『おるすばん』
久しぶりに遊びに来た。
ピンポーン……ピンポーン……
「どちらさまですか?」
「こんにちは。京介だけど、珠希ちゃんかな?」
「はい」
「よかったら開けて欲しいんだけど……」
「……おにぃちゃんごめんなさい。
ひとりでおるすばんするときは、かぞくいがいは開けちゃだめって姉さまが……」
黒猫のいう事を守ってるのか。珠希ちゃんはいい子だなあ……
「うーん、それじゃあさ、俺も一緒にお留守番するよ。
お煎餅持ってきたんだ。これ食べながら姉さまの帰りを待たないか?」
「……ごめんなさい」
大好きな姉さまの言い付けを破れなんて言えない。
泣きそうな珠希ちゃんにこれ以上お願いするのは酷だろう。
うーん、どうしたものか……そだ。
俺は携帯を取り出した。
「もしもし、黒猫か?」
『こんにちは、先輩。何か用かしら?』
「悪い、ちょっと電話代わるわ」
ドアのポストから珠希ちゃんに携帯を渡す。
「珠希ちゃん、姉さまに聞いてみてくれ」
向こう側で『はい……はい……』と声がする。
やがてカチリと音がして、ドアが開かれた。
「おにぃちゃん、いらっしゃいませ」
・
・
・
居間に通された俺は珠希ちゃんにお土産を渡す。
「はい、これ。皆で食べよう」
「おにぃちゃん、ありがとう」
聞いたか? ニッコリ笑ってありがとうだぜ?
こんなに可愛い妹が実在するのかよ。珠希ちゃんマジ天使。
「おちゃいれてきますね」
「あ、手伝うよ?」
「おにぃちゃんはお客さんなので座っててください」
「……分った。それじゃお任せしてもいいかな?」
「はい」
素直に待つ事にした。
折角珠希ちゃんがやる気になってるんだ。危険が無い限り邪魔しちゃいけねえよな。
おぼつかない手付きだが零す事も無く、二人分のお茶を淹れてくれた。
「……うん。美味い」
「えへへー」
一仕事終えて満足気な珠希ちゃん。
きっと普段から黒猫の仕事をよく見ているのだろう。ええ子や。
それからお友達の事や、日向ちゃんの悪戯がバレた話をしていると黒猫が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさーい」
「お帰りー。お邪魔してるよ」
「いらっしゃい先輩。遅くなって御免なさい」
「いやいや、構わないぜ。珠希ちゃんとお喋りしてたしな」
きちんとお留守番できていた事、言い付け通り家族以外は入れなかった事、
お客さんのおもてなしもできていた事等を話した。
「……そう。頑張ったのね、珠希。
そうだわ。私にもお茶を淹れてもらえないかしら?」
「はいー」
妹を静かに見守る黒猫の眼差し。
けっこう好きなんだよね、俺。温かくってさ。
「……うん。美味しいわ。上手に出来たわね」
褒められてテレテレな珠希ちゃん。
何この可愛い生き物。連れて帰ってもいいですか?
