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頂上決戦 vsモー商編20


「さて」熊井がピアノの前に置かれていた椅子を力任せに分解し始めた。
まるで積み木を崩すように簡単にバラバラにしてゆく。
ナイフで器用に角を削り取り4本を、菅谷の足元に並べた。

そして学ランを脱ぎ、下に着ていたTシャツまでも脱ぐ。
突然、目の前で上半身裸になった熊井に下着姿の愛理が口をポカンと開けて見つめていた。

下着姿の美少女と半裸の逞しい大男が見つめ合う。
場所は夜の学校の音楽室。

――微妙な空気が流れる。

(夏焼がいたら何て言われる事やら)
そう思った熊井はおかしくなり笑いながら
「恥ずかしくはないけど、なるべく見ないで下さい」と愛理の口調を真似して言った。
愛理が恥ずかしそうに笑ってそっぽを向く。
たった今まで救いようのない地獄の中にいた筈だった愛理は不思議な気持ちだった。
現在もあのケダモノの様な男達がいる校舎の中にいる事に変わりは無い筈なのに・・・
不思議な安心感を与えてくれる男だった。

そんな愛理の笑顔を見た熊井が、本心から言った。
「良い笑顔だ。菅谷はいつもそんな顔を見ていられるんだな。だから・・・こんなにがんばれたんだろう」
そう言ってもう一度菅谷の頭を撫でる熊井の表情を、愛理が見つめていた。
この男のこんなにも優しそうな顔を見たのは、この街では愛理が最初で・・・最後だった。


頂上決戦 vsモー商編21


熊井は脱いだTシャツをビリビリに引き裂き、くるくると巻いてロープ状にする。
次に持っていたナイフで菅谷のズボンを裾から切り裂いた。
(良かった・・・内出血は思った程酷くない・・・)
ホッとする熊井の表情を愛理が見つめていた。

引き裂いたTシャツの一つを丸めて菅谷の口に押し込みながら
「鈴木さん・・・だっけか」と問う熊井に
「愛理でいいです。そう呼んで下さい、熊井さん」
しっかりした口調で愛理が答えた。
「オーケー、愛理。菅谷の上半身に乗っかって動かないよう押さえつけてくれ。出来るか?」
「はい!こう、で良いですか?」
躊躇無く菅谷の顔に自分の下着の布1枚しか隔てていない胸を押しつけて聞く愛理に
熊井は本気で感心していた。
「ああ。上出来だ!」

菅谷の悲鳴が音楽室に響く――――。
その声に我に返った矢島も加わって何とか応急処置を終えた。
菅谷の足に巻いた添え木がしっかり当たっている事を確認して
熊井が脱ぎ捨てていた学ランを素肌の上に着る。
持っていたナイフを愛理に渡しながら
「菅谷の事を頼む。矢島をここに置いていくが正直、愛理の方が強そうだ」と言って頭を撫でた。
愛理が渡されたナイフを胸に抱くようにしながら
「はい。命に代えても」と熊井の目を真っ直ぐに見ながら言う。

この男が本気で惚れてしまいそうな表情だった。


頂上決戦 vsモー商編22


一方、この美少女に比べてこっちの美少年は何とも情けない表情をしていた。
熊井の視線に気付いた矢島がその目線をそらしながら
「く、熊井君・・・ごめん・・僕は・・やっぱり・・足手まといで・・考えが甘くて・・・
熊井君が帰れって言った意味が・・・やっと、、わかった・・・」
相変わらず下を向いて今にも泣き出しそうな声で言う。

熊井が矢島の頭に手をのばす。
てっきり自分の不甲斐なさにゲンコツを喰らうと思った矢島が「アッ!」と言って目を閉じた。
その目からひとしずくの涙がこぼれる。

だが、矢島の頭に置かれたのはゲンコツではなく手の平だった。
「よく聞け、矢島。・・・あそこにいるのは俺の大事なダチ公とその彼女だ。
本当ならこんな所に置いてはいけねえ。だがお前になら・・・いや、お前にだから頼めるんだよ、相棒!」
そう言って熊井が矢島の頭をクシャクシャと撫でた。
「く、熊井君・・・僕・・・僕・・・」
「俺の事が信じられるなら徳永の事は俺にまかせろ。菅谷と愛理の事、頼むぜ」
矢島が俯いたままポロポロと涙をこぼした。

「じゃあな、相棒」と言って部屋を出る前に熊井が振り返った。
矢島が顔を上げてコクリと頷く。
涙と鼻水でくしゃくしゃの顔をしていたが、その返事は力強かった。


頂上決戦 vsモー商編23


決意を込めてドアを開ける背中に声がかかった。
「熊井くん・・・!」
愛理の力を借りて上半身を起こした菅谷だ。
しばらくは気絶していた方が楽だろうに。
気力を振り絞った声だった。
そのまま寝ている自分を許せない、優しい男だった。
「須藤くんを・・・須藤くん達を・・・頼むね!!」

