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番長GSS3



――小袖袴SS 超えられない壁――



時は少し遡り、希望崎学園――

その日、純情派優等生触手こと姦崎姦は、本日の授業を全て休むことを学園に伝え、帰路についていた。
和姦派でありながら触手の運命からつい女性をレイプしてしまう姦は、まれに一日の休みを取ることがあった。
常日頃、うっかりレイプをしてしまわないよう意識している姦であったが、いかんせんビッチとレイパーが蔓延る希望崎では気が緩みがちになってしまう。
だから、己の中のレイプ衝動が余りに高まってしまったとき、こうして学園から一旦離れることで緊張感を取り戻すのだ。
いわゆる休姦日である。

正門を出て、希望崎大橋に差し掛かったとき、姦は、橋の中ほどに佇む和装の女の子に気付いた。
袖の短い着物に女袴を履いたその女の子は、学園の校舎の方を窺ったり、かと思うとなにやら独り言を呟いたり、なにやら困り気味の様子であった。

既に正門は出て気も引き締まっているし、距離を取って声をかけるくらいならうっかり手がすべる(レイプする)こともないだろう――姦はそう考え、女の子に声をかけることにした。
困っている人を見かけたら放っておけない、姦は心根の優しい触手であった。

「どうしました?」

――突然の呼びかけに少し驚いたように姦の方を向いた女の子は、少し小首をかしげた後、姦のかけている眼鏡を見て合点がいったように笑顔になって言葉を返した。

「えーと、眼鏡をかけてらっしゃる触手さんということは、確か、姦崎……姦崎れ……姦崎さんですね」
「あ、僕の名前は女が三つで『れいぷ』と読みます」
「す、すみません……知っています……けど……その……」
「あ……ご、ごめんなさい……」

希望崎で日々を過ごしていると自分の名前が自己紹介の時点で高いハードルであることを忘れがちになってしまう。注意しなければと心に誓う姦。
微妙に気まずい沈黙の後、なんとか話をつないでみたところ、どうやら和装の女の子は希望崎の学生であり、今は持病の療養の為に休学中なのだという。
しかし、学園のことが気にかかり、正門の近くまでついやってきてしまったが、学園に入るのは危険だからと家の人から止められているため、これ以上進むわけにもいかない。
だからといって、このまま帰るのはあまりに寂しいから近くを散歩でもして気晴らしをしようかと考えたが、この辺りに引っ越してきて日が浅いため、どこに行けばよいのか悩んでいた――とのことである。

「元気なときは気の向くままに歩くんですけどね」

そういって寂しそうに笑う女の子を見て、姦は思わず自分が街の案内を申し出ようかと、一歩、踏み出した。
……が、はっとそこで思いとどまる。

自分がどんなに純愛を夢見ようと、和姦を望もうと、結局は触手である。
目の前の女の子をどんなに励ましたいと望んだところで、自分にできることはレイプ一択なのだ。
僕の名前の読みだけで頬を赤らめるような女の子の力になることはできやしない。
姦はそう自答し、踏みとどまった。

女の子は姦の挙動から、目の前の触手が自分を励まそうとして悩んでいることを感じ取ったのか、先程よりも明るい笑顔で姦の方へ歩み寄り、お礼を述べた。

「お気遣いありがとうございます、姦崎さん」

その笑顔を見た瞬間、姦は「まずい!」と直感した。
うかつにも女の子と近づきすぎたのだ。
もはや、手をすべらせれば触手が何処にでも届く距離である。
そして女の子と二人きりというシチュエーション、その上、近距離での笑顔だ。
触手を前にしてそんなことをしたらどうなるか、姦ならずともその帰結はわかりきっている。



「僕から離れて!!……って、あれ?」

なんとか手がすべる前に女の子から距離を取ろうとした姦であったが、そこで異常事態に気付いた。
いつもならすでに色々なところに入ってしまっているであろう己の触手が、全く反応しないのである。

「どうしました?」

不思議そうにこちらを窺う女の子に対し、何とか言葉を濁し、自分が女の子に近づくといつも挙動不審になることを告げる姦。
それを聞き「ああもしかすると」と、何か思い当たる節がある様子の女の子。

「多分この着物のせいですよ」

なんでも女の子の着物には所有者を護る能力があり、その能力とは、所有者が現在居る場所を、所有者の住居内だと世界に認識させるものなのだという。
大抵の魔人能力は射程が重要であるため、超遠距離能力でない限り、着物の中の女の子には魔人能力が届かないというわけだ。
「身代わりになった着物は大抵ダメになっちゃいますけどね」と女の子は付け足して着物の能力説明を終えた。
それを聞き、なるほどと納得する姦。
いくら触手といえど、その場にいない女の子をレイプすることは……まあよっぽどのことがないかぎりない。

「ですから、何か自動発動するような能力をお持ちでも、一緒に私の家へ上がらない限り大丈夫ですよ」

女の子の言葉を聞くうちに、姦の中に強く芽生える感情があった。
もしかしたら、この子となら――
長年の夢であった、手を繋ぎたくても繋げないような、そんな純愛ができるかもしれない。
女の子の家へ挨拶に行くときがゴールだなんて……正に正統派であり王道の恋の道じゃないか。
姦はありったけの勇気を振り絞り、己の触手としての運命を変えるための一言を吐き出した。

「この辺りのことがわからないなら、僕が案内しようか?」
「え?そんなご面倒をお掛けするわけには」
「いや、僕も今日は一日暇だったから、散歩でもしようと思っていたんです」
「……それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

よし!僕はやるぞ!
姦は己の目指す夢に向けて、力強く一歩を踏み出した。

「あ、私、名前は夢追中と申します」
「あ、僕は姦崎姦といいます」
「し……知っています……」
「ご……ごめんなさい……」

目指すは遥かなる高み、人と触手との和姦――





時は流れ、妃芽薗学園――

夢追は姦との一日を思い出していた。

(触手さんとだって話し合って、仲良くなってわかりあえたんです)
(だから、今回だって、話し合えば仲良くなれるしわかりあえるはずなんです)
(お世話になっている番長グループの重職に就く方ですし)
(あの人にも、面と向かって取材を申し込まないと)
(あの人(?)にも、ちゃんと面と向かって取材をしないと)
(ちゃんと取材を……)





「モザイクさーん!!モザイクさーん!!
申し訳ないですが、ちょっと私の前で待機してもらえませんかー!!?」

――ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!


――小袖袴&歌琴みらいSS 夢追い――



生徒会に所属する魔人、歌琴(かこと)みらいは、すぐにでも始まるであろうハルマゲドンの戦場を離れ、一人、妃芽薗学園の中庭を歩いていた。
本来ならば番長グループと雌雄を決するため、そして、自身のアイドルデビューを飾るため、戦場にいるはずのみらいであったが、しかし、その顔色は優れず、その足取りは何処へ向かえばよいか迷うようにおぼつかない。
みらいは、未だ戦場に立つ決心がつかずにいた。
あれだけの苦労を重ね、あれだけの努力を積み、あれだけの“事務処理”をこなし……もう覚悟はできているはずだった。迷うことはないはずだった。
しかし、その決心は、突然の訪問者によって千々に乱され、掻き回されてしまった。

「希望崎の……夢追……だっけ」

突然、魔人能力を見せてくれと言ってきたその訪問者は、話を聞くと、魔人能力を見ることが趣味なのだという。
もともと人当たりの良いみらいは、相手に悪意がないと判断した後、久しぶりに仕事以外で学園外の話ができると、世間話に興じることにした。
最近の外の様子や相手の趣味について、そして、自分がアイドルの卵であり、今回のハルマゲドンでデビューするという話をしたとき、思いもよらぬ人物の名前を相手の口から耳にすることとなった。
『埴井葦菜』――自分の夢を奪い、自分の夢を否定した女。
希望崎学園から来た夢追中(ゆめさこかなめ)と名乗る訪問者は、あろうことか、その埴井葦菜(はにいあしな)の友人であるという。
葦菜の話題となってもはじめは冷静を装っていたみらいであったが、話を続ける内、いつしか感情の制御がきかなくなり――


――――――

――――

――


「腫れてはいないか」

中庭の噴水を覗き込み、水面に映る自分の左頬を見ながら、みらいは呟いた。
冷静さを欠き、激情に身を任せ、気付いたときにはお互いの顔面を一度ずつ殴り合い、喧嘩別れ――それがみらいと夢追の世間話の決着であった。

「なんであんなに感情的になっちゃったんだろ」

水中で気ままにゆれるもう一人の自分へ、みらいは言葉を投げる。
自分がアイドルの卵であること、葦菜がアイドルの卵であること、アイドルになるのが自分の夢であったこと……
葦菜によって自分の夢が踏みにじられたこと、それでも夢を追うために自分がしてきたこと……
熱した頭で自分が何を喋ったか、どこまで喋ったか、はっきりと思い出すことすらできないほど、話の最中のみらいは取り乱していた。
どんな言葉に反応して夢追がみらいを殴ったのか、何を聞いてみらいは夢追を殴ったのか、既にみらいには思い出せない。
いまや思い出せる内容はただひとつ、夢追が語った『夢』についてだけであった。

「馬鹿みたいなこと言ってさ」

水面に映るみらいの顔が波紋でゆらりと歪む。
夢追は常に全力で己の夢を追いかけていると言っていた。
夢というものは素晴らしいものであり、夢を追うことは素晴らしいことであると言っていた。
夢について語る夢追の顔は、まさに無邪気な子供の笑顔そのものであった。
だからこそ、みらいにはその表情も、言葉も、受け入れ難いものであった。



「夢を追っていて『こんなはずじゃなかった』って思ったことはない?」

――失敗ならしょっちゅうですから、そう思うことはよくありますよ。
――え?夢が思い描いた形ではなかったこと、ですか?
――それはないですね。
――だって、思っていたものと違うということは、
――それはまだ自分が夢に到達していないということじゃないですか。
――思い描いた形をそのまま実現させて、
――そこで初めて夢が叶ったといえるんじゃないですか。

「夢を叶えて『私の見ていた夢はこんなものだったのか』って思ったことはない?」

――うーん……それもないですね。
――だって、夢が叶うんですよ?がっかりするはずがないじゃないですか。
――多分、そういった言葉は言い訳なんですよ。
――夢を追い続ける気力がなくなったとき、
――なんとか思い描いた形に少しでも近い状況をこしらえて、
――『夢が叶った』と言い張るんです。
――けれど、本当は夢が叶っていないことも知っているし、
――世界のどこかには思い描いた通りの形で、
――自分以外の誰かがその夢を叶えられることも知っている。
――でも、それを直視していては心が痛んでしょうがないんです。
――だから、痛む心を誤魔化すために、目をつぶって、言い訳するんです。
――『私の見ていた夢はこんなものだったのか』って。

「夢を叶えるために犠牲にしてきたものを思い出して後悔したことはない?」

――それは答えるのが難しい質問ですね。
――うーん……あれは失敗した!これは失敗した!とか。
――失くしたもの、捨てたものに想う事は色々ありますけど、
――でも、今、こうして夢を追えているのですから、
――それらに感謝して、全力で夢を追おう!って感じでしょうか。
――そうですね。失くしたものを尊ぶことはあれ、惜しむことはない、ですかね。
――それらは進んできた道の途中に置いてきたものなんです。
――後ろばかり見ている暇なんてありませんよ。
――夢はいつだって前方にあるんですから。

「あなたは……夢を諦めたことはない?それを後悔したことはない?」

――夢を諦めたことなら、あります。
――昔は今と違った夢を見ていました。
――どんな夢か、ですか?
――ええと……
――ドラゴンの背に乗って颯爽と現れた私のヒーローのお嫁さんになって、
――見ている誰もが幸せになれるような温かい家庭を築くこと、です。
――なんですか、その顔。呆れないでくださいよ。
――それでも立派な夢だったんですよ。
――まあ、そんな夢を見ていましたが、
――待っている時間もありませんでしたし、
――待っているより自分から動いたほうが楽しそうでしたし、
――今ではすっかり、この世の中の凄いことを見て、記すことに夢中です。
――昔の自分に会ったなら、今の自分があることに一言感謝を述べて、
――それから胸を張って自慢しますよ。
――今の私は、あなたにはまだ思いもよらない凄い夢を追っているんだぞ!……と。


噴水の縁に腰かけ、中庭の花壇を眺めながら、ぼんやりとみらいは考える。
夢追の言葉はどれも綺麗なものである。しかし、決定的に現実感が足りない。

――いつまでも子供じゃいられないんだよ。
汚いことなんか何も知らないで、綺麗なものしか見ないで、
本当の挫折なんて体験したことなくて、本当に大切なものなんて失くしたことなくて、
そんなんでいて努力してればなんとでもなると思い込んでて、
その上、白馬の王子様なんて信じちゃうくらいどうしようもなくて……
あんなの……

まるで昔の自分じゃない――

なんで感情的になってしまったか、そんなことは分かっていた。
みらいは夢追に過去の自分を重ねあわせていた。
何も疑うことなく、ただ真っ直ぐに夢だけを追っていたかつての自分。
そんな過去の自分に、現在の自分を否定された――みらいはそう感じた。
かつての無知で無邪気で、そしてどうしようもなく馬鹿だった自分に、現在の自分を否定されることはどうしても我慢できなかった。

「痛っ!」

知らず握り締めていた右拳に鈍い痛みが走り、みらいは思わず声を出した。
夢追の顔面を殴りつけたときに痛めたらしい。
赤くなった右手の甲をさすりながら、みらいは自分が殴られたときのことを思い出す。
身体をねじりつつお辞儀をするような、奇妙な体勢から繰り出された夢追の右手は、固く握られるでもなく、ピンと指先まで伸ばされるでもなく、まるで力が入っていないまま自分の顔にぶつかってきた。


――――――

――――

――


遠くから猛々しい声が聞こえる。
恐らく、いよいよ生徒会と番長グループが正面衝突するとき――ハルマゲドンが始まるのだろう。
ふらりと立ち上がったみらいは、戦場へと足を向けようとして、そのまま立ち尽くした。

「どうして……」

すでに決意は固めたはず、それなのに、今更自分は何を迷っているのか。
……いや、分かっている。
何が自分を迷わせているか。
夢追の言葉だ。
子供の戯言だ。

いや……

夢追の言葉をいくら子供の戯言と切って捨てようとしても、切り捨てられない芯がそこにあること、それが分かってしまったからだ。

夢追の右手はさっぱり力が入っている様子も無かった。病気か何か、動かすことが出来ないのだろう。
それでも自分の夢のために、迷い無くハルマゲドンへ参戦したのだ。
決して殴る蹴るが得意とは言えないみらいの拳をまともに喰らったことを考えて、夢追は生徒会の武闘派メンバーに会ったなら為す術もなく殺されるだろう。
それでも夢を追うために、迷い無くこの戦場へやってきたのだ。
そんな強い決意を夢追が持っている、そうみらいには感じられた。

そして……

夢について語るとき、唯一、夢追の笑顔に陰が差したように感じた「夢を叶えるために犠牲にしたもの」――
あなたには私のことなんて分からないと叫んだみらいに対し、失くしたモノばかり探して今追っている夢を見れていないことだけは分かる、そんな人を昔見たから、と応えた夢追――
冷静になったみらいにはその声音から、表情から、取り返しのつかないものを失った悲しみの残滓を汲み取ることができた。
それが動かない右手に由来するものなのか、まったく違う何かなのか、そんなことは分からないし、どうでもよい。
ただ、もしかすると夢追という人物は、自分と同じように夢を追い、自分と同じように何かを失い、それでも、子供のように夢を追い続けているのではないか、そうみらいには感じられた。

みらいは、そんな夢追を応援することができるほど、自分はお人好しでないことを実感した。
それと同時に、そんな夢追に自分と同じ様に“大人”になれと思えるほど、自分が大人になりきれていないことも実感していた。


私は“大人”になって――それでよかったのか――


ふいに携帯電話から着信音が流れ、みらいは我にかえった。
戦場からいなくなったみらいを探す、生徒会のメンバーからの着信である。

「いかなくちゃ」

みらいは思考を中断し、戦場を目指して駆け出した。
今は目の前のやるべきことをやるだけだ――そう己に言い聞かせて。

「『大人になった?諦め癖がついたの間違いじゃないですか?』なんて言われるのかな、
……そんな捻くれた台詞が出てくるほどあの子は大人じゃないか……ははっ……」

答えは出ない、しかし、自分はやるべきことをやるしかない。
みらいは拳を強く握り締め、ハルマゲドンへと身を投じる。


――右拳の痛みはまだ治まりそうにない