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『母の日の贈り物』:(直接投稿)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
家族思いの五更家では、きっと毎年の母の日は
お母さんに感謝の気持ちを伝えるために、家族みんなで
欠かさず贈り物をしているのではと思います。

そんなわけで本日の母の日にちなんだSSを投稿させて頂きました。

この話は特に今まで書いてきたSSとは関連性のない独立した話に
なっていますので、どなたでも問題なく読んで頂けると思います。

まあ相変わらず脳内妄想満載の内容ですが
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

-------------------------

明日は5月の第2日曜日。そう、いわゆる母の日だよね。

うちでも毎年、お仕事や家事でいつも大変なお母さんに
毎日ありがとうの感謝をこめてプレゼントをあげることになってる。
だから家族みんなで思い思いに用意したものを贈るんだけど。

さすがに毎年のことなので、今年は何にしようかな、って
前々から考えてはいるんだけど。この前、お父さんに相談してみたら
『お前たちが選んだものならなんだってお母さんは喜んでくれるよ』
なんて、嬉しいといえば嬉しいんだけど、今ひとつ実際に
ためになるようなアドバイスはもらえなかったんだよね……

まあ、お父さんのプレゼントだったら、お母さんはどんなものだって
間違いなく喜んでくれるんだろうけど。いつまでたっても新婚さんみたいに
ラブラブなんだから、二人とも。

両親がいつだって仲がいいのは娘としても嬉しいことではあるけれど。
それでも見ているこっちが恥ずかしいくらいなのはさすがにどうかと思う。
まったく、時と場合は選んで欲しいものだよね。

でも、いつかお母さんみたいにそんな大好きな人に出会えるのかな?
自分だってそんなことも考えてしまうお年頃でもあったりするからね。
まあできれば普段はちょっと頼りないお父さんよりも
いつでもカッコいい人がいいかなぁ、なんて。

あ、いけない。そんなことは今はどうでもいいことだった。
もう母の日は明日なんだからいいかげん何かに決めないとね。

定番なところではやっぱり母の日らしくカーネーションの
花束なんかが真っ先に思いつくよね。でも、定番だけに
以前にももうプレゼントしちゃってるんだよね。

そうなるとこっちも定番ともいえるスィーツとかも考えられるけど。
でも、お料理上手でお菓子だろうとケーキだろうとなんでも自分で
お店で売っているもの顔負けで作れちゃうお母さんに対しては
それもどうかなぁ、と思ってしまう。

そんな風に居間でゆっくりくつろぎながらも
うんうんと考え込んでしまっていたんだけれど。

「おねぇちゃん。おかあさんかいてみましたけど、どうですか?」

不意に居間のテーブルの反対側からかけられた声で
一気に現実に引き戻されてしまった。

「え、そ、そうだね。うん、すごく上手に描けているよ」
「えへへ、おかあさんもよろこんでくれますか?」
「うん、ばっちりだと思うよ。明日はこれをプレゼントするの?」
「はいっ!」

いつもながら満面の笑みを浮かべながらも、右手を力強く天に突き出して
応えてくれる最愛の妹の姿に思わずこちらの顔も綻んでしまう。
うんうん、こんなにも素直に育ってくれておねぇちゃんも嬉しいよ。

「おねぇちゃんはプレゼントきまりましたか?」
「うーん、なかなかこれってのが思いつかないんだよ。
  何か買うにしてもお小遣いだけじゃ予算も心許ないところだし」
「姉さまはハンカチにすてきなししゅうをしたものだそうですよ?」

それを聞いて素直に、いいなぁ、と思ってしまった。
普段の言動は悩ましいことも多いけど、こういう時に家庭的な技術を
たくさん持っている女子力は正直凄いと思うし尊敬してしまう。