あまりにも可愛いのでちょっと悪戯してみたくなった。
被っていたニット帽をグイッと下げて顔を隠し、膝に乗ってた珠希ちゃんを後ろから羽交い絞めにする。
「ふはははは! 俺は京介ではない。京介に変装した泥棒だったのだー!」
「な、なんですって!? 全然気が付かなかったわ!」
ノリノリだな黒猫さん。
「人質を返して欲しくば俺の要求に応えるのだー!」
「くっ……なんて卑劣な!」
「もしも要求に応えられないというなら……こうだ!」
珠希ちゃんの両脇を支えて頭上に掲げる。所謂たかいたかいってヤツだ。
「未だ嘗て経験した事が無いような超高度の恐怖、存分に味わうがいい!」
「わー、たかいですー」
楽しそうだな、珠希ちゃん。
「なんて事を! 可哀そうに、脅えているじゃないの!」
ノリノリだ。
「解ったわ……要求は何かしら?」
「ふっふっふ……この煎餅に合うようなお茶の御代りを今すぐ持ってくるのだー!」
「御代りですって!? 待って頂戴、直ぐには無理よ……まだお湯が沸いていないのだから」
「ほほう。俺の言う事が聞けないのか。ならば人質は……こうしてくれるわー!」
たかいたかいの体勢のままくるくると回る。
きゃっきゃとはしゃぐ珠希ちゃん。
「やめて頂戴! 珠希にはデススパイラルは耐えられない!」
・
・
・
一度台所に引っ込んだ黒猫は新しくお茶を淹れてくれた。
珠希ちゃんを降ろしてお茶を一口。
「ふう……今日の所はこの位で勘弁してやろう。さらばだ!」
くるりと後ろを向いてニット帽を脱ぎ去る。
「……今、泥棒が来ていたようだが皆無事か!?」
「姉さまのおちゃがとてもおいしいので、どろぼうさんはにげていきました」
「プッ」
「フフッ」
「「「あはははは!」」」
「まったく。いきなり何を始めるのかと思えば……」
「まあいいじゃねえか、楽しかったんだから。な? 珠希ちゃん」
「はいー」
皆で大笑いしていると日向ちゃんが帰ってきた。
「ただいまー。あれ? 高坂くん来てたんだ」
ささっとアイコンタクトをする俺と黒猫。
素早く日向ちゃんの背後から羽交い絞めにする。
「ふはははは! 俺は京介ではない。京介に変装した泥棒だったのだー!」
「な、なんですって!? 全然気が付かなかったわ!」
ノリノリな黒猫さん。
「人質を返して欲しくば俺の要求に応えるのだー!」
「くっ……なんて卑劣な!」
「もしも要求に応えられないというなら……こう、だ……こう……」
「…………」
「…………」
「なあ、日向ちゃん」
「な、なにかな?」
「……重いな」
「乙女になんてこと言うんだーー!!」
久しぶりに遊びに来た。
ピンポーン……ピンポーン……
「どちらさまですか?」
「こんにちは。京介だけど、珠希ちゃんかな?」
「はい」
「よかったら開けて欲しいんだけど……」
「……おにぃちゃんごめんなさい。
ひとりでおるすばんするときは、かぞくいがいは開けちゃだめって姉さまが……」
黒猫のいう事を守ってるのか。珠希ちゃんはいい子だなあ……
「うーん、それじゃあさ、俺も一緒にお留守番するよ。
お煎餅持ってきたんだ。これ食べながら姉さまの帰りを待たないか?」
「……ごめんなさい」
大好きな姉さまの言い付けを破れなんて言えない。
泣きそうな珠希ちゃんにこれ以上お願いするのは酷だろう。
うーん、どうしたものか……そだ。
俺は携帯を取り出した。
「もしもし、黒猫か?」
『こんにちは、先輩。何か用かしら?』
「悪い、ちょっと電話代わるわ」
ドアのポストから珠希ちゃんに携帯を渡す。
「珠希ちゃん、姉さまに聞いてみてくれ」
向こう側で『はい……はい……』と声がする。
やがてカチリと音がして、ドアが開かれた。
「おにぃちゃん、いらっしゃいませ」
・
・
・
居間に通された俺は珠希ちゃんにお土産を渡す。
「はい、これ。皆で食べよう」
「おにぃちゃん、ありがとう」
聞いたか? ニッコリ笑ってありがとうだぜ?
