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『100冊目の誓い』:(直接投稿)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
まずは黒猫スレの100スレ突破、おめでとうございます!!
枯れ木も山の賑わいとばかりに、記念の一つにでもとSSを投稿させて頂きました。

このSSは『--先輩と、遊園地に行く』から話が繋がっていますが
この話だけでも(私の力量不足以外では)問題なく読んで頂けると思います。

それでは少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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「瑠璃、さっきから何を読んでいるんだ?」
「私たちが今まで紡いできた『真・運命の記述』よ、京介」

いつもと変わり映えはないけれど、穏やかな休日の昼下がり。
今日は勿論大学の講義もないし、二人ともバイトの予定も入っていない。
梅雨もそろそろ明けたのか、すがすがしい青空が空一面に広がっていた。

私はお昼の片付けを終わった後、居間の机に座って
今まで書きあげてきた『真・運命の記述』をゆっくりと
読み返していたのだけれど。

同じく居間でTVを見ながらのんびりしていた京介が
ふとこちらを振り返って声をかけてきた。

「え、これ全部か?」

机の上には本棚から取り出した『真・運命の記述』が
文字通り山のように積み上げられていたわ。

「ふっ、私たちの今までの『魂結の軌跡』をこの書には
  刻み込んできたのだから、これくらいは当然の量よ」
「とはいえ……いったい何冊あるんだ、これ」
「さっき書きんだ分で、ちょうど99冊目が終わったところよ」
「きゅ、99冊だって!?」

心底驚いたように大声をあげる京介。

せっかく穏やかな空気に合わせて今までの思い出を振り返っていたというのに
まったくいつになっても乙女心の機微がわからない残念な雄ね。

「そんなに驚くことないじゃない?
  私たちが『魂の邂逅』を果たしてから一体何年たったと思っているの?」
「付き合いだしてからなら俺が高校3年の夏からだから……
  直に4年になろうってところか。いや、そりゃあ期間としては
  十分あったのかもしれないけどよく書き続けたもんだと思って」

改めて感慨深げに堆く積み上げられた『真・運命の記述』を見渡す京介。

……まあ、若干引き気味な気もするけれど
その辺は本当、いい意味でも悪い意味でも正直な人よね。

「これでも私にしては少ない方だと思うわよ?
  以前の『運命の記述』と違って私の願望や預言は極力省いて
  あなたと決めた予定や過ごした出来事を書き綴っただけなのだから」
「じゃあ俺たちのスケジュール帳兼日記みたいなもんか。
  そういえば最近は『儀式』とかやってなかったもんなぁ」

だって、もう『儀式』を行う必要はなくなってしまったもの。
私の願いだけを一方的に書かざるをえなかったあの時とは違って。
ずっと離れないであなたと共に歩んでいこうって決めたその時から、ね。

「ふふっ、そうね。今はやりたいことがあれば
  あなたとこうしてなんでも話して決められるもの。
  まあ、今日でこの99冊目もいっぱいになってしまったから
  ちょっと感傷的になって今まで書いてたことを見返していたのよ」
「そっか。でも改めて昔のことを見返すとなると
  なんだか恥ずかしい事ばかり書いてある気もするんだが……」
「何を言っているの京介」

恋人の顔をまじまじと見つめてから私は言い放った。

「あなたが恥ずかしくなかったことなんてないじゃない。ほら、こことか」

『○15年3月2日
  ・同棲のお許しをもらうために京介のご両親に会いに行く

    私の説明の後でも難色を示していたお母様を説得するため
    京介は即座に土下座を敢行。「一生のお願いだ、お袋!」と懇願 』

「まったく、いったいあなたの一生は何度あるのかしらね?」
「ぐわああ、そ、そんなところまで書かなくてもいいだろう!?」
「だめよ。だって」

大好きな人の顔を見つめたまま、私は言葉を続ける。

「だって……すごくうれしかったんだから……」

あの時に感じた気持ちを思い出したとたん
一気に湧き上がった恥ずかしさで私の顔は赤く染まっていく。
でも、あの時と同じように、私の顔は自然とほころんで
満面の笑顔を形づくっていた。

そんな私を見て、過去の恥ずかしさに悶え苦しんでいた京介も
そっかと呟きながら満足げに微笑んでくれていた。

いつだってあなたは。

どんなに傍目には、恥ずかしくて情けなくて格好悪いことだって
そんな事はお構いなしに、私の、いえ、私たちのために
全力で向かっていくのだから。

そんなあなたは誰が何と言おうとも、本当に素敵で。
誰よりも格好いい自慢の彼氏なのよ?


