古参陣営最終応援ボーナス:182点



ヴァーミリオン・碧我、目覚めと別れ



 あたいの絵は世界一。

 みんなが褒めてくれた。
「先生の絵だよ」
 そう言うと、先生は微笑んでくれた。
「お姉ちゃんの絵だよ」
 そう言うと、お姉ちゃんは抱きしめてくれた。
 みんなそうだった。
 それが嬉しくて嬉しくて、たくさん絵を描いたんだ。

 お姉ちゃん。みんなが泣いてた。
 大きな箱の中で、お姉ちゃんは眠ってる。
「さよなら言おうね」
 ママが言った。パパも言った。みんなが言う。
「明日会える?」
 誰も答えてくれなかった。
 その日から、お姉ちゃんはいなくなった。
 だから、お姉ちゃんの絵を描いた。何枚も描いた。
 抱きしめてもらいたくて、何枚も描いた。

 あたいの絵は世界一。
 そのころはクレヨンで絵を描いてた。
 手をぐちゃぐちゃにさせながら、自分の描いた絵を眺めて勝ち誇った。

 みんなが褒めてくれた。それが嬉しかった。泣いて褒めてくれた。
 ねえ、お姉ちゃんも、褒めてよ。たくさんお姉ちゃん描いたんだよ。

 ねえ、お姉ちゃん。ぎゅっとしてよ。
 お姉ちゃん。


 おかえり、お姉ちゃん。
 ねえ、あたいの絵は世界一?

 ・
 ・
 ・

「何描いてんの?」
 小学校の頃、図工室で遅くまで絵を描いてた。
 誰もいない校舎、先生は残っていたけど、様子を身に来るだけ。毎日、毎日、残って描いてたから。
 誰もいない風景。いつも側に誰かいたけど、そのときは絵に夢中だったから、後で返事したときには、いなくなっていた。

 あたいの絵は世界一?

 自分の描いた絵を眺めて、首を捻る。
 こんな絵じゃない。それを破り捨てる。
 その繰り返し。

『コンクール金賞』

 みんなが褒めてくれた。いつしか、それが当たり前になって、いつしかそれがつまらなくなった。

「こんな絵じゃない」

 この絵は世界一じゃない。

 ・
 ・
 ・

「碧我。まだやってんのかー?」
 中学に入ってからも、それでも描き続けた。
 あたいの絵は世界一!
『すごいね!』(これじゃダメだ)
『入賞確実だよ!』(そんなの意味ない!)
『学園一だね!!』(そんなのイヤダ!!!)


 あたいは筆を折った。
 あたいの絵は――。


 ・
 ・
 ・


「碧我ぁー。おめえ、まじ最高だわ」
 連れがそう感嘆した。
「……」
 何だこれは。壁一面に、スプレー缶で絵を描いたが。
「この絵、どう思う?」
「あん? だから、マジパネぇって」
「あーそー」
 スプレー缶で、描いた絵を塗りつぶしていく。
「ちょっ! おい。せっかく見てたのによぉ」
 碧我は黙々と絵を塗りつぶし、ものの30秒で、絵は完全に消え去った。
「もったいねぇなぁ。まぁ、いいや。なぁ、碧我ぁ。俺らもそろそろねんごろだしよぉ。そろそろなあ、いいだろう――?」
 連れのにやにやとした面に、スプレー缶をたたきつけた。
「ぐふぇ……!!」
「失せな!」
 連れはそそくさと逃げていった。

 青く塗りつぶされた壁を見上げる。
「ちっ……!」
 スプレー缶を持ち、もう一度絵を描く。


 ・
 ・
 ・(少女→?
 ・
 ・

 ずっと描いては潰し、描いては潰しての繰り返し。
「何描いてんの?」
 誰かが話しかけたような気がした。だけど、ただひたすらスプレー缶を使い、絵を描き続けた。
 空のスプレー缶が何本も、壁の前に転がっていく。
 気づけばもう、あたりは真っ暗になっていた。
 背を伸ばし、身体をほぐす。
「んー、ん?」
 ふと、振り返る。
 清楚な雰囲気の制服姿の小柄な女が、鉄材の上に座ってこちらを眺めている。
 そいつは親しげに私に手を振った。
「何度も声かけたけど、集中してたみたいだったから」
 そいつはそう微笑む。
「なんだ、てめえ?」
 癖でがんを飛ばす。実際、こいつは得体が知れない。それくらいしても良いかもしれない。
 しかし、そいつは一瞬ひるんだだけで、すぐに笑みを作った。
「覚えて……ないよね。幼稚園から、小学校のころまでは一緒だったんだよ」
 じっと、そいつの顔を見たが、確かに見覚えはある、だが、名前が出てこない。
「忘れたよ」
 そう答える。
「やっぱね」
 そいつは悲しげに呟く。
「で、何のようだよ」
 見た感じ、どっかのお嬢系の学校の生徒であろう。こんなところをこんな時間にうろつくなど、親や学校が色々とうるさいに違いない。
 こちとら、この光景を人に見られれば、変な疑いもかけられかねない。
 できることなら、早くどこかへ言って欲しい。
「あなたを見ててね、ずっと言いたいことあったの」
 絵のことだろうか。ドキリとする。
「なんだよ」