「ああ。絶対的にまかせろ!!」


後ろ手でドアを静かに閉めた熊井が「さて・・・行くか。」と呟いた。
不思議な感覚だった。
今まで怖いモノ知らずで一人っきりで生きてきた。
これからもそうやって生きていく筈だった。
だが、今は誰かの為にこんなにも必死になっている自分に熊井自身が1番驚いていた。
「悪くねーもんだな、ダチが出来るってのも・・・」
そう言って少し笑った男が、階段の上をギラリと睨んで駆け出す。
大事な友達の元へ!

「須藤!夏焼!徳永ァ!待ってろよ・・・今いくぜ!!」


頂上決戦 vsモー商編24


熊井と矢島がモー商の校舎に乗り込んだ頃。

一触即発、まさに達人同士の須藤とJJの戦いを制止したのは久住だった。

「何か勘違いしてやしねーか?須藤に夏焼よぉ。おい光井!」
教室にいた3人目の男。
光井と呼ばれたそいつがバタフライナイフを器用にシャカシャカと回しながら
倒れている徳永の喉元にピタリとあてる。

夏焼が「うっ・・・」と呻いた。
須藤とJJの事に気を取られて自分がいる位置の全景さえ把握していなかった事を恥じた。

だが逆に言えばそれは、今まで誰にも頼らずに生きてきた夏焼が須藤と言う男を全面的に信頼した事の証でもあった。
――そして自分では気付いてさえいないであろう。
徳永を大事な友達として捉え、怒りに我を忘れていたことの証でもあった・・・。


その様子を見て表情の変わった須藤を満足そうに見ながら久住が続ける。
「俺たちゃ別にお前らとタイマンなんて格好いい事しようと思っちゃいねーんだよw
何カッコつけてんだバカwwコッチにゃまだ菅谷とか言う奴とその彼女もいるんだぜ・・・
今頃どーなってるのかなぁ?心配だなぁww」
「くっ・・・!!」

優しい菅谷の事を人一倍可愛がっていた須藤の表情が更に険しくなる。


頂上決戦 vsモー商編25


久住が一転、穏やかな表情に変わって言う。
「お前ら、俺の下に付け。・・・一緒にあの忌々しい高橋をぶち殺して天下とるのさ。どうだ?須藤!」
須藤が答える。
「出来ねぇ相談だ・・・俺は誰の下にもつかないし天下なんぞに興味はねえ」
「おいおい、まさかの交渉決裂かよww人質は放っとくつもりかい?酷いねえ・・・聞いた?徳永くん?」
意識も無い徳永に向かって楽しそうに聞く久住。

だが、徳永が答えた。
「スドウーヤッチマエー、オレノコトハキニスンナー」
「て、てめえまだそんな口がきけるのか!」驚いた光井が徳永の腹を蹴る。
のたうち回る力さえ残っていない徳永はごろりと転がっただけだった。
気のせいかその顔が笑っているように見える。

須藤が怒りにわなわなと震えていた。
そんな須藤の姿を見て久住がさらに楽しそうに言う。
「・・・そうだなぁ、じゃあこうしよう!ゲームをやろうぜ須藤。」
「ゲーム?ふざけてんのかてめえ・・・」
「ふざけてなんかいないさ・・・ルールは簡単。そこにいるJJに10発殴られろww
それで立ってられたらお前の勝ち!人質と帰っていいぜ?」

「バカな・・・」夏焼が呟いた。
無茶苦茶なルールだ。
ただ久住の残虐な性格を満足させ、須藤を屈服させた上で下っ端にさせようと言う茶番だ。
とてもゲームなんて呼べる代物じゃない。
ましてや相手はJJ。あのキュー学最強の梅田でさえ敵わなかった中国拳法の達人なのだ・・・。

――だが。
「いいぜ。」と、須藤が拍子抜けする程あっさりと言ってのけた。


頂上決戦 vsモー商編26


久住「ほう。さすがはベリ高の須藤と言うべきか。大した度胸だ!
だが一応言っとくぞ。そこにいる徳永もこのゲームを受けた・・・男を見せたってトコだろうな。
そして1発目でぶち切れて反撃に出たwwそれがJJを怒らせる結果となってあのザマだww」

「そんな忠告は必要ねえ。たかがへなちょこ拳法の突き10発や20発でこの俺を倒せると思ってるのか!」
須藤が怒りに震えながらも不敵に笑った。
「須藤くん!」
夏焼が声を掛けるが須藤はそれを手で制する。
「俺は絶対に倒れねえ・・・菅谷と徳永のためにもだ!!」

いくら今の須藤を信頼出来ると言ってもこれは無茶苦茶だ!
…だが、他に取るべき道は?
…僕に今、出来る事は?
クソッ・・・こんな時あの男ならどうする?

