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 というわけで。  どいういわけで?  あたしはよくわからないうちに森を目指しているのだった!  いやまぁ、行く場所に困ったので剣を倒したらこっちになっただけなんだけど。  それでもまぁ暑いよりは言いかと、『E3』に向かっているのだった。  と、ここまでが状況説明だろうか。  今の所誰かに出会うと言うこともないし、疲れや何かもない。  あたしの体はこの程度で答えるほどやわではないのだ!  まぁ、おかげで特筆することが何もないんだけど。  そんなわけで森の中。  あたりにぽつぽつと木が浮かんでいる。  どうにも、道のようなものはなく、ただ歩いていれば迷ってしまいそうだ。  まぁ、外の世界の人間なら……だけど。  流石にあたしだって森の歩き方くらい心得ている。  ……で、目の前に人影。  見る感じ“外”の子供っぽい。  何だか目つきが悪そうな……悪がきって感じだろうか。  もしただの子供なら、ゲームに反発しているかもしれない。  わざわざ話しかける必要性はないかな……  でも……  いや、だからこそかな。  ここは――話しかける。  ルミャの事、このゲームに対する彼の事。あたし自身のこれからの事。  結構悩みは尽きない。  だったらいっそ、放しかけてしまうのも手か……  彼と合流するつもりはないし、それに――  彼、直ぐに死んじゃいそうだから。  あはは、何考えてるのやら。  まぁいいか。  うん、どうでもいいや。 「ねぇ――」  ぴくりと、彼は振り向いた。 「何さ」  多少の緊張をもってか、それは受け入れられた。  向こうは不遜と言うかなんと言うか、そんな視線を向けている。 「ちょっとあたしの知り合いを知らない?」 「頼みごとをする前に、名前くらい名乗ったほうがいいんじゃないの?」 「単純な話だからいいんだよ、あんたが殺し合いに乗ってなければ直ぐに済むはずだから」  会話する気も、多分偶然だから、問題はないんじゃないかな。  あるとしたらここで殺し合いを始めちゃうのは面倒ってくらいか。  いや、あくまで精神的に……だけど。 「……まぁいいや。それで、どんな感じなの?」  投げやりと言えば投げやり。  彼はそんな感じの答えを出した。  あたしはルミャの姿を思い浮かべながら、ある悪戯を思い浮かぶ。 「その子はね、金髪に白と黒の服を着てるの。スカートね? 黒が基調かな」  少し思い出すように、彼は考えるしぐさを見せる。  数秒ほど、ここまでの事を思い出しているのだろう。  やがて答えが出たのか、顔を上げる。 「見たよ、うん、あの顔は忘れようがない、だって人を……殺してたから」  何だか、凄い単純だ。  まぁ、引っ掛けすら見せてなかったから仕方ないのかもしれないけど。 「……あ! そうだ。その子さ、リボンをしてたんだよ、御札みたいなの、顔を見たなら忘れようがないと思うけど」  だましてた。  ごめんね、嘘はあたし、普通につくから。 「っ! ……てめぇ」 「だましたわけじゃないよ、言わなかっただけ。  ただね? もし普通に見てたんなら、普通に気がつくと思ったから」  そもそも、その反応がダウトなんだよ。  だって大分あいまいな説明したし、とぼけることも可能だったと思うからね。 「じゃあね。  ……鬼はうそが大嫌いなんだよ? 気をつけることだー」  言って踵を返す。  時間を無駄にしてしまったなぁ。  早く別の場所に行こう。  ……背を向けるあたしの後ろで、何かカチャリと音がする。  けれども、それ以上は動けないだろう。  何せ常人が動けないような威圧を、こっちは行っているのだから。  所変わって先ほどまで春夏がいた辺り。  ほんの数分前までそこには人(モドキ)がいたのだ。  そこに今いるのは二つの強者。  片方はふざけたようなしぐさで箒を横なぎに振り回す。  片方はそれを肉弾で受け止めながら軽くけりを放つ。  箒を持つ者の名はハスタ・エクステルミ。  対する徒手空拳はルビカンテ。  であった途端にハスタが問答無用の投降勧告と言う名の襲撃を行ったのがそもそもの原因。  