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緋那名居天子(ひなない-てんし)は珍しく、多忙であった。 天人である彼女が多忙である理由など、余程のことでない限り、有り得る由(よし)も無いのだ。 それなのに、彼女は多忙であった。  「カリオストロ。準備の方はもう大丈夫かしら?」  「ええ。全員の“調整”も済みましたとも」  「有難う。細かいところは衣玖に見て貰うから、休みましょう。   私もちょっと疲れちゃったわ。“転送”させるのって、機械を頼ってでも大変なのね。   まあ、50人近くも居るんだから仕方ないだろうけど」 闇と天人の会話はそこまでであった。天子は竜宮の使いこと永江衣玖(ながえ-いく)を呼び出し、奥にあるであろう部屋へと向かって行った。 余りにも簡潔に、淡白に事が進んで行ったかの様に思える。 薄暗いこの空間には、モニターに向かい、それの光を浴びている衣玖と、光の元であり塊である、大きな長方形の板だけとなった。 そして暫くして。 ……。 …………。 ………………起きなきゃ。 ……。 …………。 ………………おかしいな。 瞼の向こうにはうっすらと、柔らかな光が迎えてくれている筈なのに。 目を瞑っていてでも分かる。……間違いなく、ここは薄暗い。 あとおかしいのは、眠っている筈なのに、足が疲れる。まるで立っているようだ……――否、もしかすると、今まさに立っているのだろうか。 それに、掛け布団独特の暖かさが、無い。 更には、首元がひんやりしていて――――  「お早う御座います、皆さま方」 ――ぱちっ。 私よりかはほんの少し歳上の(祈祷さんぐらいだろうか)女の人の声で、私の目は思い切り開く。 ……目の前は、やはり薄暗かった。 そして何よりも驚くべきなのが、人が何人も私の周りに集まっていた。 否、「集まっていた」よりも、「並べられていた」と言った方が正しいのだろうか。 声の主であろう、長い青髪の女の人は、それとなく驚く表情(カオ)もせず、ただただ私たちを見ていた。 そして、女の人は―― 「今から貴方達で、殺し合いをして頂きます。」 ――え? 彼女の滑舌は悪くはなかった。寧ろ良い方かも知れない。 出来ることならば、滑舌のせいにしてやりたい。 でも、間違いなく彼女は良い放った。殺し合いを、しろって…………、!!?  「お気付きの方も居られるかと思いますが。今、貴殿方の首には、首輪が撒かれております」 滅茶苦茶になりそうな思考回路を何とか落ち着かせようと、深呼吸をする。 しかしそれ以上に響くのは、己の心臓の鼓動。 深く息を吸い、今まさに吸い込んだ空気を思い切り吐き出す音ですら、掻き消す程に五月蝿い。 その音を聞けば聞くほど、鼓動が速くなる気がしてならなかった。  「で、その首輪ですが。……何個かの条件に触れたときに爆発します事を、覚えていただきたいのです。   まず、禁止エリアに入ったとき。次に、無理な解体、解除をした時。   加えて、24時間誰も死亡しなかった際には全員の分が。そして――」 次の瞬間、私と同じぐらいの歳をした男の人が、蹴飛ばされながら突き出された。 身体はぐったりしているものの、眼鏡越しの瞳は、説明していた女の人を鬼の形相のように睨んでいた。  「…………、」  「……何か言い残すことは御座いません?」  「……言い残す?   何を抜かしたことをほざいてるんだい、君達は」  「あらあら。ほざいてなんか御座いませんわ。   ……貴方のお言葉、そっくりそのまま返させて頂きます」 そのときだった。 2人の声。爆発音。轟音。爆煙。晴れて、 血。 そして。 生首。 「――――きゃあぁぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 私の悲鳴。 「――……そして最後に。私たちに逆らうこと。これらの条件、一つでも触れたならば爆発いたします。   これのように――」 女の人は、サッカーボールの要領で生首を蹴飛ばす。……ごろごろ、と転がる音がした。 勿論私は見てなどいられない。生首を蹴飛ばした瞬間、私は眼をぎゅっと瞑り、ただ震えた。  「……緋那名居、天子…!」 すると。 私の隣から、説明している女の人とは違った、低めの女性の声が聞こえた。  ……え。ひょっとしてこの声って……――  「ええと、命輪廻(みこと-めぐる)さんでは御座いませんこと。如何致しました?」  「如何致したもこう致したも……、己のした事を解らんと言うのかッ!?天人如きが!!」 やっぱり――! 瞑った目を開き、隣の輪廻先生を確認するように視線を移す。輪廻先生も、さっきの男の人と同じような眼つきをしていた。  「あらまああらまあ。やはり鬼は暴力的で好みませんわ。   ……何ならあんたも爆死したい訳ぇ?くすくすくすくす」 あれ、青髪の人の口調が少し変わったような気がする。 いや、そんな事よりこれ以上あの人を刺激したら輪廻先生も――――!!  「……否。此処ではなく、もう少し場所を選んでからにしよう。   ……そのときには覚悟するがいい、天人崩れ」  「殺れるものなら殺って御覧なさい。くすくすくす」  「……っと。以後の説明は私からさせて頂きますわ」 そう2人の睨み合いが続く中。 2人の間を割きながら、短い青紫の髪をした女性が奥のほうから出てきた。 とりあえず爆死は免れたようで、私は思わず肩を撫で下ろす気分になった。  「貴方達にはデイパックが支給されています。コレにはランダムで渡される支給品一個から3個と、水や食料、メモ帳に鉛筆、地図などが入っています。   そして最後に、放送で死者と禁止エリアを発表させていただきます。放送は6時間毎に行いますので、悪しからず」  「因みに放送は私、緋那名居天子でお送りします」  「さて、最後に一つだけ、優勝者にはこの場からの帰還は勿論、もう一つ、何でも願いをかなえて差し上げます。   人を生き返らせたりするのもOKですよ」  「それではGAME START です」 ――――一方的な説明が終わると、天子の声と共に、この場に居る“参加者”は忽然と姿を消した。      勿論全員、声を上げる須臾(しゅゆ)すら無く。      “主催者”である緋那名居天子と、奥の部屋に居る“もう1人の主催者”であるペテナ=カリオストロを残して―――― &font(red){【『小説家』暁@暁  死亡】}  「あー、疲れた。猫被るのって大変よねぇ。あ、ちょっと地が出たけど気にしないでおこっと。   ――……衣玖、呆気なく死んだら承知しないわよ」 次の話 |001|[[カリスマブレイク]]|
緋那名居天子(ひなない-てんし)は珍しく、多忙であった。 天人である彼女が多忙である理由など、余程のことでない限り、有り得る由(よし)も無いのだ。 それなのに、彼女は多忙であった。  「カリオストロ。準備の方はもう大丈夫かしら?」  「ええ。全員の“調整”も済みましたとも」  「有難う。細かいところは衣玖に見て貰うから、休みましょう。   私もちょっと疲れちゃったわ。“転送”させるのって、機械を頼ってでも大変なのね。   まあ、50人近くも居るんだから仕方ないだろうけど」 闇と天人の会話はそこまでであった。天子は竜宮の使いこと永江衣玖(ながえ-いく)を呼び出し、奥にあるであろう部屋へと向かって行った。 余りにも簡潔に、淡白に事が進んで行ったかの様に思える。 薄暗いこの空間には、モニターに向かい、それの光を浴びている衣玖と、光の元であり塊である、大きな長方形の板だけとなった。 そして暫くして。 ……。 …………。 ………………起きなきゃ。 ……。 …………。 ………………おかしいな。 瞼の向こうにはうっすらと、柔らかな光が迎えてくれている筈なのに。 目を瞑っていてでも分かる。……間違いなく、ここは薄暗い。 あとおかしいのは、眠っている筈なのに、足が疲れる。まるで立っているようだ……――否、もしかすると、今まさに立っているのだろうか。 それに、掛け布団独特の暖かさが、無い。 更には、首元がひんやりしていて――――  「お早う御座います、皆さま方」 ――ぱちっ。 私よりかはほんの少し歳上の(祈祷さんぐらいだろうか)女の人の声で、私の目は思い切り開く。 ……目の前は、やはり薄暗かった。 そして何よりも驚くべきなのが、人が何人も私の周りに集まっていた。 否、「集まっていた」よりも、「並べられていた」と言った方が正しいのだろうか。 声の主であろう、長い青髪の女の人は、それとなく驚く表情(カオ)もせず、ただただ私たちを見ていた。 そして、女の人は―― 「今から貴方達で、殺し合いをして頂きます。」 ――え? 彼女の滑舌は悪くはなかった。寧ろ良い方かも知れない。 出来ることならば、滑舌のせいにしてやりたい。 でも、間違いなく彼女は良い放った。