お母さんと比べても遜色ないくらい料理上手だし
服飾関連のことなんかも造詣が深いから、さぞや綺麗な
オリジナルの刺繍入りハンカチができるんだと思う。

まあ、その刺繍される模様というのは
きっと禍々しい魔法陣とかどこそこの呪術的な紋様とか
そういうとんでもないものな気がするけれど……

こんな世間で言われている『厨二病』的なところがなければ
本当、いいお姉さん、とも胸を張って言えるんだけど
さすがに『姉さま』呼びを要求するのはやりすぎだよね。
こんな素直な妹に変な影響を与えないようにして欲しいなぁ。

まあ話は逸れたけど、きっとお母さんならそんな厨二病なものだって
いつものように優しい笑顔を浮かべて受け取ってくれるとは思うけど。

どんなに周りから見ればおかしなことだとしても。
お母さんは家族の事をいつだって心から信頼してくれていて。
そしてどんなことでも受け止めてくれるってわかってるからね。

いつも仕事で忙しそうなのに、家族の事を一番に考えてくれるお母さん。
いつも優しく微笑んでいて、どんなことでも受け入れてくれるお母さん。
料理も裁縫も掃除も、家事百般なんでも上手なとても家庭的なお母さん。
子供がいる様に見えない、若々しく艶やかな黒髪の和風美人なお母さん。

怒るととっても怖かったり、すごい集中力で趣味に打ち込んでたり
時にはそれが高じてお父さんやわたし達まで酷い目にあったり
家族みんなが巻き込まれるくらいの大騒ぎになったりする時もあるけれど。

うちの家族はみんな、そんなお母さんが大好きなんだから。

だから、せっかくの『母の日』にはそんなお母さんに
沢山喜んでもらいたくて、プレゼント選びも悩んでしまうわけだけど。
母の日の広告が町に溢れ始めた今月に入ったくらいから
ずっと考えていたのにまったくいいアイディアが思いつかないんだよね……

どんなものだったらお母さん嬉しいのかなぁ?
そんなときには相手の立場になって考えてみる、なんてよく聞くけど
お母さんの立場なんて今の自分からじゃ想像するのも難しいよね……

あれ?そっか、お母さんの気持ちといえばこの前に。

「よーし、これでいこう!これならお母さん喜んでくれそうだよ!」
「はうぅ!?お、おねぇちゃん。プレゼントきまったんですか?」
「うん!じゃあ早速明日のプレゼント、部屋に戻って準備してくるね!」
「はいっ!がんばってください、おねぇちゃん!」

単なる思い付きだったアイディアも、我が家の天使が
最高の笑顔で激励をしてくれたおかげですっかり自信を持つ事ができた。
さっきまでの悩んでいた時とは打って変わった軽やかな気持ちで部屋に戻ると
すぐさま机に座って明日のプレゼントの作成に取り掛かったのだった。



    *    *    *



今日は世間一般でいう母の日。うちでも毎年家族で出かけたり
みんなからプレゼントを貰ったりしてこの日を祝ってもらっている。
今年もその例に漏れず、家族で動物園に行って、久しぶりに
娘達とゆったりと楽しんでくることができた。

普段は仕事や家事もあって、なかなか思うように娘たちとの
時間が取れないのがもどかしく、申し訳ない気持ちで一杯だけれども。
そんな私にもこうして母の日を祝ってくれるのが、本当に嬉しくて。

こんな暖かな家族のために私はもっともっと頑張っていかないと。
そんな風に改めて気持ちを引き締められる日でもあるわ。

夕飯の用意もいつも以上に家族みんなに手伝ってもらった。
卓上コンロを使って久しぶりのすき焼きにしたのだけれども
たまにはと奮発した牛肉を出しただけあって
みんな美味しいと満足してくれていたようだったわ。

