衿串 中(えりくし ふぁいれくしあ)

  • 性別:女
  • 胸:普通
  • 学年:2年
  • 所持武器:重金属製大型全身鎧“ドレッドノート”
  • 出身校:妃芽薗 評価点数60×5=300
  • 固有技能:向上
  • 攻撃力:1 防御力:14 体力:15 精神力:4 FS「咬まれた回数」:1

特殊能力『冶金蛇群』 発動率:30% 成功率:100%

効果1:防御力1アップ 5
範囲+対象1:自分 0.75
時間2:永続 2

効果2:能力休み解除 80
範囲+対象2:自分 0.75
時間2:一瞬 1

制約:無し 10
<補足>
自分永続防御+1、能力休みなし

<能力原理>

金属加工術を身に付けた蛇達を使役、自身に纏わり付かせ合金鎧を更に鍛え直す。
もう何度も繰り返している加工作業なので、これ以上強度が増す可能性はかなり低いが、魔人能力でないため隙が出来にくいのが強み。
"確立と力"を意味する大仰な名前を冠してはいるが、端から見るとただ襲われているようにしか見えない。

キャラクターの説明

衿串 中(えりくし ふぁいれくしあ)。愛称はΦ(ふぁい)。
親曰く、出生届には"Φ"と書いたつもりだったのだが、受理される段階で"中"に解釈されていた。まあ当然ではある。
衿串家は大手金属系企業を営む一族であり、Φも生まれてすぐに金属加工学・金属化学・金属帝王学・金融学を学び、金属に対する造詣を深めてきた。
魔人としての能力は蛇の使役であり、金属に関わり無いものだったが、使役した蛇達にも金属学を学ばせた事で(Φより数倍賢い!)一線級の重金属使い(ヘビー・ファイター)と相成った。

手先の壊滅的な不器用さから、金属武器を所持する事が許されていない。
それどころか、装備の着脱から普段の生活まで器用な蛇達任せ。

ちなみに、彼女の使役する蛇達はDG(ダンゲ)細胞という金属組織を組み込まれており、再生能力を有する。
また、金属化している割には泳ぎが非常に上手い。
Φに直接接触して鎧と化す役兼、平時の世話役である通称"親衛隊"(メスしかなれない)と、鎧の強化係であり、普段は外回り(パトロール)を担当している"フォロワー"に役割分担がなされている。
ちなみに無毒。

エピソード

「新たなる中」

2011/5/2

(株)衿串製作所第5管区――

とある研究棟に併設されたビオトープ。
「庭付き一戸建て」と揶揄されるその区画は、衿串グループ総取締役「衿串 一人目」の姪にして、
衿串製作所社長「衿串 二人目」の愛娘である、衿串 中(ふぁいれくしあ)の為だけに設えた場所だ。
研究設備という名目ではあるが、中学二年生の彼女にとっては遊び場にすぎない。

ビオトープに作られた巨大池の真ん中で、ビニールボートを浮かべゆらゆら。Φの休日の過ごし方だ。

突然波がざわめき、黒い塊が波間に蠢く。
その塊、蛇の群れは瞬く間にΦの周りまで渡り、彼女の身体に這い上がる。
そして鋭い牙を備えた大口を開けΦの首筋を――舐めた。

「ひゃっ、何?ちょっとどうしたの皆? ご飯はさっきあげたよ?」

二匹の蛇が彼女の顔までにじり寄り、両耳を舐め上げる。
舌が耳の穴まで入り込み――彼女の耳から、金属製の耳栓を取り出した。
爆音が響く事がよくある研究所内では、Φはよくこの防音用特殊合金を詰めて寛いでいるのだ。

「ひゃん! なんだ耳栓取りたかったのね――警報?」

蛇達は主たる彼女に状況を伝えようとしていただけだ。決して蛇達が彼女を襲う事はない。
それは彼女の蛇の使役能力のみならず、日頃から共生し信頼関係が築かれていることの賜物でもある。

Φの耳に入る警告音。わざわざ蛇達が伝えるほどの緊急のなのだろう。
Φは頑張って思い出す。確か、このメロディーの警報が意味するのは――

「侵入者?」




ここに"それ"が現れたのは、ただの偶然だった。
たまたま通りがかった場所に研究所があっただけであり、たまたま通り道にあった資材を取り込みつつ移動しているだけであり、そして今。
"それ"は包囲されていた。
警備員の銃撃を受けてもなお、止まる気配の無い"異形"。
撃たれた部位が辺りに飛び散り、ジュルジュルと気味の悪い音を立てながら蠢く。

(こいつは一体何だ!?)
それが迎撃に当たる守衛達の、共通認識だ。
突如としてあらわれた"それ"は、通り路にあるもの全てを取り込みながら、ゆっくりと突き進んでくる。
後に残るのは、原型を留めたまま、"それ"と同じ見た目と化した物体。何が起こっているのか、触れられた物体がどうなっているかは分からない。

ただ、分かっているのは。
"それ"の進路上にある建物――衿串 中の居る、そこに向かわせてはいけない。
対魔人用の、特殊鉄鋼製携帯式徹甲弾を何発受けても倒れぬ"それ"を、食い止める事が出来るかは甚だ疑問だが。

中に居るだろうΦを直接連れ出せないのがもどかしい。
引っ張り出そうにも、入り口に見張りのようにとぐろを巻く蛇達が、侵入者を締め上げる気まんまんなので近付けさえしないのだ。

弾薬も底をつき、"それ"がもう建物に到達しようかという直前。
漸く蛇の群れを伴ったΦが、外に現れた。

「お嬢様、ご無事で」
手近の警備員に話しかけられる。
「ねえ?何なのあれ?」
「判りません――正体も目的も。
ただ、やつに触れたらああなるでしょう……人が触れて無事でいられるとは思えません」

Φの目に写る"それ"と、"それ"と同化したかのごとく鈍色にぎらめく背景。
Φは場違いにも、かっこいいなあ、どんな素材なんだろう?と独りごつ。

「「シュー!シュー!」」
温厚な蛇達が、珍しく息をあらげて威嚇している。
それほどの脅威なのだろうか?

