死屍累々。そんな言葉がぴったりなんじゃないだろうか。
人が倒れている。それが死んでいるか生きているかは、ぱっと見ただけじゃ分からない。
出来れば皆生きていてほしい。それが駄目なら、一人でも多く生きていてほしい。そう願って、ライラックは一歩を踏み出した。

   *   *   *


『ここで荷物の番をしていろ』


そう言ったっきり、彼の母親は二度と彼を迎えにこなかった。
どんなに待っても何時まで待っても迎えに来ない。幼かった少年は、『捨てられた』という事実を突きつけられて俯いた。


『凄いじゃない、木暮くん!』


彼を殆ど強引にエイリア学園との試合に参加させて、彼を褒めて、評価してくれた少女がいた。


『サッカー、やろうぜ!』


彼を仲間として認めてくれる人達は、確かにいた。


『木暮くん、食べなくてもいいよ?』
『うえぇっ!?』


『そ、そこまで言わなくても……』


一緒に必殺技の特訓をしたりもした。


『キャンプかぁ……楽しそうだなぁ』
『――だったら、今度行こうよ。円堂くん達も誘ってさ』


不安な時に支えてくれた人もいた。
――けれど。
それらを全てぶち壊すかのように彼女は笑い、そして、食いつかざるを得ないほどの餌をこれ見よがしにバラ撒いた。


――願いを叶えたくはない? と。

   *   *   *


ただなんとなく、漠然と、生き延びることが出来ればいいと思っていた。
あんな嫌な奴はすぐにぶっ倒せると、そう思っていた。
仲間も居る。だから大丈夫。そう思い込んでいた。

『どうして、ですか?』

友人だった少女は泣きそうな顔で彼女に問いかける。


『あなたを信じてたのに』
『あなたといれば大丈夫だと思っていたのに』
『ねえ、なんで』
『怖いよう』
『怖い怖い怖い怖い怖い怖いたすけて』
『どうして』
『お願い』
『なんで』


悲痛に叫ぶ少女の瞳から涙が堕ちた。
赤く、紅い、血の涙が。



『どうして、こうなっちゃったのかな』


血の涙を流しながら少女は、彼女に問いかける。けれど、彼女はそれに答えることが出来なかった。



   *   *   *

「ん……」
「あ、気がついたんだね」
『よかったね、ライラ』

聞いたことのない二種類の声。
ボヤけていた視界がだんだんはっきりしてくると、見たことの無い顔が確認できた。ほんの数秒、ぼーっとその顔を眺める木暮。幼い顔立ちに金色の髪。目の下のペイント。男だか女だかやや分かりづらい。

「大丈夫? お水飲む?」

金髪の少年が再び話しかけてきたことで、木暮は我に帰った。同時に、右手に何も無いことに気づく。

(銃が無い――――!?)

慌てて起き上がると、木暮の胸元の辺りから何かが転げ落ちた。
鈍く光るそれは小石だろうか。あるいは、何かの欠片にも見える。

(これは……)

「ん……」
「あ、こっちも!」

どうやら、木暮の他にもう一人気絶していたようだ。何故かもう一人の気絶者の胸元辺りに、木暮から転げ落ちた石ころと同じものがあった。

「よかった。二人とも起きてくれて、本当によかった」

金髪の少年はそう言って、とても穏やかで無邪気な笑みを見せた。
起き上がった少女は訝しげに少年と木暮を見つめて言った。

「あなた達……誰?」

   *   *   *

「――で、こちらがシャルティエさん」
『やあ、僕シャルティエ!』

ライラックと名乗った少年が掲げた物言う剣に対し、驚きを隠せない木暮。それはレミリィと名乗った少女も同じのようだった。

「自己紹介も一通り終わったし、これからどうするか決めようよ」

どうやら彼は結構明るい性格のようだ。と木暮は判断した。
底抜けにポジティブなイナズマジャパンのキャプテンの顔が浮かんできて、少しだけ複雑な気持ちになった。

「一つ質問してもいい?」

レミリィが言いながら挙手する。

「あたしね、さっきまで闘ってたの。で、その相手の攻撃くらって結構ボロボロだったんだけど――なんで傷が殆どなくなってるの?」

それは木暮も気になっていたことだった。
目を覚まして、固い地面で寝ていた所為か背中が痛かったが、逆に言うとそれだけのことだったのだ。
確か彼、勢いよく叩きつけられた筈だ。何処かに大きなダメージを負っていてもおかしくは無い筈なのに、それらしきものが待ったく無い。
するとライラックは、レミリィの質問に答えるように何かを取り出した。
それは小瓶だった。コルク栓でしっかり閉まった小瓶の中に、不思議な輝きを放つ小石がいくつか入れられている。それは、さっき木暮から零れ落ちた石ころによく似ていた気がした。


