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『弱音男と決意女』:(アップローダー投稿)

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匿名ユーザー

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(2期アニメ11話ラストシーンにて、京介が自分の弱さ、汚さをぶちまけていたら……との妄想短編です。)



   『弱音男と決意女』

「桐乃とのこと、しっかり決着つけようと思ってた。でも、考えれば考えるほど桐乃のことが
 わからなくなってるんだ……」
「そうなの?」
「ああ、赤城には俺達兄妹はあるべき距離感を見失ってるんだ、って言われたけどな」
「瀬菜がそんなことを?」

 共通の友人である少女の顔が浮かぶ。

「いや、兄貴の方」
「ああ、サッカー部の?」

 確か、入部直後に暗部が思わぬ形で露わとなり、パニックに陥った瀬菜をなだめるために京介が電話を
掛けていたような記憶がある。

「あいつは瀬菜が生まれた時からずっと兄貴で、今もそうあり続けている。だから普通にそう言えるんだ」
「あの妹を許容できるお兄さんも大概おかしな距離感を持っている気がするわ」

 それだけ仲がいい、ということではあるのだろうが。

「でも俺は、俺達は数年間、同じ家で、隣同士の部屋にいながらまるで会話もしないような状態だった。
 それが、あいつがDVDを落としたことがきっかけでまた仲良くなった」

 途切れ途切れに京介が言葉を継ぐ。

「いいことじゃないの?」
「確かに、以前よりはマシかもしれない。俺達の距離はずっと近づいてきている。だからこそ、俺は見失った
 距離感のまま、あいつと近づきすぎるのが怖いんだ! 何か、とんでもないことになりそうで……」

 叫ぶように言いながら膝をつき、下を向いてしまう京介。
 それを想像してしまうこと、想像してしまう自分が恐ろしいのだろうか。

「そう……」

 瑠璃にとって、それはむしろ望むところだった。そのはずだった。だが、今目の前で膝をつき、肩を震わせて
いる京介を見ると、その決心が揺らいでいくのが自分でもはっきりわかる。
 思えば、この人の弱さを知ったのはいつのことだったろうか?
 草津でのあの夜、自分が彼にいつの間にか抱いていた幻想、そうであって欲しかった彼の姿をあの子は否定した。
 だが、少なくとも、彼は妹のためだけにはそうあろうとしていた。
 それでも、何をやらせても一流の結果を出してしまう妹へのコンプレックスは拭いきれなくて、それを出版社に
乗り込んだあの日、私の前でさらけ出してくれた。
 そして今も、妹に対し自分が抱いている心を私にだけは明かしてくれた。
 あの時の、今のこの人を知っているのは私だけ。
 弁展高校での、先輩後輩としての数ヶ月。
 そして、人生最大の幸福を覚えたあの夏の日々。
 あなたの知らないこの人だっているんだから。私だけがそれを知っているんだから……
 嫉妬とない交ぜになった優越感に自分でも驚きながら、京介の頭を胸に抱く。

「おい、黒猫……」
「いいのよ……悩んで悩んで結論を出して。私もそうするから……」
「すまん……」

 呟くように言う京介を一度強く抱きしめ、身を離す。
 顔を上げる京介と視線が合う。
 その瞳に自分が映っているのが見え、心臓がドキリ、と大きく脈打つ。

「そろそろ行かないといけないわ」

 その気持ちを抑え、別れを告げる。

「そうか、そうだよな」

 残念そうな京介の様子に、もっと自分といたいのだろうか、と小さな思い上がりが胸をよぎる。
 それでも構わない、いや、むしろそうあって欲しい。この人の中で一番大きくありたい。

「それじゃ先輩、また来るから」

 想いを胸に隠したまま、再訪の意志だけはしっかりと伝える。

「あ、ああ……」

<> <> <>

 予想外に長い時間をあの部屋で過ごしてしまった。学校へ遅刻せずに着く乗り換えはすでに確認してあるが、
それに間に合うように駅に着くには早足で、と言うより走らなくてはならない。
 息を弾ませ走りながら思う。
 あの人との物理的な距離も、過ごした時間も、心の距離さえもあの子と自分とでは隔たりがあるかもしれない。
 それなら走る。今こうしているように。走って差を詰め、抜き去る。
 「同じくらい」でもない、「負けない」でもない、勝たなくては。
 「理想の世界」は前に出て、戦ってつかみ取る。
 そんな決意が、確かに芽生えていた。

<> <> <>

 平日の早朝、東京方面へと向かう総武線は当然のように混雑していた。
 人混みにもまれながら、なんとか窓際にスペースを確保する。
 コミケでも、イベントでもない、いつもなら疲労を覚えるだけであろうその混雑が、その時の瑠璃には
乗り越えるべき障害が実体化したようで心地よくさえあった。
 こんなものはなんでもない。この程度のこと、あの人に会うためなら何ほどのことでもない。
 そう思うだけで、力が湧いてくるように感じる。
 今頃あの人は、他人に、自分に誠実であろうとして悩んでいるかもしれない。
 「とりあえず、それは脇に置いてしっかり勉強しなさい」とでもメールを送っておこうか。
 車窓に流れる朝の風景を眺めつつ、瑠璃はそんなことを考えていた。

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