ミスターK
※作中のやまいち(仮名)さんは実在の人物とは関係ありません。
※やまいちさんを愚弄する意図は一切ありません。

「夢岸徹(15)かく語りき」


6月14日23時50分―――この日、やまいち(仮名)がしでかした「ある出来事」について
その現場を目の当たりにしていた希望崎学園の生徒会長、夢岸徹(15)は、こう語る。
「酷い誤爆だった」―――と。

夢岸「やまいち(仮名)さんがなにをしたですかって? 誤爆ですよ。ええ、掲示板とかで、違うスレに間違えて書き込んだりするやつのコトです」

夢岸「単純な誤爆ならここまで大事にはなりませんよ。書きこむスレを間違えたとかではなくてですね、立てるスレの場所を間違えたんです。本来なら陣営掲示板にたてるようなスレをね」

夢岸「え? どんなスレだったかって? そりゃあ酷いですよ。なんせ、『どうやって新参の提案にプギャーするか考えるスレ』ですもの。荒れることは必至だと思いましたね」

夢岸「まあ当然ながら、やまいち(仮名)さんがプギャーされる流れになりました。新参からも、古参からもね」

夢岸「ああ、初めに新参の一人がプギャーしたんだろうと思いますよね? まあ、僕もそうなるだろうと思ってました」

夢岸「実は、コレが違うんですよ。最初に彼をプギャーしたのは、あの校長です。そう、江田島平八郎忠勝、その人です」

夢岸「校長がやまいち(仮名)さんをプギャーしたことによってですね、次から次へとプギャーの連鎖が生まれたんです。最初は様子見だったこちらの陣営も、その流れに乗ってプギャーし始めました」

夢岸「そうなると、もはや誰にも止められない。古参陣営からもプギャーの嵐。あれは、チョット気の毒でしたね」

夢岸「え? その間、僕が何をしていたかですって? ハハハ、まあ、大したことじゃないですけどね、土下座ですよ、ドゲザ。よく熱された鉄板の上で、10秒以上頭をつけて・・・そう、焼き土下座です」

夢岸「以前にですね、一部の過激派が古参の方々に失礼な言動をとってしまいまして・・・それで、こちらの提案をなんとか通そうと頭を下げましたよ。まあ、甲斐はありませんでしたけど・・・」

夢岸「ああ、それでどうなったかって? ま、古参の方々は最初から断る気でいたんでしょうね。多分、相応の断り方を用意していたんでしょう。やまいち(仮名)さんを非難している方がちらほら見受けられましたね」

夢岸「もともとこちらが頭をさげる立場だったのに、調子にのってプギャーしてしまったワケですからね。相手が揚げ足を取らないわけがありません」

夢岸「それからしばらくは険悪な雰囲気が続きましたね。まあ、時間薬(ときぐすり)のおかげでそれなりにもどったわけですが、結局断られてしまいました」

夢岸「やまいち(仮名)さん? なんでも、あのあと用語集入りしたそうですよ。転んでもただじゃ起きない。それが、やまいち(仮名)さんという男なんでしょうねえ・・・」


『或る日の一年生』


「はああっ!」 
 道之せんとうは自前の大きな筆を振り回し、自らの達筆を皆に披露していた。希望崎学園には書道部がないため彼がその腕をふるう機会は少ない。
 彼がこのようなことをしているのは、ハルマゲドンがあと数日ということで緊張で固まっている仲間たちの緊張を和らげようとしているためである。もっとも、その方法が書道というのも如何かと思うが、彼の目論見通り、みな彼の一挙一動に見入っていた。
「ふぅ、完成……」
 彼は「必勝覇竜魔牙曇」という文字を書いた。
「「それだよ道之――――――! カッケ――――――!」」
 その達筆さを皆が皆、道之を褒めたたえた。
「おっと、名前入れ忘れた……」
 筆を小さく動かして、自分の名前を書き入れた。この男、案外センチメンタルである。
「さあ、もっと行くぜ! うおおおおおお――――――ッッッ!」
 調子に乗った道之が筆を振り回して―――案の定、すっぽ抜けた。そして、その勢いで飛んでいった筆は、寅貝きつねにぶち当たった。
「あ……」
 その場にいた全員が険しい目付きで道之を睨みつける。
 寅貝きつねの墨汁にまみれたその姿は、一般人ならば劣情を催すような姿をしていたが、彼らはきつねに対しての友情が上回ったのだろう。少なくともこの場に劣情を催すような変態はいなかった。
「ひどいよ、道之くん……」
 項垂れて涙声になっている寅貝の言葉が、トリガーとなった。この魔人たち全員の友人である寅貝を泣かせるとどうなるか、道之に想像できないはずがない。
「なにをやってるだぁ―――!」
「ひぃぃ! わ、わざとじゃな……ぼふっ!」
 先程の賞賛はどこへやら。
 その場の全員から砂にされている道之を横目に、夢追中と己木樹来貴生は泣いている寅貝きつねをの肩を持って保健室に連れていくことにした。

