新参陣営最終応援ボーナス:229点



『イナズマハルマゲドン』


 覇竜魔牙曇当日。
 血で血を洗う戦いが始まろうかとしたその時。
 突如ふらりとやってきた転校生『円堂 守』の能力「サッカーやろうぜ!」によって、覇竜魔牙曇はサッカー大会に変更されてしまった!


 はい、そんなわけで覇竜魔牙曇改め、イナズマハルマゲンの開催となりました!
 実況は私、1年陣営ではお馴染みの夢迫中です。
 解説はやはりお馴染みの、
「朱音 多々喜や。……解説っちゅうより、ツッコミ役を求められてる気がするで」
 細かい事は気にしないおきましょう!
 さぁ、そんなこんなでキックオフ! 先攻は1年生陣営です。
 まずボールが五郎丸君に渡って――
「食らえ、俺の必殺魔球!」
 手に持って、投ーげーたー!
 当然ですがハンドです! いくら魔人サッカーとはいえ基本的なルールぐらいは守ってほしいものです!
 あーっと、一発でレッドカードが出ました! ルールガン無視ですから仕方ないかもしれません。
 しかし、五郎丸君は何故か納得してないようですねー。
「……あいつ、ベンチにバット持ってきてるようやし。野球やるつもりやったんちゃうかな」
 サッカー大会と銘打ってるんですけどねー、困ったものです。
 おっと、試合が止まっている隙をついてか阿頼耶識君が両チームの監督になにやら申し出てますね。あ、選手は全員○○君と呼ぶことにしています。
「超人サッカーといったらやっぱりこれやね」
 どうやら両監督に選手を交換するよう訴えているようです。前代未聞、試合中のトレード……! これこそがまさしく彼女の能力「ラージ・キール」ですね!
 あーっと、しかし両監督はあっさり断りました。まぁ、当然でしょう。エースを引き抜かれたらたまったものじゃありませんからね。
 尚も食い下がる阿頼耶識君ですが、結局折れたようです。ベンチでプリン食べてます。まぁ、投石で殺されるよりはマシでしょう。
 試合再開。ボールは拳骨君に渡りました。さぁ、得意の筋肉でガンガン攻めていく……と思われたが、その場停止しました。
 何を考えているのでしょうか……おっと、彼の隣にアキカン君がやってきました。
「先生……俺、点を取る為ならなんだってする!」
「その言葉が聞きたかったんだ」
 アキカン君が能力を発動! 拳骨君とついでにサツキ姫君が笑う着ぐるみ状態になりました!
 選手2人がいきなり着ぐるみを着せられるというシュールな絵ですね。
 しかし見た目はシュールですが実際は恐ろしい能力です。なんとこの状態で時間が経過すると着ぐるみに体を乗っ取られて死亡してしまうのです!
 更にこの状態の人物を殺してしまうと、着ぐるみは殺した人物に感染。サッカー的にはディフェンスがボールを奪うことを「殺す」と言いますから、迂闊にボールを奪えません!
 そう、つまり今や拳骨君を止めることはできなくなってしまったのです!
「……ついでで着ぐるみにされたサツキ姫がすごく可哀想やけどな」
 なんという外道の所業! 人のやることとは思えません!
「アキカンやしな」
 さぁ、拳骨君がガンガン攻めていく! 1年生陣営は消極的なブロックにしか出れません! ボールを奪うと死んでしまうのでしから仕方ありません!
 だが1年生にはこの人がいる! 最強のDF! メイン盾きた、これでかつる!
 武論斗さん君だァー!
「お前それで良いのか?」
「何いきなり話しかけてきてるわけ?」
「お前ハイスラでボコるわ・・・」
 着ぐるみに命を取られることを心配した武論斗さん君の優しさを踏みにじる拳骨君! これはハイスラでボコられても仕方がありません。しかしサッカーなので直接暴力は無しですよ!
 拳骨君は武論斗さん君を抜こうとするが、武論斗さん君の下段ガードが硬い! この硬さはナイトだからできることで、卑怯な忍者では無理でしょう!
「俺はこのままタイムアップでもいいんだが?」
 必死な顔して焦る拳骨君だが抜けない! このままタイムアップですと、拳骨君は死亡してしまいます!
「黄金の鉄の塊でできてるナイトが皮装備のジョブに遅れを取るはずはない」
「あああああ、うぜえええええ!」
 おぉっと、武論斗さん君の挑発に耐え切れなくなってしまったのか! 拳骨君、グーで顔面を殴ってしまった!
 言うまでもなく一発レッド! 退場です! 武論斗さん君のオーラに一般魔人程度では耐えられないのです!
「精神攻撃による戦線離脱ってこういうことなん!?」
 戦線離脱先で死んでしまう拳骨君が可哀想ですが、仕方ありません。