「「シュー!シュー!」」
その時。人間形の"それ"の、口にあたる部位が裂け開き、音を発した。

「スウ?スウ?」
「しゃべった?」

尚も威嚇する蛇達。

「「シュー!」」「スウー」
「「シュー!」」「スウー」
「「シュー!」」「スウー」
「「シュー!」」「スウー」
「「シュー!」」「スウー」

「「シュー!」」
「スウー!」

その様子は、まるで。
「この子、鳴き声を真似ているの?」

「スウスウスウ!スウススウ!」

「ススススウ、スス・スウスス」
自分の在るべき姿を見つけたのかのように、"それ"は鳴き続けている。

「スス・ス・ス・ス・ス」

どことなく破滅を思わせる、不気味極まりない響き。

「うわああぁぁ!きえろ、消えろ」
名状しがたき恐慌に陥った一人の警備員が、手榴弾を投げ。

「止めろ!お嬢様を巻きk――」

綺麗な放物線を描いた手榴弾は、過たず“それ”足元に転がり落ち。

爆発。

轟音と共に派手に散らばった"それ"の欠片が、鋭い金属弾と化して四方に飛び散る。
破片の散弾が守衛達の体に達し、同化――する前に即座に貫通、肉体を抉り切る。

唯一直撃を免れたのはΦと蛇達のみ。
しかし、Φは腰が抜け、その場で尻餅をついてしまっている。無理もない。
魔人の比較的多い妃芽薗学園に通い、自身も魔人であるΦだが、人が死ぬ所など、しかもぐちゃぐちゃになる所など見たことはないのだ。

「みんな、何処に行っちゃったの?
みんな、何でいなくなっちゃったの?
何で、答えてくれないの……?」

錯乱するΦを心配そうに見守る蛇達だったが、すぐに彼女に背を向ける。

そうして向き直った方向では。
散らばった身体の内、比較的近くのものが揺り動き、繋がり、持ち上がり。不快な音を立てながら再び人間のような形状を象り始める。
歪な人型を取り戻したそれの顔面が裂け、再び奇怪な音を奏で出す。

「ス・ス・ス・ス・ス・ス・ス・ス・ス・ス」

Φと“それ”との距離はほとんどない。
残る障害は蛇たちのみだ。

「「シャー!」」
威嚇の声を上げ無謀にも突撃していく蛇達。

「駄目!行かないで?」

先程の爆音で彼女の声が聞こえていないのか、それとも元から聞き入れる気が無いのか。
Φの叫びを一顧だにせず、威嚇の声を挙げながら飛びかかった蛇達は――

残らず、"それ"に呑まれ。
同時に、Φは意識を失った。


目が覚めたとき、“それ”はもういなかった。
蛇達は、少なくともそれらしいものは蠢いていた、しかし。

鱗を”それ”と同様のドロドロした金属と思しき素材に包まれ、奇声を上げながらのたうち回る蛇達――
互いを咬み合い絞め合い、野蛮な争いを始めている!
しかし皆が同じ金属と同化しているがため、ダメージはロクに入らない。
そしてその事が、この争いを長く、凄惨なものとしているのだ。

「止めて?戦わないで?」

Φの声も届かない。
いや、最悪の形で届いてしまった。

新たな獲物、攻撃の通る対象を見つけた、とでもいうように、ものすごいスピードでΦの首筋に向かい、咬みつく!
今まで決して彼女に敵意を見せなかった蛇達が、一斉に牙を向いたのだ。

「お願い、正気に戻って……?」
息も絶え絶えな彼女の目に浮かんだ涙が、蛇達の鱗を濡らす。
此処に来て漸く、蛇達の動きが止まる。

糸の切れた操り人形のように、ぱったりと静止し地面に横たわった。


          • 2011/5/15-----


結局蛇達はみんな、無事だった。
あれ以来、一度も凶暴化の様子を見せたことはない。
会社の人が言うには、あれは融合時に拒絶反応が起きたためだろう、という事らしい。

"アンノウン"と同化した鱗は、驚くような特性を秘めた金属に変質していて、これが自作出来るようになればすごい事だという。

なにより人と結合出来るかもしれない性質がすごいらしい。

そうそうそれでね、私が第一発見者って事で名前をつけよう、ってなったんだけど……

どうしよう?



パタン。――


日記を閉じる音。

首筋の咬み痕をさすりながら、Φは眠りに就いた。
後にDG(ダンゲ)細胞と名付けられる事となる組織を組み込まれた蛇達を、枕に、抱き枕に、布団にして。

最終更新:2011年08月17日 09:32