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 雨音のごとく響く轟音。戦闘の一振り。  軽く光灯る洞窟の、夜目を求める暗がりで、二つの暗がりが激昂を響かせる。  片や腰辺りの短槍をステッキのごとく繰り回し。  片や狙い済ました麻縄を手足と同じく手繰り寄せる。  その両者を同時につなぐのは笑みのみであった。  出会ってから数分もない。  いくつかの火の合間を縫って、えいやえいやと、戦闘を続ける。  それだけではない、雷か、浅く光る電光石化。  それだけではない、投擲か、甲高い音の飛び道具。  二度三度影が躍って、それぞれの面は前奏を奏でる。  少女の程の小影が軽く手を横に振るう。距離は人が二、三は収まるほど。  ゆるゆらり、淡くは黒の泡ぶくのように、五つのカードが浮かび上がる。  移る絵図らは最高手、広がるそれは無限のスペード。  炎のように纏って、いくらかの程、展開されるカードは火の玉と変わらない。  覆う手のひら返すは両手。  あふれんばかりの好敵手、回避は不可能、考え不要。  一つの間が空き世界のように。  男の影が軽く振るう。  まるで成長する植物のようにそれは伸びる。  単純な麻縄と単純ではない牢屋構造。  三百六十全方向、余すところなく両者が埋まる。  飛び出すトランプ止める麻縄。  切っ先は鋭く、頑丈な鉄格子にがぶりと喰らいつく。  格言うそれは大したものにはなりえず、引導には一つ足りない。  無数の壁か、はたまた針山か。  結果で言えば当然壁に変わり映えない。  瞬間、瞬く、閃く大影。  電光と化した石は、がりごりと空間を抉り取る。  気のせいか、気のせいで、かくして男は自身の鉄格子から抜け出でる。  連続、そこから時は加速の一途。  不可避の可視が小影を襲う。  麻縄の群れ、水得たり。  はだかる少女、両手を広げる。  漏れ出るは更なるカード、大きさを増し、水を増し、姿を増し。  増し増し増し。  激突する。  寸前、男は影を放し、そこから電撃が生まれ出る。  とはいえ麻縄は電気を通すものではない。  変わって炎が現れ出でた。  両者の顔が、浮かび上がる。  ――影と影の踊りから、戦闘は死闘へと、姿を変えた。 バーン=オルディオ。  趣味は人間観察とでも言うべき自由奔放な人間。  クローバー・トランプ  殺人を好む大嘘吐き。生きるよりも簡単にうそをつき、人を殺す。  戦闘はバーンにとっては偶発で、クローバーにとっては必然だった。  遭遇と同時、クローバーへ話しかけたバーンに、クローバーはトランプの放射でもって答えて見せた。  以降、大よそ数分ほど、戦闘を行っていた。  とはいえ、本人たちには一時間程度に感じられたが。 「楽しいね! 本当に楽しいね、飽きない戦いは殺戮の本望だよ!」  腰辺りまでの長さの短槍を自由自在と振り回し、クローバーは哂う。  一度、大きく横に槍を薙いで、二度、かわされたそれを上へ伸ばしに三度まわしながら叩き落す。  そこへ洞窟に据えつけてあるランプを吊るすための麻縄をもぎ取って、バーンが振りまわす。 「フフフ、ではそのまま殺戮に囚われてしまってはいかがでしょう。プリンセス」  言いながら麻縄を伸ばし、短槍へ巻きつけた。  逃さないと、目で語る。 「殺戮は既に僕らのものさ。誰かが囚われてしまったら、もったいないじゃないか」  クローバーが言いつつ、軽やかに片手を振るう。  次いでそこから大きく車輪のように麻縄へ襲い掛かる。  一度では懲りず、二三度きりつけると、きれいな音と共に掻き消えた。 「では、こういったショーはどうでしょう」  遠くから、青年の声が響く。  ――遠くから、クローバーはその意味に感づいて、大きく後ろへ跳ぶ。  直後、麻縄が大きく燃え広がる。 「随分と荒々しいショーだね! いけないよ、マジックショーは派手であって決して野蛮ではないからね」 「お褒め頂――」  瞬間、バーンが高速でクローバーに迫る。  一瞬で距離をつめる両者。  今度は怒涛のごとくバーンが攻める。 「光栄至極!」  横薙ぎの電光。  人一人を焦げ付かせるには十分なそれはそのままクローバーを穿つ。  ただし、直前にトランプの壁が浮かび上がるが―― 「甘い、ストロベリーサンデーを三回頼めるほど甘いですよ!」  追撃、その奥に、電撃を放つ。  このゲーム独自の制限か、バーンの一撃の射程距離は半分ほどに落ち込んでいたが、接近戦において不自由はない。  四方八方支離滅裂。  大よそ避ける隙間はないし、避ける時間もない。  これでチェックメイトだ。  少なくとも、トランプの向こう側にクローバーが存在すれば。 「マジックショーにおいて、消失マジックを行う場合、観客の注目を一手に集めることが効果的だよ。  たとえば、死体を設置したりとか、ね」  気配はあった。  声を聞くまでもなく存在は予期できた。  バーンは迫る短槍を弾いて受け流す。  クローバーは笑いながら、追撃の手を加える。 「この場合も単純に言えば錯覚さ。  君は僕自身がトランプの向こう側にいると誤解している。  だってそうだよね、僕はこうして後ろで悠々と自適していたのに、君はアレを放ったんだから」  横、突き、縦。  屈み、反らし、受け流す。  両者は激しくせめぎあい、次いでクローバーは笑い続ける。 「殺すならこうでなくちゃ!  死というのはこうでなくちゃ!  解らないかな、今、凄く死にそうだね!」  二連、クローバーは放つ。  一度は短槍。  二度はトランプ。  斜めにふるって、振り切る。  二十にわたって展開し、左右を生める。 「ふふふ、嬉しいですね。  何せ貴方は非常に魅力的ですから」  一度、左へ動き、安地へと踏み込む。  さらに――電撃が舞った。  トランプのカードは簡単に燃えて塵へ変わる。  そのまま大きく後ろへ跳んだ。 「じゃあ、プレゼントをくれないかな」  短槍を構え。  電撃を迸らせ。  両者は。 「Trick or Treat(お菓子をくれなきゃ、ぶちころすぞ)」 「Give You Heart(あなたの心臓、差し上げましょう)」  笑う。 クローバーが接近する。  トランプの幕と共にそれはバーンを細切りにしようといったところか、無数に迫る。  速度は高速、けれどバーンほどではなく、軽く笑ってバーンは動く。  二歩、三歩――間合いをつめるその流れで全てのカードを叩き落す。 「努力不足です、結束を持ってきなさい」 「冗談は餅屋だけにして欲しいね!」  紙製のそれをたやすく握りつぶして、両者は言う。  反撃、バーンの電撃が二線、交差して広がる。  が、それはクローバーが伏せるだけで壁を上下にえぐり、不発となる。  そして、接近戦。  大よそどちらもの間合いへ入り込んだ両者は、それぞれの得物を振るう。  一回転するステッキな短槍。  辺りへ成長する枝のように迸る電撃。  どちらもどちら、両者を途絶えさせるには至らない。  すんでの所で、すり抜けていってしまう。  ならばと、バーンは大きく横へ跳んだ。  ここは洞窟、それほど横幅は広くない、けれどバーンは斜め後ろへと後退する。  あるのはランタン。  バーンが麻縄を使用する際に地面に落ちたものだ。 「フフフ、いやはや面白い、なるほどそれほどではあるようで。  貴方のような存在は……つい束縛してしまいたくなる」 「侵害だね、言ったよね? 僕はプリンセスじゃあない。  君はちょっと誤解しすぎだよ」 「ではそうですね、貴方の得意なそれで、束縛を切り裂いてはどうでしょう。  私ごと……ね?」 「それはいいね、面白い、君自身を殺せるのだから、二倍面白い」  言って、無数の凶器を取り出す。 「まぁ……」  バーンが言いかけたその一言。  それが合図だった。  無数のトランプは二色のそれとなり、バーンへ複雑に襲い掛かる。  