 さて、1年生陣営はボールを前に飛ばしますが……あーっと、トラップミス。3年生陣営に奪われてしまった!
 ボールは3年生陣営の名戯君に渡ることになりました。
「よーし、頑張るぞー!」
『まりあ、あまり無茶はするなよ』
 この名戯君。実は1年生陣営で一番恐れられている人物だったりします。あのアキカン君よりもです。
 何故彼女がこんなに恐れられているか。それを知る為にちょっと彼女のプロフィールを読んでみましょう!
『ごく当たり前の日々を送っていた、人間の女の子。14歳の中3。魔人ではない。
 しかしある日突然、衝動的にレモン2キロをたいらげた。妊娠したのだ。処女である。
 不可解なまま5ヶ月が過ぎたある日。なんとお腹の子が突然語りかけてきた。
 その語り口は、アホの子で国語の成績が1のまりあより、はるかに流暢だった。』
 ……すみません、わけが分かりません!
 レモン2キロと妊娠がどう繋がるんですか、これ!? 魔人ではないとはいいますけど、明らかに一般人でもないですよ!
「変態性を超えた狂気が恐れられる理由やな……。正直なところ3年陣営で一番やばい人材やと思う」
 しかも3年陣営とはいいますけど、中学生ですからね、この子。希望崎学園に入学してるわけでもないのにこれとは……。
 あぁーっと、名戯君がアヘ顔状態のまま突っ込んでいくー! どうやら能力「母さんは俺の嫁」で子宮口を愛撫されているようですね!
 中学生のアヘ顔とくれば結構な人が喜びそうですが、さすがにレベルが高過ぎるのか1年生陣営はブロックに出れない!
 名戯君のパスが通って、ボールは真野君に渡ったー!
 真野君、亡霊ですけど足があるんでサッカーができるんですねー。
 そんな彼の前に立ちはだかるは同じく幽霊である梨咲君です!
 霊同士が戦うサッカー! これこそまさしく希望崎学園といった感じですね!
「うっせー、幽霊なんているわけねぇだろうがー!」
 あーっと、幽霊否定者の蝦夷威君が猛烈なスライディングを真野君の後ろから仕掛けていったぁー!
 真野君、転倒! なんという危険行為! 当然ですが一発レッドです!
 蝦夷威君は退場ということになりますが……あれ、蝦夷威君君の姿が見えませんね?
「……あれちゃうかな、ほら。ふわふわ浮いとる」
 ん、んん?
 あっ、確かによく見れば先程まで蝦夷威君がいたところに新たな幽霊が現れてますね。
 どうやら真野君の転倒に巻き込まれて、その衝撃で死亡して能力が発動したようです。真野君、攻撃20ですからねー。
 地縛霊となってしまったので蝦夷威君は退場できませんね。まぁ、後で稲荷山さん辺りにお願いして除霊してもらいましょう。
「仲間が死んだっていうのに簡単に流すんやな!?」
 腐ってもダンゲロスですしね!
 さて、3年生陣営のフリーキックからボールは重川君に渡りました。拳法家らしい俊敏な動きで果敢に攻めていきます。
 彼女を止める為に審刃津君が動く!
「貴様の攻め手……その内の半分は、罪だ」
 審刃津君の持つ天秤が傾いた! これによって、重川君は想定していた攻め手のうち半分を潰されることになります!
 ここにきてようやく魔人能力がまともに使われた気がします!
「いやちょい待って。相手の攻め手を潰すんは能力関係なく、DFの基本的な仕事やないか?」
 そういえば、そうですね! 優秀なDFなら半分どころか全部潰しますしね!
 しかしそれでも最良の手は潰された重川君。ルートを限定された状態でシュートを放つ!
 これを止めるはGKの巨堂君――がいないー!?
 ボールがゴールネットを揺らす! ゴール、3年生陣営の先制です!
 えーっと、GKの筈の巨堂君は……あっ、いました! 何故かフィールドの端っこで怪しい動きをしています!
「性格的に集団ゲームは向いてないからなぁ……。これ、絶対体格だけでGK選んだやろ」
 恐らくそうでしょうね。

 3年生陣営に先制を許してしまったのは厳しいところですが、1年生陣営は逆転してくれると私は信じています!
 さぁ、反撃の始まりです――!