殺し合いを、しろって…………、!!?  「お気付きの方も居られるかと思いますが。今、貴殿方の首には、首輪が撒かれております」 滅茶苦茶になりそうな思考回路を何とか落ち着かせようと、深呼吸をする。 しかしそれ以上に響くのは、己の心臓の鼓動。 深く息を吸い、今まさに吸い込んだ空気を思い切り吐き出す音ですら、掻き消す程に五月蝿い。 その音を聞けば聞くほど、鼓動が速くなる気がしてならなかった。  「で、その首輪ですが。……何個かの条件に触れたときに爆発します事を、覚えていただきたいのです。   まず、禁止エリアに入ったとき。次に、無理な解体、解除をした時。   加えて、24時間誰も死亡しなかった際には全員の分が。そして――」 次の瞬間、私と同じぐらいの歳をした男の人が、蹴飛ばされながら突き出された。 身体はぐったりしているものの、眼鏡越しの瞳は、説明していた女の人を鬼の形相のように睨んでいた。  「…………、」  「……何か言い残すことは御座いません?」  「……言い残す?   何を抜かしたことをほざいてるんだい、君達は」  「あらあら。ほざいてなんか御座いませんわ。   ……貴方のお言葉、そっくりそのまま返させて頂きます」 そのときだった。 2人の声。爆発音。轟音。爆煙。晴れて、 血。 そして。 生首。 「――――きゃあぁぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 私の悲鳴。 「――……そして最後に。私たちに逆らうこと。これらの条件、一つでも触れたならば爆発いたします。   これのように――」 女の人は、サッカーボールの要領で生首を蹴飛ばす。……ごろごろ、と転がる音がした。 勿論私は見てなどいられない。生首を蹴飛ばした瞬間、私は眼をぎゅっと瞑り、ただ震えた。  「……緋那名居、天子…!」 すると。 私の隣から、説明している女の人とは違った、低めの女性の声が聞こえた。  ……え。ひょっとしてこの声って……――  「ええと、命輪廻(みこと-めぐる)さんでは御座いませんこと。如何致しました?」  「如何致したもこう致したも……、己のした事を解らんと言うのかッ!?天人如きが!!」 やっぱり――! 瞑った目を開き、隣の輪廻先生を確認するように視線を移す。輪廻先生も、さっきの男の人と同じような眼つきをしていた。  「あらまああらまあ。やはり鬼は暴力的で好みませんわ。   ……何ならあんたも爆死したい訳ぇ?くすくすくすくす」 あれ、青髪の人の口調が少し変わったような気がする。 いや、そんな事よりこれ以上あの人を刺激したら輪廻先生も――――!!  「……否。此処ではなく、もう少し場所を選んでからにしよう。   ……そのときには覚悟するがいい、天人崩れ」  「殺れるものなら殺って御覧なさい。くすくすくす」  「……っと。以後の説明は私からさせて頂きますわ」 そう2人の睨み合いが続く中。 2人の間を割きながら、短い青紫の髪をした女性が奥のほうから出てきた。 とりあえず爆死は免れたようで、私は思わず肩を撫で下ろす気分になった。  「貴方達にはデイパックが支給されています。コレにはランダムで渡される支給品一個から3個と、水や食料、メモ帳に鉛筆、地図などが入っています。   そして最後に、放送で死者と禁止エリアを発表させていただきます。放送は6時間毎に行いますので、悪しからず」  「因みに放送は私、緋那名居天子でお送りします」  「さて、最後に一つだけ、優勝者にはこの場からの帰還は勿論、もう一つ、何でも願いをかなえて差し上げます。   人を生き返らせたりするのもOKですよ」  「それではGAME START です」 ――――一方的な説明が終わると、天子の声と共に、この場に居る“参加者”は忽然と姿を消した。      勿論全員、声を上げる須臾(しゅゆ)すら無く。      “主催者”である緋那名居天子と、奥の部屋に居る“もう1人の主催者”であるペテナ=カリオストロを残して―――― &font(red){【『小説家』暁@暁  死亡】}  「あー、疲れた。猫被るのって大変よねぇ。あ、ちょっと地が出たけど気にしないでおこっと。   ――……衣玖、呆気なく死んだら承知しないわよ」 次の話 |001|[[【カリスマブレイク】]]|

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