2ch黒猫スレまとめwiki

無題:90スレ目529(短編)

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匿名ユーザー

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ある休日の午後。
日向は遊びに出かけ、珠希はお昼寝。昼食後の洗い物を済ませた時だった。
不意に、視界が歪む。
「……え?」
狼狽している内に、今度は目の前が眩く発光し始める。
「きゃっ!」
普段は決してあげないような悲鳴が口をついて出る。
爆発的な光の奔流に、思わず目を瞑った。

目を開けると、知らない部屋。
見知らぬ青年が、口をあんぐりと開けて、固まっていた。
「え……黒猫、さん?」
!?
「貴方……なぜ私の真名を?」
問いかけは、彼の叫びにかき消された。
「二次元美少女実体化ーーッ!!」

取り敢えず彼を落ち着かせ(どんな手段を使ったかは聞かないで頂戴)、状況を把握しようと努める。
彼の話によると、私は現実の存在ではなく、アニメ化もされたライトノベルの登場人物だというのだ。
そのアニメを観ていたら、突然モニタが眩く発光し、それが収まると私が出現していたのだ、と。
荒唐無稽な話だが、私が自宅から見知らぬ場所に転移したのは事実だし、それに……彼に見せてもらった
ディスクのパッケージには、決して忘れ得ぬあの兄妹が描かれていたのだ。
自分達の生活が、広く世間に知られている……その事に気付き、満面を朱に染めた私を、彼はどこか
眩しげに見つめていた。
「……こほん」
わざとらしく咳払いをして素に戻る。
超常現象の原因を突き止めなくては……と思ったが、実際何が出来る訳でも無い事にすぐ気付いた。
何か出来ることは……考えに耽る私だったが、目の前で正座し、落ち着かなげに視線を彷徨わせる彼の姿が、
誰かを連想させたのだろうか、つい戯言を口走ってしまった。
「ねぇ貴方……つまりこの世界では、私達の運命は」
駄目だ。仮令それが真実であろうとなかろうと、こんな形で未来を知っては。
取り消しの言葉を口にしようとしたが、私の言葉を耳にした彼の姿を見て、私自身が硬直してしまった。
動揺。悲嘆。憤怒。
そんなオーラを発する彼の姿に、結末を悟ってしまったから。

ライトノベルは、先日完結したそうだ。
訥々と語られる兄妹の物語、私達の結末。
呆然と座り込む私に、彼は。
自分以外にも、君の事を好きで、この結末に我慢が出来ない人がこんなにいるんだ、と。
ネット掲示板の、キャラスレを開いて見せてくれた。

モニタを見つめる私の視界が、不意に歪む。
これは……!?
「光……?」
彼の呟きが耳に届く。私の周囲が、白く輝き始めていた。
先刻と同じ……。ああそうか、戻るんだと、何の根拠も無く思ってしまった。
彼も同じ事に思い至ったのだろう。
「駄目だ! あんな世界に戻っちゃ!」
「妹達もいるし、少ないけれど友達だっているのよ。捨てる事は出来ないわ」
「でも、僕達は、君に幸せに……」
その言葉を聞いて、胸の中に温かい何かが灯った。
だから、彼に最後の言葉を伝える。
「……っふ……莫迦にしないで頂戴……これは私の戦いよ」
彼も知っているだろう、ポーズを決めて。
「誰にも、邪魔はさせないわ」
眩しい白光が、眼を灼いた。

見慣れた自宅の風景が甦る。
先刻までの事がまるで嘘のよう。
でも、私の心にはしっかりと「呪い」が打ち込まれたようだ。
願いは、叶わない。
望んだ未来は、得られない。
しかし、そんな心が軋むようなものだけではなく。
私の知らない所で、私を想ってくれる人がいる。
生まれて初めての実感が、心の片隅に根付いていた。
「運命にだって抗って見せるって……こんな感じかしら」
呟いて、お茶を淹れる事にした。
珠希が起きたら、一緒に買い物に行こう。

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