でもピーマンやセロリだって美味しく食べられないとダメよ?
なんて、こんなときなのについついそんなことが
頭をよぎってしまうのも、私の昔からの悪い癖かしら。

「それじゃお母さん、母の日のプレゼント、受け取ってください」

夕飯の片づけもひと段落付いた後、愛娘の宣言を受けて
それぞれのプレゼントを持った家族の皆が私の周りを取り巻いた。

「あら、これは素敵な似顔絵ね。
  私よりもとても綺麗なお母さんに描けているわ、ありがとう」
「えへへへ。おかあさんも、まいにちおいしいごはん、ありがとうです」
「こっちはとても丹念に縫い上げた刺繍ね?
  手縫いでここまで仕上げるのは大変だったでしょう?」
「『黄泉の籠目』をあしらったこの印で全ての災厄を緘する護りと為す。
  ふふふっ、我が手に掛かれば造作もないこと」
「あなたのこの花瓶はプリザーブドフラワーなのかしら?
  いえ、この漂う香りは……ディフューザーになっているのね。
  ふふっ、あなたにしてはいいセンスね」
「俺にしては、は言いっこなしだろう!にしても、ちょっとは
  捻って選んでみたのに、どんなものかすぐにお見通しなんだなぁ。
  まあ、たまにはこんなのもいいだろう?」

みんな、思い思いに真心を込めた贈り物を手渡してくれる。
こんなときには、母親としてこれ以上ない誇らしさに心が満たされるわ。

みんなに感謝されたくて、母親の務めをしているわけではないけれど。
そう思っても、こうしてみんなに労ってもらえるのはやはり嬉しいものね。

「あら、この封筒にプレゼントが入っているのかしら?」

最後に渡された封筒を開けて、中に入っていたカードを手に取った。
この封筒やカードは確か娘のお気に入りの手紙セットのもので
よほどの決意を持って今回これを使ったのだと伝わってくるわね。

「うん。カードに書いであることが、わたしからの
  お母さんへのプレゼントなんだけど……どうかな?」

すこし不安げにこちらを伺う様子に、この娘の迷いもまた伝わってくる。
普段は活発であまり物怖じしない性格なのに、珍しいこともあるものね。
そんなに予想外のことがこれに書いてあるのかしら?

私はそんな娘への慈しみ半分、好奇心半分とで
カードに書かれていた文章に目を通した。

『お母さんの家事を毎日手伝う券』

そこにはやはりお気に入りにしていたカラーペンで書いたのだろう
蒼色の文字で決意の内容が書かれていた。

「……そう、特に回数や期間は書いてないけれどひょっとしてこれは
  無制限なのかしらね?お母さん、本当に毎日でも使ってしまうわよ?」
「う、うん。もちろんわたしもそのつもりだよ。
  だってお母さんもわたしくらいの時に、もうお料理やお買い物まで
  一人でやっていたんでしょ?前にお婆ちゃんから聞いてたんだもん。
  それがとても嬉しかったって。だからわたしだってそうしたいなって思って」

少し意地悪気に鎌をかけてみたのだけど
どうやら勢いや酔狂だけでこんな事を書いたわけではないようね。

まったく、母親になっても自分に向けられた気持ちを素直に
受け止められないのは、本当、昔からの私の悪い癖よね。
こんなにも大切な娘の気持ちを試すようなことをしてしまうなんて。

「ごめんなさい、あなたの気持ちが嬉しすぎてつい茶化してしまったわね。
  素敵なプレゼントをありがとう、悠璃。お母さん、助かるわ」

今度こそ、私は悠璃に素直な気持ちで謝罪と感謝を伝えた。
それを聞いた悠璃は先ほどまでの不安げな様子から一転、
いつもの悠璃らしい、ぱあっと花が咲いたような笑顔を私に向けてくれる。

ふふっ、お母さんから私があなたくらいだったころの話を聞いたとはいえ
それが私に受け入れてもらえるかがそんなにも不安だったのね。
でもそんな娘の気持ちを、嬉しく思わない母親がいるわけないじゃない。