 食いつくように聞き返した。
「碧我、好きだよ」

「あ?」

 唐突な告白。
 期待したものと異なる、それに、理解が追いつかず、聞き返した。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ」
 このアマは自分をバカにしているのだろうか。そう考えるが、そいつの眼には涙が浮かんでいた。
「本当に、絵が好きなんだね」
 そいつは、私の背後にある壁の絵を注視した。愛おしそうに、しかし、妬ましそうな、そんな顔で。
「あいにく……」
 そういう趣味はないんだ。そう言いかける。しかし、絶句した。
 そいつは、その細い指で、胸のリボンをほどき、ブラウスをその場に脱ぐ。
 真っ白なブラウスがコンクリートの上で翻った。艶かしい柔肌は、月明かりに照らされている。
「な……!」
 言葉が出なかった。止めようと思えば止められただろう、けれど、身体が動かない。まるで、その先の光景を見ることを望んでいるかのように。
 あたいの中で、何かが、ドクンッドクンッと高鳴るのを感じた。

 ――綺麗。

 そいつが、その身に何一つ纏わぬ姿になったとき、思わずそう呟いた。
 まだ、成熟していない幼い体躯が、淫らに煌いている。
 つばを飲む。
 描きたい。そんな衝動に駆られた。

 もはやあたいの中で、そいつは「少女」という被写体で、たとえ、拒まれてももう、私には描く手を止める理性は残っていなかった。
 描きたい。
 スプレー缶を手に取る。

「いいよ」

 少女はそう優しく微笑んだ。
 その瞬間、箍が外れた。
 あたいは時間が経つのも忘れて彼女を描いた。

 彼女の瞳の輝きも、毛の滑らかさも、全てを一枚の壁に描ききるつもりで。

 ただ、ひたすら描き続け、気づけば、もう朝になっていた。
 空になったスプレー缶が足の踏み場もなく、散らばっている。
 あたいは自分の絵を見上げた。

「あぁ!」

 膝の力が抜けた。
 あたいは蹲り、年甲斐もなく、声をあげて泣いた。

 そこには、私の絵があった。
『世界一の、あたいの絵!』
 なんで、ここに……! 私は涙が枯れるほど、取り付かれたかのように泣き続けた。
 そうだ、あれからずっと側にいてくれたんだ。なのに。
「ねえ!」
 周囲を見渡すが、すでにそこに少女の姿はなかった。



 ・
 ・
 ・


「お前、何してんだよ」
 墓の前にいた。
 あれから、こいつのことを探して回った。ひょっとしたら、本当は生きてるんじゃないかって、探した。
 しかし、こいつはどこにもいなかった。考えてみれば、それも当然か。
「なにやってんだよ、バカ」
 私はペチンと墓石を叩く。そして、その裏に回り、そこに描かれた小さな落書きをスプレーで塗りつぶす。
「じゃあな」
 そう呟く。シューッと全てが塗りつぶされる瞬間、
『行って来ます』
 優しい声が聞こえたような、そんな気がした。


闇峠 右左子、カガミウツシ。



 "私は鍵です。"
 "私はこの世界とこことは異なる世界をつなぐために、"私自身の能力"によって送り込まれました。"
 "この世界での私の役割はそれだけなのです。"

 "それを果たせば、私のお役目は終わりなのです。"







