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『新年の母と娘のガールズトーク』:(直接投稿)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
明けましておめでとうございます、黒にゃん!

今年こそは黒にゃんの未来に祝福が訪れるよう祈るためにも
SSを投稿させて頂きました。

この話は俺妹HD家庭派ルートをベースにして、拙作
『家庭派アイドルの11月29日』
『聖なる夜に幸いあれ』
から話が続いていますが、問題なくこの話だけで読んで頂けると思います。

それでは少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

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「あけましておめでとう、瑠璃。あら、いい匂いがするわね?」
「あけましておめでとう、お母さん。ちょうどお雑煮用の
  お汁を作っていたのよ。そろそろ日向たちもおきてくるでしょうから」

小皿で味見をしながらゆるやかに鍋をかき混ぜる。

うん、塩加減もちょうどいいかしら。これなら皆に喜んでもらるわね。
なんといってもお婆ちゃん直伝の、自慢の五更家のお雑煮ですもの。
できれば先輩にも食べてもらいたかったけれど……
唯でさえ試験が迫った大切なこの時期に、そこまで拘束できないものね。

「でも瑠璃、あなた昨日の夜から初詣に出かけて
  帰ってきたところで寝てないんでしょう?
  あとは私がやるからあなたももう寝ていらっしゃい」
「いえ、大丈夫よ、お母さん。みんな起きてきたら朝ごはんを食べて
  すぐに神社にお参りにいくんでしょ?私だけ置いてけぼりなんて酷いわ」

軽く片目を閉じてお母さんに悪戯っぽく笑いかける。
お母さんはちょっと眉を寄せて困った顔をしたけれども。

「あなたがそうしたいのならいいけれど。アイドルになってから
  ただでさえ毎日大変なのに、お正月くらいゆっくり休むものよ?」
「忙しいときには何日も完徹してるお母さんに言われたくはないわ」
「私はもう大人だけど、あなたはまだまだ身体を作る大切な時期でしょう?
  昔からいうでしょう。睡眠不足はお肌の天敵だって。それにね」

お母さんはそこで一旦言葉を切って私の目をじっと見つめて続けた。

「今の瑠璃に大切な時期に、京介君にいつでも瑠璃の可愛い姿を
  見せたいと思っているなら常日頃から気をつけていないと駄目よ?」
「なっ!?ななななにを言ってるのよ、お母さん!?」
「あら?違うの?だって今は京介君との仲は保留状態なんでしょ?
  だったら努々磨きをかけて他の娘につけいる隙を与えないように
  しないといけないじゃない」
「ち、違うのよ。確かに先輩の事を想っている娘は他にもいるけれど。
  先輩が一度とはいえ私と付き合ってくれたのは外見というわけじゃあ……」

実際に先輩の好みをもっとも適えている、という意味では
あやせが一番合致している、とも桐乃から聞いているわ。

それに田村先輩の周りの人を落ち着かせるような
笑顔だって、先輩が本来望んできたものでしょうし。
それに……やっぱり田村先輩は眼鏡もポイントが高いのでしょうし……

そもそも先輩の好みというのならば。桐乃の事を世界一可愛い妹、
と思っているでしょうからね、あの変態シスコンセクハラ先輩は……

考えれば考えるほど気分が落ち込んできて、気付かぬうちに
俯いていた私だったのだけれども。そんな私の顔をお母さんが
両手ではさんで持ち上げて、無理やりに自分の顔をと向き合わせた。

「こらこら、瑠璃。そんな弱気でどうするの?自信を持ちなさい。
  あなたは私の。いえ、私とお父さんの自慢の娘なんですからね?
  世界一可愛い女の子に決まっているじゃない」

私を励ますといえば聞こえはいいけれど。親の贔屓目を
差し引いてもお母さんはとんでもないことを言ってくれている。
でもお母さんの目は真剣そのもので。それでいて口元には
いつもの優しい微笑みを浮かべていた。

その物言いにその昔は反感を覚えた事もあったわね。
でも、今はそれが母親としての偽らざる気持ちだと理解できる。
幾分、いえ、あまりにも当人には恥ずかしすぎるのが難点だけれど……

「それに考えても見なさい。あなたの言うとおりだとしたなら
  京介君はあなたの内面をしっかりと見て。あなたを理解したうえで
  選んでくれたんでしょう?だったら後は外見を京介君好みに
  近づけていけばもう心配する事なんてなにもないじゃない」
  
澄ました顔でとんでもないことを続けるお母さん。
た、確かにそれも道理かもしれないけれど。
そんな簡単に自分を変えられるならこんな苦労はしないわ。

ふとアイドルになるきっかけとなった桐乃とのやりとりを思い出す。
外見と内面。それを両方とも揃えて、初めて女の子としての
才能とオーラが身につく、というのは確かに真実かもしれないわね……

「だからほら、瑠璃。あなたは恋する女の子として
  心配なんてしてないで、これからも精一杯頑張っていけばいいのよ」
「そ、そんなことは最初からそのつもりよ。私は私の目指す
  目標のために全力を尽くすのだと先輩に誓ったんですもの」
「そう、なら全力を尽くすための下準備だと思って
  少しはお母さんの忠告も聞いてちょっと休んでいらっしゃい」

さも私が真理だといわんばかりの口調で、ずっと私を諭していた
お母さんだけど。最後は文字通りに子供をあやす母親のそれになっていた。

そんなお母さんの気持ちを考えると、それに素直に従いたいのも
山々ではあるけれども。でもこの機会を逃すのも勿体無いわよね。

「そうね……でもせっかくお母さんと久しぶりに二人で台所に立つ
  チャンスですもの。やっぱり私もこのままお母さんの手伝いをするわ。
  それくらいならいいでしょう?」
「まったく強情な娘ね……お父さんにそっくりよ?そんなところ」