「寅貝さん、それ、どうしたの!?」
 一一が三人に心配そうに声をかける。頭から墨汁を被って泣いている知り合いの少女―――厳密に言えば寅貝は少女ではないが―――がいたら、一だけでなく誰でも心配をするだろう。
「ま、まあ、いろいろあってですね」
 夢追は余所余所しく返事をした。一の能力を知っているため、また破廉恥な目に合うのを避けたいと思っているのだ。
「大丈夫? とにかくその墨汁を―――」
 ポケットからハンカチを取り出した瞬間、何も無いところでつまづいき、やはりというべきか、その際に夢迫のスカートをずり下げた。
 パンチラどころか、パンモロである。一は汚れ一つ無いその純白なパンツを、まじまじと見てしまい……
「ぶへっ!?」
「あ、な、た、って人は……」
 夢追が一の顔面に蹴りを入れると、追い打ちをかけるように己木樹来が薙刀で一を校舎外へぶっ飛ばした。あの分厚い壁をぶち壊して。
「全く、これだから殿方は……」
「不埒なクソヤロウは死んでしまえ、ってね。さ、寅貝さんを運ぼ」
 職員校舎と繋がっている長い渡り廊下にたどり着くと、二人は出来ればみたくないものを見た。彼女らの視線の先には、三年生たちがいたからだ。
「がむら~がむら~」
 しかし、三年生たちはひたすらに何かを祈っているようだった。
「どういうことなの……」
「あれは確か、マカマカ教とかいう宗教の……でもなんで……?」
 マカマカ教信者がこの学校にいたかしら、と考えるも、今のうちにこっそりと保健室に向かうことにした。


 同時刻、保健室でのこと。先ほど二人に吹き飛ばされた一は、運良く保健室の方に飛ばされていた。そして、その保健室には、保健室のベッドを寝床替わりにしていた埴井葦菜がいた。彼女しか居ない保健室で、葦菜は独り言を呟いていた。
「ももじ×アッシーナ ~激かわアッシーナ強制鬼朗読~……フフッ、ももじって誰よ」と、彼女自身もよくわかっていない様子であった。
 ぼやき疲れた葦菜は、ベッドの上をゴロゴロし始めた。が、それもすぐに止まった。
「普通に寝ちゃおっと」
 それが賢明だろう、と思った次の瞬間、保健室の窓が割れる音がした。
「!?」
 何事か、と一瞬驚いてしまい窓のほうを見る。最初、入ってきたそれが一だと気付かなかった。そして、何が起こったかわからないまま入ってきた一を目で追っていた。そして、床でバウンドした一は葦菜の胸元へと顔面ダイブすることになった。
「ええっ!? ちょっ、あ、あ、そ……」
 葦菜は狼狽えている。一のラッキースケベの被害に何度か遭っているため、これ自体には慣れていたのだが、まさかこんな形で発生するとは夢にも思わなかった。
「う、う~ん。あれ? ここは……?」
 一はそっと顔を上げる。目の前には、膨れ面の葦菜。一が現状把握をするのに時間はかからなかった。
「一君……」
「あ、ご、ごめ―――」
 葦菜の機嫌を損ねて蜂たちに刺殺される前に何とかしなければ。とりあえず、謝るしかない。そう思っていた。
「いいよ……きても」
「えっ? な、何を―――」
 予想外の展開に慌てふためく。一は顔を真っ赤にして、ブツブツつぶやいている。
「……と油断させといて、馬鹿め死ね!」
「―――ッッッ!」
 蜂が一を刺そうとしたのを、とっさの判断力と持ち前の反射神経で避けることができた。一の体中に冷や汗が湧きでた。
「なんてね。冗談だよ、どっちも」
 ほっと溜息をつく。
「でも、早く退かないと本当にアナフィラキシーショック起こしちゃうかもね?」
 溜息をつく暇などなかった。