『BチームOPデモ』


 新参棟に押し寄せる魔人達。その数は、10、20を遥かに超え、三桁にも届こうかという数。
「なんだありゃ?」
「うーん。ハルマゲドンに出られなかった三年生、二年生、それに、彼らに媚びへつらう一年生の混成軍団ですね。
 ……もっとも、ハルマゲドンに出ず、こうした闇討ちに来ている以上、モブと言っても良い雑魚ばかりでしょう」
「圧倒的に圧倒する求心力のあるナイトもいないPTに未来はにい」
「オッケー。まあ、軽く準備運動と行きましょうか」

BGM:『恋の積尸気冥界波~僕は魚座に恋をした』


「やられ役の癖にぃ――――何でモヒカンにして来ないんやっ!」
「そんな理不尽なウボァー!」
 巨大ハリセンが、雑魚生徒の顔面にブチ込まれる。ギャグマンガのような勢いでハネ上げられた雑魚生徒は、何故か盛大な爆発を起こして吹き飛んだ。
 【ボ(ヶ)・即・突】と字抜きされたTシャツに、ラフなジーパンの少女は、さながら関西圏のおばしゃんのマシンガントークのような勢いでハリセンを振り回す。
「さあさあさあさあ! ウチに突っ込まれたい奴から掛かってこいや!」

【朱音 多々喜】――保有芸風『ハリセン・BON!』.


「何だこれは……何が起きている!」
 痩身銀髪の美少年目がけ、一斉に雑魚生徒が喰ってかかる。その十人以上。
 しかし、掟破りの同時攻撃にも銀髪の少年は焦ることなく、肘から先をゆるやかに回し、半身の迎撃姿勢を取った。
 一発の拳が、――雑魚生徒二人を、同時に吹き飛ばす。
「なんだこれは……気をつけろ! 奴の隣に“何か”いるぞ!?」
「遅い。温い。何より、少ない」
 滑るような移動。集団の指揮を取っていた雑魚生徒に瞬く間に肉薄し、少年が鬱陶しそうに呟く。
 質量すら残すようになった残像が、背中合わせに拳を構える。

【行方橋ダビデ】――保有武術『魔人拳法奥義・残影淅踊身』.


「死ね!」
 雑魚生徒が繰り出した拳が、――繰り出された瞬間に、相手には届かない。
 デフォルメされた小さな姿は、攻撃主をすれ違って背後にいた。
「おはようさぎ――さよならいおん」
「ぐぼっ!」
 バイバイをするように手を振ったと思った瞬間、そのよく通る声を聞いた雑魚生徒は、血反吐を吐いてその場に沈む。
 彼こそは挨拶の妖怪。あらゆる因果を捻じまげて何よりも先に“挨拶”する、概念の魔人。

【おは妖怪】――保有AC『挨拶の妖術』


「な、なんだコレは!?」
 唐突に、まるで線引きされたように二つの集団に分けられた雑魚魔人達が困惑に駆られると同時。
 彼らの前に、天秤をその手に携えた、褐色の肌の少年が歩み出る。
「――秤る権利は我に在り」
 何も載っていないはずの天秤が、静かに片方に傾いた瞬間。
 振り分けられた片方の魔人集団が、まるで散弾銃でも受けたかのように血反吐を吐いて倒れ、或いは吹っ飛んだ。
「なっ……!」
「判決とは、往々にして不公平なものだ」
 悲しそうに、少年が呟いた。

【審刃津 志武那】――保有断罪『最後の審判』.


「メガトンパンチ!」
 キッラーン、と拳を受けた雑魚生徒がどこかに吹っ飛んで行き、星になった。
 褐色エルフ耳の男子生徒は、強靭な体躯で彼らの前に立ちふさがる。
「な、何だコイツは……!」
 彼こそはネ実の英雄。新世紀のシェイクスピア。崩れること無き、メイン盾。
「お前らは一級廃魔人のおれの足元にも及ばない貧弱一般魔人
その一般魔人どもが一級廃魔人のおれに対してナメタ言葉を使うことでおれの怒りが有頂天になった
この怒りはしばらくおさまる事を知らない」

【武論斗さん】――保有伝説『あまり調子に乗ってると裏世界でひっそり幕を閉じる』.



 魔人の頭蓋が爆発し、汚物と共に周囲に飛び散る。
「はっ……? な、臭、――ひ、ひいいいいいいいっ!?」
 余りにも恐ろしい情景。
 周囲二マス分の魔人を汚れ切った死に導き、
 そして更にその周囲を嗚咽と恐怖と錯乱に陥れた惨劇の中心で――至って地味な格好の少女が、恍惚に身を委ねていた。
 絶頂さえ迎えているかのような表情で、まるで少女は上等な畳の上にいるかのようにスカートを折り、静かに正座する。
 足元に広がった汚物を、淹れられた抹茶のように厳かな動作で掬いとった。
「ああ――素敵」

【ウンコビッチ堀川】――保有性癖『Yes , we are SCATOLOGY!』


「ご、が……!?」
 ずるり、と。
 雑魚魔人の頭からエクトプラズムが漏れ、少女の下へと飛んで行く。
「親父ならもっと上手く盗むよ――ってわけではないけれど、うん、素材としてはまあ下の上ってところかしら」
 左手でそれを受け、右手の包丁を、目にも止まらぬ速度で巡らせる。
 寿司職人姿の可憐な少女の小さな手は、極めて美味な握り寿司を創る神の手であり、――同時に、人の魂を調理する魔手でもあった。
 少女の目の前には、見たことも無い寿司が並んでいる。一通り握り終え、更に一つが追加される。
「はい次ィ!」
 掲げた手が、触れもせずに、近場の魔人からまた魂を抜き取った。

【稲荷山 和理】――保有技術『ニギミタマ』.


