2ch黒猫スレまとめwiki

◆cG05bRkUiC9t

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「珠姫伝」



 わたしには、ほしいものがあります。
 それは目のくらむようなキラキラな宝物ではありません。
 ひなたおねえちゃんが喜ぶようなおごちそうでもありません。

 ほんのすこし。
 ねえさまほどじゃなくてもいいのです。
 ほんのすこしだけ。
 わたしは“チカラ”がほしいです。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「……よくお聞きなさい、珠希」
「はい、ねえさま!」

 正座してかしこまっているるりねえさまにそう返事をすると、その表情がやわらかな笑みに変わりました。
 でも、それはすぐにまた、かたい表情へと戻ってしまいます。

「正直……貴女にこの戦いはまだ早いわ。事態を回避する手はいくつも打ったのだけれど……」

 そうつぶやくと、苦しそうに言葉を切りました。
 やさしいねえさまは、いつもわたしのことを考えてくれています。
 だからわたしも、なんとかお手伝いをしたいと、いつも思うのです。

「“けいしょうのぎ”で“チカラ”を受けつぐのはまだむりです?」
「そうね、それが出来ればあるいは……いいえ、やはり駄目ね」

 めをそらし、気が重そうにまたつぶやきます。

「今の脆弱な貴女の魔力では逆効果になりかねない……
『うはwwwたまちゃんの女王コスマジクイーン!www ぺろぺろさせて!www』
 とか……目に浮かぶようだわ……」

 ねえさまの言葉にやみの世界のものがまじり始めました。
 こうなると、わたしはなかなか話についていけなくなってしまいます。
 わたしの知っているやみの世界の言葉はまだ少ないのです。

「うんと、じゃあ、お部屋にかくれてます?」
「……それだと、珠希が退屈でしょう? 大丈夫、心配しないで」

 正面に座っていたわたしをだきよせると、今度は力強くこういいました。

「貴女のことは私が護ってみせる……たとえ、天使の暴走が我が身を打ち滅ぼしたとしても……」


 ガラッ


「ちょっとルリ姉、この忙しい時に何やってんの?」
「な……日向……」

 わたしのもう1人のおねえちゃん、ひなたおねえちゃんがおへやに入ってきたのはそんな時でした。
 その表情は「やれやれ」って感じです。
 まるで、夜ふかししてねぼすけさんになった時のわたしをみているよう。

「何故戻ってきたの……! 貴女だけでも逃げなさいと言ったはずよ」
「だからぁ、断るってゆったじゃん」

 おねえちゃんたちの話は、たぶんゆうべ話していたことだと思います。



 わたしたちの家族は、最近おひっこしをして今のお家に住むようになりました。
 それで、前に住んでいたお家のおともだちとはお別れすることになってしまったのです。
 ひなたおねえちゃんはおしゃべりが上手で、誰とでもすぐ仲良くなれます。
 だからここに来てすぐに、新しいおともだちができたみたいなんです。
 それで、今日はその新しいおともだちからおさそいがあったらしいのですが……

「まぁさ、一発目のお誘いから断るのはちょーっと迷ったけど。ちゃんと理由話して納得してもらったよ」
「……本当に納得してもらえたの?」
「うん。むしろこっち優先しろって言われた。『この人と約束があるんだー』って、キリ姉の写メ見せたら」

 キリ姉と言っているのは、ねえさまのおともだちの、きりのさんのことです。
 とてもきれいな人なんですが、わたしはちょっと苦手です……。
 ひなたおねえちゃんの話によると、写メを見せたおともだちから、

『こんな人が友達なんだ!』
『すごいねっ』

 と、すごく騒がれたそうです。

「……ならいいのだけど……私としてはやはり」
「あと、ルリ姉の写メも見せたんだけどドン引きされた」

 それはねえさまが“やまのじょおう”の姿をしているものでした。
 あいかわらず、とてもすてきです。
 ひなたおねえちゃんの話によると、写メを見せたおともだちから、

『こ、こんな人がお姉ちゃんなんだ……』
『す、すごいね……』

 と、やっぱりすごく騒がれたそうです。



「……く……フ、ふふ……やはり人の身では我が“魔力”は見ぬけぬか……」
「や、魔力はともかく、ある意味すごい威力あったよ? 話のネタ的な意みゅてぇぴョ」

 るりねえさまがひなたおねえちゃんのほっぺをぐにぐにと引っ張りはじめました。

 今日も2人はとってもなかよしさんです。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 あ、ご紹介がおくれてしまいました、ごめんなさい。
 わたしの名前は五更珠希といいます。
 るりねえさまとひなたおねえちゃんの妹。
 三姉妹の末っ子です。