*  *  *


しばらく私たちは『真・運命の記述』に書かれていたことを
読み返しては、その時のことを思い出して思い出を語り合った。

本当にここまでの間、いろいろなことがあったわ。

京介と付き合いだして、始めて行った遊園地のデート以来
この『真・運命の記述』を書き始めてからというもの。

「まずは私の引っ越しのことからだったわね」
「あの時は急な話でびっくりしたっけな。
  まあ、あの時も瑠璃の考えはしっかり教えてもらったけど」
「ごめんなさい、今考えてみても本当、思いなおしてよかったと思うわ。
  それも、みんなあなたのおかげよ、京介」
「お互い様だろう?俺も瑠璃や桐乃の気持ちに
  全然気がついてやれてなかったんだから」

私の引越しが落ち着いた後、私の新居に京介と桐乃を招待して
3人で話し合うことで、桐乃の正直な気持ちを知った私たちだけど

『だけどあんたもいったでしょ?
  私に本当に好きな人ができたらイヤだけど止められないって。
  だってあんたも黒猫も……本当にお互い好きなんでしょ?
  だったら……妹として、親友としてそんな二人を止められないじゃない』

京介が誰かと付き合うのが嫌だと言ったにも関わらず
桐乃はそういって笑顔で私たちのことを認めてくれた。
多分、というより絶対無理をしているのはわかったけれど
この時はお互いにそれは言わないのが礼儀というものだった。

だってきっと立場が逆だったら……私だってそうするのだから。

なんにせよ、京介と共に『理想の世界』に向けて
まずは確実に一歩を踏み出せたのは大きな収穫だったわ。

「それから京介が勉強のために一人暮らしを始めたのよね」
「桐乃とのあらぬ誤解を立てられてなぁ。
  まったくこんなかわいい彼女がいるのにお袋もひどい話だぜ」
「でもあながち的外れでもなかったのがさすがにご両親だったのでしょうね」
「まあおかげで勉強に集中して志望校にはこうして合格できたんだからな。
  あの時は瑠璃が俺のために一生懸命世話してくれて嬉しかったよ」
「……その座を掴むまでが大変だったのだけどね。
  本当あなたは誰にでも優しいから、彼女にしてみれば気が気じゃないわ」
「そんなことはないと思うんだけどなぁ。
  あれが人生に1度は訪れるというモテ期ってやつだったのかもしれん」
「あなたが『俺のことを任せられるのは彼女だけだ!異論は認めん!!』
  なんて絶叫したときには恥ずかしくて穴があったら入りたかったわ……」
「でもあれで皆が納得してくれたんだから正解だっただろう?」

あの後、京介のお世話を任せられたのはよかったけれど
私の家から京介のアパートまでの距離がやはりネックだった。

だけど日向が五更家の家事を率先して手伝ってくれたり、
沙織や田村先輩、それにあやせや加奈子までもが私の忙しいときには
助けてくれたりで、まわりのみんなの心づかいが本当に嬉しかった。

「それから桐乃と田村先輩の因縁を精算するべく雌雄を決したのよね」
「物騒な言い方だな、おい!4人で集まって話しただけだろう?」
「……あなたに乙女心の何たるかをわかって欲しい、
  というのが無理な相談なのはわかっているけど……
  あれが単なる話し合いに見えていたというのだから本当に困った雄ね」

改めて桐乃の内面に潜む問題を解決するべく、田村先輩に助力をお願いした。
田村先輩の心情を慮れば、なんて酷い女だと自分自身思ったけれど。
でも田村先輩は怒ることも皮肉一ついうこともなく笑って協力してくれた。

『黒猫さん、いいえ、瑠璃さん。京ちゃんのこと、本当によろしくね』

京介のことを長い間好きであり続けた田村先輩が、恋敵といえる私に
どうしてそんなことがいえるのか私にはいまだに答えが見つからないけれど。

その申し出には勿論力強く答えを返したわ。

桐乃と田村先輩の話を聞くことで、桐乃が小さい頃から
京介に抱いていた気持ちを私たちは改めて理解した。
それを昇華しない限り私たちが『理想の世界』に至ることがないことも。