こんなに可愛い妹が実在するのかよ。珠希ちゃんマジ天使。
「おちゃいれてきますね」
「あ、手伝うよ?」
「おにぃちゃんはお客さんなので座っててください」
「……分った。それじゃお任せしてもいいかな?」
「はい」
素直に待つ事にした。
折角珠希ちゃんがやる気になってるんだ。危険が無い限り邪魔しちゃいけねえよな。
おぼつかない手付きだが零す事も無く、二人分のお茶を淹れてくれた。
「……うん。美味い」
「えへへー」
一仕事終えて満足気な珠希ちゃん。
きっと普段から黒猫の仕事をよく見ているのだろう。ええ子や。
それからお友達の事や、日向ちゃんの悪戯がバレた話をしていると黒猫が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさーい」
「お帰りー。お邪魔してるよ」
「いらっしゃい先輩。遅くなって御免なさい」
「いやいや、構わないぜ。珠希ちゃんとお喋りしてたしな」
きちんとお留守番できていた事、言い付け通り家族以外は入れなかった事、
お客さんのおもてなしもできていた事等を話した。
「……そう。頑張ったのね、珠希。
そうだわ。私にもお茶を淹れてもらえないかしら?」
「はいー」
妹を静かに見守る黒猫の眼差し。
けっこう好きなんだよね、俺。温かくってさ。
「……うん。美味しいわ。上手に出来たわね」
褒められてテレテレな珠希ちゃん。
何この可愛い生き物。連れて帰ってもいいですか?
あまりにも可愛いのでちょっと悪戯してみたくなった。
被っていたニット帽をグイッと下げて顔を隠し、膝に乗ってた珠希ちゃんを後ろから羽交い絞めにする。
「ふはははは! 俺は京介ではない。京介に変装した泥棒だったのだー!」
「な、なんですって!? 全然気が付かなかったわ!」
ノリノリだな黒猫さん。
「人質を返して欲しくば俺の要求に応えるのだー!」
「くっ……なんて卑劣な!」
「もしも要求に応えられないというなら……こうだ!」
珠希ちゃんの両脇を支えて頭上に掲げる。所謂たかいたかいってヤツだ。
「未だ嘗て経験した事が無いような超高度の恐怖、存分に味わうがいい!」
「わー、たかいですー」
楽しそうだな、珠希ちゃん。
「なんて事を! 可哀そうに、脅えているじゃないの!」
ノリノリだ。
「解ったわ……要求は何かしら?」
「ふっふっふ……この煎餅に合うようなお茶の御代りを今すぐ持ってくるのだー!」
「御代りですって!? 待って頂戴、直ぐには無理よ……まだお湯が沸いていないのだから」
「ほほう。俺の言う事が聞けないのか。ならば人質は……こうしてくれるわー!」
たかいたかいの体勢のままくるくると回る。
きゃっきゃとはしゃぐ珠希ちゃん。
「やめて頂戴! 珠希にはデススパイラルは耐えられない!」
・
・
・
一度台所に引っ込んだ黒猫は新しくお茶を淹れてくれた。
珠希ちゃんを降ろしてお茶を一口。
「ふう……今日の所はこの位で勘弁してやろう。さらばだ!」
くるりと後ろを向いてニット帽を脱ぎ去る。
「……今、泥棒が来ていたようだが皆無事か!?」
「姉さまのおちゃがとてもおいしいので、どろぼうさんはにげていきました」
「プッ」
「フフッ」
「「「あはははは!」」」
「まったく。いきなり何を始めるのかと思えば……」
「まあいいじゃねえか、楽しかったんだから。な? 珠希ちゃん」
「はいー」
皆で大笑いしていると日向ちゃんが帰ってきた。
「ただいまー。あれ? 高坂くん来てたんだ」
ささっとアイコンタクトをする俺と黒猫。
素早く日向ちゃんの背後から羽交い絞めにする。
「ふはははは! 俺は京介ではない。京介に変装した泥棒だったのだー!」
「な、なんですって!? 全然気が付かなかったわ!」
ノリノリな黒猫さん。
「人質を返して欲しくば俺の要求に応えるのだー!」
「くっ……なんて卑劣な!」
「もしも要求に応えられないというなら……こう、だ……こう……」
「…………」
「…………」
「なあ、日向ちゃん」
「な、なにかな?」
「……重いな」
「乙女になんてこと言うんだーー!!」