あの男・・・熊井友理也なら―――
…いや、今は僕に出来る事を考えるんだ!

夏焼がポケットの中の鍵を握りしめた。
(コイツを投げつけて光井の目に突き立てる事が出来れば・・・だが確率は低い・・・
それでも・・・可能性がゼロで無いのなら!!)

その動きに久住が気付いた。
「夏焼、妙な真似するんじゃねえ。ポケットから手を出して大人しく見てろ!」
あの高橋さえいなければ間違いなく関東最強と言われたのは伊達じゃない。
実際に本気同士でぶつかればどちらが勝ってもおかしくはないと言われた男だった。
(クッ・・・隙は無しか・・・)

夏焼が黙ってこの「死のゲーム」に挑む須藤を見守る事しか出来ない自分に震えていた・・・。


頂上決戦 vsモー商編27


夏焼が泣いていた。
自分でも無意識な内に涙が頬を伝っていた。
誰かの為、他人の為になど泣いたことなど無い男・・・の筈だった。

―― 顔中血だらけの須藤に見舞われた9発目は蹴りだった。
無抵抗の須藤の脳が容赦なく揺さぶられ、足元がふらつく。
須藤の目がくるりと裏返り、もはや意識など無い事が見てとれる。
思わず、夏焼が目を逸らしてしまう光景だった。

だが。

ドン!!と須藤が足を踏ん張った。
「ぞんな蹴りじゃ・・・ヴォレは倒ぜねえ・・・10倍、いや100倍ずげえのを貰ったごとがあるがらな・・
あいづの蹴りにぐらべりゃ・・・そよ風みだいなもんだ!」
須藤が笑った。
そこへ!
JJの10発目の突きが来た。
顔の中心に叩き込まれた突きからは鼻骨を砕く音が響き須藤の顔をのけぞらせる!
鼻と口から吹いた須藤の血は天井にまで届いた。


頂上決戦 vsモー商編28


それでも須藤は倒れなかった。
目を宙に泳がせながらも、ほとんど無意識の状態で体勢をぐっと戻す!

…意識の消えかけた須藤の身体を支えていたのはただ菅谷や徳永への思いだけだった。
「須藤くん!」
夏焼が須藤に駆け寄ろうとしたその時――。
11発目が来た。
体勢を戻そうとしていた須藤の顎にJJの膝が突き刺さった。

もう意識すらほとんど無かった須藤がたまらず後方へ吹き飛ぶ・・・。
更にその須藤に信じられないスピードで追いついたJJが真上から顔面に肘を叩きつけた!
このスピードこそが、あの梅田に妖術使いと言わしめた真骨頂なのだ。

地面に後頭部から打ち付けられ、
鼻と口から多量の血を垂れ流す須藤はもはやピクリとも動かなくなった・・・。

「な、何てことをするんだ!!」夏焼が叫ぶ!
「ルールでは須藤くんの勝ちだろう!!」

「ルール?」久住が動かない須藤を満足そうに見ながら言う。
「このモー商にルールなんてモノが存在すると思ってるのか、夏焼?
ルールがあるとしたらそれは・・・死んだ奴が負け。それだけだ。
それとも、お前もこのゲームに挑んでみるかいwwえ?男を見せてみろよククク・・・」


頂上決戦 vsモー商編29


…コロシテヤル・・・
夏焼の瞳の奥の黒い炎が爆発した。
(相討ちになってもいいからこの中の奴らを、一人でも多く殺してやる・・・)
ポケットから鍵をそっと取り出し、貫き手の形にした手の先にそれを挟む形にする。

「む?」と、その殺気に気付いた久住が教壇を飛び降りた。
背中に冷たいモノが伝っていく。
それほど恐ろしい殺気だった。
たかが17才の美しい顔をした少年の出すオーラでは無い。
ゆらりと3人を見回した夏焼の眼はもはやヒトのモノとは思えない光を放っていた。

だが。久住もまた常人のモノとは思えぬ眼光を放ちながら「いいぞ・・・」と呟いて笑った。
夏焼がそんな久住に向かって音もなくスッと一歩を踏み出した時だった――。


ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!

ドアが吹き飛んできた!
我に返った夏焼が慌ててそのドアを躱しながら見たものは!

ドアのあった筈のその部分に立っていたのは――

悪魔ですら恐れるであろうその男の名は――熊井友理也。

熊井が教室にいる連中をギラリと睨んで立っていた。