「だからあの年のクリスマスは、桐乃と兄妹水入らずで
  心行くまで楽しんだのよね、京介?」
「な、なんだよ。あれは瑠璃だって承諾済みだったろう?」
「勿論よ。桐乃の心を解放しない限り、私たちの幸せもまたないのだから。
  でも……私だって恋人との始めてのクリスマスに対して
  ……その特別な思い入れもあったのよ……察して頂戴」
「ごめんな……でもプレゼントの手編みのセーター、本当嬉しかったぜ」
「……うん。あなたのラピスラズリのペンダントも嬉しかったわ」

紆余曲折の末、京介に複雑すぎる感情を抱いた桐乃の気持ちを
真正面から受け止めようと、京介はクリスマスをはじめ
高校卒業までの間、本当の恋人のように桐乃との時間を大切にした。

私もそんな二人をなるべく邪魔しないように考えていたのだけど
『あんたや沙織もいなくちゃ始まらないでしょ?』と
誘われたときには勿論喜んで遊びにいったわ。

「翌年の春には京介は無事に大学に合格して
  このアパートで一人暮らしを始めることになったのよね」
「まあ、実家から通えなくはなかったけど桐乃や親父の意向もあったんだ。
  ……きっと桐乃は自分を見つめなおす時間も欲しかったんだと思う」
「それはきっとあなたも同じよね?」
「まあな。でもお互いにいつかは独り立ちしなければならないだろう?」
「そうね。寂しいことではあるけれど」

私だって五更の家から出る時には寂しくて仕方がなかったけれど。
珠希が目に涙を浮かべながらも笑顔で送り出してくれたことは
今でも忘れられない私の心の支えになっているわ。

それに……たとえ距離が離れようとも心が繋がっていれば大丈夫。
私も京介もその確信があったからこそ決断できたのだしね。


*  *  *


それからも勿論、毎日が何かのイベントさながらの
熱気と活力に溢れた忙しくて楽しい日々が続いたわ。

松戸の高校でようやく私の作った友達が
実は2歳も年上で京介の中学校時代の同級生だと知ったときは驚いたわ。
本当に私の運命は全てこの人に結びついているのかしらね。

京介と恋人になって1周年目の夏には、いつものサークルメンバーと
そして冬コミ同様参加してくれたあやせとで、前の年よりさらに
賑やかになった私たちのサークルは、3回連続で完売と言う
喜ばしい記録も打ち立てられた。

それにコミケでは弁展高校のゲー研のメンバーと一緒に作成したゲームも
出すことができたわ。ストーリーを練り直した「真・強欲の迷宮」は
前作からの変化にネットでは作者が変わったとかいわれたけど失礼な話よね。
ちょっと実体験を元に恋愛要素を強めにしただけじゃない。

それからその年の夏には五更家の家族旅行と、コミケの打ち上げも兼ねて
京介、桐乃、沙織、瀬菜や真壁さん三浦さんや秋美なんかも招待して
山にキャンプに行ったわね。

瀬菜と真壁さんの想像以上のバカップル振りに皆お腹いっぱいだったけど
日向には『大丈夫、ルリ姉達も全然負けてないよ』
なんてため息混じりに言われたり、秋美は秋美で涙ながらに
『全てのリア充どもに破壊の鉄槌を!』なんて物騒な台詞を叫んでいたわ。
……まったく誰の影響かしらね。

2度目のクリスマスでは今度こそ大好きな人と幸せを満喫できた。
京介が率先してデートコースを考えてくれたのだけど、遊園地の時のように
慣れないながらも精一杯エスコートしてくれたのが嬉しかった。
その日の最後はいつものメンバーで集まってパーティだったのだけど
それが私にも京介にも一番の幸せなのだものね。


翌年。受験生になった私が志望したのは勿論京介と同じ大学だった。
お母さんと同じく、コンピュータ関連の技術を本格的に身につけておこうと
情報工学部を目指すことにしたわ。もちろん、創作によるプロデビューの夢も
捨てたわけじゃないけれど、手に職はつけておかないといけないから。