「もはや、これまで――ならば、我が命を引き換えに、新参共をブチ殺してくれる!」
「俺もだ! 俺もまずまずと殺されるくらいなら、自殺して能力で奴らを巻き添えにして死ぬ!」
「安心しろ、お前一人だけを逝かせはしない――実は俺も死亡能力者なのだ」
「駄目ですーーーーーーーっ!!!!」
 何やら不穏な会議をしていた雑魚魔人達の間に、一人の少女が舞い降りる。
「そんなやすやすと自分の命を諦めちゃダメです! 死んでも生きてください! 死んで花見が咲くものかです!
 死んだら美味しいものも食べられなくなっちゃいますし、誰かとこうして話すことも出来なくなっちゃうんですよ!」
 目に涙を溜め、敵の死をまるで仲間の死のように捉える心優しき少女。
 彼女は――透けていた。
「あ、みれんちゃん。さっき作ったお寿司食べる?」
「わーい、ありがとう和理ちゃん!」
「……お前死んでるじゃん!? 幽霊じゃん!? めっちゃモノ喰ってるじゃん!? めっちゃ話してるじゃん!」

【梨咲 みれん】――保有説得『「死ぬ」はやめようよ!』


 雑魚魔人の一人に殴られて吹っ飛んだ少年が、ふらつきながらも立ち上がる。
 それを見て、今しがた彼の正体を知った雑魚魔人が、戦慄するように後ずさりした。
「馬鹿な――ただの人間が、何故我ら魔人に抗える! 何故立っていられる!」
「悪いがこちとら一般人だ――決まってるだろ。愛と、勇気と、根性のローテーションだ!」
「馬鹿な――馬鹿な馬鹿な馬鹿な――!」
 一歩ずつ、ゆっくりと少年は近づく。この魔人学園においてただ一人の一般人。
 保有する能力は無く、武器はただの拳。
「知らないんなら教えてやる――」
「く、来るな、来るな!」
「魔人(バケモノ)を殺すのは、いつだってただの人間だってことをな――!」
 振り切った拳が――正真正銘の魔人を吹っ飛ばした。

【緑風 佐座】――保有無能力『正体を明かして殴る』.


「一つ積んでは君のため~ HA!
 二つ積んでは愛のため~ HA!
  恋のォ~積尸気冥界波アァァァッァァァ!!!!」
 ちゅどーん。
 伝説の白いギター片手に、少女はシャウトする。魚座への愛を。
 某セイントなセイヤによる星座カースト制。作中で活躍した星座ほどクラス内での地位は高くなり、その逆は地獄を強いられる。
 魚座は、最底辺の一人。満を持して登場し、期待に胸を膨らませた子供を地獄に叩き込んだ魚座。
 蟹座を除けば間違いなくワーストに属するその男への愛を、彼女は純粋に謳う。
「俺さあ、魚座でさあ、子供の頃は……うおおおおおおお! いーちゃーん!」
「そうだ……きっと、俺達は間違っていたんだ……いーちゃん! いーちゃん! 阿野次のもじちゃーん!」
 世代クリティカルの雑魚魔人が、泣き崩れながら、彼女の前に集う。彼女は玉の汗を額に浮かべながら、楽しそうに歌いきる。
「黄泉比良坂におちるがいいっ!!
 黄泉比良坂におちるがいいっ!! 」

【阿野次のもじ】――保有歌唱『恋の積尸気冥界波~僕は魚座に恋をした』


 暴いたものは欲望と虚無  失うものは何も無い

「ヒャッハーブチ殺s」
「思い上がった新ざn」
「死に晒せえこの愚k」
 ――消えた。
 戦場において、静かに本を読んでいた少女。
 それを中心に、全てのものが、初めからそこに無かったかのように、消失した。
「                 」
 境界線を失い   ただ虚無の中に溶けて   黒翼大魔の  死の形を
 全てを失うと言うことは それ以上何も失わないということ
 ゆえに その名を            幸福       と

【虚居まほろ】――保有無存在『儚い幻想』.