「おい、お前がいけよ」


 クラスメイトたちの囁き声が聞こえる。


「嫌だよ。あいつ、何話しかけても無言だし、気味悪ィ」
 私のことかな。
「この前なんか、消しゴム落ちてたから拾ってやったのによぉ、何も言わないんだぜ?」
「そんなのいつものことじゃん」
 ごめんなさい。
「まじ、うぜぇ。先生もさー、俺らにばっか押し付けて。腫れ物みたいにあいつ扱ってるしさ。あいつさえいなければ、最高のクラスなのになあ」
「そんなこと大きな声で言っちゃ、聞こえちゃうよ」
「別に聞こえたっていいぜ!? あいつが、きちんと演じてくれんなら、俺はあいつに今ここで殴られたってかまわねぇよ」
「もう、そんなことはどうでもいいでしょ! 今は明日のことについて話してるんだから!」
「でもよ、みんなで練習してきたんだぜ? あいつ一人のせいで台無しにされるとかよぅ」
「いっそのこと、あいつセリフ無しでいいじゃん」
「一人一回は必ずセリフを言うって、決めたじゃない」
「……けどよぅ」
「それにあの子の役は、元々先生に演じてもらう予定だった役じゃない」
「何がクラス全員で、演じられるようにだよ……。余計なことしやがって。あいつもだよ、あんな一言二言のセリフくらい、何で言えねえんだよ」

 ああ、そうか。
 彼らは明日に行われる学園祭の催しの話をしてるんだ。
 私がここに転入する前にそう決まっていたみたい。
 演じて欲しいって何度かお願いされた。

「で、誰が言うよ? あいつ、あのまま出せねえよ」
「私は、無理。だって、いじめみたいだもん」
 クラスに沈黙が続く。

「あたしが行くよ」
 今まで事の成り行きを見守っていたクラスメイトの一人が立ち上がる。

「右左子さん」
 名を呼ばれる。声の方を向いた。
「みんなの邪魔するならさ、明日来ないでよ」
 声が出ない。
「聞いてんの? まぁ、返事なんか期待してないけど」
 そう言って彼女は戻っていった。

 全員から注がれる敵意の目線。
 居た堪れなくて、立ち上がり教室から出て行く。

 みんなの歓声が聞こえた。


 校門を出るとき、教室の方を見た。
 窓ガラスの向こうでみんな楽しそうに笑ってる。
「ごめんなさい」
 そう呟いた。
 ふと視線を下に向けた。黒い斑点がぽつぽつと増えていく。
「雨だ」

 ・
 ・
 ・


 私は異物ですか?


 ・
 ・
 ・

 文化祭が終わった。
 学校へ行く。

「……おは……う……」

 みなの笑い声にかき消される。
 席に座った。

 隣を見た。話をしてた。

「……お……よ……」

 一瞬、こちらを向いてくれた。けど、首を傾げて、また別のクラスメイトと話し出す。

 授業が始まる。
「ここ、読んでもらおうか。闇峠」
 先生が私を指す。

「……――」
「じゃあ、次、峯崎ー」

「……あ、……の……」
 頑張って声を出す。
「私、あたりましたよー」
「お、そうだったか? すまんすまん」
 はっはっはと先生は笑った。
 クラスメイトの一人が、突然、何かを思い出したかのように手をあげる。
「先生、先生! 昨日、連れて来た人って彼女さんですか!?」
「あ! 私も気になります!」
「どこで知り合ったんですか!? 告白したのは先生から? それとも彼女からですか?」
 何人かが同調する。
 先生は照れくさそうに声を荒げた。
「お、お前ら! あまり大人をちゃかすなぁ!」
 クラスにどっと笑いが走る。

 がやがやとした雰囲気の中で、私のいる空間だけが、まるで異世界のようだった。
 異物。私は異物?

 ポケットから手鏡を取り出す。

 そこには私がいた。
 私そっくりな私がいる。
 ただ、ここにいる私とは違う。彼女は、うさぎのフードを被っている。そのフードについている耳は、垂れていて可愛い。

 ――鏡の向こうに行きたい。

 いつの頃からか、そんなことを考えるようになっていた。
 そこにいる私。ここにいる私。鏡の中には、私から切り離されたもう半分の私がいるような、そんな気がしていた。

 それから鏡を持ち歩き始めた。

 鏡を通して世界を見ると、世界は少し違って見えた。
 鏡映しの世界。

(そっちに行きたい)

 私は強く願った。
 だから、彼女はそっちにいる。
 私を不思議の国に連れてってくれる、彼女はクロック・ラビットなんだ。

 鍵は彼女が持っている。
 彼女は私の半身だから、私と同じであまり話すのは得意でないんだ


 ・
 ・
 ・


「何をしてるんだ?」
 私は無言で振り返る。
「もうすぐ、戦いが始まるんだ。あまりふらふらしてるなよ」
「わかりました」
 小さく頷く。

 短刀をかざし、そこに映る自分を見る。
 そこには、私ではない私がいる。
(マスターは思い違いをしてます)