だからこの年は受験勉強と平行して創作活動も引き続き行っていたりで
あまり京介やみんなと遊びに出かけたりはできなかったけれど。
あの時の京介のように、みんなが何かと私のサポートをしてくれていたわ。
いつの間にか私の周りにはこんなにも素敵な人たちが集まっている。
心の底から嬉しかったし、皆には感謝したいことばかりだった。

それもこれも……みんなあのオフ会がきっかけだったのよね。
本当、沙織には一生頭が上がらないわね。京介や桐乃と同じように
あたなにもこれからもずっとその恩返しをしないといけないわね。


みんなのおかげで無事に京介と同じ大学に合格したのだけど。

それまでも何度か一人暮らしの京介のところにお邪魔しては
京介の不摂生な生活をなんとかしたかったのだけど
一向に改善しない状況に業を煮やした私は、京介と相談して
この機会に同棲させてもらうことにした。

純粋に一人暮らしの資金を節約したかった……という問題もあったけれど。
私が家から離れることでお母さんの仕事量を減らさないといけなくなって
仕送りに頼るなんてこと、とてもできなかったから。

それに……出来ることならその……
もう京介と片時も離れたくなかったから……

でも、今考えても私にしてはすごい決断をしたものだわ。

私の両親は京介の人となりはもうすっかり把握していたし
日向や珠希のフォローもあってすぐに説得できたのだけど
京介のご両親は私のことを気遣ってかなかなか首を縦に振ってくれなかった。

でも最後には京介の真摯な訴えと私の決意を認めてくれたお父様が
お母様の説得にあたってくれたわ。本当、京介は子供に理解ある
良いご両親をもったものだと思うし、そんなご両親になんだかんだと
信頼されている京介もやっぱり素敵よね。

そんなわけで私にとって大学生活と大好きな人との同棲生活が
一挙に始まったわけだけど……最初は慣れない生活と感覚に
文字通りに目が回りそうだった。

でも私のなけなしの勇気を振り絞って決断したことなのだから
ここで泣きごとなんていおうものなら、私たちを信頼してくれた
みんなを裏切ることになってしまうもの。
それこそ死に物狂いになって頑張ったわ。

そんな私を京介もずっと気を配ってくれたし
桐乃や沙織が頻繁に遊びにきてくれたりもしていたわ。
桐乃の気持ちを考えるといろいろと複雑なところもあったのでしょうけど
純粋に私のことを気遣ってくれているのが嬉しかった。

『まったくあんたはいつも自分だけで
  責任感じてしょいこもうとするから無理が出てくるんだって。
  ……みんなあんたたちの力になりたいって思っているんだからね。
  だからいつでも頼ってよ、ルリ姉?』

照れくさそうにはにかんだ表情でそんなことを言われた私は
桐乃が妹ものに嵌る理由が少しだけ理解できてしまった気がしたわ。

まったく、今まで以上に私の心を虜にするだなんて、本当に罪な兄妹よね。


*  *  *


「さすがに瑠璃が大学入った後は、書いている内容が日常的になってくるな」
「それはそうでしょう、ずっとあなたと一緒に暮らしているんですもの」

逆に生活感溢れる記述が増えてくるから、思い出として振り返るような
出来事は相対的に少なくなってしまうのだけど。

それでも私の入学式に京介がちゃっかり父兄席に参加してたりとか
京介のお友達に紹介された時には私ががちがちに緊張していて
質問されたことをあることない事話してしまって京介に怒られたりとか。

京介が単位を取り損ねていた一般教養で二人で並んで講義を受けたりとか
今までサークルに入ってなかった京介と一緒にゲーム制作部に入ったりとか。
今でも当時のことを思い出せるような記述はたくさん残っているわね。

大学のことばかりではなく勿論いろんな場所にデートにもいってるわ。
夏冬のコミケは勿論、お互いの誕生日やイベントのあるような日は
率先して二人で、時には皆と出かけている。

もっとも何も書き込むような項目の無い日だって沢山あるのだけど。
お互いに講義やバイト、サークル活動なんてあった時には
朝と夜くらいしか顔を合わせないときだって少なくないわ。

でも……あなたと一緒にいられる時間さえあれば。
それは私にとっては幸せすぎる日なのだけどね?

