ベリ高文化祭の巻


HRの時間。
「文化祭のクラスの出し物について決めたいと思います。意見のある人?」
委員長の夏焼がクラスメイトに聞く。

クラスがざわつく中、徳永が
「クラスでバンドとかやんない?マリマリにも見て貰うんだーw」
「徳永くん、意見を言う時は手を挙げて言って下さい。」
何故か夏焼がきつい口調で制する。

そんな中、ひときわ長くて大きな手が挙がる。
「ハイ、熊井くん!」
夏焼が待ってたかのように含みを持った笑顔で熊井を指した。

「メ、・・・メイド喫茶とかイイんじゃねーかな・・・」
熊井が何故か顔を真っ赤にして答えた。

(クソッ・・・夏焼の野郎、恥ずかしい事言わせやがって・・・)




ベリ高文化祭の巻2


―――朝の出来事
夏焼「熊井くん!文化祭での出し物なんだけど」
熊井「あー、そういうの俺パス。めんどくせーし興味ねー。」
夏焼「嗣永のメイド姿・・・見たくないかい?」
熊井「・・・!!!」
この時の熊井の顔はさながら「ガラスの仮面」の月影先生の「何て恐ろしい子!」のようだったと言う。


…クラスが一層ざわついた。
(熊井くんのメイド姿!めっちゃ見てえ!!)
(熊井くんて表情怖いけど、すげー美人顔なんだよな)
(スタイルも良いし、足なんかすげー長くて綺麗なんだぜ・・・)

「イーですねぇ!熊井くんの意見に賛成の人ー?」
夏焼の問いにクラスメイト達が何故か顔を少し赤らめて我も我もと手を挙げる。

「それでは、メイドをやって頂く方を決めましょう。
まず、言い出しっぺの熊井くんは決定で良いですよね、皆さん!」

全員が拍手する。更に顔を赤らめて何かを想像しているようだ。
皆、幸せそうな顔をしていた。

「あ?・・・え?」
この時、やっと熊井は夏焼の罠に気付いたのであった。


「く、熊井君がメイド!!!!!」この情報を聞いた矢島の表情はさながら(ry

  続・・・かないw




ベリ高文化祭の巻3


夏焼発案のメイド喫茶は大繁盛で教室はごったがえしていた。
評判が評判を呼び、廊下にまで順番待ちの長い行列を作っている。

「うっわー、噂通りの・・・すげえ美人・・・」
お目当ての絶世の美女、を目の前にした客が溜息まじりに感嘆の声を漏らした。
「い・いらっしゃい・・・ま・ませ」
メイド服に身を包み、長い髪を下ろして夏焼にヘアーアイロンまであてられた
熊井が顔を赤くして注文を取りに来る。

誰もこの美人がたった一人でモー商と渡り合った伝説の男だとは気づきもしないだろう。
「ダメだよ、熊井くん!もっと笑顔で!」
硬い表情の熊井に、すかさず夏焼がフォローにやってくる。

勿論、夏焼もメイド服を着用しており、しかも熊井の物よりもそのスカートは短めで
太ももまで露わになる大胆なミニスカートタイプを着こなしている。
少し屈むと下着まで見えそうになるその姿は、須藤や清水までもを赤面させていた。
そして妖艶なまでの美しい笑顔で
「ご注文はお決まりですか?」と訊ねる。

これには訊ねられた男の客ばかりでなく、
周りにいた女性客までもがうっとりと熱い視線を夏焼に注ぎはじめた。
注文を取る為に前屈みになった夏焼のスカートの中を覗きこもうとして顔を傾ける客までいる始末だ。





ベリ高文化祭の巻4


客A「俺、キミに・・・愛情オムライスを一つで」
客B「あ、俺はあの・・・そっちの彼女に、・・・同じく愛情オムライスで」
二人の客が顔を赤くして夏焼と熊井を見つめる。

「ハイ!ありがとうございます。私、夏焼とこちら、熊井の愛情オムライスでよろしいですね?」
夏焼がそう言って振り返り、熊井に笑顔とオーダーの催促を目で促す。
夏焼の瞳の中にピンク色の炎が見えた気がした。

(ムリ…もうムリだ…この客を握りつぶして夏焼は蹴り殺して逃げよう。そうだ完全にそうしよう)
熊井がそう決意して悪魔さえも恐れる表情に変わろうとしたその時、背中から声がかかった。
「熊井くん!がんばってネ!」

髪を可愛く二つの小さなお下げにして、熊井や夏焼に負けない人気者になっていた嗣永だ。
その小さなメイド姿は、熊井じゃなくとも拉致して逃げ出したくなるほど愛くるしかった。
「ホラ、熊井くん!メイド姿の嗣永が応援してくれてるよ、笑顔!え・が・お!」
夏焼がしてやったりの、どや顔で囁く。
(こ、こうなりゃヤケだ・・・もうどうにでもなれ!)
「ハ・ハイ!俺・・・違う、私の、愛情オムライスで、えと、よ・よろしいですネ?」
緊張しすぎて「ネ?」の声が裏返ってしまった。人生最大の汚点だった(死にたい)

顔を真っ赤にして涙目で去っていく熊井を、男の客達が溜息まじりに噂する。
「今時、あんな純情なコいねーよなー・・・」
「ああ、なんと可憐な・・・あれこそ天使・・・いや女神だ」

涙を零しながら厨房に戻る熊井に、さらなる災難がふりかかった。
新しく入ってきた客の一人が声をかけてきたのだ。
「熊井君!カワイイ!!えへへ!」




ベリ高文化祭の巻5


「や・矢島!・・・」
更に赤くなる熊井。
もう耳から首まで真っ赤だった。

「カワイイ!!熊井君!・・・ッて言うかホント綺麗・・・この世のモノじゃないみたい」
矢島が潤んだ瞳で溜息まじりに熊井のメイド姿を見つめている。

ますます赤くなる熊井。顔はもうトマトの色に近かった。
(マズイ・・・俺、本気で泣きそう・・・)
「矢島、来い!」
矢島の腕を掴んだ熊井が厨房の奥、人目に付きにくい所まで引っ張ってゆく。

「く、熊井君?・・・こんな所で・・なに?」
矢島がほんの少し頬を赤らめて聞く。
「矢島、服を脱げ」
「え?・・え?ええ?え?え?」
「早くしろ、この野郎!!俺の言うことが聞けねえのか?」
恥ずかしさをごまかす為に熊井が恫喝する。涙目で。

「や、う・うん!脱ぐ。脱ぐよ、熊井君」
矢島までもが顔を真っ赤にしてジャケットを慌てて脱ぎ、ネクタイをゆるめながら熊井をチラと見て驚いた。
「くくく・く・熊井君ンん!???!」
熊井がメイド服を脱ごうとして、首から肩のラインが露わになっていたのだ。
美しい鎖骨が見えている。
普段なら何てことのない肌も、メイド服との合わせ技は只のボクシングバカには刺激が強すぎた。




ベリ高文化祭の巻6


「どうした?矢島?」
矢島がパンチドランカーのようにフラフラと頭を回し始めていた。
「クマイクン・・・エヘヘ!」
鼻血まで垂れ始めていた。

「矢島?しっかりしろ!クソッ頼りにならねえ奴だ・・・こうなりゃジャケットだけでも・・・」
矢島のジャケットを拾おうとした熊井が背後の笑い声に気付いた。
だが、振り返らない。いや、振り返れない。

「くっくっく・・・あははははは!!・・・いや僕とした事が、が・我慢出来ない・くっくっく
もうちょっと・・・見ていたかったのに・・・あっははははは!」
夏焼の声だった。
「熊井くん、逃げようとしても無駄だよ・・・くっくっく・・プーっくっく・・・」
熊井の顔色が熟したトマトの色から未熟なトマトの色に変わってゆく。

「い、いや俺は・・・矢島にも、こ・この服を着せてあげようかと・・・」
振り返れないまま熊井が支離滅裂な言い訳を始める。

「ああ、それなら心配ないよ熊井くんwwホラ、矢島くん!熊井くんとお揃いのメイド服!
着てみたいでしょおォ?↑」
夏焼が予備のメイド服を持って矢島に問いかける。

「!!・・・夏焼くん!・・・あ、ありがとう!やるよ!僕・・・がんばる。えへへ!」
たとえどんなに意識が朦朧としていても10カウント以内にはしっかり立ち直る、恐ろしいヤツだった。
夏焼に渡されたメイド服を自分の体にあてて満面の笑みで言う。

「見て見て熊井くん!お揃い!ペアルック!えへへ!・・・痛い!!」




ベリ高文化祭の巻7


廊下の行列はさらに長くなっていた。
もう一人、他の三人に負けないスゴイ美少女が加わったとの評判が広まっていたのだ。




その長い行列を蹴散らすようにして一人の男が割り込んでくる。

「どけオラ!邪魔ナリよ!」
(キュフフ・・・今日こそ熊井の野郎に復讐するナリよ・・・客には手は出せない筈・・・
出したら出した、で・・・キュフフ!メイド熊井wwバカにしまくってやるナリよ!!
泣くまで許さないナリよ!!イヤ、泣いても許さないナリよ!!キュフフフフ・・・)

「ちょっと!お客さん!ちゃんと並んでくれないと困ります!」
との声に、男は精一杯の凄みをきかせた表情で「あぁ~ん!?」と振り返った。

「げ!・・・や、矢島!?・・・なんナリかソノ格好は・・・?」
「あ、コレ?いいでしょ!熊井くんとお揃い!ペアルック!・・・えへへ!」
そう言って矢島はスカートの裾を持ち上げ、くるりと一周回った。
スカートがめくれあがり太ももが露わになると並んでいる客達から歓声とどよめきがあがった。

「中島クン、ちゃんと最後尾に並んで行儀良くお待ち下さいね!えへへ!」




ベリ高文化祭の巻8


「くっそー、やっと入れたナリよ・・・矢島がバカな事は知ってたけど
あそこまでバカとは思わなかったナリよ・・・ありゃ完全に真性の馬鹿ナリね・・・」
ブツブツと文句を言いながら席につく中島に、ほんの少し作られた、高い声が聞こえてきた。

「お帰りなさいませ、ご主人様!ご注文はお決まりですか?」
顔を上げる中島。
目の前にいるのは、、、あの悪魔さえも恐れると言う男。
熊井だった。

――熊井の目は完全に逝っていた・・・。
瞳孔は開き、頬は上気してピンク色に染まり、瞳は涙で少し潤んでいた――。


…美しかった・・・。


精一杯の悪態を用意していた筈の中島は、ひと言も発することが出来ずに
口をあんぐりと開けて熊井を見つめ続けていた。

「ご主人様?・・・あの、もしよろしかったら私、熊井の愛情オムライスは如何でしょうか?」
(本当はこんな風には喋って無かったかもしれない。当初のように『俺・・違う、わ・私』
だったのかも知れない・・・が、中島にはもうそんな事はどうでも良かった)

中島は何も喋る事すら出来ずに、目の前の美しい少女を見つめたまま
ただコクコクと頷くのが精一杯だった。
口がぽかんと開いたままだった事に気付いたのはそれから随分経ってからだ。




ベリ高文化祭の巻9


それからの事を中島はあまり記憶していない。
熊井という、天使のような美少女が再びやって来て、
オムライスにケチャップでハートマークを描きながらニッコリ微笑んでくれた。
(本当はこんな風には… 以下略 )

心臓が止まるかと思った。
思えばこの時、自分は少し気絶していたのかもしれない、とさえ思った。

帰りに矢島と言う馬鹿が何か話しかけてきたが、
何語を喋っているのかさえわからなかった。

家に帰り着いてからの記憶も無かった。
どうやって帰って来たのかすら覚えが無い。

…ただ、中島のその日の日記帳にはこう書いてあった。


僕は今日、生まれて初めての、恋をした。


その日記はやがて、深夜の腐女子隊に拾われる事になる―――。

 おしまい

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最終更新:2012年02月03日 02:08
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