「うん!どういたしまして!じゃあわたし、明日から頑張るね!」
「あら、それは殊勝な心がけですね、悠璃。
  それでは忙しい姉さまに代わって、明日からあなたに
  わたしが手ずから姉さま直伝の五更家に伝わる家政術を伝授してあげましょう」
「ええー!?珠希おばさんが?確かにおばさんの家事の腕は認めるけど……」
「姉さまと呼びなさい、といつもいっているでしょう、悠璃。
  いえ、そうですね。明日からはあなたの先生になるのですから
  『黒猫師娘』と呼んでもらうほうがよいでしょうか」

妹の珠希は、私が悠璃や璃乃を生んでからというもの
積極的に実家から来てくれて、家事や育児を手伝って貰ってきた。
だから自分の娘のように思ってくれている悠璃の健気な提案に
喜んで先生役をかって出てくれてたのでしょうね。

もともと手先が器用でなにより家庭的な面の強かった珠希は
悠璃の言うとおり、家事全般を得意としてその腕前は見事なもの。
だから技術的な面からは確かにこれ以上ないくらいの人材なのだけれども。

既に大学生だというのにさらに強くなってきているその厨二的な言動が
悠璃に変に影響を与えないかに一抹の不安があるのも確かね……

え?私に人のことは言えたものじゃないだろう、ですって?

ち、違うのよ?私はもうすっかり『闇の眷属』から生まれ変わって
この脆弱なるも光と希望に満ちた人の道を歩んでいるのだから。
女性の過去を掘り返すなんて無粋なマネはしないで頂戴。

「姉さまのことはあしたからは『くろねこしじょう』とよぶんです?」
「いえ、璃乃はこの家政術を修めるにはまだ刻が満ちてはいません。
  あなたがもう少し黄泉の力に目覚めてから改めて相伝してあげますよ」
「はいっ、姉さま!」

顔中に戸惑いの表情を浮かべている悠璃とは対象的に
璃乃が純粋無垢な笑顔で珠希の言葉に素直に応えていた。
これは悠璃の心配をするよりも、むしろ璃乃の方が
珠希に強い影響を受けていることに気を配らないといけないかしらね……

珠希には璃乃の小さいころから育児の面倒を見てもらった機会が多かった。
おかげで、璃乃はすっかり珠希を『姉さま』と呼ぶくらいに懐いていて
その歳不相応の口調も、そもそも珠希譲りでもあるのよね。

くっ、失われたはずの私の『神眼』が『我が真名は黒猫』と
ドヤ顔で宣言する璃乃の姿を垣間見せたような気がするわ……
いつになっても私は闇の宿命からは逃れられないのかしら、ね。

まあそれはともかく。珠希の申し出はとても嬉しいのだけれども。
ここは私の母親としての我が儘を通させてもらおうかしら。

「ありがとう、珠希。でも私も仕事のほうが落ち着いてきたから
  なるべく私から悠璃に教えたいのだけれどいいかしら?」
「はい、姉さまがそういうのでしたら悠璃への指南はまた機会を改めましょう」

珠希は残念そうに言いながらも口元は薄く笑んでいた。
まったく、私はあなたにいつも気を遣わせてばかりね。
こんな至らない姉をいつでも支えてくれて感謝の言葉もないわ。

「うん!お母さんの手伝いをしながら覚えていくね。
  そしてわたしもお母さんみたいにお料理上手になれたらいいなぁ」

対して悠璃は、もう一度満面の笑顔で喜んでくれている。
私はそんな愛娘の華奢な身体をそっと引き寄せると優しく抱き締めた。

ふふっ、いつまでも子供だと思っていたけれど
あなたももうこんなにも大きく成長しているのね。
こうして育った身体に負けないくらいに、その家族思いの心までも。
それに気付かせてくれた、素晴らしい贈り物をありがとう、悠璃。

しばし愛娘の温もりを感じながらそんな想いに浸っていた私だけれども。

「よかったな、瑠璃。改めていつもありがとう」
「ええ、あなた。でも、それは私の台詞でもあるわ。
  みんな、今日は本当にありがとう」

ずっと私たちのやりとりを静かに見守ってくれていたあなたが
こうして見せてくれる優しい笑顔に応えられるように
私も心からの笑顔を形作った。

気がつけば私達二人と同じように
悠璃も璃乃も珠希もまた同じように微笑んでくれていた。
この何よりも大切な家族の幸せを守り続けるために
私は皆の笑顔を一人一人見返しながら改めて心に強く誓っていた。