 今日、ふたりのおねえちゃんがバタバタしている理由。
 それは、きりのさんが遊びに来ることになっているからです。
 いつもはおにいちゃん(きりのさんのおにいちゃん)もいっしょに遊びに来るのですが。
 今日はおべんきょうがいそがしくてこれないんですって。
 それを知ったねえさまは、

「世界の危機が迫っている……」

 と言って、わたしやひなたおねえちゃんに外へ遊びに行かせるよう、がんばっていたのでした。
 なぜだかはよくわからないのですけど。

「だからァ、キリ姉との約束をあたしが切るわけないじゃん」
「はぁ……本当にしょうがない子ね」

 理由がよくわかっていないのは、ひなたおねえちゃんも同じ。
 るりねえさまの言うことを聞く気はない感じです。
 結局は、るりねえさまもあきらめ半分といったごようす。

「では、これだけは約束して頂戴。
『おにぃちゃん』、
『だいすき(はぁと)』、
『モエモエ~、きゅん』、
『べ、べつにキリ姉のことなんか好きじゃないんだからねっ』、
 あるいは、これらに類する言葉を決して口にしては駄目よ」
「はいはい。わかってるってェ。ていうか、そんな恥ずかしいのゼッタイ言わないよ……」

 そんな2人はどこか楽しそうです。
 おともだちが来るのですから、それも当然ですよね。
 でも、わたしは――

「日向……分かっていないようだけど、これは遊びじゃないの」
「今日キリ姉と遊ぶんだよね!?」

 そんな2人のたのしそうなやりとりを聞きながらわたしは。

 きりのさんと会うのはちょっとイヤだな……と思っていたのです。



 え、ええとですね。
 ほんとうは、こんなこと考えちゃいけないんですけど。
 わたしにとって、きりのさんは……



 なんだか、きもちわるい人なんです。



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ねぇねぇ、たまちゃんってどんなぱんつ穿いてるの?」
「っひぅ」

 きもちわるい女の人……
 じゃなかった、きりのさんにそう聞かれ、わたしはるりねえさまの背中にさっとかくれました。
 なんでわたしのぱんつのことを聞いてくるのでしょう?
 わたしにはわけがわかりません。

「ちょっと貴女……私の妹にいかがわしい質問をするのは止めて頂戴」
「そ、そんなんじゃないってば!
 ホラ、かわゆ~い友達がいたら、どんなぱんつ穿いてるのか気になるっしょ?」
「ならないわよ。フィギュアやゲーム内のキャラのミニスカを覗き込むようなキモオタじゃあるまいし。
 貴女のその幻想はバットで粉砕したくなるわ。まったく、とんだ変態ね……。
 自分がどう見られているか、この子の様子を見て分からないの?
 それとも、もう珠希の相手をしたくないのかしら?」
「ぇぇ~……ぅぅ……」

 るりねえさまの言葉で、きりのさんはかなりひるみました。
 さすがはねえさま。
 その言葉に、天使の苦手な“やみのことだま”がふくまれていたのかもです。

 ところが、そんなねえさまの言葉を、意外な人が打ちやぶってしまいました。

「え、そんなヤバイ要求だったの? あたし見せちゃったけど」
「なん……ですって……」

 とつぜんのひなたおねえちゃんの言葉。
 おどろきでるりねえさまが目を見開いています。

「うえへへへ……かわいかったなー、ひなちゃんのぱんつ」

 きりのさんはすっかり元に戻ってしまいました。
 すごく……きもちわるいです……

「ひ、日向、よく無事だったわね……大丈夫? 記憶とか飛んでない?」
「もぉー、ルリ姉は心配し過ぎだって」

 かなり慌てたようすのるりねえさま。
 でも、ひなたおねえちゃんはあっけらかんとしたものでした。

「別に危なくなんかないっしょ。キリ姉と二人きりの時の話だし」
「一番危険な状況じゃないのっ!」
「え? えぇ~???」

 ひなたおねえちゃんが、不満そうに口をとがらせます。

「じゃあ、ぱんつ見せる時は高坂くんとかがいた方が安全ってこと?」
「……突っ込む人間がいると言う意味ではその通りよ」
「ちょ、あいつより信用ないわけあたし!」

 いみしんなねえさまの言葉に、桐乃さんはぷんすかと怒っていました。



「へー、あれって黒猫とおそろだったんだ」

 ぱんつの話が終わらないので、わたしはすこしはなれておえかきをしています。
 るりねえさまは顔をあかくして、なんだかもじもじです。
 ねえさまもきもちわるいのでしょうか?

「ルリ姉の下着の趣味ってさぁ、わりとフツーなんだよね。白とかしましまとか。
 服では黒とかレースとか大好きなのにねー」
「外は痛々しいゴスロリのくせに中身は正統派ってこと?
 ……何それふざけんな。あたしを誘ってんの!?」
「キリ姉ってさぁ、わりと頻繁に頭おかしいよね」
「ひ、ひなちゃ~ん? いくらかわいくても、言っていいコトと悪いコトってあると思うな~」
「ひひゃい、ひひゃいよひひへ~」

 きりのさんがひなたおねえちゃんのほっぺをぐにぐにと引っ張りはじめました。
 今日も2人はとってもなかよしさんです。

「あんたも気をつけなさいよ。ぶっちゃけ、あんたが妹だったらヤバかった!」
「私は一体何に気をつけなければならないのかしら……」

 るりねえさまはわたしをおひざにのせ、あきれたようにそう言っていました。
 少しはなれた所で、たのしそうにおしゃべりをしているひなたおねえちゃんときりのさん。
 るりねえさまは、そんな2人に、ときどき話しかけられたり、話しかけたりしています。

「あ、たまちゃ~ん、えへへ~」
「……」

 きりのさんは目があうと、かならずわたしに手をふってきます。
 わたしはおずおずとてをふりかえしました。
 そうしないと、なんだかさびしそうな顔になっちゃうんです。
 それはいやですよね。

 だけど……

「フォォォォォォォォォ!!! キタキタキタキタキタ━━(゚∀゚)━━ !!!!」
「はいはい、キリ姉ステイステイ。ほら、キリ姉の好きなメルルだよ~」
「はッ! メルルとたまちゃん……ど、どっちを選べば!」

 うぅ……。
 きりのさんは、だまって立っていればるりねえさまと同じぐらいすてきだと思うのですけど。
 どうして、わたしとお話しするとこうなってしまうのでしょう……

 そのあとも、なにかぶつぶつとつぶやき、
「おちつけ、おちつけあたし。逆に考えるんだ、いっそひなちゃんもまとめて3つ全取りと考えるんだ……」
 と言った所でねえさまに、
「そろそろ通報するわよ……あのスイーツ2号に」
 と冷たく言われ、
「やめて! しんじゃう!」
 と大声をあげたきりのさん。

 そんなきりのさんを見ていていつも思うことがあります。

 どうしておねえちゃんたちは、この人となかよくできるのでしょう……?



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 やがて夕方になって。
 きりのさんは、ひなたおねえちゃんといっしょに家を出て行きました。
 いつもはるりねえさまが駅までつきそうのですが、

「ま、たまにはあたしもキリ姉送りたいし」

 と、おねえちゃんが言ったのです。



「ねえさま、これで全部です」
「ありがとう、珠希」
「こんどは、お台所でおてつだいします」
「ふふ……ありがとう」

 そんなわけで、わたしはねえさまとおかたずけ。
 今は、ねえさまが洗い終わったお皿やカップをふきふきしています。

「あの、ねえさま」
「何かしら?」

 そのとき、わたしはねえさまにこうたずねるつもりでした。



 どうして、きりのさんとなかよくできるんです?



「えと、ひなたおねえちゃんは、どうしてきりのさんを送りにいったんでしょう?」

 でも、わたしが聞いたのはそんなことでした。
 わたしはきりのさんがきらいではありません。
 ただ、きりのさんのことを大切なともだちと思っているるりねえさまですから。
 わたしがそんなことを聞いたら、かなしい顔をするかもしれないと思ったのです。

「……きっとお礼をするつもりではないかしら」
「お礼、です?」
「そう、今日遊びに来てくれたことへのお礼」

 わたしのきょとんとした顔を見て、ねえさまは言いました。

「ねえ珠希。貴女は桐乃のことが嫌いかしら?」
「いえ、きらいじゃないです」

 きもちはわるいですけど。

「そう。嫌いじゃない、そんな程度の相手でもね、ありがたいものよ?
 わざわざ休日を使って遊びに来てくれるのは」

 お皿を洗うるりねえさま。
 その横顔はとてもおだやかで。

「たとえその態度が斜め下すぎるキモオタそのものでもね。
 桐乃はきっと、私や、日向や、貴女と仲良くなりたい、
 力になりたい、そう思っているはず。
 私はね、貴女が桐乃を嫌っても仕方がないと思っているわ。
 だけど、桐乃がそう思っているということだけは知っておいて頂戴」

 洗い終わったお皿をわたしに手渡すときのその顔は。
 わたしの大好きな、るりねえさまの笑い顔でした。



「……ねえさま、わたし、ねえさまの言うことがよくわからないかもです」
「そう。ごめんなさい、私も上手く説明できていないかもしれないわ」

 るりねえさまはそう言ってくれました。
 でも、わたしはそうは思えませんでした。

 ひなたおねえちゃんは、ねえさまが言っていることをわかっていると思います。
 だから、きりのさんを見送りにいって。
 そして、なかよくできているんだと。
 そう感じましたから。

 それは、わたしがまだまだこどもだからで。
 きっとだれにもおこられないし、しかたのないことなのでしょう。
 でも……。

「わたしは、はやくおおきくなって、ねえさまといっぱいお話したいです」

 るりねえさまのいうことをもっとわかって。
 るりねえさまと、もっとなかよくなりたくて。
 そんなことを口にしていました。

 するとねえさまは、

「……心配しなくてもすぐに大きくなるわ。日向もあっという間だったもの」

 わたしの頭をなでてくれて、

「そう、本当にあっという間に……、
 こうやってあなたと遊んであげられる時間も……過ぎ去ってしまうのでしょうね……」

 ちょっとだけさびしそうに笑っていました。



 こんな時、わたしはどうしてだか泣きたくなります。

 姉さまは、笑っているのにどうしてさびしそうなのでしょう。
 さびしそうなのに、どうしてやさしく笑ってくれるのでしょう。

 わたしにはそれがわかりません。



「あら、どうしたの?」

 どうすればいいかわからない時、わたしはねえさまをぎゅっとします。
 そうすると心がざわざわするのが落ち着くのです。
 あたたかい体に押しつけたわたしの頭を、ねえさまはずっとなでてくれています。
 そうしていると、ほんとうにあたたかくて。
 ねえさまの手が、わたしの心までぽかぽかにしてくれるようでした。

「ねえ、珠希。今日は楽しい日だったかしら?」
「……はい。たのしかったです」
「そう、よかったわね。きっと明日も、その先にも、貴女には楽しいことが待っているわ」

 そう言うねえさまの顔には、もうさびしそうなところはありませんでした。

 ねえさまのさびしさはどこにいってしまったのか。
 それもわたしにはわかりません。



「姉さま、これは“呪い”ですか?」

「いいえ、これは“予知”……我が身に宿りし封印された能力のひとつよ」



   ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 わたしには、ほしいものがあります。
 それは目のくらむようなキラキラな宝物ではありません。
 ひなたおねえちゃんが喜ぶようなおごちそうでもありません。

 ほんのすこし。
 ねえさまほどじゃなくてもいいのです。
 ほんのすこしだけ。
 わたしは“チカラ”がほしいです。



 そうすれば、きっと今よりもっと、みんなのことがわかるようになって。

 るりねえさまやひなたおねえちゃん。
 おにいちゃんやきりのさん。
 そして他にもたくさんいる、“やみの世界のじゅうにん”の人たちと、もっともっとなかよくなれる。



 そんな“よち”が、わたしにもあるのです。




     おわり

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー