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地下からの招待状


まだ夏の日差しが残る、初秋の河原の土手を二人の長身の男が歩いている。
一人は、この秋晴れの青い空と眩しい日差しがよく似合う、笑顔の爽やかな美少年。
一方、もう一人の男は雷鳴とどろく嵐の中の方が似合いそうな、ぶっそうな目つきをした
だが爽やかな男に負けないイケメンだった。

「くっつくんじゃねえよ矢島!暑苦しい。俺もお前も汗っかきなんだからよ」
「い、いいじゃない熊井君!相棒なんだから!えへへ!」

「アレ?・・・」
と矢島が頭を押さえながら少し残念そうな声を漏らした。
いつもなら熊井のゲンコツを頂戴する筈の場面だった。

「君が熊井くん、だね?」
いつの間にか二人の行く手を遮るようにして、熊井の前に立っていた男が口を開いた。

長身の二人から見ても見劣りしない体格を持ち、
顔つきも端正に整った、二人に負けないイケメンだった。





地下からの招待状2


ニコニコと笑う男の爽やかな笑顔とは裏腹に、
空気がピリピリと殺気を帯びてきた気配を感じとった熊井が
矢島を遮るようにして一歩、前に出る。
「ああ、俺が熊井だが?」と答えて男を見下ろした。

矢島は熊井に劣らない腕前を持ちながらも、こういった殺気を感じ取る力は全く持ち合わせていない。
良く言えば根っからのスポーツマン、悪く言えばかなり脳天気な馬鹿だった。
熊井が矢島の一歩前に出た意味を考えずに、
「誰?誰?熊井君!」と顔を出そうとする。

その矢島を右手で遮ろうとした熊井が「ぐっ・・・」と声を漏らした。
熊井の口からは、未だかつて出たことのない「音」だった。

男の右拳が、熊井のみぞおちに食い込んでいる。
矢島に気を取られていたとは言え、全くその初動が見えなかった。
堪えきれずに、“あの”熊井が前屈みになる。
男の前に「顎」という急所をさらけ出す格好になってしまった。

…息が出来ない。
これほど凄まじい破壊力の突きは矢島と対峙した時でさえ、経験した事が無かった。
その右拳が腹から離れ、今度は熊井の顎を目がけて真っ直ぐに伸びてきている!

熊井の右側から凄まじいスピードで矢島が飛び出してきた。
その目に青白い炎が灯り、怒りに自分を見失っているように見える。

熊井が「よせ!」と言おうとした。
が、声はわずかにしか出せず、矢島の耳には届かなかった・・・。




地下からの招待状3


相変わらずの、その稲妻の様なスピードで矢島の右フックが男の顔面に向かう!

その時。
熊井の顎をあとほんの数センチで捉えようとしていた男の右拳が軌道を変えた。
信じられない動きだった。
いや、あり得ない動きだった。
熊井の呼吸さえまともだったら「ナメック星人か何かかてめえは!」と突っ込みたくなる動きだった。

そのまま男の拳は、ほぼ直角に曲がり矢島の右フックと同じ動きに変わる。
二つの拳が火花を散らすように激しく交差する!

信じられない事に、吹き飛ばされたのは矢島だった。
体格的にもリーチの長さでも劣り、初動でも遅かった筈の男の拳が矢島の顔面を捉えていた。

だが、その男が「くッ・・・」と声を漏らした。
熊井の右アッパーが、男の顎めがけて凄まじいスピードで伸びて来ていたのだ。
男の顎に、今まさにめり込もうとしていたその拳が、ふい、と軌道を変える。

男がたった今見せた信じられない拳の動きを、熊井が苦もなく真似して見せた。
そして更に信じられない反射神経とリーチの長さで、吹き飛ばされようとする矢島の足をむんずと掴む。

 土手の下には小さな用水路が流れており、剥き出しの直角なコンクリートに覆われている。
子供達にここで遊んではいけないと注意書きがされている場所だった。
意識の無いまま転がり落ちたら、いくら矢島と言えどもただではすまない。




地下からの招待状4


矢島を引き寄せる為に全体重を左側にかけた熊井の顔面に、男の右フックが再び迫っていた。

「くそ。かわ(せねぇじゃねえか、馬鹿たれ)」
言い終わる前に熊井は矢島もろとも、その拳に吹き飛ばされた。
みぞおちに喰らったのと同様、凄まじい威力の拳だった。

だが、熊井は空中で矢島をたぐり寄せ、胸元にしっかりと抱きとめる。
矢島の後頭部と、背骨の部分に自分の腕を回して庇った。
この程度の打撃で意識まで吹き飛ばされる程、熊井という男はひ弱じゃない。
あの頑丈な須藤に「巨大怪獣」と呼ばれた男だ。

斜面を矢島と共に転がり落ちながら、力まかせ、運まかせに地面を蹴る!
あの鋭角なコンクリート以外の場所なら、
どこに落ちてもクッションの効いたベッドみたいなもんだ。

幸いな事に(熊井の体だからこその話だが)用水路を飛び越した道路のアスファルトの上に
ドスンと背中から落ちた。
勢いで転がり続けながら、(ざまあ見ろ。今、ぶち殺しにそっちに行くからな!)
そう考えていた熊井の目の前に電柱が迫っていた。

慌てて、矢島の頭を少し下にずらす。
それが精一杯だった。

電柱の根元に犬のションベンの跡が見えた。
「ああ、くそッ」
流石の熊井にも、それが最後の意識だった。




地下からの招待状5


顔にポツポツと落ちる水滴が熊井の目を醒ます。
「んぁ・・・雨か・・?」
「く、熊井君!」

雨かと思ったのは矢島の涙だった。
熊井の鼻血を心配そうにハンカチで拭いながら、矢島がポロポロと大粒の涙を零していた。
「うっ・・・ゴメン・・・ひっく・・熊井君・・・僕のせいで・・・僕が・・・」
下唇を噛み締めて、矢島が更にボロボロと涙を零し始める。

「泣くんじゃねえよ矢島。めんどくせー」
熊井が足を浮かせ、反動を使って跳び起きた。
「ホラ何ともねーよ、心配すんな。おまえのせいじゃねえ」
「く、熊井君!」
涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにした矢島が熊井の胸に飛び込んで来る。

「あー、もう。くっつくんじゃねえよ矢島!暑苦しい。俺もお前も汗っかきなんだから、よ」
「うん、ごめんね・・・熊井君・・・ごめん・・・」
そう謝り続けながらも、熊井の胸に顔を押しつけたままの矢島が離れる事はなかった。

その頭頂部にゲンコツを喰らわそうとした熊井がその手を開き、
溜息をつきながら矢島の頭を撫でた。
「やれやれ・・・お前がやられたのも俺が邪魔になっていたからだ・・・気にすんな」
(それにしても・・・あの野郎・・・)
熊井は吹き飛ばされながら男の声を聞いていた。

『これは招待状代わりの挨拶だよ、熊井くん。地下闘技場でキミが来るのを待ってる』