とはいえルビカンテもそれなりに乗り気ではあったが、はっきり言ってこういったつぶしあいは好まない。  相手は強者。  だがその強者が多く入るとは限らない。  今現在この戦いは拮抗――多少ハスタが押しているもの、切り替えしは十分可能だ――状態にあり、長く続けば消耗が激しい。  ならば、とルビカンテは口を開いた。 「お前はメインディッシュというものをどう思う?」  同時に押されている形であったハスタに反撃を仕掛ける。  ハスタがルビカンテの攻撃を防いだところで、そこからファイアを放つ。  打撃が勢いをもち、爆発する。 「ぐなななーん!」  吹き飛ばされながら、ハスタはギリギリで着地する。  ルビカンテは追撃をしようとはせず、代わりに後ろへ跳んだ。 「こう言い換えてもいいな。  イチゴは一体いつ食べる?」  両手でファイアを生み出しながら問いかける。  向こうは狂人だ、これの意味を理解してもらえると助かるのだが。  結果として、ハスタは箒を大きく自分ごと振り回しながら答えた。 「後から食べる、オレ、ケーキだいすきー」  それを終えると箒を下ろし、振り上げてから肩に提げる。 「けってーい。オレがお前でお前がオレで、大作戦結構決行」 「まったく意味が解らんぞ」  かくいうルビカンテも両手を握りつぶし、炎をかき消した。  なんだかんだで凶悪な殺人コンビと言ったところか。  武人と殺人鬼、目的が同じでも、随分と武人が有情に見えるが。  そして――  そこは戦場ではなく惨劇の生贄が移る祭壇だった。  哀れな子羊が二つと、残酷な蛇が一つ。  子羊の内一つは既に意識がなく、この状況であれば死は免れ得ない。 「…………う」  意識を持つ子羊、シーナは思わず声を出す。  思考の内から咄嗟に浮き出たような声。 「嘘! いや! レミリィ! ねぇレミリィ! 起きてよ、おきておきて……」  死にたくないと、シーナは言った。  誰にでもなく願望として。  当然それを、ソウルは否定する。 「嫌ねぇ、馬鹿みたい。  生きるか死ぬか、貴方はそんな事を言える立場にないじゃない」  せめてそのジャマなのをどこかへやってから言うべきだと、ソウルは笑った。  笑って哂って、嗤った。 「そんな、む、無理ですよ。レミリィを見捨てるなんて、嫌。嫌。嫌!」  気絶したレミリィを抱えたまま、シーナは後ずさりする。  一歩、二歩、距離をとる。  けれどそれはカタツムリと同じだ。ネズミと同じだ。  踏み潰す側からしてみれば、鈍間な愚図にしか見えない。  ソウルはひとしきり笑って、ずいっと顔を二人へ近づける。  恐怖を大きく誘う笑顔。  思わずシールが悲鳴を上げた。  息を呑むような小さなそれはソウルへ届く。 「それじゃあ、仲良く地べたを枕にすることね。  安心なさい――冥府の扉は、貴方達を歓迎するわ」  ゆっくりと顔を放し、絶対の余裕でソウルは語る。  それはもはや決定した戦いの、強者ゆえの余裕。  シーナは思わず目を瞑る。  もうだめなのだと、息をのむ。  いや、ソウルのそれは油断だった、と言うべきか。   「ど、ど、どいたー!」  唐突に響いた少女の声。  飛び込んでくる一つの塊。  黒い羽と、どことなく平凡な少女。  そして元気なハスタ氏。  惨劇ののろしは、ゆっくりと消えようとしていた。  事の発端と言うべきか。  塔を目指そうとしていた朱里と悟(+プリニー)の二人(以下略)は助けを求める叫びを聞いた少し後、先ほどコンビを組んだばかりのハスタルビカンテに襲撃を受けていた。  まず最初にハスタが上から降ってきて朱里に襲い掛かってきた。  朱里に加勢しようと悟が動いたところにルビカンテが襲撃、というのが大体の流れである。  その後二人を囲んで戦闘開始と言ったところだったのだが、二人が飛び掛ってきたところでルビカンテが大技『ファイガ』を放った。  コレにより朱里と悟プリニーは分断され、戦闘が一対一になった。  ハスタとしても一人でゆっくり殺したほうがおいしかったので、この案は賛成である。  こうして一対一になった……のだが朱里がそこで逃亡した。  わざわざ戦う意味はないと踏んだのだ。  