「ハァハァハァハァハァハァハァハァ……素晴らしい! 素晴らしい異能力の山です! ここが天国ですか……!」
 雑魚魔人の繰り出した拳をジャンプで避けると、その頭の上に乗り、少女は一心にメモを取る。
 頬は真っ赤に染まっており、興奮状態にあることが一目で見てとれた。
「テメエ! 人の頭に載ってるんじゃねえ!」
「おや、これは失礼。貴方は能力を持っているのですか?」
「ああん! もう遣っちまったよ、一戦一回の制限でな――」
「あ、なら要りません」
「な――ごぶっ!?」
 スパッツ越しにも分かる瑞々しい太股で魔人の頭を挟み、一瞬で首の骨を捻り折る。
 地面に降りるとメモを取りながら、続く別の魔人の攻撃も速やかに迎撃する。真っ直ぐ伸ばされた美脚が、迫ってきた男の首を引っ掛けて蹴倒した。
 彼女の身体能力は折り紙つきなのだ。両手こそ塞がってはいるが、その足技は並みの魔人を寄せ付けない。

「通常攻撃に興味はありません! さあさあさあさあ皆さん! もっと能力を使って下さいな!」

【夢追中】――保有趣味『夢追汽車の終着駅(ギャラクシー・レールロード・ターミナルケア)』 .


「引きこもりたい……」
 情けない言葉とは裏腹の頑強な体躯と、銃弾をも弾く巨大な掌。
 戦場の真っただ中にあって尚、黄金の鉄の塊の騎士や幽霊少女に匹敵する装甲を備える彼は、怪我ひとつ追っていなかった。
「もうホント勘弁してほしい……」
 迫って来た特殊能力が、彼の眼前で掻き消えた。
 彼の否定的ぼっちマインドが、特殊能力の存在確率を一気に下げたのだ。
「ヘヤノスミスに行きたい……僕を見ないでくれよ頼むから……」
 引き籠り。故に鉄壁。
 世界が滅んでも彼は死なない――そう思わせるほどの、圧倒的な拒絶力であった。

【巨堂斧震】――保有信念『ラストスタンドアローン』.


「ふっふっふっふ……何を苦労しているのか」
 連合軍の奥から現れた一人の上級生。その姿が現れた時、新参勢に追われていた周囲は歓喜に震えあがった。
「おお! 新参狩りの新参狩子さんだ!」
「終わったな新参共! 新参狩りの新参狩子さんが来たからにはもはや貴様らに生きる術はないぞ!」
「流石だぜ新参狩りの新参狩子さん!」
「ふっふっふ……この私が来たからにはウボァー!?」
 その姿が、一瞬にして触手に絡め取られる。ブチっと嫌な音がしたあと、動かなくなった。
「あーっ! 新参狩りの新参狩子さんがやられた!? い、いあいあはすたー!」
「馬鹿な! 新参狩りの新参狩子さんが一瞬で!?  てけり、り! てけり、り!」
「……想像力が無いのね、貴方達」
 髪の毛を触手にした少女が、周囲のSUN値を無差別に直葬しながらゆっくりと歩み出る。
「新参狩りがいるのなら、“新参狩り”狩りがいても、おかしくないでしょうに」

【諸語須川てけり】――保有神話『オールドワンズの衰退』.

(※  『新参狩りの新参狩子さん』はオリキャラです。申し訳ありません)


「こんなに人がいたら――」
 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ。
 耳障りな羽音が周囲に満ちていく。
「このあたしが、目立たないでしょーがぁーーーーーっ!!」
 無数の蜂。虫の世界において――否、陸上にすむ生物の中ではまず間違いなく最強に属する集団を従える少女。
「ぎゃああああ!」
「ぐああああああ!」
 蜂の特性――黒いものに集結する。特に彼女の蜂は、覆面をした相手を重点的に殺しに向かう。
 姿を隠して、肝心な時だけに姿を現して目立とうとは、このあたしを前にしておこがましい! という考えからだ。
「さあ、貴方達が誰にやられたか、とくと伝えるのね――! この、埴井葦菜の名! そのアレルギーに刻みつけなさい!」
 高笑いが、周囲を駆逐していく。

【埴井葦菜】――保有軍団『アナフィラキシー・ハック 突発奥義 蜂覆絶討』



タイトルデモ
『魁! ダンゲロス 新参Bチーム』
『アッシーナの放課後レッスン ~ひゃああ! ちょっと、だめですっ~』


葦菜「ちょっと待って何このチーム名!? ――あ、でも目立ってるから良し!」
朱音「ええんかいっ!」パシィン


『新参陣営海水浴に密着取材!肉欲に溺れる濡れた肢体と悦びと』


どうも、希望崎学園1年、報道部所属の夢追中(ゆめさこ かなめ)です。
現在、私達新参陣営メンバーは九百九十九里浜にいます。
まだ梅雨も明けていませんが、一足早い磯遊びってやつですね。
覇竜魔牙曇(ハルマゲドン)を終えて無事に生きていられる保障は誰にもありません。
だったら遊べるうちに思いっきり遊んでおこうというわけです。
時期が時期だけに浜辺に人はあまりいませんし、幸いにも今日の天気は晴れ。
思いっきり遊べるぞー!