そして、バーンは続ける。 「それでチェックメイトなのですが」  同時に、足元の火種を蹴り上げた。  ――戦闘中、麻縄を手にしたときからバーンは考えていた。  最初はほんの戦闘中の無駄な思考。  それが一瞬引っかかったのが、そもそもの原因。  彼の疑問、彼の策は単純だ。  この洞窟の中で燃え続けるランタンは、一体どれほどもつのだろう。  このゲーム、六時間ごとに死ぬ人間は恐らく十前後。  となると最後の一人になるには数日掛かる。  その間、これは相当な火をともし続けなければならない。  どうもこのランタン、原理は大分ファンタジー的なもののようで、油のにおいがかすかに感じられた。  火の大きさはこぶし大。  それを燃やし続ける。  ということは、相応の油が使われているのではないか?  もしそれを全部ぶち巻いたら、簡単な火事くらい、起こせるのではないか?  ならば後は簡単だった。  コレまでに二度、彼は両幅の壁をえぐっている。  一度目はトランプ越しの雷。  二度目はクローバーに回避された交差する電撃。  そのどちらもが、麻縄を切断すると言う目的のために使われた。  コレによって火の元を得たのだ。  とはいえそれだけでは心もとない。  だが彼にはこれ以上のものは用意できない。  だが、彼女には、大量に用意することが可能だった。  クローバー・トランプの支給品は紙のトランプ13ダース。  合計702枚。  バーンはそれを知るところではないが、相当の数だろうということは検討がついていた。  何せクローバーは怒涛の勢いで乱射しているのだ。  補充が利くとしか思えない。  そしてそれが紙製であること――最後のトリガーとなりうる条件はクリアできた。  また、最後にランタンを向こうに割らせる機会作りのため、向こうの無駄口に一々答えて見せた。  これによって最後の声がけが不自然にならなかったことは、記すまでもあるまい。  そして、その結果。  クローバーは避けようのない炎に囚われた。  既にバーンは辺りにはいない。  気がつけば炎は紙を伝い縄を伝い、クローバーを囲んでいる。  クローバー自身も熱に焼かれ、正常な思考をしていなかった。  だが、だからこそ解る。 「――まけ、た? 僕が? 殺意に? 殺人に? 殺戮に?」  激昂。  その感情は屈辱だった。  燃え盛る炎。  激情の紅。 「ふざけるな! ふざけるなよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」  敗北に満ちた声は、やがて全てが消えるまで続いた。 そして――バーンは。 「っはぁ!」  大きく息を吐き出して、全てをほぐしていた。  緊張と、殺意と、疲れと。  どうしようもなく芯に響いていた。 「っまったく……早く鎖か、代わりになるものをみつけないといけませんね」  もうこんな綱渡りはごめんだ。  逃げるにも制限の所為か高速移動は長続きせず、体力を消耗させられる。  一刻も早く出来うる限り最上の装備を手に入れるべきだ。  だが、 「……ああいったものも、覚悟なの、ですね」  今はゆっくり休もう。  でないと、これから何も出来そうにない。 「嫌いじゃ、ありませんよ」  今は、未来のことを考えたくはなかった。 &color(red){【クローバー・トランプ@夢と希望と絶望と 死亡】} 【場所・時間帯】桃色エリア D1 朝 【名前・出展者】バーン=オルディオ@リャナンシーの契約書、他ぽつぽつ出展 【状態】疲労中~大 【装備】なし 【所持品】不明支給品2点 デイパック一式 【思考】 基本:まずは武器を探す、スタンスはそれから。 1、休憩したい。 2、いい覚悟だ。 ※支給品は本人の戦闘に役立つものではなさそうです。 前の話 |021|[[【死神は笑う、歌うように】]]| 次の話 |023|[[ぱんすとかっこわらい]]|
 雨音のごとく響く轟音。戦闘の一振り。  軽く光灯る洞窟の、夜目を求める暗がりで、二つの暗がりが激昂を響かせる。  片や腰辺りの短槍をステッキのごとく繰り回し。  片や狙い済ました麻縄を手足と同じく手繰り寄せる。  その両者を同時につなぐのは笑みのみであった。  出会ってから数分もない。  いくつかの火の合間を縫って、えいやえいやと、戦闘を続ける。  それだけではない、雷か、浅く光る電光石化。  それだけではない、投擲か、甲高い音の飛び道具。  二度三度影が躍って、それぞれの面は前奏を奏でる。  少女の程の小影が軽く手を横に振るう。距離は人が二、三は収まるほど。  ゆるゆらり、淡くは黒の泡ぶくのように、五つのカードが浮かび上がる。  移る絵図らは最高手、広がるそれは無限のスペード。  炎のように纏って、いくらかの程、展開されるカードは火の玉と変わらない。  覆う手のひら返すは両手。  あふれんばかりの好敵手、回避は不可能、考え不要。  一つの間が空き世界のように。  男の影が軽く振るう。  まるで成長する植物のようにそれは伸びる。  単純な麻縄と単純ではない牢屋構造。  三百六十全方向、余すところなく両者が埋まる。  飛び出すトランプ止める麻縄。  切っ先は鋭く、頑丈な鉄格子にがぶりと喰らいつく。  格言うそれは大したものにはなりえず、引導には一つ足りない。  無数の壁か、はたまた針山か。  結果で言えば当然壁に変わり映えない。  瞬間、瞬く、閃く大影。  電光と化した石は、がりごりと空間を抉り取る。  気のせいか、気のせいで、かくして男は自身の鉄格子から抜け出でる。  連続、そこから時は加速の一途。  不可避の可視が小影を襲う。  麻縄の群れ、水得たり。  はだかる少女、両手を広げる。  漏れ出るは更なるカード、大きさを増し、水を増し、姿を増し。  増し増し増し。  激突する。  寸前、男は影を放し、そこから電撃が生まれ出る。  とはいえ麻縄は電気を通すものではない。  変わって炎が現れ出でた。  両者の顔が、浮かび上がる。  ――影と影の踊りから、戦闘は死闘へと、姿を変えた。  バーン=オルディオ。  趣味は人間観察とでも言うべき自由奔放な人間。  クローバー・トランプ  殺人を好む大嘘吐き。生きるよりも簡単にうそをつき、人を殺す。  戦闘はバーンにとっては偶発で、クローバーにとっては必然だった。  遭遇と同時、クローバーへ話しかけたバーンに、クローバーはトランプの放射でもって答えて見せた。  以降、大よそ数分ほど、戦闘を行っていた。  とはいえ、本人たちには一時間程度に感じられたが。 「楽しいね! 本当に楽しいね、飽きない戦いは殺戮の本望だよ!」  腰辺りまでの長さの短槍を自由自在と振り回し、クローバーは哂う。  一度、大きく横に槍を薙いで、二度、かわされたそれを上へ伸ばしに三度まわしながら叩き落す。  そこへ洞窟に据えつけてあるランプを吊るすための麻縄をもぎ取って、バーンが振りまわす。 「フフフ、ではそのまま殺戮に囚われてしまってはいかがでしょう。プリンセス」  言いながら麻縄を伸ばし、短槍へ巻きつけた。  逃さないと、目で語る。 「殺戮は既に僕らのものさ。誰かが囚われてしまったら、もったいないじゃないか」  クローバーが言いつつ、軽やかに片手を振るう。  次いでそこから大きく車輪のように麻縄へ襲い掛かる。  一度では懲りず、二三度きりつけると、きれいな音と共に掻き消えた。 「では、こういったショーはどうでしょう」  遠くから、青年の声が響く。  ――遠くから、クローバーはその意味に感づいて、大きく後ろへ跳ぶ。  直後、麻縄が大きく燃え広がる。 「随分と荒々しいショーだね! いけないよ、マジックショーは派手であって決して野蛮ではないからね」 「お褒め頂――」  瞬間、バーンが高速でクローバーに迫る。  一瞬で距離をつめる両者。  今度は怒涛のごとくバーンが攻める。 「光栄至極!」  横薙ぎの電光。  人一人を焦げ付かせるには十分なそれはそのままクローバーを穿つ。  ただし、直前にトランプの壁が浮かび上がるが―― 「甘い、ストロベリーサンデーを三回頼めるほど甘いですよ!」  追撃、その奥に、電撃を放つ。  このゲーム独自の制限か、バーンの一撃の射程距離は半分ほどに落ち込んでいたが、接近戦において不自由はない。  四方八方支離滅裂。  大よそ避ける隙間はないし、避ける時間もない。  これでチェックメイトだ。  少なくとも、トランプの向こう側にクローバーが存在すれば。 「マジックショーにおいて、消失マジックを行う場合、観客の注目を一手に集めることが効果的だよ。  たとえば、死体を設置したりとか、ね」  気配はあった。  声を聞くまでもなく存在は予期できた。  バーンは迫る短槍を弾いて受け流す。  クローバーは笑いながら、追撃の手を加える。 「この場合も単純に言えば錯覚さ。  君は僕自身がトランプの向こう側にいると誤解している。  だってそうだよね、僕はこうして後ろで悠々と自適していたのに、君はアレを放ったんだから」  横、突き、縦。  屈み、反らし、受け流す。  両者は激しくせめぎあい、次いでクローバーは笑い続ける。 「殺すならこうでなくちゃ!  死というのはこうでなくちゃ!  解らないかな、今、凄く死にそうだね!」  二連、クローバーは放つ。  一度は短槍。  二度はトランプ。  斜めにふるって、振り切る。  二十にわたって展開し、左右を生める。 「ふふふ、嬉しいですね。  何せ貴方は非常に魅力的ですから」  一度、左へ動き、安地へと踏み込む。  さらに――電撃が舞った。  トランプのカードは簡単に燃えて塵へ変わる。  そのまま大きく後ろへ跳んだ。 「じゃあ、プレゼントをくれないかな」  短槍を構え。  電撃を迸らせ。  両者は。 「Trick or Treat(お菓子をくれなきゃ、ぶちころすぞ)」 「Give You Heart(あなたの心臓、差し上げましょう)」  笑う。  クローバーが接近する。  トランプの幕と共にそれはバーンを細切りにしようといったところか、無数に迫る。  速度は高速、けれどバーンほどではなく、軽く笑ってバーンは動く。  二歩、三歩――間合いをつめるその流れで全てのカードを叩き落す。 「努力不足です、結束を持ってきなさい」 「冗談は餅屋だけにして欲しいね!」  紙製のそれをたやすく握りつぶして、両者は言う。  反撃、バーンの電撃が二線、交差して広がる。  が、それはクローバーが伏せるだけで壁を上下にえぐり、不発となる。  そして、接近戦。  大よそどちらもの間合いへ入り込んだ両者は、それぞれの得物を振るう。  一回転するステッキな短槍。  辺りへ成長する枝のように迸る電撃。  どちらもどちら、両者を途絶えさせるには至らない。  すんでの所で、すり抜けていってしまう。  ならばと、バーンは大きく横へ跳んだ。  ここは洞窟、それほど横幅は広くない、けれどバーンは斜め後ろへと後退する。  あるのはランタン。  バーンが麻縄を使用する際に地面に落ちたものだ。 「フフフ、いやはや面白い、なるほどそれほどではあるようで。  貴方のような存在は……つい束縛してしまいたくなる」 「侵害だね、言ったよね? 僕はプリンセスじゃあない。  君はちょっと誤解しすぎだよ」 「ではそうですね、貴方の得意なそれで、束縛を切り裂いてはどうでしょう。  私ごと……ね?」 「それはいいね、面白い、君自身を殺せるのだから、二倍面白い」  言って、無数の凶器を取り出す。 「まぁ……」  バーンが言いかけたその一言。  それが合図だった。  無数のトランプは二色のそれとなり、バーンへ複雑に襲い掛かる。  そして、バーンは続ける。 「それでチェックメイトなのですが」  同時に、足元の火種を蹴り上げた。  ――戦闘中、麻縄を手にしたときからバーンは考えていた。  最初はほんの戦闘中の無駄な思考。  それが一瞬引っかかったのが、そもそもの原因。  彼の疑問、彼の策は単純だ。  この洞窟の中で燃え続けるランタンは、一体どれほどもつのだろう。  このゲーム、六時間ごとに死ぬ人間は恐らく十前後。  となると最後の一人になるには数日掛かる。  その間、これは相当な火をともし続けなければならない。  どうもこのランタン、原理は大分ファンタジー的なもののようで、油のにおいがかすかに感じられた。  火の大きさはこぶし大。  それを燃やし続ける。  ということは、相応の油が使われているのではないか?  もしそれを全部ぶち巻いたら、簡単な火事くらい、起こせるのではないか?  ならば後は簡単だった。  コレまでに二度、彼は両幅の壁をえぐっている。  一度目はトランプ越しの雷。  二度目はクローバーに回避された交差する電撃。  そのどちらもが、麻縄を切断すると言う目的のために使われた。  コレによって火の元を得たのだ。  とはいえそれだけでは心もとない。  だが彼にはこれ以上のものは用意できない。  だが、彼女には、大量に用意することが可能だった。  クローバー・トランプの支給品は紙のトランプ13ダース。  合計702枚。  バーンはそれを知るところではないが、相当の数だろうということは検討がついていた。  何せクローバーは怒涛の勢いで乱射しているのだ。  補充が利くとしか思えない。  そしてそれが紙製であること――最後のトリガーとなりうる条件はクリアできた。  また、最後にランタンを向こうに割らせる機会作りのため、向こうの無駄口に一々答えて見せた。  これによって最後の声がけが不自然にならなかったことは、記すまでもあるまい。  そして、その結果。  クローバーは避けようのない炎に囚われた。  既にバーンは辺りにはいない。  気がつけば炎は紙を伝い縄を伝い、クローバーを囲んでいる。  クローバー自身も熱に焼かれ、正常な思考をしていなかった。  だが、だからこそ解る。 「――まけ、た? 僕が? 殺意に? 殺人に? 殺戮に?」  激昂。  その感情は屈辱だった。  燃え盛る炎。  激情の紅。 「ふざけるな! ふざけるなよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」  敗北に満ちた声は、やがて全てが消えるまで続いた。  そして――バーンは。 「っはぁ!」  大きく息を吐き出して、全てをほぐしていた。  緊張と、殺意と、疲れと。  どうしようもなく芯に響いていた。 「っまったく……早く鎖か、代わりになるものをみつけないといけませんね」  もうこんな綱渡りはごめんだ。  逃げるにも制限の所為か高速移動は長続きせず、体力を消耗させられる。  一刻も早く出来うる限り最上の装備を手に入れるべきだ。  だが、 「……ああいったものも、覚悟なの、ですね」  今はゆっくり休もう。  でないと、これから何も出来そうにない。 「嫌いじゃ、ありませんよ」  今は、未来のことを考えたくはなかった。 &color(red){【クローバー・トランプ@夢と希望と絶望と 死亡】} 【場所・時間帯】桃色エリア D1 朝 【名前・出展者】バーン=オルディオ@リャナンシーの契約書、他ぽつぽつ出展 【状態】疲労中~大 【装備】なし 【所持品】不明支給品2点 デイパック一式 【思考】 基本:まずは武器を探す、スタンスはそれから。 1、休憩したい。 2、いい覚悟だ。 ※支給品は本人の戦闘に役立つものではなさそうです。 前の話 |021|[[【死神は笑う、歌うように】]]| 次の話 |023|[[ぱんすとかっこわらい]]|

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