2ch黒猫スレまとめwiki

無題(五更家の11月11日):104スレ目714(短編)

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「ねえ、ルリ姉。今日って11月11日だよね」
台所で物思いにふけっている姉に呼びかける日向。
「ええ、そうね」
返ってきた返事は、さほど機嫌よくも悪くもない、という様子だ。
「あの~、11月11日にちなみまして、胃袋、と言いましょうか、口、と言いましょうか、
 その辺りで一つ……」
あまりごり押すわけにはいかない。
押しすぎて姉の機嫌を損ねてしまえば、ポッキーどころではなくなる。
瑠璃の表情を見ながら、日向は押し引きをする腹づもりであった。
「あら、そういうこと。わかったわ、そうしましょうか」
そのつもりであっただけに、瑠璃があっさりとこちらの申し出を受け入れた時、日向は喜ぶよりも
むしろ戸惑いを感じた。
「……え、いいの?」
「そうして欲しいのではなかったの?」
「い、いやそうだけどさ……」
言いよどむが、『どうせ拒否すると思ったから交渉していくつもりだった』とは言えないし、
言ういわれもない。
「おかしな子ね? まあいいわ、そういうことなら追加の買い物に行ってくるから留守番していて頂戴」
「うん、わかった」
ジャージの上から父のジャンパーを引っかけ、買い物かごを手に出ていく姉の背中を見送りながら、
日向は思いもよらぬ幸運を喜んでいた。

◇ ◇ ◇

二十分ほどして、玄関の扉が開く。
「お帰りルリ姉。……で、例のものは?」
「大丈夫よ、ちゃんと足りない分は買ってきたから」
「やった! じゃあ早速いただきます!」
「もう、そんなに食べたかったの? すぐに作るから珠希と宿題でもして待っていて頂戴」
「……作る?」
会話の噛み合わなさを感じながらも、日向は言われるままに、妹とともにこたつの上にノートを広げた。

◇ ◇ ◇

「できたわよ。こたつの上、片付けて頂戴」
それからさらに二十分ほどして、日向達のいる居間に瑠璃が土鍋を抱えて入ってきた。
「はい、今日は日向のリクエストに従ってあげたわよ」
そう言いながら、湯気の立つ土鍋をこたつの上に置く。
「え、何これ?」
冷蔵庫の中に残っていたであろう各種の野菜と少しの鶏肉、カマボコ、そして大量のうどんが、
熱く煮えた出し汁の中を泳いでいる。
「晩ご飯何にしようか迷っていたのだけれど、日向が『今日は11月11日だ』とか『胃袋』
 とか言うから思いだしたの。今日は『麺類の日』だったわね」
「そ、そうなんだ……」
「半端なお野菜もまとめて煮込めるし、身体も温まるし、うどんすきもたまにはいいわね」
「そうだね……」
釈然としないものを感じながらも、日向は椀にうどんをよそう。
別に、このうどんすきがどうだ、と言うわけではない。
姉の料理についての腕は信頼しているし、最近気候が急速に冬に向かっていることもあるし、
むしろこの献立は喜ぶべきところなのかもしれない。
だが、しかし、けれど。
「日向、ひょっとして……」
あの香ばしいプレッツェルと、ほろ苦いチョコレートのマッチングを受け入れるつもりで準備を整えていた
舌と胃袋をなだめながらうどんをすする日向の表情を見て取ったのか、瑠璃が声をかけてくる。
「どうしたの?」
やっとわかってくれたのか、と思いつつも、何気ない口調を返す。
「『もやしの日』の方だった?」
「もやしなんてしょっちゅう食べてるじゃん! もういいよ!」
どうしてこの人との会話はすぐ漫才になってしまうのだろうか?
その思いは、熱いうどんよりもなお、飲み込みがたいものであった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー