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匿名ユーザー

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       『純白のシンフォニー』



 若葉に風薫る今日このごろ。
 厳かな雰囲気の中で、
 俺達は共に新たな一歩を踏み出す。

 彼女は父親に手を引かれ、しずしずと進む。
 祭壇の前で待つ俺の許に。
 そして、式が始まった。

 神父による聖書の朗読や賛美歌を、出会った頃の彼女なら何と言っただろうか?
 いや、あの頃とは違う。
 何故なら、今日の彼女は此の上無く白い……純白の猫なのだから。
  
 神父の声が静かに響く。

「汝京介は、この瑠璃を妻とし、
 健やかなる時も病める時も、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつまで、愛する事を誓いますか?」
「…………」

 答えられなかった。

「……やっぱさ、神に誓いを立てるなら、偽りの無い本心じゃなきゃいけねえよな」
「……京介?」

 不安な瞳を向ける瑠璃に、心の中で詫びる……ごめんな。

「……京介。どうしました? 新郎京介」
「あ、ああ、すみません。もう一度お願いします」

 訝しむ神父に詫びて、そして覚悟を決めた。

「……汝京介は、この瑠璃を妻とし、
 健やかなる時も病める時も、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、死が二人を分かつまで、愛する事を誓いますか?」
「……いいえ!」



 一瞬静まる式場。ザワつく参式者。
 今にも殴りかかって来そうな程に真っ赤な顔で憤る親父と、
 必死にそれを抑えるお袋。

 そして何より、真っ青になってガクガクと震える……瑠璃。
 ごめんな……もう少しだけ耐えてくれ。

 俺は大きく息を吸って、式場全体に響くように宣誓した。


「わたくし高坂京介は、瑠璃を妻とし、
 健やかなる時も病める時も、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け……たとえ死が、二人を分け隔てたとしても」
「……え?」

 はっと俺を見上げる瑠璃。
 静まる式場。


「……いつの日か生まれ変わり、
 もう一度巡り合い、
 そして再び……愛する事を、誓います」


「……京介、これはいったい……」
「あらゆる世界、総ての未来で、俺はお前と伴に在る。
 一度や二度死んだくらいじゃ逃がさねえからな。覚悟しとけよ」
「……ふっ……ふふっ。まったく貴方は本当に、…………莫迦なんだから」
「ああ、解ってる……ごめんな」
「……もういいわ。でも……逃げられないのはお互い様よ」
「へっ……そうかもな」
「……あーコホン。そろそろ式を続けたいのですが……よろしいかな?」 

 神父の言葉に我に返る。
 やべー、結婚式の最中だった!

「す、すみません。お騒がせしました」

 俺達は祭壇に向き直り、誓いの言葉を再開した。

「汝瑠璃は、この京介を夫とし、
 健やかなる時も病める時も、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け……」

 神父はそこで言葉を区切ると、
 俺達にパチリとウインクをして続けた。

「たとえ死が、二人を分け隔てたとしても、
 ……いつの日か生まれ変わり、もう一度巡り合い、
 そして再び……愛する事を、誓いますか?」
「……誓います」


「それでは指輪の交換と誓いのキスを……」

 指輪を交換して、向き合う二人。


「なあ瑠璃」
「……何かしら?」
「まずはこの世界で……よろしくな」
「…………はい」


 俺達は魂に永遠の呪いを刻んだ。

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