黒川藍紗(くろかわあいさ)

  • 性別:女
  • 胸:巨乳
  • 学年:3年
  • 所持武器:薙刀
  • 出身校:妃芽薗 評価点数450
  • 攻撃力:0 防御力:0 体力:6 精神力:4 FS「畏怖」:20

特殊能力『そばにいるという悪夢(フレンドリー・フレディ)』 発動率:99% 成功率:100%

効果: バステ恐慌付与フィールド作成
タイプ: パッシブ
範囲+対象: MAP全体敵味方全員
時間: 永続
効果付属:解除無効

※恐慌:通常攻撃、特殊能力の選択対象に自分自身を含むことが出来るようになる。

<能力原理>

ホームに電車が来たときの、飛び込んだらどうなるだろうという気持ち。
鋭い刃物を持っているときの、これで刺したらどうなるだろうという気持ち。
すごく落ち込んでいるときの、俺なんか死んでしまえばいいんだという気持ち。
高いところに立っているときの、ここから落ちたらどうなるだろうという気持ち。
どんな人でもときおりふと抱くような、ちょっとした感情の歯止めを失わせる能力。
藍紗はこの能力を認識してしまった自分自身の弱さが大嫌い。
火傷の痕を隠さず人を遠ざけようとしているのは、出来るだけこの能力の巻き添えにしないようにするため。
妃芽薗学園へと移送され、能力が封じられてからも隠そうとしないのは、こんな能力を認識してしまった自分への罰のため。

キャラクターの説明

短く切りそろえられた黒髪と高い身長に美しい容貌、そして何より顔に残る大きな火傷の痕が特徴的な少女。
文武両道を体現したような少女であるが、それは自らに罰と称して行う努力の賜物である。
顔の火傷は見るものに虞を抱かせるに十分な大きさであるが、藍紗は自らの戒めとしてそれを隠そうとはしない。
右腕、右肋骨、左脇腹の辺りにも火傷の痕が残っており、それらも晒すわけではないものの、隠そうとすることはけしてない。
一時期は自らの能力であの事件を引き起こしたことでひどく憔悴していたものの、妃芽薗学園に入ってからは徐々に生来の明るさを取り戻している。
高校生活を楽しんでいる自分の気持と、幸せになってしまうなんて許されないという責任の狭間で苦しんでいるところで今回の騒動が起きた。
私がどうであれ優しいクラスメイト達を死なせるわけには行かないと、この戦いを早く終わらせるために全力で戦うことを誓った。

エピソード

小学生の頃、彼女は幸せだった。
持ち前の明るさと卓越した運動神経、やや中性的に整った顔立ちは子供の間で中心となるのに十分だった。
ある寒い冬の日。彼女は仲の良い友だちと一緒に公園で遊んでいた。
端のほうの木の下では、誰かが始末をしなかったのか、焚き火がパチパチと音を立てて燃えていた。
寒いからちょっとあったまろうと藍紗が声をかけると、みんな賛同したので焚き火へと近づいた。
近づく途中、ふと木の上を見ると子猫がいた。可愛いなと思って見ていると様子がおかしいことに気付く。
煙に燻られるということを小学生である藍紗たちは理解していなかった。
耐え切れず、子猫が落ちる。そのまま行けば焚き火へ飛び込んでしまう。
周りの子が悲鳴を上げるなか、藍紗は弾かれるように飛び出して子猫を焚き火に入らないように突き飛ばすと、自身はそのまま炎の中へと落下した。
甲高い悲鳴が響き渡る。彼女は熱さで何度も体を転がし、やがて力尽き意識を失った。

火傷を負って、それでも彼女は幸せだった。
藍紗が目を覚ますとそこは病院のベッドの上。包帯に巻かれた自分の姿がどこか現実離れしていて、夢の中にいるような気分にさせられた。
それでも看護師から娘が目覚めたと連絡を受けた両親が駆けつけ、自分の姿を見て泣いているのを見ると、これは現実なんだなと実感した。
退院してから初めての学校。藍紗は不安を感じていたが、クラスメイトは暖かく、いつも通りに迎えてくれた。
彼女は顔に大きな火傷を負ってなお美人と呼ばれる部類の容姿を保っていたし、なにより彼女の友人は、自分の身を顧みず躊躇なく動物を助けられるような藍紗の性格が大好きだったのだ。
全身に渡る火傷には腫れ物に触るような扱いで、それが少し心苦しくもあったけれど、努めて普段通りの振る舞いをしてくれている友達に、藍紗もとても感謝した。
ときおり事情を知らない人間が彼女の顔を見て陰口を叩いたり、怖がるような素振りを見せたりしていたが、藍紗はそのくらいのことは気に止めなかった。