その結果、逃げる場所を特に考えなかった所為で彼女はソウルの独壇場に躍り出ることになる。  こうして三人――ソウル、朱里、ハスタが一堂に介する。  最初に動いたのは朱里。  この場からいち早く離脱しようと、牽制の羽を放ち、同時に飛翔する。  その標的となったソウルは一度レミリィとシールに意識を移すが、動くことは出来ないだろうと、すぐさま意識を敵に移す。  丁度いい、 「質より量。全部纏めて吹き飛ばせばいいわ」  得物の大鎌を大きく振るう。  すると波のように分散された風刃が飛び上がる。  それは先行する羽を全ていとも簡単に薙ぐと、続けて朱里に切りかかる。  朱里にはそれは見えない、しかしふと感じた嫌な予感と共に、彼女は自身の体に翼を纏う。  進行は残念ながら急停止だ。 「ぶにゃーんと」  翼を払った朱里に襲い掛かったのは上空から飛び掛るハスタだった。  よく解らない掛け声と共に、箒で朱里を覆うように降りかかる。  朱里は一瞬あたりに視線を這わせ、多少のスペースがある後ろへ跳んだ。  着地するハスタ。  そこに、勢いよくソウルの大鎌が降りかかる。  当然のごとく木製の箒で受け止めるハスタ。  ソウルからしてみれば纏めて切り抜くつもりだった。  だのに、結局箒以上のものには切りかかれない。  因みに、余談だがこの箒、説明書には『霧雨製の頑丈な箒です』と書かれていた。  まぁハスタ氏が適当に鼻かみに使ってしまってもうないのだが。 「ららぁ!」  そこへ、朱里が高速で羽を連射する。  数は十とそこらだろうか、穿てばハスタをソウルの手で引導を渡させることくらいは出来そうだ。  まぁ夢見は悪いだろうが……というか、死にそうにもないが。  実際ハスタは大鎌を弾くと、一回転しながらソウルに切りかかる形になった。  羽を纏めて薙ぐと、次いでソウルへ襲い掛かる。  鎌を弾き飛ばされ、身動きの取れなくなっていたソウルは咄嗟に鎌を捨てると後ろへ飛ぶ。  風を切る音と鎌が地に落ちる音は同時だった。  一回転、後ろへ行くとそのまま立ち上がり、鎌を手にする。  低い姿勢のまま一気に鎌を振り上げる。  ハスタはそれを何のためもなくバック転して回避する。  ついでに朱里の後ろへ回った。  危険を感じた朱里はすぐさま翼で自分を覆う。  するとそこへ衝撃があった。  ハスタが思いきり箒で突いてきたらしい。  大きく前に押し出される。  けれど、これで大分ハスタと距離が開けた。  次いで、羽を広げた途端に襲い掛かってくる何か。  感じ取れはしないものの、すぐさまいくつかの羽を飛ばす。  あてずっぽうの内一つが丁度よくクリーンヒットして、それは消え去ったようだ。  随分と近かったが。  なんにしても問題は多い。  さし当たってはこの状況を何とかしないといけないだろう。  状況的には先ほどのハスタと同じだ。  そして朱里は実質二対一の状況に陥って、その両者を捌けるほど強くはない。  この三人の中で恐らく最も強者なのはあの変なのだろう。 (あたしじゃあどうしても手数が足りないし、あっちは手数はあるようだけど技術と機動力が足りない)  どうやったってこのままではただ飛び回るだけの朱里では打ち落とされてしまうだろう。  ソウルの攻撃が不可視で、遠距離様のものだと言うのも些かまずい。  ならばと考えるが、結局行きつく先は二対一を崩す以外に方法はなかった。  少しでも判断をミスすればすぐさまこの世からおさらばごめん。  殺されるのは嫌だし殺すのも嫌だ。  ならば仕方ない、逃げるしか、朱里にはない。 シーナは唐突に惨劇の祭壇が激闘の戦場へ変わったことに、驚きを隠せないでいた。  どういうことなのかと、木々の合間を縫って行われる戦闘を暫く目にしていた。  が、そのうちそれは自分たちには関係のないことなのだと気がついた。  そう気がついたら、やがてそれは喜びに変わった。  死から逃れた歓喜。  それはシーナにとって最高の清涼剤であった。  死の漂うあの渦中、シーナはひたすら恐怖した。  恐怖の中に一種の諦めのようなものも持ったりもした。  何で自分が、と憎悪のように悔しがったりもした。  