……と思っていたのですが。

バーベキュー用の肉を調達する係りだった一(にのまえ)くんが……まあ色々ありまして。
すったもんだのくんずほぐれつの後、全ての肉が海の藻屑になりました。
ああ埴井(はにい)ちゃん、落ち込まないで。あなたは何も悪くないです。
悪いのは神の悪戯か悪魔の所業か作者の都合です。

まあそんな訳で。

残ったのは山盛りてんこ盛りの野菜と――
弐之宮ちゃんが持ってきた高級霜降り肉およそ1人前。
バーベキューのアクセントにと気を利かせて持参してくれたお肉。最後のお肉。
弐之宮ちゃんグッジョブ!と笑顔でサムズアップ!
なんて平和的にことが運ぶわけもありません。何せ1人前ですし。お肉ですし。

……結果。

バーベキューは夜に変更。
昼はお肉を賭けた、仁義無き釣り大会となりました。
釣果1位の人がお肉にありつけるというルールです。
因みに釣った魚は稲荷山ちゃんが捌いてお昼御飯にしてくれるとか。
お肉もいいですけどお魚もいいですよね。



はい、現実逃避終了。

私、釣れません。そりゃもう一匹も。
そもそも釣り糸を垂らして待っているなんて我慢できませんし。
釣り糸に錘をつけて遠投してみたら海底を釣ってしまいましたし。
糸を切って、新しく釣り針と……えーとぴーいーライン?リードライン?
それをえふじーのっと?で結びなおすって、もの凄く大変です。
私の性格にはしーばす釣りがあっているだろうからとか言われましたが……
何か騙されている気がします。何せお肉がかかった戦い。
権謀術数を用いて勝利しようと考える輩がいてもおかしくないですし。
しーばすってもしかして凄く釣りにくいお魚なんじゃ……
あるいは冬のお魚とか。
竿をレンタルしてくれたお店の人に詳しい話を聞くべきでした。

……ん?横が騒がしい?

ああ、私がネガティブな思考に陥っているうちに大魂さんがブリを釣りました。
凄いですね、ブリ。あんなに大きくて立派なものが釣れるんですね。
……って、大魂さん自分のつた(?)で釣っているじゃないですか!
なんですかそれ!?アリですか!?
そんなことするなら私にだって考えがありますよ!



よし!5匹目のお魚ゲット!
順調順調。
まさか私のメモ用紙(鋼鉄製)投擲術がこんなところで役立とうとは。
なんか横で一くんが「ハッピナタノコウジュウか!」とか突っ込んでましたけど。
その横で朱音ちゃんが「ツッコミがわかりづらいわ!」とか突っ込んでましたけど。
お二人とも仲が良くていいですね。
気にしない気にしない。

おっと、諸語須川ちゃんまで髪の毛で釣りを始めたようですね。
皆さん、お肉に対する欲望はたいしたものです。あ、水没。大丈夫かな?

……

しかし、こうして皆さんが自分の異能を日常に役立てているのを見ると……
なんだか、こう、無性に嬉しくなりますね。

いい景色だなぁー。

あ、浦くんが海面を殴ってる。
水柱、凄いですね。あ、武論斗さん。「それほどでもない」ですか。そうですか。
浦くん、衝撃で気絶したお魚を回収してますね。
ダイナマイト漁って言うんでしたっけ、ああいうの。
ロッキーくん、自分のジョウロでお魚の動きを鈍らせて手づかみですか。
蝦夷威くんは私と同じようにフライングディスクでお魚を狙ってますね。

もはや釣りでもなんでもありませんね。
いいぞもっとやれ。

私も釣りよりこの光景を記録に残したくなってきました。
夜は野菜で我慢しましょうか。
それじゃ獲ったお魚は稲荷山ちゃんに渡して……っと。
密着取材!ミッションスタート!



結局、夜は寅貝ちゃんがお友達にお肉を持ってきてもらって大団円となりました。
そして、釣り大会の結果ですが……
私が取材記事の見出しを皆さんに見せたら、なぜか私の優勝になりました。
理由がよくわかりませんが、まあお肉が食べられるのだから文句はありません。

……ん、お肉美味しい♪


『夢追急行(ゆめおいきゅうこう)心行き』~夢追中(ゆめさこ かなめ)の朝~


ん……

朝……かな。

小鳥の囀り……聞こえてるね。
んー、天井……見えてるね。
右手も動く、左手も動く、右足も動く、左足も動く。
頭もはっきりしてきた……よし。
おはよう。今日。



障子を開ければ縁側越しに見える朝の日差しと枯山水の中庭。
裏にまわって井戸水で顔を洗えばもうしゃっきり。
さらさらさらさら、ときどきかぽんと音を立てるししおどしは今日も頑張ってます。

下駄をつっかけ土間へ降り、かまどの前で一思案。今日は何を食べようか。

居間の囲炉裏でお鍋がぐつぐつ。今日の朝餉は雑炊です。
具が煮えるまで手持ち無沙汰だから、灰ならしで囲炉裏の灰に絵を描こう。
波千鳥なんていかがでしょう。モチーフは私のお友達。
ちょうどお鍋が煮えました。お匙を持って、いただきます。
うん、ちょうどいい塩梅だ。どうやら味もしっかりわかる。
今日は楽しくなりそうだ。

鏡で自分の身なりをチェック。おかしなところはないよね。
服よし髪よし笑顔よし。
……眼も腫れてなんかいないよね。

それでは元気に行ってきます!……のその前に。

今日も忘れずにやっておこう。
門の前でひとり、精神集中。
周囲の景色が遠のくよう。どこか青味を帯びた気がする。
潮が引くみたいにサァッと音が後ろへ流れ去っていく感覚。
自分の周りにきらきら煌く星の光が満ちている。
奇跡を見たいと願う思いは、世界にこんなにも溢れている。
ひとつひとつの光は淡くて儚げで、ともすれば見失ってしまいそう。
だけれど沢山の光をつなぎあわせれば、そこにはきっと綺麗な星座ができあがる。
そんな星座を見に行こう。
沢山の人の願いを乗せて、私という汽車は走り出す。
目的地は私とあなたとみんなの心。
夢追急行、心行き。
ノンストップで参ります。

さあて、気合は十二分。
奇跡を見たいと願う思いは、世界にこんなにも溢れている。
私は溢れるその願いを、ひとつの星座に仕上げてみせる。
さあ、今日も凄いことが沢山起きますように!

集めた願いを空へと投げる。

どこかの誰かにぶつかって、凄い奇跡が起きますように。
そしてわがままが許されるなら、その奇跡の真っ只中に私がいられますように。





「朝から能力発動するんだから……」
「えへへ、今日も学校までお願い」
「私はタクシーでも専属の運転手でもないんだけど」
「もちろん!私の大親友だよ!」
「あぁもう……。断れないなぁ」
「今日も空の散歩は快適だねー」
「今日は晴れたからねー」


寅貝きつねの魔人覚醒


コミュ力魔人・寅貝きつねは、類稀なるコミュ力をもった人間として生まれた。
しかし、それゆえにはじめ彼女は孤独だった。

中学2年の夏、きつねは今日も教室の隅の席で一人寂しく弁当を食べていた。
彼女のコミュ力をもってすれば、いくらでも友達をつくることはできたはずだが、
彼女はそれをしなかった。

魔人として覚醒する前から、きつねは合う人ほとんどに好かれるほどのコミュ力を有していた。
だが、きつねはそれが不満だった。彼女自身は、それほど人が好きではなかったのだ。
友達が多いことは、単純に良いことばかりではない。時間もとられるし、人間関係のトラブルにも
巻きこまれてしまう。彼女のコミュ力ではいずれ学校中の生徒と友人になってしまうだろう。
廊下ですれ違うたびに全生徒と挨拶をしなければならないのか。メールの相手をしなければ
ならないのか。一生、気疲れする生活を続けなければいけないのか。

「ならいっそのこと、友達なんていらない…。」

きつねは人間の時点で無自覚にコミュ力オーラを操ることができた。
あふれんばかりのコミュ力オーラを抑制し、断つことで、きつねは自分から孤独になった。
唯一の友達は、屋敷で飼っている虎の子供だけだった。

「寅貝さん…だよね?一緒にお弁当、どうかな。」
そんな中、話しかけてきたのは、犬飼ねこめという別クラスの女子生徒だった。
――油断してコミュ力をもらしてしまったか?
それでも普段ならコミュ力の絶により、近づいてくる人間は遠ざけることができるはずだった。
だが、犬飼は引き下がらない。
「…えへへ、私と似た名前の子がいるって聞いて、気になってたんだ。」
そういって笑う犬飼をみたとき、きつねにはこれまでにないほどの自分への好意を感じた。
――押し寄せるようなコミュ力オーラ…!!まるで愛の大河…!!

そう、犬飼ねこめ、彼女もまた人間離れしたコミュ力を有したコミュ者だったのだ。
常人のコミュ力はせいぜい3が限界。魔人として覚醒する前のきつねのコミュ力も100程度しかなかった。


――だが、犬飼ねこめは人間でありながら1000ものコミュ力をもっていた!!!!!