心無い言葉を浴びせられて、それでも彼女は幸せだった。
藍紗が火傷を負ってから3ヶ月。彼女はあのとき子猫を助けた公園で、友人と一緒に遊んでいた。
かくれんぼのオニになって友達を探しているとき、あのときの木の方から大声がした。
何事かとそちらの方へ足を向けると、あのとき助けた子猫と、子猫に向かって罵声を浴びせながら石を投げている中年の男性がいた。
声が裏返っていて聞き取りづらかったが、なんでまだ生きているんだというような言葉が耳に入った。
もしかしたら木の上に子猫がいるのにも関わらず焚き火をしたのはこの人かもしれない。
いずれにせよこのままでは子猫が怪我してしまうと考え、彼女は男性に声をかける。
男性は面倒なことはしたくないのか、声をかけられるとすぐに石を投げるのを止めた。
不快感を露にしているものの、このまま立ち去ってくれるようで藍紗が内心ホッとした。
去り際、男性が彼女のそばを通り過ぎる瞬間、呟いた。
「チッ、化物みてーな顔しやがって。いっちょ前に偽善者気取りか」
瞬間藍紗の中に膨れ上がる得体のしれない感情。怒りとも憎悪とも悲しみともつかないそれは、彼女が初めて体験するものだった。
だから彼女は、なんで子猫を助けた自分がこんな目に遭っているのかと、なんで子猫をいじめるあいつはなんにも遭っていないのかと思ってしまった。
あんなやつ死んじゃったほうがいいんだと、そう認識してしまった。

だから彼女は、なんで子猫を助けた自分がこんな目に遭っているのかと、なんで子猫をいじめるあいつはなんにも遭っていないのかと思ってしまった。
あんなやつ死んじゃったほうがいいんだと、そう認識してしまった。
感情を消化できず固まっている藍紗の足元に、子猫がすり寄る。
中々探しに来ない藍紗を心配して、友達も駆けつける。
助けた子が応えてくれるのが嬉しくて、友人の何でもない気遣いが嬉しくて、気づけば彼女は座り込んで涙を流し、ありがとうと何度も繰り返した。
友人たちは何があったのかよくわからなかったがともかく藍紗を慰め、子猫は藍紗の指を何度も何度も舐めていた。

親しい人がいなくなって、それでも彼女は不幸であるとは思わなかった。
藍紗が異変に気づいたのはあの日から三日後。彼女の住む街で、その三日間の自殺者数が100人を超えていた。
ワイドショーで呪われた町としてセンセーションを引き起こしているこの事件は、原因不明ながら何らかの魔人能力であろうと予想されており、事実それは正しかった。
藍紗は怯えた。自分があの男性の呟きを聞いたとき、あの男性を恨んだとき、自身が魔人として覚醒したことを知っていた。
その能力はちょっとした感情の揺らぎの歯止めをなくすこと。対象すら指定できないその能力がどれほど危険なものか、彼女自身すぐには認識できなかった。
効果には個人差があるようだったが、いずれにせよこのままではいられないことは確かで、だからといって相談することも出来ない。
迷いつつも普段通りに学校へ行くと緊急の全校集会が行われた。ついにこの小学校からも自殺者が出たとのことだ。
10人近い名前が挙げられ、その中には彼女の友人も含まれていた。
藍紗はこの街を出ることを決意した。アテはなかったが、彼女の能力を考えるとむしろないほうがいいだろう。
気分が悪いと言って家に帰ると藍紗は母親と出くわした。家に帰ったらすぐ荷物をまとめて出ていくつもりだったのだが、見つかってしまったので決行は明日の早朝に変更することにした。
両親との最後の晩餐を取るとすぐさま寝床につく。名残惜しくはあったが、見つからないように早く起きるためには仕方がなかった。
予定通り朝早く目を覚ます。万が一にも見つからないよう両親の顔を見たい気持ちをぐっと堪え、まとめた荷物と共に外へ出る。――この選択は、彼女の人生の中で最良のものだった。
初めての早朝はとても静かで気持ちが良かった。こんな状況でなければきっと楽しめただろう。