どれもコレも事実であり、気絶してしまったレミリィを羨んだのもまた事実。  けれど、もう大丈夫なのだと、戦場は語っていた。  偶然の中に現れた奇跡。  自分は、レミリィは助かったのだ。  早くここから立ち去ろう。  そうだ、それがいい。  今はまだここには死が存在している。  あの三人、だれが被害者なのかはわからないが、殺しあっているのは事実だ。  だったら近寄りたくはない、出来れば今すぐ何処かへ行ってしまいたい。  早くだれか頼れる人を見つけよう。  シーナの抱いていたものは希望だった。  紛れもない安堵、そこから沸いてくる希望の数。  それはどうしようもなく冒しようがないし、純然としたものだ。 (帰ろう、居場所に帰ろう。  大丈夫、レミリィもいる。  そうだ――)  恐怖も、憎悪も、何もかも。  シーナはヘタレでここぞと言うときに何も出来ない。  けど、それはこう考えればいい。  今はここぞと言うときではない。  そう考えて、余裕を持てば、  考えていた。  少なくともその瞬間は。 「起きて、レミリィ、私たちは、何も怖くないんですよ」  声をかけて、その瞬間だった。  タンッっと、シーナの心臓を黒い何かが通り過ぎた。  アレ、何か。  痛い? 紅い?  血? 鉄のにおい。  誰の? 熱い。  自分の、血。  血。血。血。  あふれて、痛い。  こぼれて、熱い。  いやだ、熱いよ、痛いよ。  熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。  ああアアアああああああああああああああああァァァァァああああああぁああああああああああアアアアアァァァァああああアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああぁぁぁぁぁぁああああぁあぁあアアアアアッッッッ!!!!  ――  ――――  ――――――――と゛う゛し゛て゛こ゛う゛な゛っ゛ち゛ゃ゛た゛の゛か゛な゛あ゛。  ――――  ―― [[―――(2)へ>混戦模様 ―朝方森の雫の中で―(2)]]
 というわけで。  どいういわけで?  あたしはよくわからないうちに森を目指しているのだった!  いやまぁ、行く場所に困ったので剣を倒したらこっちになっただけなんだけど。  それでもまぁ暑いよりは良いかと、『E3』に向かっているのだった。  と、ここまでが状況説明だろうか。  今の所誰かに出会うと言うこともないし、疲れや何かもない。  あたしの体はこの程度で答えるほどやわではないのだ!  まぁ、おかげで特筆することが何もないんだけど。  そんなわけで森の中。  あたりにぽつぽつと木が浮かんでいる。  どうにも、道のようなものはなく、ただ歩いていれば迷ってしまいそうだ。  まぁ、外の世界の人間なら……だけど。  流石にあたしだって森の歩き方くらい心得ている。  ……で、目の前に人影。  見る感じ“外”の子供っぽい。  何だか目つきが悪そうな……悪がきって感じだろうか。  もしただの子供なら、ゲームに反発しているかもしれない。  わざわざ話しかける必要性はないかな……  でも……  いや、だからこそかな。  ここは――話しかける。  ルミャの事、このゲームに対する彼の事。あたし自身のこれからの事。  結構悩みは尽きない。  だったらいっそ、放しかけてしまうのも手か……  彼と合流するつもりはないし、それに――  彼、直ぐに死んじゃいそうだから。  あはは、何考えてるのやら。  まぁいいか。  うん、どうでもいいや。 「ねぇ――」  ぴくりと、彼は振り向いた。 「何さ」  多少の緊張をもってか、それは受け入れられた。  向こうは不遜と言うかなんと言うか、そんな視線を向けている。 「ちょっとあたしの知り合いを知らない?」 「頼みごとをする前に、名前くらい名乗ったほうがいいんじゃないの?」 「単純な話だからいいんだよ、あんたが殺し合いに乗ってなければ直ぐに済むはずだから」  会話する気も、多分偶然だから、問題はないんじゃないかな。  あるとしたらここで殺し合いを始めちゃうのは面倒ってくらいか。  いや、あくまで精神的に……だけど。 