 もうすぐ、ハルマゲドンが始まろうとしている。
 鏡の中の私は、この世界の怖さを知らない


 でも、私は、私の役割を果たすだろう。
 鏡を挟んだ向こう側で、私自身がそれを望んでいると言うのなら。


マジカマのこだわり


 スケトウダラのスリミを冷凍し解凍ご更に冷凍する事でスリミが繊維状となりまるで蟹の様な食感になるという事をご存じでしょうか。
 現在の一般的なカニカマの製法である細長い蒲鉾を束ねてロールする方法は大量生産に向いておりますが暗黒お料理クラブ水産加工部門「新寅」では製法にこだわり昔ながらの作り方を貫いております。
そして新寅がリアリティと活きの良さを追求した結果至ったのは動く蒲鉾という境地でした。
魚肉のスリミを混ぜ合わせ無害な着色料を使用して本物そっくりに作り上げ、一族の人造魔人技術を使って命を吹き込まれたのが魔人蒲鉾、通称マジカマである。

新寅の本物志向の造形技術によってあらゆる魔人にそっくりな生きたマジカマを製作可能で味の方も絶品。
鮮度も重要視しており「冷たい扉(クールドア)」によってあらゆる場所へ一瞬でお届け可能です。

豆知識
現在カニカマは世界中で安価に食べられるサラダのトッピングとして普及しており「スリミ(surimi)」といえばカニカマの事である。フランスではバゲットに挟んでサンドイッチに、中国では「人造蟹柳レンザオシエリュウ」として中華料理にも用いられるほど。すしバーではcrabは蟹の寿司だがKANIを注文するとカニカマの寿司が出て来るのだ。

                      / レ'        `丶
                      〈Vf            ミヽ
                   ,-=^ }人} i 、          ヽ
                  ムイ /  'マ 〈 \  、 i       \
                   }  /=ミ、>=へヾ}、ト、}     . テア
                   ノ ハ. =ヲ ;  ー=   トz__> ´   /
                 <   / _廴_i_,_    j / }____ ノ /
                 〈^  _ヾ'  ,_,_ ハ /}リ ノ     ア
   .  T  ̄: ー,__  .........====} .厂__  } {   爪ミ==== ヲ
. {ア´ _ - ¨¨¨テ二二 -‐   ¨¨^ヘ!/    〉.リ  ノ! }ハー:r ´
  ヽ    . - ´ノ           }    .レ'> ' リ / リ/く
  ハ     /¨)               ` rー- ´  ./ x≦テ⌒ヽ------ァ
  |      /           .xz}      /x≦    /::::::::::::/::::::
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     ¨ - ._   ` </   }/       / ./::::::::::::::::/:::::::{ム==ア::::::
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なんという深い味わい
これは美味いぞぉ!!


ヨネスケ・ヴァレンタイン、剪定。


 俺はヨネスケ・ヴァレンタイン。
 無数の並行世界を行き来する能力を持つ。その世界ごとに異なる俺がいる。

 俺よりも、スペックの高い俺。俺よりも、スペックの低い俺。
 俺自身が他の世界に呼ばれることもある。

 その並行世界の中で、自分のスペックはどの位置なのか。気にならないと言えば嘘になる。

「死ね」

 優生思想と言うものがある。
 社会的介入によって、人間の遺伝形質を改良しようとする考えだ。
 それと同じように、俺たちの間でも、人為的介入によって、自らの能力を改良しようとする、そんな風潮が流行ったことがある。
 今は大分落ち着いたが、それでも決してないとは言い切れない。
 なにせ化け物がいるのだ。

 とは言え、その風潮が流行っていた当初も、それは地獄だった。

 何が地獄かと言うとだ。
 呼び出された瞬間、ナイフで切りかかられる――そんなことはざらだ。
 だからこそ、そのときのことを知っているものは、自分も相手を殺すために、常に武器を持ち歩いている。
 こいつは、自分を殺そうとしているのではないか? そんな疑心暗鬼に満ちた殺伐とした雰囲気が、満ち満ちていた。

 まぁ、せっかく呼び出すのだから、より高スペックな自分を召喚したい。そう思うのは仕方がない。
 もし、弱い自分が並行世界から召喚されてしまい、そのせいで、何か失敗してしまったら、今度は同じことがないようにと、失敗の原因たるそいつを殺してしまおう、とか考えてしまうのは仕方がない
 だけど、それをあくまで考えの内に留めるのと、実行に移すとでは話が違う。

