはその辺りも察しが良くなって欲しい物だわ。
むしろ、そっちを願い事にするべきだったのかしら?

なんて考えていると、今度こそ新年初の溜息を零してしまったけれど。

背中越しに聞こえる桐乃の先輩への罵詈雑言を聞いているうちに
不思議と気持ちも落ち着いてくれたわ。右手で頬に軽く触れてみても
すっかり冬らしいひんやりとした感覚が伝わってくるもの。

これならもう大丈夫かしらね。

私は爽と振り返り、桐乃の気遣いの礼を兼ねて先輩への助け舟を出した。
もっとも桐乃の事だから、私への心配と同じくらいに
私達の意味深な態度への不満からなのでしょうけれど。

「ほら、あなた達もぐずぐずしていないで早くなさいな。
  次の電車に乗り遅れたら初売り開始に間に合わないわよ?」
「おお、確かに残り10分と言ったところでござるか。
  急ぎましょうぞ、きりりん氏、京介氏」

沙織にも促がされて、漸く桐乃も先輩への追求の手を止めた。
こんなところは沙織の察しの良さは頼りになるわよね。
時折、人語を解さなくなるのが困り者ではあるけれど。

「はん、あんたたちは急がなきゃいけないかもしれないケド。
  あたしを誰だと思っているワケ?駅までなんて3分もあれば余裕っしょ!」
「おいおい、おまえが全力出せば確かにそうだろうけどな。
  他に通行人だっているんだから危ないだろ。そこそこに急いでいこうぜ」
「はぁ?あんたまで急ぐ必要なくない?とっとと家に帰えっちゃえばー」

口ではそう言いながらも、急ぎ足で隣に並んだ
先輩の姿を嬉しそうに見上げている桐乃。

本当、解りやすい娘ね、あなたは。
今年はそんな風に、素直な気持ちを先輩に見せられれば良いのだけれど。

それでも今度は心の底からの笑顔でそれを受け止めることが出来たわ。
我ながら、桐乃の事なんて言えたものではないけどね。

だって、この年初に願い事を叶えるべく祈った天の加護よりも確かに。

あなたが私の願いと何時でも共にあるのだと、感じることが出来たのだから。

急ぎ足で駆け寄ってくる掛け替えのない人達を笑顔で迎えた私は。

この『仮初の身』にらしからぬ力を振り絞り、皆と駅へと駆け出していたわ。

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