「……まぁいいや。それで、どんな感じなの?」  投げやりと言えば投げやり。  彼はそんな感じの答えを出した。  あたしはルミャの姿を思い浮かべながら、ある悪戯を思い浮かぶ。 「その子はね、金髪に白と黒の服を着てるの。スカートね? 黒が基調かな」  少し思い出すように、彼は考えるしぐさを見せる。  数秒ほど、ここまでの事を思い出しているのだろう。  やがて答えが出たのか、顔を上げる。 「見たよ、うん、あの顔は忘れようがない、だって人を……殺してたから」  何だか、凄い単純だ。  まぁ、引っ掛けすら見せてなかったから仕方ないのかもしれないけど。 「……あ! そうだ。その子さ、リボンをしてたんだよ、御札みたいなの、顔を見たなら忘れようがないと思うけど」  だましてた。  ごめんね、嘘はあたし、普通につくから。 「っ! ……てめぇ」 「だましたわけじゃないよ、言わなかっただけ。  ただね? もし普通に見てたんなら、普通に気がつくと思ったから」  そもそも、その反応がダウトなんだよ。  だって大分あいまいな説明したし、とぼけることも可能だったと思うからね。 「じゃあね。  ……鬼はうそが大嫌いなんだよ? 気をつけることだー」  言って踵を返す。  時間を無駄にしてしまったなぁ。  早く別の場所に行こう。  ……背を向けるあたしの後ろで、何かカチャリと音がする。  けれども、それ以上は動けないだろう。  何せ常人が動けないような威圧を、こっちは行っているのだから。  所変わって先ほどまで春夏がいた辺り。  ほんの数分前までそこには人(モドキ)がいたのだ。  そこに今いるのは二つの強者。  片方はふざけたようなしぐさで箒を横なぎに振り回す。  片方はそれを肉弾で受け止めながら軽くけりを放つ。  箒を持つ者の名はハスタ・エクステルミ。  対する徒手空拳はルビカンテ。  であった途端にハスタが問答無用の投降勧告と言う名の襲撃を行ったのがそもそもの原因。  とはいえルビカンテもそれなりに乗り気ではあったが、はっきり言ってこういったつぶしあいは好まない。  相手は強者。  だがその強者が多く入るとは限らない。  今現在この戦いは拮抗――多少ハスタが押しているもの、切り替えしは十分可能だ――状態にあり、長く続けば消耗が激しい。  ならば、とルビカンテは口を開いた。 「お前はメインディッシュというものをどう思う?」  同時に押されている形であったハスタに反撃を仕掛ける。  ハスタがルビカンテの攻撃を防いだところで、そこからファイアを放つ。  打撃が勢いをもち、爆発する。 「ぐなななーん!」  吹き飛ばされながら、ハスタはギリギリで着地する。  ルビカンテは追撃をしようとはせず、代わりに後ろへ跳んだ。 「こう言い換えてもいいな。  イチゴは一体いつ食べる?」  両手でファイアを生み出しながら問いかける。  向こうは狂人だ、これの意味を理解してもらえると助かるのだが。  結果として、ハスタは箒を大きく自分ごと振り回しながら答えた。 「後から食べる、オレ、ケーキだいすきー」  それを終えると箒を下ろし、振り上げてから肩に提げる。 「けってーい。オレがお前でお前がオレで、大作戦結構決行」 「まったく意味が解らんぞ」  かくいうルビカンテも両手を握りつぶし、炎をかき消した。  なんだかんだで凶悪な殺人コンビと言ったところか。  武人と殺人鬼、目的が同じでも、随分と武人が有情に見えるが。  そして――  そこは戦場ではなく惨劇の生贄が移る祭壇だった。  哀れな子羊が二つと、残酷な蛇が一つ。  子羊の内一つは既に意識がなく、この状況であれば死は免れ得ない。 「…………う」  意識を持つ子羊、シーナは思わず声を出す。  思考の内から咄嗟に浮き出たような声。 「嘘! いや! レミリィ! ねぇレミリィ! 起きてよ、おきておきて……」  死にたくないと、シーナは言った。  誰にでもなく願望として。  当然それを、ソウルは否定する。 「嫌ねぇ、馬鹿みたい。  生きるか死ぬか、貴方はそんな事を言える立場にないじゃない」  せめてそのジャマなのをどこかへやってから言うべきだと、ソウルは笑った。  笑って哂って、嗤った。 「そんな、む、無理ですよ。レミリィを見捨てるなんて、嫌。嫌。嫌!」  気絶したレミリィを抱えたまま、シーナは後ずさりする。  一歩、二歩、距離をとる。  けれどそれはカタツムリと同じだ。ネズミと同じだ。  踏み潰す側からしてみれば、鈍間な愚図にしか見えない。  ソウルはひとしきり笑って、ずいっと顔を二人へ近づける。  恐怖を大きく誘う笑顔。  思わずシーナが悲鳴を上げた。  息を呑むような小さなそれはソウルへ届く。 「それじゃあ、仲良く地べたを枕にすることね。  安心なさい――冥府の扉は、貴方達を歓迎するわ」  ゆっくりと顔を放し、絶対の余裕でソウルは語る。  それはもはや決定した戦いの、強者ゆえの余裕。  シーナは思わず目を瞑る。  もうだめなのだと、息をのむ。  いや、ソウルのそれは油断だった、と言うべきか。   「ど、ど、どいたー!」  唐突に響いた少女の声。  飛び込んでくる一つの塊。  黒い羽と、どことなく平凡な少女。  そして元気なハスタ氏。  惨劇ののろしは、ゆっくりと消えようとしていた。  事の発端と言うべきか。  塔を目指そうとしていた朱里と悟(+プリニー)の二人(以下略)は助けを求める叫びを聞いた少し後、先ほどコンビを組んだばかりのハスタルビカンテに襲撃を受けていた。  まず最初にハスタが上から降ってきて朱里に襲い掛かってきた。  朱里に加勢しようと悟が動いたところにルビカンテが襲撃、というのが大体の流れである。  その後二人を囲んで戦闘開始と言ったところだったのだが、二人が飛び掛ってきたところでルビカンテが大技『ファイガ』を放った。  コレにより朱里と悟プリニーは分断され、戦闘が一対一になった。  ハスタとしても一人でゆっくり殺したほうがおいしかったので、この案は賛成である。  こうして一対一になった……のだが朱里がそこで逃亡した。  わざわざ戦う意味はないと踏んだのだ。  その結果、逃げる場所を特に考えなかった所為で彼女はソウルの独壇場に躍り出ることになる。  こうして三人――ソウル、朱里、ハスタが一堂に介する。  最初に動いたのは朱里。  この場からいち早く離脱しようと、牽制の羽を放ち、同時に飛翔する。  その標的となったソウルは一度レミリィとシーナに意識を移すが、動くことは出来ないだろうと、すぐさま意識を敵に移す。  丁度いい、 「質より量。全部纏めて吹き飛ばせばいいわ」  得物の大鎌を大きく振るう。  すると波のように分散された風刃が飛び上がる。  それは先行する羽を全ていとも簡単に薙ぐと、続けて朱里に切りかかる。  朱里にはそれは見えない、しかしふと感じた嫌な予感と共に、彼女は自身の体に翼を纏う。  進行は残念ながら急停止だ。 「ぶにゃーんと」  翼を払った朱里に襲い掛かったのは上空から飛び掛るハスタだった。  よく解らない掛け声と共に、箒で朱里を覆うように降りかかる。  朱里は一瞬あたりに視線を這わせ、多少のスペースがある後ろへ跳んだ。  着地するハスタ。  そこに、勢いよくソウルの大鎌が降りかかる。  当然のごとく木製の箒で受け止めるハスタ。  ソウルからしてみれば纏めて切り抜くつもりだった。  だのに、結局箒以上のものには切りかかれない。  因みに、余談だがこの箒、説明書には『霧雨製の頑丈な箒です』と書かれていた。  まぁハスタ氏が適当に鼻かみに使ってしまってもうないのだが。 「ららぁ!」  そこへ、朱里が高速で羽を連射する。  数は十とそこらだろうか、穿てばハスタをソウルの手で引導を渡させることくらいは出来そうだ。  まぁ夢見は悪いだろうが……というか、死にそうにもないが。  実際ハスタは大鎌を弾くと、一回転しながらソウルに切りかかる形になった。  羽を纏めて薙ぐと、次いでソウルへ襲い掛かる。  鎌を弾き飛ばされ、身動きの取れなくなっていたソウルは咄嗟に鎌を捨てると後ろへ飛ぶ。  風を切る音と鎌が地に落ちる音は同時だった。  一回転、後ろへ行くとそのまま立ち上がり、鎌を手にする。  低い姿勢のまま一気に鎌を振り上げる。  ハスタはそれを何のためもなくバック転して回避する。  ついでに朱里の後ろへ回った。  