私の、私達の理想を掴むための決意を込めた。
あの時に契った願いをもう一度確かめるためにも、ね。



    *    *    *



「いやあ、すっかり遅くなっちゃった。で、あたしのご飯はどこ?」
「何を言っているの、日向。今頃きてももう夕飯は終わってしまったわよ」

みんなからの素敵なプレゼントを受け取った後には
お茶とお菓子を用意して、しばし家族団欒に興じていたのだけれども。

そんなときに我が家に妹の日向が尋ねてきた。
今日は来る予定なんて聞いていなかったと思うのだけど、ね。

まあ日向の場合、そんなことは日常茶飯事でもあるけれど。
特に今日のように何か行事がある日のときには。

「ええー!?それが楽しみでここにきたのに!」

全力で不満を表明する日向。大方今日の母の日の
我が家の晩餐目当てだった、というところかしらね。
まったくそういうことなら前もって連絡しておきなさい、
といつも言ってるでしょうに。

「……まあ、明日のお弁当用に残してあるおかずがあるから
  それで何か用意してあげるわ。少し待っていて頂戴」
「やったー、さすがルリ姉。長年の家事暦は伊達じゃないよね!」
「まったく調子のいい事ばかり言って。あなただって一人暮らしを始めて
  結構経つのだから、わざわざうちにご飯を食べに来なくていいでしょうに」
「まあ、そうなんだけどねぇ。今日はその特別っていうか、さ。
  せっかくの、母の日なんだし、ね」

日向のご飯の用意をするために台所に向かった私に
そのまま着いて来た日向は、普段のマイペースぶりには珍しく言い淀んだ。

「母の日だというなら実家の方に顔を出すのが筋なのではないかしら?」
「ん、勿論先に寄ってきたよ。まあ、せっかくの二人っきりを
  邪魔をするのも野暮だったからすぐにこっちにきたんだけど。
  あ、そういえばタルトありがとうっていってたよ、お母さん」

……相変わらずのラブラブっぷりなのね、お父さんとお母さん。
私と日向が家を出て、珠希もうちに来ているときが多いから
以前にもまして二人でいちゃいちゃしているらしいけれど。
まったくいつになっても新婚さんみたいなのだから。

ま、まあ、それもある意味夫婦仲としては理想なのかもしれない。
私も娘達が大きくなって巣立っていった後にはそうなれるのかしら?

でも、私達はともかく、悠璃や璃乃が遊びに行ったとき位は
さすがに自重して欲しいものだけれど……まだよくわかってない
璃乃はともかく、悠璃はこの間、それを目の当たりにしてしまって
顔を真っ赤にして固まってしまったくらいだし。

まあ、その後に『さすがお母さんのお父さんとお母さんだね』なんて
失礼な事を言ってきたので、少し特別教育をさせてもらったけれど。

「そう、喜んでくれていたならよかったわ。私もたまには母の日に
  プレゼントを贈るだけじゃなくて直接会いに行きたいものね」
「まあ、しょうがないじゃん?今はルリ姉も自分がお母さんなんだし。
  今年もみんなからプレゼント貰ったんでしょ?」
「そうね。悠璃も璃乃も珠希も。勿論あの人も素敵なプレゼントをくれたわ。
  ふふっ、お母さんもこんな気持ちだったのかしらね」

嬉しくて誇らしくてちょっぴり恥ずかしいけれどもね。
少しはお母さんに近づく事ができたのかしら。

「そだねぇ。さっきのお母さん、いまのルリ姉とおんなじ顔してたしね」
「そ、そう。でもまだまだ母親としての経験は及ぶべくもないわ」
「そんなことないんじゃない?だってルリ姉は」