「でもさっきもいったけど、この『真・運命の記述』に関しては
  あなたと話し合って決めた予定と実際の出来事に絞って書いているから」
  
私は机の上に開いていたノートPCの画面を京介に見せながら
アプリを起動して一覧にまとめられたデータを表示する。

「日々の献立や栄養、家計とか私たちの体調管理、細かなスケジュールに
  関してのことなんかはこっちのPCで集計してまとめているわ。
  こういうことは専用のツールでないと状況の遷移とか把握しきれないし」
「……なあ瑠璃。俺が自己管理とかできないやつな理由がよくわかったよ」
「今更そんな泣き言を胸を張って言わないで頂戴。
  ……それにこれは私が好きにやっていることだから
  あなたは気にしなくてもいいのよ」

結局私はこういう作業が楽しいからやっているのだしね。
このあたりはきっとお母さんの影響が大きいのでしょうね。
お父さんはどちらかというと京介に近いくらいおおらかな性格だし。

その甲斐もあって、最近京介が体調を崩したこともないし
様子を見に来た京介のご両親にも安心してもらえている。
彼女としてはちょっと誇らしいことよね。

「付き合い始めた時、瑠璃はしょっちゅう自分が彼女として
  十分できているのかって心配していたけど……
  こうしてお前とずっと一緒にいると俺の方が心配になってくるよ。
  いつかこんなダメ彼氏に愛想を尽かすんじゃないかってな」
「ふふっ、でも、あなたがそんなダメな彼氏だからこそ
  私は勇気を出してあなたと一緒に暮らす決断ができたのよ?」

昔の私なら京介にこんなことを言われたら慌てて否定したり
『こんなにしたら重い女と思われてるんじゃないかしら』なんて
思考のマイナススパイラルに陥っていたものだけど。

今ではこうして互いに弱い部分を遠慮なく見せ合えるし
それに対する方法も心得ている。気持ちが通じ合っているって実感できる。
さすがに99冊分で培ってきた私たち二人の絆は伊達ではないわね。

「とはいえ、もう少し自己管理できるようになって欲しいものよね」
「へいへい、精進しますよ。ずっと瑠璃だけに面倒を
  かけさせてしまうわけにもいかないからな、これからは」
「これからは?」
「ああ、だって」

京介はテーブルの上に一通の封書を置いた。

「今朝届いていたんだ、内定通知。
  これで無事に卒業できれば俺も来年からは社会人だからな。
  もっとそれを自覚してしっかりしていかないと」
「お、おめでとう、京介!今まで就職活動を頑張ってきたかいがあったわね」
「ありがとな、瑠璃。本当、全部お前のおかげだよ。
  ここんとこ慣れないスーツ着て、試験や面接受けにいって。
  大学受験のときよりプレッシャーがかかって萎縮していた俺を
  お前が毎日を励ましてくれたからな」

京介の朗報と、そんな京介からの心からの感謝の言葉で
私は天にも昇るくらいの気持ちになっていたのだけど。

「でも、それはそうと……どうして今まで隠していたの?
  今朝届いていたというならすぐに教えてくれればよかったのに」

きっとあなたのことだからなにか理由はあるのだと判っている。
でも、少しだけ寂しく思った気持ちがついつい声に出てしまったかしら。
申し訳なさそうに京介は言葉を返してくれた。

「ごめん。まあ、驚かせたかった、ってのもあったけどさ」

京介は頬を指で掻きながら、一度照れくさそうに視線をそらした。

「自分の今の気持ちを素直に伝えられるように時間が欲しかったんだ」

でもすぐに私の顔をまっすぐに見つめて。

「卒業もまだなのに気が早いのかもしれないけどさ。
  でも俺たちの『真・運命の記述』もちょうど100冊目になるんだろ?
  だから今、瑠璃に伝えておくよ」

あなたが時折見せる、惚れ直してしまうような誠実な表情で告げた。

「瑠璃。俺が就職してからも、ずっと一緒にいて欲しい」
「……はい」

私たちの『理想の世界』に至るまでの長い道のりの間には
きっとこれからもいろんなことがあって、『真・運命の記述』も
今までの量なんて取るに足りないくらいの冊数になるのでしょうけど。

今日、100冊目という節目の最初の1ページ目に記したことは
その中でもきっと大切な出来事になるのでしょうね。

『○16年  7月 18日
  ・京介とこれからもずっと一緒にいることを誓い合う』

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