危険を感じた朱里はすぐさま翼で自分を覆う。  するとそこへ衝撃があった。  ハスタが思いきり箒で突いてきたらしい。  大きく前に押し出される。  けれど、これで大分ハスタと距離が開けた。  次いで、羽を広げた途端に襲い掛かってくる何か。  感じ取れはしないものの、すぐさまいくつかの羽を飛ばす。  あてずっぽうの内一つが丁度よくクリーンヒットして、それは消え去ったようだ。  随分と近かったが。  なんにしても問題は多い。  さし当たってはこの状況を何とかしないといけないだろう。  状況的には先ほどのハスタと同じだ。  そして朱里は実質二対一の状況に陥って、その両者を捌けるほど強くはない。  この三人の中で恐らく最も強者なのはあの変なのだろう。 (あたしじゃあどうしても手数が足りないし、あっちは手数はあるようだけど技術と機動力が足りない)  どうやったってこのままではただ飛び回るだけの朱里では打ち落とされてしまうだろう。  ソウルの攻撃が不可視で、遠距離様のものだと言うのも些かまずい。  ならばと考えるが、結局行きつく先は二対一を崩す以外に方法はなかった。  少しでも判断をミスすればすぐさまこの世からおさらばごめん。  殺されるのは嫌だし殺すのも嫌だ。  ならば仕方ない、逃げるしか、朱里にはない。 シーナは唐突に惨劇の祭壇が激闘の戦場へ変わったことに、驚きを隠せないでいた。  どういうことなのかと、木々の合間を縫って行われる戦闘を暫く目にしていた。  が、そのうちそれは自分たちには関係のないことなのだと気がついた。  そう気がついたら、やがてそれは喜びに変わった。  死から逃れた歓喜。  それはシーナにとって最高の清涼剤であった。  死の漂うあの渦中、シーナはひたすら恐怖した。  恐怖の中に一種の諦めのようなものも持ったりもした。  何で自分が、と憎悪のように悔しがったりもした。  どれもコレも事実であり、気絶してしまったレミリィを羨んだのもまた事実。  けれど、もう大丈夫なのだと、戦場は語っていた。  偶然の中に現れた奇跡。  自分は、レミリィは助かったのだ。  早くここから立ち去ろう。  そうだ、それがいい。  今はまだここには死が存在している。  あの三人、だれが被害者なのかはわからないが、殺しあっているのは事実だ。  だったら近寄りたくはない、出来れば今すぐ何処かへ行ってしまいたい。  早くだれか頼れる人を見つけよう。  シーナの抱いていたものは希望だった。  紛れもない安堵、そこから沸いてくる希望の数。  それはどうしようもなく冒しようがないし、純然としたものだ。 (帰ろう、居場所に帰ろう。  大丈夫、レミリィもいる。  そうだ――)  恐怖も、憎悪も、何もかも。  シーナはヘタレでここぞと言うときに何も出来ない。  けど、それはこう考えればいい。  今はここぞと言うときではない。  そう考えて、余裕を持てば、  考えていた。  少なくともその瞬間は。 「起きて、レミリィ、私たちは、何も怖くないんですよ」  声をかけて、その瞬間だった。  タンッっと、シーナの心臓を黒い何かが通り過ぎた。  アレ、何か。  痛い? 紅い?  血? 鉄のにおい。  誰の? 熱い。  自分の、血。  血。血。血。  あふれて、痛い。  こぼれて、熱い。  いやだ、熱いよ、痛いよ。  熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。  ああアアアああああああああああああああああァァァァァああああああぁああああああああああアアアアアァァァァああああアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああぁぁぁぁぁぁああああぁあぁあアアアアアッッッッ!!!!  ――  ――――  ――――――――と゛う゛し゛て゛こ゛う゛な゛っ゛ち゛ゃ゛た゛の゛か゛な゛あ゛。  ――――  ―― [[―――(2)へ>混戦模様 ―朝方森の雫の中で―(2)]]

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