日向は一旦そこで言葉を切ると、肩から提げていた
ハンドバックからなにかを取り出してから続けた。

「ずっとあたしとたまちゃんのもう一人のお母さんをしてきたでしょ?
  だからまぁ、ついでと思ってこれも受け取っておいてよ」

そして私にラッピングされた小箱を差し出した。

「……ありがとう日向。大切にするわね」
「うん、ずっとお母さん、お疲れ様。これからも頑張ってね、ルリ姉」

調理の手を止めて私は日向からの真心を受け取った。
そしてわざわざ日向が今日、うちにやってきた理由も合わせて。
思わず鼻の奥がツンとしてしまったけれど。
それを誤魔化すように私はさらに言葉を続けた。

「……でも、あなたもそろそろお母さんになる番じゃないの、日向」
「ん~、まだまだ独身のうちにやりたいことが沢山あるしねぇ。
  結婚はもう少し後でもいいかなぁ、なんて思っているんだけど」
「そんなこといって愛想を付かされてもしらないわよ?」
「大丈夫大丈夫。そんなことでどうにかなるような浅い付き合いじゃないって。
  お母さんたちやルリ姉たちにも負けないくらいだからね!」

自信満々に胸を張りながら言い放つ日向を見ている限りは
確かに余計な心配は要らないようだけれど。

でも、今までそう言いながらも何度も『恋愛相談』って
私に泣き付いて来たのはどこのだれだったのかしらね?
まあその大体が痴話喧嘩の延長みたいなものではあったけれど……

「まあ、その辺りはあなたたちの問題なのだから
  二人でよく話し合って思うようにしていけばいいとは思うけれども、ね」
「そうそう、お父さんやお母さんだっていつもいってたよね。
  だから目標に向かってこれからもあたしの思うように頑張るよ」

そうね、私だってその言葉通りに今までの人生を歩んできた。
あなたたち家族みんなに助けられたおかげでね。

だから、お父さんがいつも言っていたように。
今度はあなたがその過程で壁にぶつかるような事があれば
私達が必ずあなたを助けてみせるわ。

そんなことを料理をしながら話していた私達だったのだけれども。
いつの間にか悠璃が台所に入ってきて遠慮がちに尋ねてきた。

「お母さん、わたしが手伝える事、なにかない?」
「あら、それなら早速あの券を使わさせて貰おうかしらね。
  じゃあ悠璃。こっちのサラダをお皿に盛り付けておいて頂戴」
「へぇ、悠璃ちゃんは偉いねぇ。今から台所のお手伝いしていたら
  きっとルリ姉みたいにお料理上手なお母さんになれるよ」
「うん!」

刻んでおいた野菜を嬉しそうにお皿に並べていく悠璃。
そういえば、その昔、当の日向にもこんな風に台所の
手伝いをしてもらいながら、料理を教えた事があったわね。
それなら、あなたも直にお料理上手なお母さんになれるのかしらね?

そもそも私だって元はといえば、お婆ちゃんやお母さんから
こんな風に実地で料理を習ってきたのだものね。
それはきっとお母さんやお婆ちゃん自身だって。

「ほら、悠璃。色合いを考えてバランスよく盛り付けるのよ。
  それにあまりつめ込まないでふんわり丸く円を描くように、ね」
「はい……えーと、こうかな?」
「ん、いいねいいね。おいしそうでますます食欲が沸いてきたよ!」

こうしていつの世代にも受け継がれていくものなんでしょうね。
母から娘に、姉から妹へ。掛け替えのない家族のために。
そしていつかはそれぞれの持つ家庭のためにも。

だからあなたもいつかこうして自分の娘に教えてあげてね、悠璃。
その時になれば今日私がどれだけ嬉しかったのか。
あなたにもきっとわかるのでしょうから。

私はやはり失ったはずの『神眼』でそんな未来を垣間見ながら。
その時が確かに訪れるようにと、母の日に母の務めを果たすのだった。

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