自転車にまたがってゆっくりと漕ぎ出す。
先のことはわからないけれど、落ち着いたら魔人省に連絡しよう。どんなことをされるかわからないけれど、どちらにしろ能力の制御方法を知らないままではいられない。
そんなことを考えながら自転車を走らせていると、前方に倒れている人を見かける。周りには血。
悲鳴を上げそうになるのを何とか堪える。自分の能力の犠牲者なのだからそれは失礼だ。
心の中で謝罪をし、やっぱり私はここにいちゃいけないんだと、藍紗は自転車のスピードを上げる。
少し進むとまた死体に出くわした。しかもその数が尋常でない。十を超える辺りまでは数えていたが、それ以上は数えるのを止めた。
藍紗に嫌な予感が走る。これだけ死んでいるのに騒ぎになっていないのはいくら何でもおかしい。
焦燥に駆られながら友人の家に向かいインターホンを押す。返事がない。
鍵がかかっているため中を確かめることはできないが、家から生気を感じることは出来なかった。
祈りを込めて他の友人の家にも向かうがどれも反応は帰ってこなかった。
藍紗が混乱した頭で自転車を滅茶苦茶に走らせていると、あの公園に着いた。
何かに導かれるように公園の中へと歩み入ると、一人の男性が倒れていた。子猫をいじめていた中年男性だ。思えばこいつが――
「――あ」
そいつのそばには、あの子猫が、血を流して倒れていた。
「あ、ああ」
ゆっくりと近づく。その途中あいつに躓き転ぶ。そのときちょうど、男性の持っていたラジオのスイッチが入る。
「昨夜、『呪われた町』として世間を賑わせている夕闇町から、午前九時を境に一切の連絡が途絶えた事件の続報です。魔人省はこれをEFB級能力者による魔人犯罪と認定。特殊部隊を編成し――」
「―――あ。ああ。
―――っっっっっっっっっっっ!!!」
藍紗は言葉にならない叫び声を上げる。謝罪するように。自らを責めるように。こんな能力に目覚めて不幸だなんて絶対に思っちゃいけないんだ。私の心が弱くなければ。私があんなこと思わなければ。子猫も、
友達も、おそらく両親も、みんな普通に暮らせたんだから。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
そう思いながら、彼女は力尽きて気絶するまで、声が枯れても、喉が裂けても、何度も何度も叫び続けた。

能力が封じられて、それでも彼女は幸せであってはならないのだと考える。
一夜にして死人の町となった夕闇町でのただ一人の生き残り、黒川藍紗は程なく発見された。
気を失っていたところを発見された彼女はそのまま拘束され、研究所へと移送された。
魔人能力を解析する能力の魔人に引き渡されると彼女の能力が判明した。
本人の意志に関係なく発動するあまりに危険な能力。悪意がない若干十歳の小さな子供、しかしその影響の大きさから研究所内では処分する方向で話が進められた。
処分が決定しようかというとき、政府より黒川藍紗を処分してはならないとの厳命が下った。
彼らは抗議したもののとある機関の名前を出されると一様に口を閉ざし、今後の対応を迫られた。

少なくともこの研究所の手に負えるものではないことは確かであるし(実際にこの時点で研究者の一人が自殺している)、だからといって解放することも出来ない。
困り果てているところにノンべえと名乗る小動物が現れ、妃芽薗学園という魔人能力を完全に封じる学校が数年後に設立されること、現在でもそのフィールド自体は存在することを伝えると、そこへ藍紗を運ぶことを勧めた。
研究者たちは喜々としてその話に乗り、藍紗は即日その場所へと移送させられた。
藍紗が目を覚ますとそこは見知らぬ建物だった。
そばにいた小動物がここは妃芽薗学園という学園の設立予定地であり、藍紗はこれからここで暮らすのだと伝えられる。
混乱しそうになる気持ちを抑えて夕闇町がどうなったのか尋ねると、果たして彼女の想像した通りの答えが返される。
突きつけられた現実は、彼女に自分の能力を思い出させ、ここにいてはあなたも殺してしまうとノンベえに告げる。
ノンベえはここでは藍紗の能力は封じられているから安心していいと答える。
彼女自身では本当かわからないものの、あの日から一週間立っていることを教えられると正しいのだろうと思い直す。
続いてノンベえから藍紗は今後一生ここから離れることはまず許されないであろうこと、数年後に妃芽薗学園という学校が設立されそこへ通うことになること、それまではノンベえと二人きりで過ごさなければならないことなどを伝えられた。
それがもし嫌だったら僕と契約してなどとよくわからないことも言っていたが、彼女はこのくらいのことは当然のことだと思ったし、むしろこんな罰にもならないような罰でいいのかと感じた。
生きて償えということなのだろうか。これから大体六十年。この場所から離れられないと考えるなら、それも一つの方法なのかもしれない。
わかったと告げると勉強を始めようとノンベえを促す。私は休むことなど許されないのだと彼女は思う。
これから一人で何も感じずただ生きる。それはそれで私に相応しいのかもしれない。
小動物が本当に僕と契約しなくていいのかいなどと言っていて騒がしい。
仕方なく実力行使で黙らせると、今度は素直に従った。あまり気にした風でないのが残念だ。
これから二人で暮らしていくのだ。たった一人しかいない相手なのだから、少しでも嫌われたほうが私には相応しい。
私には、今後一切幸せになる権利などないのだから。
かくして彼女は妃芽薗学園で暮らす最古の生徒と相成った。
妃芽薗学園が開校してからはその目立つ容貌、寮でないどこか特別な場所に暮らしているという噂から生徒の注目の的となり、今回の事件にも否応なく関わることとなる。




最終更新:2011年08月17日 01:42