これは、満員の東京ドームに足を踏み入れた瞬間、
全ての観客を一瞬にして友人にしてしまうレベルのコミュ力である。

それほどのコミュ力を前にして、さすがの寅貝きつねも胸の高鳴りを抑えることができなかった。
もはや気絶寸前である。友情だけではなく恋にも近い感情を抱いたのは、彼女が犬飼と同じコミュ者だからか。
自分は同性愛者だったのか?いや、今はそんなことどうだっていい!

―この人と友達になりたい!! 何をしてでも! お金を払ったっていい!!

きつねは抑えていたコミュ力オーラを犬飼だけに向けて放とうとした。
指向性をもったコミュ力操作で、『凝』と呼ばれる技術である。
しかし、きつねは躊躇した。犬飼だけに放たれた『コミュ力』は、周囲の人間に違和感を与えるだろう。
きつねが犬飼だけをひいきしている様に見えるかもしれない。犬飼に迷惑がかかるかもしれない…。

「―いいんだよ、『きつねちゃん』、無理しなくても。」

きつねがそう思い悩んだ時間はわずか0.5秒。その間に、
きつねのコミュ力が絶たれた状態のまま、犬飼は既にきつねと親友になっていた!
なんというコミュ力。脱帽である。
「…ありがとう、『ねこめちゃん』。」


それからというもの、きつねは度々犬飼と会い、親交を深めていった。
だが、犬飼は人気者。会える時間は限られていた。
犬飼がもし友達代を請求してくれれば、いくらだって払う!だから、できるだけ自分と一緒に居てほしい!
きつねの願いもむなしく、犬飼は出会う人全てを友人にしていくため、彼女の友達は日に日に膨れ上がっていった。
「ねえ…ねこめちゃん、どうしてそんなに友達を増やすのさ。もういいじゃない。」
「うーん、せっかく生まれたんだから、できるだけたくさんの人と仲良くなりたいんだ。
 私きっと、宇宙全部の生き物の好かれたいんだ。神様とだって友達になりたんだと思う。」
と、犬飼はそう簡単に答えた。

ある日のことである。
犬飼に出会ったきつねは、何か言い表せぬ違和感を感じた。
普段から常人ならざるコミュ力オーラがいつにも増して激しく感じられたのだ。
今にも抱きつきたくなる衝動を抑えて、きつねは犬飼に話しかけた。
「ねこめ…ちゃん?」
「あ、きつねちゃん。ごめんね、これから会わなきゃいけない人がいるんだ。」

実はこの時点で、犬飼は魔人に覚醒していた。原因は、彼女が出会った同年代の女の子にある。
「…『虚土理 まくり』っていう女の子なんだけど、ずっと部屋から出ずに誰とも会わないの。
 私が話しかけても友達になれない子なんて、初めて見た…。」
犬飼は知らなかったが、虚土理という女の子は魔人であった。
能力名は『The Perfect Insider』。
簡単に言うと、絶対に破れない心の殻をつくり、他人との関係を拒絶しひきこもる能力である。
ちなみに、虚土理の親戚である巨堂斧震という魔人は、
いずれきつねと同じ希望崎学園へ入学することになるのだが、それはまた別の話。
「私、今度こそあのコと友達になるんだ…!」

―そう言い去ったきり、犬飼は戻ってこなかった。

犬飼の消失に、きつねが発狂しそうになるほど狼狽したのは言うまでもないことだが、
それは当日犬飼と会っていた虚土理も同じであった。
「ねえ、犬飼ちゃんは、どこなの?せっかくお友達になれたのに…うぅぅ…。」
絶対に他人に心を許すことのない虚土理が、心を許した。
そう、犬飼は虚土理の能力を破り、見事友達になったのである…!
後に、きつねは同じ境遇の虚土理とは親友の間柄となる。

犬飼の行方を追うため、きつねは抑えていたコミュ力オーラを解き放った。
多くの友人をつくり、当時の状況についての情報を集めた。
その結果、犬飼が『死』とは違う別の世界へと移り変わった可能性が明らかになった。
「ねこめちゃんは、神様に愛されたんだ。願いがかなったんだ…!」
きつねはそう確信した。
そして、魔人へと覚醒したのである。

「僕…いや、私…。ううん、どっちでもいいや、僕は、ねこめちゃんのもう一つの夢を
 かなえなくちゃならない。

 ねこめちゃんがいなくなって、僕、はじめてわかったよ。
 世界にはねこめちゃんみたいな人が必要だって。独り占めしちゃいけない。

 宇宙全部の生き物と友達になって…。それで、いつかねこめちゃんがこの世界に来た
 ときに、もう一度私と友達になってもらうんだ。
 そうすれば、きっと、ねこめちゃんの夢がかなう。」

願いをかなえるため、きつねは希望崎学園へと入学した。
最終更新:2011年06月18日 13:41