いいえ、私の見ている限り、それは間違いなくお母さんの方だと思うわ。
普段はのほほんとしているのに、一度決めた事は絶対に曲げようと
しないんだものね。今だって、ほら。

「まあいいわ。じゃあ瑠璃はそのままお雑煮のお汁を仕上げて頂戴。
  私は煮物を用意するわね。おせちのばかりじゃちょっと冷たいもの」
「はい。こっちが終わったら下ごしらえを手伝うわ」
「お願いね。私だって家庭派アイドル瑠璃の母親として
  恥ずかしくない料理の腕をたまに家族には見せてあげないとね?」
「ふふっ、期待しているわ、お母さん」

私がまだ日向くらいの昔のこと。私の料理の基礎技術は
当時から仕事の忙しかったお母さんよりも
お婆ちゃんから教わった事が多かった。

でもお婆ちゃんが体調を崩して寝込みがちになった時に。
お婆ちゃんとの約束を果たすため、家事を自分が引き受けると
私は必死になってお母さんにお願いしたわ。

お母さんはそんな私に、お婆ちゃん譲りの料理のレシピや
主婦として効率よい作業の進め方を空いた時間に
実地で叩き込んでくれたものね。

そのおかげで今の私のアイドルとしての立ち位置があるのだから
『此方の世界』での仮初とはいえ、人の身の運命というのは
本当に何が影響するのかわからないものよね。

だからこんな新しい年の始まりの日には。
あのときの運命を振り返ってみるのも悪くない。
それが今の私を形作る『原石』になっているのだから。

昨年もいろいろな事が起きすぎて、私の人生が一変するような
出来事が、それこそ両手で数えても足りなくなるくらいにあったわ。

その上でも、今年はきっと私にとって大きな変化を迎える年になるはず。
私の目指す『理想の世界』を掴めるかどうか。
その審判の日はきっとすぐ目の前まで近づいてきているですもの。

だからその『最終決戦』に備えて。
お母さんのいうように私自身を磨き高めていこう。
『原石』を磨き上げて『宝石』にするように。
永遠の好敵手たるあの娘に正面から向き合えるように。

お母さんの小気味よい包丁の音をすぐ隣で聞きながら。
お鍋をかき混ぜる私は、そんな決意を改めて心に誓っていたわ。


  *  *  *


「……で、今日の初詣はどうだったの?瑠璃」
「いつものように、桐乃と沙織、先輩と私で行ったんだけど。
  人がまるで夏冬の祭典のように境内に溢れかえって酷い有様だったわ。
  幾多の『戦場』をくぐりぬけてきた私でも、祭典とは違って
  無秩序に荒れ狂う人の波に翻弄されて為す術がなかったわね……」
「まああなたの身長ではそれも仕方ないものね」
「でも……そんな私を先輩が身体を張って庇ってくれて。
  アイドルのときに、マネージャーとして雑誌記者や過激なファンから
  私を守ってくれるときよりもこう、ぎゅって私を包み込んでくれて」

身振りでそのときの状況を説明する瑠璃。
野菜を刻む手を止めてちらりと見た瑠璃の目は
完全に夢見る乙女のそれだったわね。

「そ、そう。頼もしいわね、京介君」
「ええ、何度も何度もぶつかってくる人から私の楯になってくれたわ。
  本当に先輩は自分のことなんて構わずに
  いつだって他の人のために頑張ってくれるんだから。
  ……少しは心配する人の事も考えて欲しいものよね」

ちっとも心配しているように見えないくらい
はにかんだ、それでいて、なるほどアイドルに
相応しいといえる華やかな笑顔で瑠璃は続けている。
この娘のこんな笑顔は母親の私としてもなかなか見る事ができない。

「私のことは心配しないで無理をしないで、って言ったら
  『馬鹿、こんなところで黒猫をちょっとでも怪我させようものなら
    俺はマネージャー失格なんだよ!』って叫んでもっと抱きしめられて。
  まったく、一緒にいる私がどれだけ恥ずかしかったと思っているのよ……」

そのときの恥ずかしさを思い出したのか、
顔を両手で覆って俯いてしまった私の自慢の娘。
そしてこの話を振ってからずっと瑠璃の手が止まっていたので
瑠璃の見ていたお鍋の中身がぐつぐつと音を立て始めていた。

「る、瑠璃、お鍋煮立っちゃうわよ。火を止めて頂戴!?」
「え?ああ!?ご、ごめんなさい」

漸く我に返って慌ててコンロの火を止めた瑠璃だったけれど
真っ赤に上気した表情はさっきのままだったわね。

「ねぇ、瑠璃?」
「……なあに、お母さん」

相変わらず放心してぼんやりとしていた瑠璃に
私は心の底から思った疑問を尋ねてみた。

「そのままぎゅって抱きしめ返して『もう二度と私を離さないで』って
  京介君に伝えればそれで万事解決じゃないの?あなたたち」
「え、ええ、あぅあ、ううぅぅ……」

頭から蒸気を吹き出しそうなくらい真っ赤になってしまった瑠璃は
完全に思考がシャットダウンしてしまって、身体はリブートするまで
動きそうにもなかったわね。

……この娘が自分の気持ちに正直になって
それを正直に伝えるためにはまだまだ高い高い壁がありそうね。
溜息をつくと共に、どこか安心している自分もいる。

どちらにせよ、久しぶりに瑠璃と二人で料理をするチャンスは
どうやら次の機会を待つことになってしまったようね。
でもまあ……今日はそれもいいでしょう。

私は期せず当初の目的が果たせたことに
先ほどとは違う苦笑を口元に浮かべてしまう。
そして茫然自失になっている我が娘を、苦労しながら
居間のコタツまで運んで休ませることになったのだった。

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