「いちち……」
「我慢してよ、一くん。私は保健委員じゃないんだから」
 いろいろと負傷している一に、葦菜は拙い治療を施した。
「ひどい目にあったよ……いろいろとね」
「私は恥ずかしい目にあったよ……君のせいでね」
 Gkがコールを唱えてやったらそうとう自分の裏声が恥ずかしかったのか自陣営に帰って行った人くらい恥ずかしい思いをしたわけだが、そんな細かいことまで一がわかるはずもない。
「失礼しまーす、ってあれ、先生は?」
 夢追たち三人が入ってきた。別に寅貝は歩けないわけでも泣いてるわけでもないのだが、何故か両肩を持たれている。
「いないよ。私だけ」
「……まあいい。時に一よ」
「え、俺?」
「『ふくし』とは何の略か知っているか?」
「……知らないよ」
 突然、貴生に脈絡の無いことを聞かれこう答えるしかなかった。しかし、どう応えても結果は同じだったかも知れない。
「フフフフフ、君を殴るのが癖になっちゃった、だから死にさらせ! の略さ!」
「なっ、おまっ―――」
 一は頭を守るように腕をあげた。が、音は何もしない。一が目を開けると、葦菜(の蜂)が貴生の動きを止めていた。
「なんの真似だよ、埴井葦菜」
「余計な真似よ、己木樹来貴生」
 大してうまくない返しをする。
「なるほど、ここは『ふくし』の心に則って、強いお前の方から倒さねばならんな」
「へえ、ここでやり合おうっていうの? ……望むところよ!」
 そう叫んだ瞬間、縦に一閃、薙刀が振り下ろされていた。が、それを読んでいたかのように、葦菜は既に下がっている。
「おおっと、始まった――――――! 己木樹来貴生VS埴井葦菜!」
 謎の高い声を上げて、夢追が謎実況し始めた。
「実況がいる! 謎の実況がいる! っていうか、寅貝さんは大丈夫なの?」
「ええ。顔と髪は洗って、既に着替えさせてあるわ」
 なら別にいいんだけど、とぼやく。
「って、よくないよね、ぜんぜん」
 どうにかして止める方法を考えなければ……しかし、思いつかない。どうしようもなく頭を抱える。


 結局、二人の勝負は葦菜の降参負けに終わった。
 単純な攻撃力、体力なら葦菜の方が圧倒的に上なのだが、教室に比べて比較的狭めの保健室では、近接武器を持っている貴生のほうが一枚上手だったのだ。
「さて、葦菜ちゃんが負けたみたいだし、どうせなら葦菜ちゃんには罰ゲームとしてコレを朗読してもらいましょう!」
「そ、それは、まさか……!」
 夢追が取り出したものは、葦菜の日記であった。それも、ただの日記ではない。小説風に脚色された日記である。当人にとって、読み返したくない代物である。
「い、いや! どうしてそんなものを持ってるの! 返して!」
「やーです。どうせなら、皆に読んでもらうってのもありだよ?」
「それはもっとダメ!」
 結局、葦菜は折れてしまって自分の日記を朗読することになった。
「ひゃぁー、ちょっとだめです、今電話中なのに……ひゃぁあー」
 一は釣り上がる口元を抑えている。
「いや、ぼくだったら死ぬなー。恥ずかしさで。恥ずか死しちゃうね!」
 何故か一人称が俺からぼく変わってしまったのは気まぐれである。
 結局、葦菜は最後まで日記を読みきり、そのまま顔を保健室のベッドにうずめ、終日無言だったという。



ε

『もしも魔人能力者がアルバイトをしたら』



「いらっしゃいませー」
「………」

「ポイントカードはお持ちでしょうかー」
「………」

「合計で7350円頂戴いたしまーす」
「………」

「1万円からお預かりしまーす」
「………」

「一千…二千…お先に大きい方二千円のお返しになりまーす」
「………」

「のこり650円とレシートのお返しになりまーす、お確かめくださいませー」
「………」



「ありがとうございまーす、またお越しくださいませー」
朱音 多々喜「普通かいッッッッ!!!!」スパァーン!
最終更新:2011年06月19日 18:09