 それにだ。殺される方も、そうやすやすとは殺されまい。
 逃げ延びれば、恐怖から凶行及ぶこともあるだろうに。
 また、一度でも一線を越えてしまえば、もう後戻りはできない。そうやって、どんどんこの"ゲーム"は広がっていく。

 すでに始まってしまったものを、一並行世界の俺だけの力で止めることなど、到底できない。
 誰かが始めたこのゲームは、さまざまな並行世界を超えて、途方もない数の俺によって実行されていった。

 当然、俺だって殺されるためだけに、何度も呼び出されたことがある。
 それは完全なる不意打ちによって、いつも気づかされる。

「死ね」

 冷たい声とともに、飛んでくるナイフ。
 状況を飲み込む余裕もなく、反射のみに頼ってその凶刃を避ける。だが、無事に避けられることなどほとんどない。
 話し合いを試みたこともある。だが、自ら、そんなことを実行しようとする輩に、話し合いなど通用しなかった。

 そのとき俺は、召喚の時間が切れるまでの間、その世界を逃げ回る。
 逃げ切れずに応戦して、逆に相手を殺してしまったことだって、そりゃ、あったさ。


「助けてくれ!」

 また、呼び出された先で、別の並行世界の俺に助けを請われたこともある。
 そいつのスペックは最低ランクで、そいつを殺そうとしたやつは最高と言ってもいいランクだった。
 最低ランクの方は、ぶくぶく太った体躯。スプーンほどのしゃもじ。
 最高ランクの方は、イケメンで、なおかつ引き締まった身体。5メートルはあろうかという、巨大なしゃもじを軽々と携えている。

「どけよ、俺」

 最高ランクの俺が言う。

(勝てない)

 本能で分かった。俺は道を空けようとした。しかし、

「た、助けてくれよぉ! 呼び出されたと思ったらさぁ! そいつ、いきなり俺にナイフを!」

 見ると、最低ランクの俺の腹にはナイフが突き刺さっている。
 低スペックな俺はなおも縋る。
「死にたくないよぉ! 守ってくれよぉ!」
「なんだ、お前も死にたいのか?」
 最高ランクの俺が歩み寄ってくる。
 俺は、力の限り縋り付いてくるそいつを、踏みつける。
「ぶひぅ……!」
 そいつの手から力抜けた瞬間、俺は、走った。
 できるだけ遠くへ。
 だが、突如、背後から肉の塊が襲い掛かる。
「――!!」
 俺は地面を派手に転がった後、すぐさま飛び起きる。
「あ、あわわ!」
 傍らには、ただの肉の塊と化した最低ランクの俺が、肉片を四方に散らばらせて倒れていた。
「次は、貴様だ」
 俺は動けなかった。いや、動く暇など与えられなかった。
 すでに間合いは詰められていた。
「死ね――」
 巨大なしゃもじが、俺の眼と鼻の先に迫った刹那――。

 俺は俺の世界に帰還していた。

「あ……」
 召喚者が死んだから、能力が解除されたのか。
 俺はほっと胸をなでおろす。

 俺は自分のしゃもじを見た。
 その大きさは、決して小さくはない。だが、先ほどみた、あの巨大なしゃもじと比べれば、それはあまりにも小さい。

 俺は、サバイバルナイフを購入した。そして、その日から肌身離さずそれを持ち歩くようにした。

 "あの最高ランクと思われる俺でさえ、ナイフを携えていた。あれよりも、恐ろしい化け物が、並行世界のどこかには存在する??"

 そんなことを考えたら、ぞっとした。その晩は、布団の中でガチガチと震えながら、夜が明けるの待った。

「右左子」

 俺はそいつを呼ぶ。
 右左子も俺と同様、異界を繋ぐ能力を持つらしい。
 右左子は振り返る。しかし、無言。元から、口数の少ないやつだ。それは気にしない。

「お前は、自分に殺されかけたことはあるか?」

 そう尋ねてみる。だが、右左子は、意味が分からないとでも言いたげに、首を傾げた。
(幸せなやつだ)
 そいつとなら、この気が狂いそうになる恐ろしさを、互いに分かち合うことができるかもと思ったが、どうやら俺と右左子とでは、能力の性質が違うらしい。


 "殺される前に"

