「・・・そう思って振り返ると・・・なんと!正体は伯爵夫人だったのでしたー!おしまいっ!」
「はー・・・なんだ、そういうことかー」
「日本の怪談テ面白いデスネー。バッチリデース!」
「ちょっと小春!オチはいいから、オチは」
絵里やリンリンの呟きをスルーして、里沙が小春に向けて手首をかえす。
それを意に介した風もなく、小春はただヘラヘラと笑っていた。
今夜の喫茶リゾナントの店内では、仲間内の怪談大会が行われていた。
冷房費のせつやk、いや、熱っちい地球を冷ますためにと、れいなが提案したことである。
電気は全て消して、明かりはリンリンが作り出した緑の人魂のみ。
BGMには、絵里が風で震わせるすっかり枯れ果てた七夕の笹の葉の音。
くじで順番も決めて、首尾は上々だ。
「うちの話はすごいですよー。少なくとも久住さんには負けません」
「あんまり怖いのはやめてね、みっつぃー。さゆみ、家帰れなくなっちゃう」
どんなに雰囲気を盛り上げたところで、どうせこの面子では本当に怖い話など出まい。
そう言いくるめて、ようやく全員に怪談大会の了承を得た。
実際、肝が冷えるような話は出てきていない。
愛と絵里の話は筋がグダグダで何が言いたいのかよくわからなかったし、
里沙とさゆみの話は普通に怖くなかった。
小春の話は途中まで良かったのに、最後は伯爵夫人のご登場だ。
これは、最後にとっておきの話をするしかないな、とれいなは人知れず決心を固めていた。
「じゃあ後半組よろしくー。次ジュンジュンだっけ?」
「はい。がんばリマす」
愛の呼びかけに、ジュンジュンは椅子に座ったままいつになく真剣な様子で答えた。
中国の村に代々伝わる他言無用の話でもするつもりだろうか。その目には強い決意が窺える。
ジュンジュン以外の8人が身構えた。
「アルところに、お腹空かセた女の子いましタ。女の子ハとてもとても空腹だたので、
キッチンの冷蔵庫開けましタ。ソコには一本のバナナありましタ。デモそのバナナ女の子の
ものジャないです。デモお腹空いてましタ。つイに女の子そのバナナ食べてしまたです。
皮ハ生ゴミに捨てましタ。証拠隠滅です。
その日の帰り、女の子ハ一人デ歩いてましタ。デモ後ろから変な気配するです。
女の子勇気出しテ振り向きましタ。そしタラ・・・・・・グゥガァァァー!!!」
ジュンジュンが突然獣化して立ち上がる。それも、唸り声を上げながら。
正直言ってかなり怖い。怖いっていうか恐い。
8人の心拍数は、間違いなく跳ね上がった。
ジュンジュンは獣化を解き、何事もなかったかのように怪談を続ける。
「後ろにはパンダいましタ。パンダはお腹空いてましタ。女の子パンダに食べられましタ。
謝れバこんなことになラなかたのに。・・・おシマイ」
沈黙。
ジュンジュンが喋り終わって、店内は完全に静寂に包まれた。
誰も言葉を発することが出来ない。
中には、震えている子もいる。
「・・・さっき、ジュンジュンのバナナ食べたの誰デスカ」
一人がソロソロと手を上げる。
彼女の名誉のため名前は挙げないが、彼女の顔は暗がりでもわかるほど真っ青だった。
こんな恐い話をされた後では、通常の怖い話なんて霞んでしまう。
というか、みんな上の空で、話すらまともに聞いてもらえないかもしれない。
「れいなのとっておき・・・」
れいなの人知れず固めた決心は、誰にも気付かれることなくため息となって消えた。
最終更新:2012年11月24日 19:53