「月の石のかけらなんだって」

ライラックが小瓶を軽く揺らすと、中の小石がころころ音を立てる。

「傷を治して、よく分からないんだけど“心の力”っていうのを回復させてくれるって書いてあったよ」
「へぇ、なるほど……あ、そうだ」

レミリィは思い出したように話を切り出した。

「あたしの友達見なかった? 年はあたしと同じぐらいで、黄色のシャツ着てるんだけど……」

レミリィの言葉を聞いたライラックが、露出した細い方をびくりと震わせた。瞳を悲しげに伏せたのを見た木暮は、なんとなく嫌な予感がした。

「え? ちょ、ちょっと、どうしたの……?」
「彼女は……亡くなってたよ」
「え……?」
「ごめんなさい。ぼくが来たときには、彼女はもう……」

信じられない、と言った風にレミリィは表情を歪ませた。

「……シーナは、何処?」

ライラックは無言で少し離れた場所を指差した。
動かなくなった彼女の友人が、そこにいた。

「……嘘。なんで」
「ごめんなさい」
「……嘘よ。シーナはまだ生きてる」
「いえ、もう彼女は……」
「生きてるよ!! さっきの月の石を貸して! きっとすぐ起きてくるから!!」

ややヒステリックに叫ぶレミリィ。
ライラックは小瓶をデイパックに仕舞うと、代わりに拳銃を取り出した。
――木暮がさっきまで持っていた筈の拳銃だった。

「これが、近くに落ちてたんだ。多分、これで撃たれて、それで……」
「そんな……」

項垂れるレミリィを見て、内心木暮は怯えていた。
――まずい、まずい! オレだって、オレがやったってバレるんじゃ――!

「……ユウヤ?」

ライラックは心配そうに木暮の顔を覗き込んだ。

「大丈夫? 汗びっしょりだよ。そんなに恐かったの?」
「あ……ああ。その、オレの仲間もやられて……。あいつ、立向居の奴、オレのこと逃がしてくれたんだ。オレに荷物まで渡してっ……それで……」

悔しそうに“嘘”を語る木暮の姿は、ライラックにはどう映ったのだろうか。
答えは至極簡単。

「……大丈夫だよ。ユウヤのことも、レミリィさんのことも、ぼくが守るから」

だから、安心して。少年は屈託の無い笑顔を見せる。
ライラック・エルは、他人の為に自分を捧げることの出来る人間だった。

「あたしの……ことも?」
「うん」
「……あ、あたしは、守られるほど弱くないから大丈夫!」
「分かった。でも危ないときは助けるね」

木暮はあることが分かった。
一つ、自分がレミリィの友人を殺したことがバレていないこと。
一つ、レミリィ=ライフィルアもまた底抜けに明るい性格であること。
一つ、ライラック・エルが非常に甘い人間であること。

(まだ……まだ行ける! 拳銃はとられたけど、支給品はまだ他にもある。少し大人しくしてれば、被害者の振りをしていれば――!)

「……うししっ。そこまで言うなら、一緒に行動してやってもいいけど」
「うん。よろしくね、ユウヤ」
「って、オレにはさん付けしないのかよ!」

そうだ。何も焦ることは無いのだ。
まだ、チャンスも手札も、十分なほどにあるのだから――


【場所・時間帯】E3・昼前・森の中

【名前・出展者】ライラック・エル@星屑の幻想
【状態】正常
【装備】ソーディアン・シャルティエ@テイルズオブデスティニー
【所持品】基本支給品一式、月の石の欠片(残り3)@金色のガッシュ!!、ワルサーP5@現実、不明支給品
【思考】
基本:殺し合いはしたくない・コバルトさんを探す
1:二人ともぼくが守るよ
2:これからどうするか決めなきゃ
3:コバルトさん、何処にいるのかなぁ

【名前・出展者】ソーディアン・シャルティエ@テイルズオブデスティニー
【思考】
1:なんか大変そうだなぁ
2:仕方ないからライラ達を助けてあげよう
※ロワ内では誰でもソーディアンの声を聞くことが出来ます
※また、威力は落ちるものの晶術の使用も可能です

【名前・出展者】レミリィ=ライフィルア@三つ巴の世界
【状態】僅かに残った切り傷、精神的疲労
【装備】杖
【所持品】杖、基本支給品一式
【思考】
基本:生き延びたい
1:シーナ……
2:これからどうしよう

【名前・出展者】木暮夕弥@イナズマイレブン
【状態】少し疲労
【装備】無し
【所持品】基本支給品一式、予備の弾薬@現実、奇跡の指輪@ムシキング~ザックの冒険編~、立向居のデイパック(支給品未確認)
【思考】
基本:優勝して「ありえなかった未来」を現実にする
1:こいつ等甘すぎ。さて……
2:「女性」が望む通り疑心暗鬼をばらまく
3:場合によってはヒロトさんだって……


【月の石の欠片@金色のガッシュ!!】
小瓶に入った光り輝く小石。その本体の光は、1000年前の魔物を石の呪縛から開放した。
その光には傷を癒し、心の力を回復させる効果がある。瓶から出して数秒で光が消え、光が消えるとただの石ころとなってしまう。

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最終更新:2011年04月21日 14:58