 俺は、俺自身を呼んだ。
 俺は何よりも先に、そいつが手にするしゃもじに眼を向ける。
 そいつが、俺の手に負える存在かを確認するために。

 だが、もし、そのしゃもじの大きさが、俺のものをはるかに上回っていたならば……。
 俺はきっと――。


「理由」


「やぁぁーっ!」
「はぁぁぁッ」

武道場にて、一組の男女の仕合う音が聞こえる。
「気」を操る「重闘法」の使い手重川紗鳥と、生命力を武器として使う月読葛八である。
同系統の能力を持つ二人は、なんやかんやあって意気投合したのであった。
今では週に1度ほど稽古をする仲である。

「ありがとうございますッ!」
「お疲れ様ー。だんだん動きが様になってきたね」
「いえ、師範に比べればまだまだですよ」
「もう、師範って呼ぶのやめてって言ってるのに・・・」

稽古をすると言っても、1年で師範まで昇りつめた紗鳥と我流で拳法を身につけた葛八では実力に大きな開きがあり、
葛八の方が押しかけ弟子になっているようなものであった。

「・・・ところで、葛八くんはなんで強くなりたいの?」
「え?突然だなぁ・・・うーん、一言で言うとリベンジ、ですかね」
「リベンジ?」
「そうっす。・・・俺の兄貴分がですね、少々乱暴でして――
 毎日いろんな技の練習台にされてたんですよ」
(それ、イジメじゃないのかしら)

兄貴分・ケイゴとの連日のプロレスごっこによって強靭な肉体を得た葛八であったが、それはまた別のお話。

「だから俺は、兄貴とは違う形で上を目指そうと思って」
「ふうん・・・いいわね。目指すものがあれば、あなたはもっと強くなるわ」
「あんなんでも一応兄貴ですから。希望崎に来たのも兄貴に会う為なんすよね、恥ずかしながら」
「へぇ、お兄さんこっちにいるんだ」
「なんかこの近くの石松町ってとこで格闘大会に出てたらしいっす」
「会えるといいわね」
「ハイ」


☆アブカとまりあとemと


「アビバラダ、ウンクム。……エカピゴダ! ブゲダ! アバロッバ!!」
全身に刺青を入れた隻腕の大男が、大声でまくしたてる。

それに対し少女は、疑問調で言葉を返した。
「ウンドコダ? アゲダ? イモウト=ソ=ムリエ?」
さらに、もう1人の少女も続く。
「ワンナンバウンババ? アベシ・タワバ? ゴウランガ!」

中庭奥地の密林、コンガラハッタ族の集落にて。
3年生の仲間としてここに案内された名戯まりあとemは、族長のアブカと談笑しているようだった。
先の2人のリアクションに対し、アブカは笑顔で答える。
「アイノークム。ウケム。エビローダソ。ポポポポーンwwww」

「ポポポポーンwwww」
2人の少女は、手を叩いて笑いころげ出した。
「バナナwwwバッナーナwwww」
アブカは一仕事した顔でニヒルな笑みを浮かべている。ジョークがウケたようでご機嫌だ。
すっかり打ち解けた3人はメールアドレスの交換をして、その場はお開きとなった。



『……で、何だって?』
帰途。まりあの息子、肯はお腹の中から語りかけた。
emとまりあは顔を見合わせると、

「「わかんにゃい」」
同じようにアホ面ぶらさげて、けらっと言った。

『えーっ! な、なんだったんだよ今の。妙な語学に堪能なのかと思って関心しちゃったじゃないか!』
「だいじょうぶだよ、心は通じたよきっと」
「そーだよそーだよ」
2人の瞳には一点の曇りもない。
「……ほら、あれだよ! えーと、馬の耳にもネンブツって言うじゃない!」
「それだ!」

『……まりあ。』
「うん?」
『それだと、通じてない』
「あれー」

♪犯りたかったー 犯りたかったー

「あ、メールだ(ピッ)」
と、携帯が鳴り始めたので、まりあは取り出した。
『その着メロ変えようよ』
「やだー」

メールは、先ほどアドレス交換したばかりのアブカからだった。

Subject:ポポポポーンww
本文:
さっきは楽しかったよ、アリガトウ!
今度は一族に伝わる料理もごちそうしたいな!
また遊ぼうね(*^_^*)


『日本語ペラペラじゃねーか……』
肯は、未発達な胃が痛み出すのを感じた。


「あぁ、エキセントリック学園スクール」


最近 だんだん わかってきた うちの陣営 ろくなのいない
いろんなものが みえてきた みたくはないものばかりだけど

名戯まりあは いつもレモンをかじっているのさ
冗談でナイフを出しても紗鳥マジギレるのさ
阿頼耶識は入れ替える お前はどうして入れ替える

あぁ、エキセントリック学園
拳骨が素手でまた拾い食いした でも言えない汚すぎると言えやしない
マジカマよりマシだから

tp://www.youtube.com/watch?v=FxnO1YumV-Y

瑠丹流は アホほど くるくる回る
シヴァは アホほど 謝ってくる
めっちゃ腹立つ めっちゃ腹立つ
emは もっと 隠密しろ

「増援に呼ばれたら終わりや」

「うわ、俺知らんうち召喚されとる」

最近 だんだん わかってきた 学園生活 命がけ
家に帰れば ヨネスケ接待 2時間の刑
今日も米は 切れている

六埜九兵衛は トラウマだらけ
雨曇は うどんを食うとうまいという
アキカンは 人殺しをやめようとしない
なんで やめないのか

あぁ エキセントリック学園
紅姫がうるさくてねむれない
あー 能力使うやる気が出ない
えっ!? 再行動 能力者いるの?

あー明日になんかならなきゃいいのに
あー明日になんかならなきゃいいのに
どうせ 本選 金縛り
永続的に 金縛り


「実録・守護ネ申の一日」


コンガラハッタ族の守護ネ申・田辺騎士の朝は、早い。
彼の一日は、コンガラハッタ族長の要請メールから始まる。

『件名:テラヤバスwww
 本文:3年生のチームメイトが二人誘拐されたっぽいwww
    田辺ネ申さん救出よろちくび(^v^)』

「ま、マジっすか、アブカさん……」
田辺はメールを受信したPCの前で、重たい頭を起こす。
昨晩は3時まで撮りためていたアニメを見ていたため、ひどい寝不足だった。
頭に鉛が入っているように思いし、椅子に座ったまま寝たため、体のあちこちが痛い。

しかし、田辺はそんなことが理由で頼みを断るわけにはいかないのだ。
自分はコンガラハッタ族の守護神であり、アブカ・コンガラハッタからの信頼を裏切ることなどできない。
ただの浪人生の一般人である自分のことを、何の疑いもなく守護神であると信じてくれている、
たったひとりの友人のために――!

「『了解。1ターン以内に救出します。』…と」
手早く返信を済ませると、田辺は誘拐魔からの救出作戦の準備に取り掛かる。
金属バット。ヘルメット。手製のボウガン。
相手がナイフを持っていた場合にそなえて、分厚い漫画雑誌とまな板。
花火をほぐして自作した、爆薬も役に立つかもしれない。

アブカ・コンガラハッタの依頼は、概ね魔人相手のものがほとんどである。
「魔人の能力で行動不能になった味方を助けて欲しい」
「魔人の能力でドラゴンに変化した友人を助けて欲しい」
……いずれの依頼も簡単なものではなかった。
それでも、田辺は知恵と勇気の限りを尽くし、あらゆる状況を打破してきた。
一度たりとも失敗のできない、命のかかった頼みごとである。

そう、アブカ・コンガラハッタの能力は、実は魔人能力などではない!
一般人である田辺騎士が、己の知恵と勇気のみを頼りに、強引にバステを解除する力技なのである!

デデーン♪
決死の覚悟を固める田辺のもとに、さらなるメールが着信する。
『件名:Re:Re:テラヤバスwww
 本文:犯人はアキカンで人質が着ぐるみ状態とかwww
    わけわかめ(^O^)/ でも田辺さんなら… 田辺さんならなんとかしてくれる…!』

今回の相手も、自分の常識が通じる相手ではなさそうだ。
しかし、田辺はその手の常識はとっくに捨て去っている。
「待っててください、アブカさん……! そしてアブカさんのチームメイト……!」
田辺は金属バットと手製のボウガンを構えて、自室を飛びだしていく。
たったひとりの友人の期待にこたえるために……

【Fin】


「実録・守護ネ申の一日 2」


コンガラハッタ族の守護ネ申・田辺騎士の朝は、早い。
彼の一日は、コンガラハッタ族長の要請メールから始まる。

『件名:リア充爆発しろ
 本文:きつねとかいう1年がコミュ力高すぎて攻撃できないwww
     田辺ネ申さん対応よろちくび(●^o^●)
     田辺さんのコミュ力(笑)でなんとかして!!!111!』


「俺、コミュ力なんてないっすよ、アブカさん……!」
田辺は自転車を疾走させながら、対応手段を考える。
まさかコミュ力を増大させて防御する魔人がいようとは。
下手に割り込めば、自分が殺されてしまうに違いない。どうする?

「そうだ! この最新のスマートフォンでググれば……!」
田辺は己の直感に従い、検索を開始する。
なんという機転! 世界とつながるネットがあれば、いつでもどこでも検索が可能なのだ。
田辺の指が素早く検索ワードを入力する!

『コミュ力 高い人 攻撃する 簡単』
【該当 : 1件】
 >コミュ力が高い人を攻撃するには、
 >相手を認識しないようにしてしまうのが簡単です。
 >相手の顔にモザイクをかけるとか……ちょっとやりすぎ?(^_^;)
 >あと、コミュ力の高い人は携帯のいっぱい入った鞄とか持ってるから、
 >それを奪って隔離しちゃうのもいいと思います^m^

「これだ!」
これぞ天の助け。神は自分を見捨てていなかった。
いや、自分こそが守護ネ申でなければならないのだ。
田辺は己の甘さを恥じ、コンビニでビニール袋とカッターナイフを購入した。

これで戦場に踊りこみ、誰かが反応する前にビニール袋を相手の頭にかぶせ、
カッターナイフで鞄の取っ手を切断! そのまま奪い取り、遠くに放り投げる。
これしかないだろう。あとは、この方法を実行するには――

生唾を飲み込みながら、田辺はサイバネティック人体改造整形外科のドアをたたいた。
「先生……」
田辺はハッキングと株式売買で入手した7000万円を医師に差し出し、土下座をした。
「俺に、超加速装置を埋め込んでください!!!」

守護ネ申の覚悟が、戦場に一陣の旋風をもたらす……!

【Fin】


★最強戦士あらわる!


「あの宣戦布告を見た時の奴らの憤慨した顔!」
「よほど悔しかったんかね」
「強さに学年は関係ない……目にモノ見せてやろうぜ!」

たむろする名も無き1年生の集団。
自分たちの勝利を確信しているかのように、自信に満ちた笑みをかわしている。
迫る決戦を前に、彼らの戦意も高まりつつあったのだが――と、その時である。

べしゃん!
「!?」

彼らのうち1人の後頭部に何かがぶつけられた!
増長しつつあった彼らにしてみれば、凄まじい侮辱である。
いったいどこのどいつがこんな事を!

「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」
怒りとともに彼らが振り返る。そのアタマから、ぽろりと、先ほど当たった物体が落ちた。
……おにぎりだ。

「フヌーン」
嘲笑が聞こえる。
振り向いた彼らが見たのは……世にもおぞましき姿をした戦士であった。

右手のステッキからはハデな光線を放ち、肩に装着した謎のアンテナからは、
気分が悪くなるような怪電波が向かってくる。
口元に装着したマスクはバチバチとイナズマを纏っており、
左手ではハンマーをブンブン振り回している。
全身からはシュワシュワした柑橘系のオーラが立ちのぼり、今にも爆発しそうだ。
そしてなぜか、背中におにぎりを大量に抱えている。さっき投げたのはこれだろう。

<完全装備uDon!>
そう、これはコピー能力者である香川雨雲が、味方のあらゆる能力を得た究極の姿なのだ!

「ア……アイエエエエ!?」「コワイ!」「ゴボボーッ!」

そのあまりにゴテゴテした姿に言い知れぬ気持ち悪さを感じ、
1年生達は目に見えて狼狽した。なんという悪趣味な姿であろうか!
しかしここでさらに彼らを絶望させるセリフを……その相手は口にしたのである。

ヒュヒュヒュヒュヒュ
 (^o^) 三 (^o^) 三 (^o^) 三  更にこんな私が
 (\\ 三 (\\ 三 (\\ 三  6倍に増えたら
 < \ 三 < \ 三 < \ 三
  \      \     \
三(/o^)  三(/o^)  三(/o^)
三( / 三( / 三( /
三/ く   三/ く   三/ く  生き延びられますか?

なんという事か!
彼女がスプレーで自画像を3つ書くと、それはあっという間に実体化され、
さらに、唐突に出現した2つの魚肉の塊が、一瞬にして整形され彼女自身の姿となった。
計6人の完全装備香川である!

「アイエエエエ!!」「増えた!増えたナンデ!?」「ゴボボーッ!」

1年生達は醜態を晒し、無様に逃げ帰るしかなかったのである……。


御厨「……というPVを送りつけてやるのはどうかしら。クックック」
香川「やめて」
最終更新:2011年06月18日 13:37